垣間見の理科準備室2012年02月01日 20時32分26秒

今日から2月。窓の外には白いものが舞っています。各地で大雪。

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さて、久しぶりの理科室絵葉書。

明治2年(1869)創立の伝統校、京都市乾(いぬい)尋常高等小学校の光景です。絵葉書自体は、大正末~昭和初年頃のもので、そのころ新校舎に建て替えたのを記念して作られた絵葉書でしょう。

机も椅子も凝っているし、全体の造作も立派で、当時は教育に金を惜しまずにかけていたことが伺えます。しかし、残念ながら京都市中心部の児童数減少により、この歴史ある学校も既にありません(現在は洛中小学校に統合)。これからの数十年間は、日本中で同様の寂しい別れの儀式が果てしもなく続くことでしょう。

ときに、この絵葉書の見所は、黒板の脇に見える理科準備室の光景です。目を凝らすと、鳥の剥製標本らしきものがチラリと見えて、中がどうなっているのか、ものすごく気になります。つかつかと絵葉書の世界に踏み込んでみたい衝動に駆られます。


この絵葉書は、昨日の写真から連想しました。
昨日の写真の手前(標本室)と奥(教室)を入れ替えると、きっとこんな感じじゃないでしょうか。

ひとひらの雪2012年02月03日 21時11分41秒

雪、雪、雪。
白く、音のない世界。
昨日の朝は辺りがしんとして、その静けさに驚いて目が覚めました。


写真は、国際雪氷学会創立50周年を記念して、1986年に発行された英領南極(→ http://mononoke.asablo.jp/blog/2011/08/17/6053317)の切手。

薄く小さな画面にかっちり収まった雪の結晶が、美しく、愛らしく感じられます。

寒い時節に南極の切手とは、またえらく寒々しいですが、考えてみれば南極は今、夏。
昭和基地の気温は、この時期マイナス5度~プラス2度ぐらいだそうです。
寒いといえばやっぱり寒いですが、それでもつかの間の夏を彩る苔や地衣類が、精いっぱい鮮やかな緑を見せていることでしょう。

金の星、青の星 …天王星の見ごろ近し!2012年02月04日 20時00分46秒

以前も登場した、英国フィリップス社の古い星座早見盤。


ぐっと近づいてみると、ボーっと浮かび上がる「PISCES(うお座)」の文字。


さらに目をこらせば、魚の傍らに金の星と青の星が並んで輝いています。


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先日ご案内したイベント、「ハーシェルの天体を見よう 2012」。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2012/01/14/6291227

いよいよ来週2月8日(水)から12日(日)にかけて、最初の目標天体である天王星が金星に接近します。両者が最接近するのは10日の金曜日。

今回の逢引きの場所は、2匹の魚(うお座)を間近に眺める西の空です。
双眼鏡があればきっと見えるはずですので、天王星をご覧になったことのない方は、この機会にぜひ。詳細な観測ガイドは以下にあります。

ハーシェルの天体を見よう2012(日本ハーシェル協会公式ガイド)
 http://www.d1.dion.ne.jp/~ueharas/hsjsub/herschelwatch2012/

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天王星はウラヌス、金星はヴィーナス。

天空神ウラヌスは、大地母神ガイアの息子であると同時に、母ガイアと通婚して、多くの神々を生み出しました。しかし、後にガイアの怒りを買い、ガイアの命を受けたわが子クロノスに陽物を切り落とされ、海に漂うその陽物の泡から生まれたのが、愛と美の女神・アプロディーテー、すなわちヴィーナスです(アプロディーテーはギリシャ神話、ヴィーナスはローマ神話における名前で、同格の存在とされます)。

何ともすさまじい話ですが、間もなく天空神から美神が誕生する、その瞬間を我々は目にすることができます。

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今日の記事は、コメント欄でとこさんにご提案いただいたアイデアに基づくものです。
ちなみに星座早見の上に配したのは、満ばんざくろ石(金)と菱亜鉛鉱(水色)の微晶で、直径はそれぞれ約2mm。

人体模型の現在(いま)2012年02月06日 19時47分21秒

机の上を片付けていたら、去年の新聞の切り抜きが出てきました。
メーカーが語る、当代の人体模型事情。
元記事は、朝日新聞 2011年11月3日朝刊。

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学校モノがたり/人体模型さわって学ぶ

 夜になると校舎内を歩く。ときどき「本物」が交じっている―。都市伝説ならぬ学校伝説の筆頭格といえば、理科室のあの人、人体模型だ。

 内臓系と骨格系がある。どちらも現在は多くが外国製。学校向け価格は4万~50万円で、国産は高め。理科室に住み始めた歴史は長く、精密機器メーカー島津製作所の創業記念資料館(京都市)によると、明治20年代には学校向けに造られていたようだ。

 教材会社アーテック(大阪府八尾市)によると、素材はプラスチック。骨格の場合、例えば肋骨は25パーツに分けて金型を作り、溶かして流し込む。留め合わせて完成だ。
 小学校では4年生が関節の動きを勉強する。なるほど、精巧な腕の動き。ん? 手首はありえないぐらい反りますね。「ひじの部分で学ぶので…。そこはご愛敬」と藤原悦専務(40)。
 同社では160センチ、85センチ、42センチを用意する。最近はグループ学習向けの小型が人気。「大勢を前に解説する形は古いんです。一人ひとりがさわれる方が記憶にも残ります」

 ところで、昔から気になっていたこと。モデルは男?それとも女? 答えは「どちらもいる」。アーテックの場合、すべて女性。たたずむスペースが小さくて済むのが理由だとか。 (山下知子)
 
工場で出荷を待つ人体骨格模型 =中国浙江省、アーテック提供

********************* 引用ここまで *********************

上の写真、まるでダンス・マカブル(死の舞踏)の出を待つ亡者の群れのようですね。
まあ、何にせよ、人体模型も世につれ…の感が深いです。
今では、愛すべき骸骨たちも海外での生産が主で、しかも大型の模型は流行らないとは知りませんでした。

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「どうだい、君はもう古いんだそうだ。」
「ふん、別に否定はせんよ。まあ、せいぜいお互い『古い』と書いて『美しい』と読むことにしようや。」

彼はそう言って、薄闇の中、カラカラと哄笑するのでした…


ケンブリッジ大学天文台2012年02月08日 20時52分09秒

言うまでもなく、天文学は最も古い学問の1つで、長い長い伝統があります。
中世ヨーロッパにおける学問体系として確立した「自由七科」の内にも、文法、修辞、論理学、算術、幾何、音楽と並んで天文学が入っていました。

ですから、イギリス最古の大学、ケンブリッジ大学においても、天文学は極めて重視され、その研究は昔から盛んに行われた…わけではないのが、興味深いところです。

なぜか?というのは、よく分かりません。
近世になって、天文学が確かな自然科学の一分野になったことで、イギリスの伝統的学問観(古典偏重主義)からはみ出てしまったせいかもしれません。

もちろん、ケンブリッジで天文学がまったく講じられなかったわけではなく、細々と(時には教授の手弁当で)続けらてきましたが、大学付属の天文台が正式に設けられたのは、ずいぶん後のことです。それはニュートンやフラムスチードはおろか、ウィリアム・ハーシェルの時代ですらなく、ハーシェルが亡くなった翌年、1823年になってやっとできたのでした。

その直後、1825年に描かれた版画を、20世紀に入ってから印刷したのが下の絵ハガキです。(あるいは創設100年を記念して作られたものかもしれません。裏面には1930年の消印があります。)


この建物は、現在、天文学研究所付属図書館として使われていますが、その外観は昔とほとんど変わっていません(それも道理で、1990年代はじめに、当初の姿に復元する工事が行われたのだそうです。 http://www.ast.cam.ac.uk/about/history)。


ところで、上の絵葉書には、ちょっとした見所があります。それは…

(この項つづく)

近頃ちょっと驚いたこと2012年02月09日 21時47分01秒

(昨日の続き)

古絵葉書の魅力の1つは記録性です。たとえ、今も同じ建物が残っている場合でも、たとえば1900年の絵葉書であれば、そこに写っているのは1世紀前の光景であり、それは歴史的に1回性のものであるがゆえに、やはり貴重な記録なのだと思います。

その点、この絵葉書は1825年の絵を、後の時代に写真で復元したものなので、同時代性という意味は薄く、いわゆる「2次資料」としての価値しかないとも言えます。ただ、売り手の説明によれば、ここには1930年のケンブリッジの消印が押されているそうなので、80年前の故地から(多くの人の手を経て)私のところに届いた葉書であることは間違いなく、そこに何となく床しさもあるのではないか…という風に、無理やり理由づけして買った一枚です。(といっても、日本円で400円ですから、そう大層な理由づけが必要なわけではありません。)

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さて、届いた葉書の裏面を見てみます。


なるほどしっかりと消印が押してあります。
「1930年9月23日 ケンブリッジ」
宛先はと…


シカゴの「Dr Emile Dehaye」とあります。ひょっとして天文学の研究者?
すると、これにはちょっとした資料的価値があるかもしれません。
では、差出人はというと…


「お手紙落手。ご高著を恵送賜り有難う存じます。
 A. S. エディントン」

あっ!!と思いました。
アーサー・スタンレー・エディントン卿(1882-1944)は、当時のケンブリッジ天文台長で、恒星進化論などで業績を挙げた、偉大な天体物理学者。アインシュタインの相対性理論の実証的研究でも有名です。

この絵葉書は、ケンブリッジ天文台のトップが、自分の天文台の絵葉書を使って直々に書いた礼状という、なかなか貴重な品だったのです。

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宛先のエミール・デハイエ博士については、検索しても分からず、依然不明です。もともとあまり高名な人ではなかったのかもしれません。でも、そういう人からの図書贈呈にも、1枚1枚手書きの礼状を送っていたのは、彼の几帳面な性格を物語るものでしょう。筆跡からもそのことは伺えます。

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400円で思わぬ掘出し物をしたという単純な喜び、私の眼力が売り手の眼力にまさったという浅はかな慢心、そういった感情もあることは否定しませんが、それよりも何よりも、一代の碩学からの葉書が80年の時を隔てて、まったく偶然届いたことの不思議さに、驚きを感じないわけにはいきません。


天王星を見た2012年02月11日 21時21分09秒

今日の西空はきれいに晴れて、金星もくっきり。
昨日に続き、今日も天王星に挑戦です(昨日は曇りで不戦敗)。

…見えました!
その次第は日本ハーシェル協会の掲示板に書き込みました。
http://6615.teacup.com/hsj/bbs

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さて、通常の記事も書こうと思いましたが、冷えた体を酒で温めたら、とろりと眠くなりました。また明日にでも…zzzz

ミネソタはぐれ剥製師連盟とは? …剥製を熱く語る人々(その1)2012年02月12日 17時34分58秒

【急いで訂正】
よく見たら、rogue(ごろつき、はみ出し者)とrouge(ルージュ)を見間違えていました。表題を上記のとおり訂正します。“紅色剥製師”…何とも素敵な名称なんですけれどね(私がそう名乗ろうかしら)。

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(↑ サイエンス・チャンネル「Oddities」の共同司会者、Ryan Matthew Cohn の自宅風景。下記ページより寸借)

大変興味深い記事を読みました。そして大いに考えさせられました。

Taxidermy Comes Alive! On the Web, the Silver Screen,
  and in Your Living Room
 (Collectors Weekly 2011年9月27日号)
 http://www.collectorsweekly.com/articles/taxidermy-comes-alive/

筆者のリサ・ヒックスは、フリーのライター。 彼女は、剥製の作り手、コレクター、研究者、ディーラーなど、あちこちに取材して、「剥製界の今」をさまざまな角度から描いています。

それにしても皆さんはご存知でしたか? 今、剥製が熱いブームだということを。

記事によれば、剥製ブームは2000年代初期、都会の尖端的な人々(urban hipsters)や自作派アーティスト(do-it-yourself artists)の間から始まり、今や米国ではすっかりポピュラーなものになっているそうです。

これは第2次大戦後に生じた剥製ブームから、半世紀を隔てた再流行で、家庭でも店舗でも、最近はあちこちに鹿やらカモシカやらの首や角が飾られ、その需要を満たすために、紙やプラスチックでできたイミテーションまで売られているというのです。

そうしたブームの中で、あのデロールも、ファッショナブルな存在として銀幕に登場し、ウッディ・アレンが監督したロマンティック・コメディ、『ミッドナイト・イン・パリ』(2011)では、デロールが不思議なパーティー会場として出てくるという具合。(注:今確認したら、予告編にもチラリと写っています。http://www.youtube.com/watch?v=qPev0UA0lmw ← 1分15秒のあたりを見てください。)

最近では、モデルのケイト・モスや、歌手のコートニー・ラブ、コメディアンのエイミー・セダリス、カリスマ主婦のマーサ・スチュアートといったセレブたちも、こぞって剥製を手元に置いて愛玩しているし、剥製関連本も続々と出版され、いずれも売れ行き好調だとか。

そんな中、2004年に、3人のアーティスト(=ロバート・マーベリー、スコット・ビーバス、サリーナ・ブリュワー)が立ち上げたのが、現代アートとしての剥製に取り組む 「ミネソタはぐれ剥製師連盟 (Minnesota Association of Rogue Taxidermists)」です。彼らは、伝統的な剥製師からは異端視されているものの、今や世界中で50人以上のアーティストを擁する、剥製界の新勢力。

さて、そうした剥製界の表面的な活況の奥で、いったい何が起きているのか、何がこのブームをもたらしたのか、リサの記事は「業界人」の間でも様々に意見の分かれるこのブームの背景に、鋭く切り込んでいくのですが、それはまた次回。(面倒でない方は、どうぞ元記事をご覧ください。)

【付記】
それにしても、マイブームとしての「驚異の部屋」熱は、この海外の剝製ブームとは独立に生じたものだと思っていましたが、よく考えたらそうではないかもしれません。

東大総合研究博物館でミクロコスモグラフィア マーク・ダイオンの[驚異の部屋]展(2002-2003)が開催されたことや、1990年代末からデロールがメディアに露出度を高め、時代の寵児となっていく過程は、この「アートとしての剥製」ブームと必ずや結びついているはずであり、そして、私は両者から強い影響を受けているので、剥製ブームの影響を間接的に蒙っている気がします。

人間の自由意志とはいったい何なのか? 私は時代の趨勢とは無関係に、自分の興味のままに振る舞ってきたつもりでしたが、実は時代の手の上で踊っていただけなのか? 考えてみると、ちょっと不気味な話です。

紙の星2012年02月14日 21時56分51秒

今日は大事な2月14日ですから、生々しい剥製の話題は先送りして、「L’Astronomié天文学」と題された、可愛らしい19世紀のクロモカードを載せます。(詞書きを見ると、パリの「アンリ商店」という洗濯屋さんが作ったもののようです。)

とんがり帽子の少年天文家と青いドレスの少女。


この少年は心から女の子に星を見せてあげたかったのでしょう。それもとびきり素晴らしい星を。でも、結局彼は紙の星を見せることしかできなかった。

少女は感極まった様子で望遠鏡をじっと覗きこんでいます。でも、彼女だって本当はそれが紙の星に過ぎないことを知っているのだと思います。


男女の間に限らず、親子でも、きょうだいでも、友人同士でも、こういう切ない光景は、いろいろなところで見られます。

悲しい嘘、優しい嘘、尊い嘘、どうしようもない嘘。
嘘にもいろいろな色がありますね。
その色は見る角度によっても変わるかもしれません。

そして、嘘の中にもまことがある…
齢を重ねると、だんだんそうしたことも分かってくる気がします。

お知らせ2012年02月16日 06時01分10秒

口に糊するための仕事が、ここにきてにわかに繁忙の度を高めつつあり、今月いっぱいは記事の間隔が開きそうです。

剥製の記事はゆるゆると、その他の記事もゆるゆると続けます。