我が国の輸入市場の現状と課題 (嘘)2011年02月19日 17時28分22秒


化石の話はちょっとおいといて、今日は陰気なブツクサ話です。

日本のヤ○ーオークションなどで、天文古玩まわりの品、たとえば古い星図とか、リプロの天球儀とかが売られているのを折々目にします。そういう品が元気よく流通するのは、良いことだと思いますが、驚くのはその値段。目をこすってもう1回よく見ても、やっぱりビックリ価格で、海外の相場(送料込)の3倍から5倍はざらで、中には明らかにゼロが1つ多いと思えるものもなくはない。

他人様の商売をとやかく言うつもりはありませんが、つもりはなくても、これではつい言いたくなろうというものです。昔のように直接現地で買い付けるしか手がない時代だったら、利潤の他に経費(アゴ足代)がかさんだので、それで、まあ適正価格だったのかもしれませんが、今のご時勢にあまりと言えばあんまりな…。

あるいは、海外の価格と比べるよりも、古物業者だったら、売り値と買い値(下取りや買い戻しの金額)の差を比較すると、どれだけ良心的な業者さんか分かるような気もしますが、実際どうなんでしょう。「いえいえ、手前どもでは買い取りはしておりませんで」と言われるのであれば、ハナから話にならない。

基本的に「買う気がなければ、商売の邪魔だ。サア、行った行った」の世界だとは思いますが、何となく釈然としない。うーむ…冷静に考えると、「マーケット」と言えるほどの需要もない、ニッチ的商売なので、業者間に競争原理が働かないのが、最大の問題かもしれんなぁ…(ブツブツ…)

ちょっと昔の化石趣味(4)2011年02月20日 23時00分35秒

第2章「化石の採集」に続いて、第3章「化石の整理」では、舞台を放課後の理科室に移して、化石との愉しい対話が続きます。

「新聞紙にくるんだ化石を1つ1つひらいていくと、昨日のたのしい思いでが、また目のまえにうかんでくる。“この化石は、川にひざまでつかって、やっととったんだ”というように、1つ1つの化石がなつかしい。」

苦労の末に手にした戦果だけに、喜びもひとしおです。
しかし、新聞紙から取り出した化石は、そのままではいけません。化石採集が立派な研究に結びつくまでには、これからひと手間もふた手間もかかるのです。

「まず、第1ばんめにしなくてならないことは、化石の“クリーニング”である。〔…〕化石のまわりについている泥や岩をとりのぞいて、化石をそっくりそのままとりだしたり、まわりの岩石をとりのぞいて、化石をよく見えるようにすることである。」

使う道具は、たがねとハンマー。



「クリーニングは、根気のいる仕事で、いそいだり、あわてたり、いっぺんに大きくはがしてしまおうとすると、化石をかいてしまうので、すこしずつ、コツコツと〔赤字部分、原文太字〕、仕事をすすめよう。クリーニングをしているうちに、思わぬところから、美しい化石が顔をだしたときは、“わぁー”とさけび声をあげてしまうほどうれしいものである。
 放課後、化石を採集にいった友だちといっしょに、おしゃべりをしながら、クリーニングをするのは、たのしみの1つである。」

化石少年たちの、伸びやかな交流がうらやましいですね。
こうしてできた立派な標本は、きちんとナンバリングして、標本箱に整理します。


「もし、理科室に標本戸棚があれば、その引きだしにしまう。標本戸棚がないときは、標本箱(運搬箱ともいう)にいれて整理する。標本戸棚も標本箱もないときは、リンゴ箱でも、みかん箱でも、お菓子の箱でもなんでもよいから、あき箱を利用すればよい。〔…〕岩手県のある中学生は、日曜日ごとに採集してきた化石を、整理するのに、とうとう、お母さんのタンスをせんりょうしてしまったということであるが、お父さんやお母さんや先生に相談したり、自分で工夫したりすれば、きっとうまい方法がみつかることだろう。」

何だかおかしなエピソードですが、きっとこの岩手の中学生は、化石の詰まったキャビネットに強烈に惹かれていたのでしょう。博物趣味の徒として大いに有望ですね。

で、そうした嗜好に欠かせないのが、紙箱とラベル。学校の理科室に標本としてかざる化石や、展らん会にだす標本は、ぜひ、この紙箱におさめておきたいし、正式には、紙箱のなかに、“標本ラベル”をいれておかなくてはならないのです。おなじ化石でも、こんなに大切にされたら、さぞうれしいことであろう

化石整理の楽しさに、つい時の経つのを忘れてしまいますが、窓の外にはいつの間にか夕闇が迫っています。これだけのことをしていると、たいてい夕方までかかってしまう。泥や砂でよごれた机はよくふいて、床をはいたら、先生に仕事が終ったことをつげ、戸じまりをきちんとしてから家へかえろう

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さて、ここまでは言わば常識的な話ですが、この『化石学習図鑑』は、この後がけっこう熱いです。ちょっと意外なのは(化石趣味の人にとっては意外ではないのかもしれませんが)、有孔虫や紡錘虫などの微小化石にも多くのページを割いていることです。

岩をすりつぶして、微小化石を取り出し、スライド標本を作る方法や、微小化石の断面を観察するために岩石の薄片標本を作製する方法が、(カーボランダムを使った磨きのテクニックや、岩石片をスライドガラスに接着するカナダバルサムの焼き具合に至るまで)非常に具体的に書かれています。


その中で繰り返し強調されているのが、DIY精神で、とくに、町の学校の生徒は、道具をそろえることをまず考えるが、それはいちばん悪いくせで、“まず、やってみること”これがいちばん大切であると、手近な道具で工夫することの重要性を、著者は説いて止みません。この著者が言うと、それがお題目に聞こえないのは、自らそれを実践してきた人だからでしょう。

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「完結編」のはずだったんですが、何だか終らないですね。
この後は、第4章「化石の名前のつけ方」(←報文発表の仕方まで書かれています)、第5章「いろいろな化石の種類」(ここでも小型有孔虫の説明に力が入っています)、第6章「化石のできかた」と続くのですが、とりあえず当時の化石少年風俗の一端がわかったところで、本の紹介はここまでとします。

(↑高校生の書いた論文の実例が載っています。真摯な姿勢が好ましい。)

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最後に「おわりに」から、著者が当時の若い読者に宛てたメッセージを引用します。

「化石の学問だけでなく、すべての学問は、日本なら日本という1国のためにあるものでもなく、全人類のためにあるものであり、世界のすべての国の学者や化石の愛好者となかよく文通したり、標本を交換したり、論文を批評しあったりして、世界のどの地方へでも、自由に旅行し、見学し、採集できるようにしなくては、進歩も発展もしないものだ、ということも、しっかりおぼえておいてほしいと思います。」

目標は高く!理科少年の志を今こそ!!


化石趣味をさらにさかのぼる2011年02月21日 22時18分25秒

昨日までは、昭和32年に出た『化石学習図鑑』の中身を見てきましたが、もうちょっと時代を遡って、戦前の状況を見てみます。

下は、昭和15年に「子供の科学」の版元、誠文堂新光社から出た、早坂一郎(著)『化石の世界』です。(上は外函、下は中身)



ブックデザインがいいですね。
この意匠は、「僕らの科学文庫」というシリーズの統一デザインで、手がけたのは大正~昭和を通じて活躍した童画家、初山滋(はつやましげる 1897-1973)です。

「僕らの科学文庫」は、昭和15年当時、まだスタートしたばかりの企画で、巻末広告によると、『化石の世界』は、いちばん最初に配本された4冊のうちの1冊だったようです。(他の3冊は、『宇宙旅行』、『火と焔』、『原子の話』。以下、続刊として『僕らの海』、『自動車の話』、『音の世界』、『植物の話』…等々が予定されていました。)

 (↑奥付。当時の定価2円也)

戦前の少年、特に「子供の科学」の読者層にとって、化石は大きな関心事だったことが伺えますが、その興味関心が、戦後の化石少年のように、自ら採集し、研究するところまで進んでいたのかどうかが、ここでは問題になります。

(この項つづく)

化石趣味をさらにさかのぼる(2)2011年02月22日 21時51分39秒


『化石の世界』 口絵。「古生代、石炭紀森林の想像図」。

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結論から言うと、この本には採集と標本作りに関する話は全くありません。いわば純粋な“読み物”です。内容は、化石研究史から始まって、始生代、原生代、…、新生代に至る地層と化石のあらましが、バランスよく書かれており、知識の伝達という点では成功しています。ただ、文中に登場する化石は外国産のものが多く、化石をことさらに「身近な存在」と感じさせようという意図は感じられません。

「はしがき」にも、「小学校の上級生や、中等学校の初年生あたりの読物として、化石生物を中心にしたものをとの依頼で、地史学のあらましを書いて見ました」とありますし、本書の末尾には、「何かよい本でもあると諸君におすすめしたいのですが、残念ながら、我国には諸君に適当した本は見つかりません。しかし諸君が早く英語なり、ドイツ語なり、またフランス語なりを覚えて、本が読めるやうになると、面白い本がいくらでもあります」といったことが書かれています。

要するに、当時はまだ化石少年の誕生前夜で、入門的な実践書もなく、いかに理科好きの少年といえども、化石趣味は相当に敷居の高かったことが分かります。

ひるがえって、『化石学習図鑑』の内容を考えると、戦後10年間における地学ブームの過熱ぶりが、いかに凄かったかも分かる気がしますし、その熱気が、その後の宇宙ブームとも連動していたのかな…という想像も浮かびます。

ちなみに、こうした“読み物”的な性格は、「僕らの科学文庫」というシリーズ全体がそうだった、というわけではありません。中には『僕らの理科実験』(昭和16)のように、全編これハウツーという本もあったので、やはり、これは化石という対象の特性に由来するものだったのでしょう。(好著・『僕らの理科実験』については、またいずれ触れたいと思います。)

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なお、本文の文字組みはこんな感じです。

「カムブリア紀」は「サンエフチュウ」の時代―

古い時代と、古い言葉の取り合わせが、独特の香気を発しています。
まあ、「古さ」のスケールは途方もなく違いますが…

化石趣味をさらにさかのぼる(3)2011年02月24日 21時16分28秒

化石というのは、鉱物と一緒のマーケットを形成しているので、趣味としての化石趣味も、鉱物趣味から派生したのかもしれません。

鉱物趣味の歴史については全く無知ですが、無知なりに思い浮かぶのは、京都の益富地学会館の創設者、益富寿之助(ますとみかずのすけ;1901-1993)氏のお名前です。

益富氏はアマチュアの立場からスタートして、その道を極めた、言わば「鉱物界の牧野富太郎」的人物であり、鉱物趣味の普及にも熱心でした。もちろん、鉱物趣味自体は、益富氏以前から存在していたのでしょうが、偉大なオルガナイザーとしての氏の功績を思うとき、日本の鉱物趣味の発展は、氏の人生行路とシンクロする部分が大きいんじゃないかなあ…と思います。

益富地学会館のサイト(http://www.masutomi.or.jp/index.htm)によれば、益富氏がずばり<日本鉱物趣味の会>という名前の団体を創設したのは、昭和7年(1932)のことでした。(この会は、現在の日本地学研究会の前身だろうと思います。)

で、化石の話につなげると、同会からは昭和18年に『日本化石図譜』という本が出ています。

■鹿間時夫(著)、 『日本化石図譜』
 日本鉱物趣味の会出版部、昭和18年(1943)

こうした‘趣味’を謳った本が、しかも英米の書籍からの引用を満載した本が、時局柄よく出たなあと思いますが、本書は<日本鉱物趣味の会>の発足と同時に創刊された『我等の鉱物』誌での連載記事が元となっており、序文の日付も昭和16年6月なので、出版準備自体は前々から進んでいたのでしょう。

序文によれば、本書出版の動機は、化石について「邦語で書かれた通俗的な図譜」、「入門者の為の手引き」がぜひ必要だということであり、「初学者にとり幾分の参考になる所あれば編者の欣快此に過ぎるものは無い」と述べられています。

子ども向きの本に限らず、大人向きの本にしても、戦前は寥々たるものだったことを改めて知ります。

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以下、内容見本です。
本書の中心となる図版編は全部で46ページ。


本文中にも多くの図が載っていますが、何となくバタ臭いのは、外国の本からの転載が多いせいでしょう。


そのいっぽうで、「カンブリア紀」は「寒武利亞紀」、ジュラ紀は「侏羅紀」。何とも時代がかっています。字面からして、いかにも見慣れない生物がウヨウヨいそうです。


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ときに、ネットを検索していて思ったことですが、鉱物マニアの方には、本能的ともいえる「発掘癖」があるのか、いろいろと歴史資料の探索にも手を伸ばし、ディープな「鉱物趣味‘史’」にのめりこまれている方が少なくないようです。
たとえば、以下のようなサイト。

■鉱物趣味の博物館 http://www2.odn.ne.jp/~aab06570/
■最新鉱物産地情報(2001~2002年) http://mineralhunters.web.fc2.com/

そのマニアぶりに驚きを禁じ得ませんが、天文趣味の人で「天文趣味‘史’」に関心を示す人はごく少ないので、分野によって、マニアのメンタリティはずいぶん違うものだなあ…と改めて思いました。

星たちの宿るガラスドーム・クロック2011年02月26日 13時32分57秒

わりと地味な画像が続いたので、少し彩度の高い品を載せます。
写真は澄んだ青色が美しい、不思議な天体モチーフの時計。


長針は星、短針は月。
長針は地球(なぜか環があります)と一体になって、フロリダを中心にグルグル。


ガラスドームの量感がいいですね。


ガラスは外の光を取り込んで、ときどき不思議な輝きを見せます。


裏面に刻まれた、Westclox社(アメリカ)のロゴ。


このクールな品は、1940年頃のものと聞きました。
なお、時計の直径は約7.5cmです。

お知らせ2011年02月28日 20時48分46秒

いよいよ明日から3月、春本番ですね。
しかし、3月の声を聞くと、またぞろ少し忙しくなります。
もろもろ仕事を片付けるため、記事の方は数日間お休みします。