近頃ちょっと驚いたこと2012年02月09日 21時47分01秒

(昨日の続き)

古絵葉書の魅力の1つは記録性です。たとえ、今も同じ建物が残っている場合でも、たとえば1900年の絵葉書であれば、そこに写っているのは1世紀前の光景であり、それは歴史的に1回性のものであるがゆえに、やはり貴重な記録なのだと思います。

その点、この絵葉書は1825年の絵を、後の時代に写真で復元したものなので、同時代性という意味は薄く、いわゆる「2次資料」としての価値しかないとも言えます。ただ、売り手の説明によれば、ここには1930年のケンブリッジの消印が押されているそうなので、80年前の故地から(多くの人の手を経て)私のところに届いた葉書であることは間違いなく、そこに何となく床しさもあるのではないか…という風に、無理やり理由づけして買った一枚です。(といっても、日本円で400円ですから、そう大層な理由づけが必要なわけではありません。)

   ★

さて、届いた葉書の裏面を見てみます。


なるほどしっかりと消印が押してあります。
「1930年9月23日 ケンブリッジ」
宛先はと…


シカゴの「Dr Emile Dehaye」とあります。ひょっとして天文学の研究者?
すると、これにはちょっとした資料的価値があるかもしれません。
では、差出人はというと…


「お手紙落手。ご高著を恵送賜り有難う存じます。
 A. S. エディントン」

あっ!!と思いました。
アーサー・スタンレー・エディントン卿(1882-1944)は、当時のケンブリッジ天文台長で、恒星進化論などで業績を挙げた、偉大な天体物理学者。アインシュタインの相対性理論の実証的研究でも有名です。

この絵葉書は、ケンブリッジ天文台のトップが、自分の天文台の絵葉書を使って直々に書いた礼状という、なかなか貴重な品だったのです。

   ★

宛先のエミール・デハイエ博士については、検索しても分からず、依然不明です。もともとあまり高名な人ではなかったのかもしれません。でも、そういう人からの図書贈呈にも、1枚1枚手書きの礼状を送っていたのは、彼の几帳面な性格を物語るものでしょう。筆跡からもそのことは伺えます。

   ★

400円で思わぬ掘出し物をしたという単純な喜び、私の眼力が売り手の眼力にまさったという浅はかな慢心、そういった感情もあることは否定しませんが、それよりも何よりも、一代の碩学からの葉書が80年の時を隔てて、まったく偶然届いたことの不思議さに、驚きを感じないわけにはいきません。


コメント

_ たつき ― 2012年02月10日 22時13分34秒

面白いこともあるものですね。
まるで葉書に意志があって、自分の価値を理解してくれる人を選んで、やってきたように思えます。
こういうことがあるから、古いものを集めるのはやめられないような気がします。世界は驚異に満ちています。

_ S.U ― 2012年02月11日 07時39分03秒

 20世紀の著名人の自筆原稿などは、現在は手頃な値段でも将来どっと価格が上がるでしょうから、ご子孫への資産としてたくさん収集しておかれれば将来必ずや感謝されると思います。

_ 玉青 ― 2012年02月11日 21時20分31秒

○たつきさま

ありがとうございます。
そう仰っていただけると、本当にうれしいです。
驚異を求めて、さらに旅を続けようと思います。

○S.Uさま

>将来必ずや感謝される

いやあ、中にはどっと値の下がるものもあるでしょうから、
これはちょっと危なっかしいでしょう。
あるいは、運よく値が上がっても、子孫がそれを認識せず、
二束三文で売り払ってしまうとか。
まあ、子孫に美田を残さず…の気概で頑張ることにします。
(子孫にとっては迷惑な気概ですね・笑)

_ S.U ― 2012年02月12日 07時09分55秒

>ちょっと危なっかしい~美田を残さず

 そうですね。でも、値の下がった物や、子孫が二束三文で売り払った物は、子孫はそんなに気にとめませんので、「じいさんも趣味とはいえ邪魔な物をためこんだものだ」と笑われるくらいですみます。一方、たった一品でも価値の上がったものが残っていて、それに気づいてくれたら、大変感謝してもらえて子々孫々そのことだけで「立派な先祖がいた」ということが語り継がれるでしょう。

 と私は想像(妄想)しているのですが、さて自分では何一つ価値のあるものを残そうとしているわけではありませんので、説得力ゼロです。

_ 玉青 ― 2012年02月12日 17時34分27秒

ガラクタを集めたおかげで「立派な先祖」と感謝されるかどうかは大いに疑問なれども、子孫にも奇態な資質がしっかり受け継がれれば、そういうこともありうる…ということにしておきましょう(笑)。いずれにしても、S.Uさんは、モノよりも名を残される方と思いますので、遥かに尊敬を寄せられることは間違いありません。

ときに―。ここでは子孫が連綿と続くことを前提に話をしていますが、最近のニュースを見ると、どうもその辺からして怪しい気配がありますね。

_ S.U ― 2012年02月12日 18時07分59秒

>前提~その辺からして怪しい気配

そーなんですよね。 モノが残るのも名が残るのも子孫が続くのも、ましてや子孫が先祖のことを思ってくれるだの...どれも「そんなにうまくいけば儲けもの」というのを前提の話ということだとしてください(笑)。

_ 玉青 ― 2012年02月14日 21時56分28秒

ええ、そうしましょう。

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