卓上キネマハウス2009年11月06日 19時57分23秒

先日の「ピンポイント・プラネタリウム」から連想したものがあります。

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昭和4年、羽深音吉商会から発売された「卓上キネマハウス」。
卓上に乗る映画館を作りたいという、羽深音吉氏(自称・光学博士)の夢から生まれた玩具。

浅草にあった「電気館」を忠実に模した、この“世界一小さな映画館”は、発売当初、非常な売れ行きを見せましたが、そのうちに「音はするが、スクリーンには何も映し出されていないじゃないか」という抗議が殺到し、当局の摘発を受けた末に市場から姿を消しました。

羽深氏が言う、「私は映画そのものを売りたいわけではなく、映画館の空気をいつでも味わえるようにしたかっただけなのだ」という主張は、結局世間には受け入れられなかったのです。

「卓上に乗るほどの小さな映画館の中へ入れるのは、子供たちの夢だけだ」と考えていた羽深氏ですが、もはや「誰もが大きくなり過ぎた…」と感懐を漏らすほかありませんでした。

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“イマジネーションの力を借りて、その場の空気を味わう”という点に共感もし、またスピッツ作のプラネタリウムと共通するものを感じます。

私もこのキネマハウスがぜひ欲しいのですが、それは永遠に叶わぬ夢です。
何しろ、上のように詳細に作り込まれたストーリーを含め、この商品は(外箱を除けば)<クラフト・エヴィング商会>という稀有な創作家の脳髄の中にしか存在しないのですから。

空想の映画館の、空想の模型の中で、空想の映画を愉しむ…何だか夢の中で夢を見るような、ものすごく遠い愉悦ですね。

■引用出典■
 クラフト・エヴィング商会(著)
 『どこかにいってしまったものたち』
 筑摩書房、1997