雪氷三話2019年08月11日 07時41分30秒

しばし心を静めて…と思えど、暑いですね。

暦を見れば、二十四節季だと「立秋」を過ぎ、七十二候だと「涼風至る」だと書かれています。いったいどこの国の話か…と思いますが、これは話が逆で、昔の日本を標準にする限り、異国化しているのは、むしろ我々の方です。

まあ、二十四節季は中国大陸のものを、そのまま引き継いでいるので、日本の季節感とズレがあってもおかしくはないですが、七十二候のほうは、近世に入ってから日本に合うよう修正が施されているそうなので、これはやっぱり時代とともに気象条件が変わってしまった証拠でしょう。

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こういうときこそ涼しい話題をと思って、日本雪氷学会(編)『雪氷辞典』をパラパラ見ていました。(この本は、2014年に新版が出ていますが、手元にあるのは1990年に出た旧版です。)


本書はもちろん全編これ雪と氷の話題ばかりですが、その中でも、とりわけ涼しさを感じた言葉を3つ取り上げます。

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「とうれつ 凍裂 frost crack」

 厳冬期に、通直な太い幹の内部から樹皮まで、縦方向の割れ(放射状)を生ずる現象を、凍裂(または霜割れ)という。割れ目の長さは1mから数mに及び、生長期に癒着しても、冬に再発を繰り返す例が多い。この現象は、水分を平均よりも多く含む「水喰い材」の、凍結・膨張による強い内圧と、樹幹外周部の低温による収縮とに起因するといわれている。北海道では谷筋のトドマツ、ドロノキ、ヤチダモなどの凍裂が、その音とともによく知られている。 〔…下略…〕

がっしりとした樹木までもが、激しい叫び声をあげて屈するとは、まったく想像を絶する寒さです。その音が実際どんな音かは、ネットで容易に聞くことができます。以下はNHKの「新日本風土記」で紹介された、北海道・陸別町の映像と音。(凍裂音は、0:37と2:11の2回出てきます。)

北海道・陸別町「凍裂」~日本でもっとも寒い町
陸別町は、冬ともなれば氷点下20度を下回る日が続き、そんな折には、夜明けの無人の森から、「パーン!」と鉄砲を放つような音が時折聞こえてくるのだそうです。なんだか耳も心も凍るようです。

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「とうきらい 冬季雷 [冬の雷] winter thunderstorms」

 日本海側に冬季に発生する雷のこと。日本の平均雷日数分布は、内陸部と日本海側で多く、ともに40日前後だが、内陸部は夏、日本海側は冬に多い。〔…中略…〕冬季雷雲は雲高が低く、水平方向に広がり、電気的には発雷の日変化が少なく、雷放電数も少なく、上向き雷、正極性のものが多いといった特徴がある。冬季雷はノルウェー西岸と日本海側に多く、メキシコ湾流と対馬暖流の影響が大きい。

雷といえば、夏の入道雲や夕立とセットに考えていたので、日本海側では雷は冬のものだと聞いて、目から鱗がはらりと落ちました。雪催いの日、低く垂れこめた雲に向けて、地上から雷光がさかしまに走るなんて、なんとも凄愴味があります。でも、これは日本海側で暮らしたことのない人間の無責任な感想で、実際にはやっぱり相当怖いでしょう。

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「ゆきおんな 雪女」

 雪国の伝説で、大雪の夜などにあらわれるという雪の精。一般にはその名称から、白い衣を着た雪のように白い女の姿が想定されている。しかし、ところによっては小正月や元日に現れる歳神であったり、片目片脚の雪女もある。

「雪女」の怪談は別に珍しくありません。
でも、最後の「片目片脚の雪女」というのは知りませんでした。

これを聞いて、ただちに思い出したのが、岡本綺堂「一本足の女」という話。
最初は単に可憐な不具の少女だったものが、長ずるにつれて、その器量によって父親代わりの侍を狂わせ、果ては生血を欲する鬼女となっていくさまが不気味に綴られた、時代物の怪談です。

そういう連想が働いたので、「片目片脚の雪女」にヒヤッとするものを感じたのですが、彼女が常ならぬ美貌の持ち主だったら、確かにいっそう恐ろしさが勝る気がします。

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現今の暑さは、なかなか怪談ぐらいでは追いつきませんが、それでも想像力を働かせれば、ちょっとは涼しくなるような…。

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