「星を売る店」のドアを開ける(7)…星は口腹を満たす(前編)2015年06月30日 20時55分41秒

店員の口上は淀みなく続きます。

「おあいにくとここにはございませんが」と店員はそばから云いそえた。「楽器でございます。たとえばマンドリンやギターのサウンドボックスの中へ入れてみても、糸はひとりでに鳴ります。

「星」に音を奏でる力があることは、かくの如し。

そのほかにどんなことができるか? どうぞいまお眼にかけました次第によってお察し下さいませ。この汽車にはごらんの通りゼンマイが取り外されています。それにまた汽笛の仕掛とて別に無い。それに笛が鳴ったのですから、奇態ではございませんか?

まことに奇態です。
ない筈の汽笛がピーと鳴るぐらいですから、風車が鳴るのは造作もないことです。

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さらに「星」の効用として店員が強調するのは、「美味しい」ということ。
この「星を食べる」という奇想は、まさに足穂の真骨頂でしょう。
このアイデアが、後の人々の想像力をいかに刺激したか。長野まゆみ氏以来、大いにポピュラーなものとなった、「鉱物を食す」というイメージも、さらにその淵源を尋ねれば、足穂に行きつくのではないか…と個人的に推測しています。

―このものは召し上ることだって出来るのでございます。たとえばでございます。コクテールの中へお人れになっても、風味、体裁、なかなかしゃれたもので、さくらん坊だの乾ぶどうだのあんずの実だののたぐいとはまた段が異なります。

以下、店員の口上に付き合って、いろいろな星の味わい方を楽しみますが、まずは涼しげなカクテルから


ドイツの素朴なプレスガラスのカクテル杯。高さは約12cm。
売り手は「ビーダーマイヤー」を称していましたが、19世紀までさかのぼる品かどうかは正直分かりません。でも、相応に古いものでしょう。


このグラスの見所は、何と言ってもこの星模様です。
星のカクテルを傾けるには、お誂え向きの品で、風味、体裁、なかなかしゃれたものではありませんか。

(この項つづく)