歌う本、祈る本…カテゴリー縦覧「書斎」編2015年08月16日 20時40分09秒

人は書斎に何を求めるのでしょうか?

もちろんそれは人それぞれです。単に資料を置き、書き物をする物理的スペースがあればよい人もいるし、そこに独自の意味、何らかの精神性を求める人もいるでしょう。
私の場合、「理科室風書斎」ということをこれまで言ってきて、それに新たに付け加えることは余りありません。


とはいえ、人間は多面的存在ですから、私の書斎にしても、理科室一本槍ということはなくて、そこにはいろいろな要素があります。


たとえば、古い宗教書の類。
別に私はキリスト教徒ではありませんし、そうした本を手元に置く義理もないのですが、それらは昔の人の心について多くのことを物語りますし、いろいろ考える契機にはなります。


グレゴリオ聖歌の楽譜集もその1冊。


真鍮の金具を打った大型本は、重さが6キロもあり、相当ズシッときます。


時代は19世紀半ばですから、格別古いものではありません。
でも、当時盛んだったグレゴリオ聖歌復興運動の中心にいた一人、イエズス会士のルイ・ランビョット(Louis Lambillotte)の古写本研究をふまえて編纂されたもの…という点に、いくぶんか面白みがあります。


背後の大きいのは、19世紀後半と推定される、ロシア正教の聖歌集(その記譜法からズナメニ聖歌と呼ばれます)の手写本。手前の小さい本は、1806年の年記がある、ボヘミア地方(現チェコ)で制作されたGebehtbuch(祈祷書)です。

ロシア正教の書物は、旧ソ連時代に宗教弾圧で失われたものが多く、時代の新しい19世紀のものでも、それなりに貴重だと思います。

一方、ゲベートブッフは、18~19世紀初頭に、ドイツ語圏のカトリック教徒が生み出した庶民芸術に属するもので、こういう民衆バロック的装飾感覚が、ドイツ系移民を通じて、初期のアメリカン・フォークアートに影響を及ぼしたと聞きます。素朴な手彩色の写本ですが、装丁は凝った総革装で、ゲベートブッフが貧しさゆえに生まれたわけではなく、日本の写経と同じく、書写すること自体が篤信の行いとして尊ばれたことを示しています。


これもロシア正教の古い本です。
木の板に革を貼り付けた表紙に、緑青の出た留め金具。
こういう風情にひかれる心が、私の中には確かにあります。

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今日は、話題が書斎のことに及んだついでに、ブログの趣旨とちょっと外れたモノを載せました。