『星座の書』 ― 2024年05月05日 10時14分47秒
そういえば…なのですが、以前アル・スーフィの『星座の書』の写本のファクシミリ版(複製本)をエジプトの人から購入しました。
全編アラビア語で、解説ページめいたものもないので、書写年代や原本の所蔵先等は一切不明です(手書きのアラビア語の中にそうした情報が埋もれているのかもしれませんが、そのこと自体判然としません)。星座絵の描写は素朴というか、非常に粗略なので、絵に関しては素人の手になるものではないかと想像します。
で、アンドロメダ座とアンドロメダ銀河の一件から思いついて、手元の本をパラパラやってみました。
その姿形から、おそらくこれがアンドロメダ座なのでしょう。『星座の書』では、一つの星座について、地上から見上げた星の配列と、その鏡映像(天球儀に描かれるのはこちらです)の2枚が対になって描かれており、手元の本でもそのようになっています。
イスラム世界の描写なので、アンドロメダ姫は見慣れた半裸ではなく着衣姿で、囚われの姿を意味する手鎖も描かれていません。
この絵を見ると例の魚の姿がないんですが、手元の本には上の絵とは別に、下のような絵も載っています。
アンドロメダ本体は黄色、魚は赤で星がマーキングされており、ここでは両者が別の星座と認識されているのかな?と思いましたが、でも別の個所にはこんな図↓もあって、なんだかわけが分かりません。
…と思いつつ、ウィキペディアの『星座の書』の項を見たら、
「星座絵の中には、東洋化しただけではなく、アラビアの伝統的な天文学の影響を受けて、さらに変化した星座もある。例えば、「鎖に繋がれた女(アンドロメダ座)」には、『アルマゲスト』由来の標準的な星座絵の外に、脚に「魚」が重なった姿、胴に二匹の「魚」が重なった姿、と三通りの星座絵を描いている。」
とあって、ようやく得心が行きました。
さらに、この巨魚だけを独立させたらしい絵もあって、
その口元というか、鼻先に赤い小円が描かれており、これが「小雲」、すなわちアンドロメダ銀河だと想像されます。
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ちなみに、アンドロメダ座の脇に2匹の魚が控えている…というと、「うお座」との異同を気にされる方もいると思いますが、うお座はうお座で独立した星座として描かれており、アンドロメダに密着しているのは、やっぱりアラビア独自の巨魚座です。
またアンドロメダと巨魚といえば、アンドロメダ姫を呑み込もうとした海の怪物、すなわち「くじら座」のことも連想されますが、くじら座もまた別に描かれており、巨魚座とは別の存在です。
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Karen Masters 氏は、ペンシルベニアの名門ハバフォード大学で教鞭をとる天文学者/天体物理学者で、氏が著した『The Astronomers’ Library』は、天文学者の仮想図書館に置かれるべき本を一冊一冊吟味し、その内容を順次紹介しながら、天文学史について解説するという体裁の本です。いわば「本でたどる天文学の歴史」。
本書をパラパラやりながら、今日のような複製本も含めれば、結構わが家も理想のライブラリーに近づいてるんじゃないか…と慢心しつつ、でもそのほとんどは積ん読状態なので、こうして解説してもらえると、本当に助かります。それだけでも本書を購入した意味はあります。
読書の方はまだまだ続きます。
コメント
_ S.U ― 2024年05月05日 14時43分07秒
_ 玉青 ― 2024年05月06日 07時56分30秒
南に横たわる海に寄せる中東の人の思いと、それを星空に投影した想像力。
真偽は分かりませんが、これは心にしみる説ですねえ。学説というのは何よりも真を貴ぶものでしょうが、この説には真を超えた「美」を感じます。一読、肩入れしたくなります。
真偽は分かりませんが、これは心にしみる説ですねえ。学説というのは何よりも真を貴ぶものでしょうが、この説には真を超えた「美」を感じます。一読、肩入れしたくなります。
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やたらと魚がありますが、ここで、昔、一編だけ読んだ英語の論文を思い出しました。秋の南天の星座には、魚と水に関係するものが多く、(やぎ、みずがめ、うお、みなみのうお、くじら、さらに、エリダヌス、アルゴ?) これは、中東では南に海があり、しかも、昔は歳差の影響で、これらの星座は南中高度が低かったというものだったと記憶しています。それを読んだときは、なるほどと思いましたが、その後、裏付けとなるような同様の論説を他で見たことは一度もありません。