理科室愛好倶楽部会報 (通巻第3号)2014年06月16日 06時28分48秒

部員の皆さん、お元気ですか?
1年か2年にいっぺんしか出ない、「理科室愛好倶楽部会報」。
第1号第2号に続いて、いよいよ第3号の刊行です。

   ★

こんな興味深いデータを見つけました。

日本理科教育振興協会: 小学校・中学校の理科室設備整備について
  -調査報告-
  
http://www.japse.or.jp/activity/consignment/setsubi

調査を実施した「日本理科教育振興協会」というのは、昭和38年(1963)に、理科教材メーカーと販売会社が集まって結成した団体で、要は業界団体です。現在の会長さんは内田洋行、副会長さんはヤガミ、島津理化、ケニス、ナリカからそれぞれ選出されている…と聞けば、理科教材好きの人はハハーンと思われるでしょう。

その団体が、一昨年(2012)の年8月に、全国の小・中学校を対象に、理科設備品の保有状況を調査した結果が上のページにまとめられています。そして、そこには次のような煽り文句が。。。

 「平成21年度に大型補正予算が措置され、理科設備品は多数の学校で充足が図られましたが、全体では必要とされる額の1/3~1/4程度であります。また、平成21年度の一校あたりの配当予算に関しても、100万円を超える整備校と全く整備ができなかった学校が混在しています。
  来年、平成23年度から、小学校では新学習指導要領が実施されるにあたり、まだまだ整備不足であり、学校現場におかれましては、関連の理科設備の整備が急務とされます。

 あなたの学校と比較してみましょう! 揃っていても、使用可能であることを確認してみましょう!設備品が不足していては満足な観察・実験ができません! すぐに整備(購入申請)しましょう

要約すれば、「まだまだ理科備品は不足しています。もっとジャンジャン買って下さい」という、非常に分かりやすい主張です。少子化の現在、業界も昔のようにおっとり構えていられないのでしょう。

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さて、肝心の調査結果ですが、リンク先のページから更に「小学校 理科実験設備整備状況(設備品)」という資料を見ると、モノによって保有率が大きく異なるのが目を引きます。

たとえば、百葉箱は現在あまり使われてない気がしますが、それでも8割近くの小学校にあります。しかし、地層模型は半分の学校にしかありません。月球儀となると保有率は4割を切り、昆虫発生順序模型に至っては1割です。

天体望遠鏡が6割強の学校にあるのは頼もしいですが、でもあまり使われてはいないでしょうねえ…

上皿てんびは当然あるものと思っていましたが、6%の学校はそれを持たないと知って、少なからずショックを受けました。直流電流系も同様です(前者は電子てんびんで済ませているのかもしれません)。

きわめて不可解なのは人体解剖模型で、84%もの学校が「保有しているが標準数量より少ない」に分類されています。でも、人体解剖模型の標準数量って「1」なんですよね。人体模型が「0コンマいくつ」って、いったいどういう意味でしょう?(ひょっとしたら、「あるにはあるが、内臓の一部が失われている」とか…?いかにもありがちな話ですが。)

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というわけで、順々に見ていくと、いろいろ面白い「理科室の今」が見えてきます。
さあ、あなたの母校と比較してみましょう!

コメント

_ S.U ― 2014年06月16日 19時28分04秒

こんな会報が出ていたのですね(笑)。

 上皿天秤と電子天秤の話は面白いと思いました。なぜ、目盛りや数字で読み取る量りがあるのに旧式っぽい上皿天秤をいつまでも使っているのか、という問題です。これは以前から疑問に思っていました。

 もちろんそれには理由があって、精度が同じなら電子天秤のほうが値段がずっと高いから(今はあまり変わらないようなので、正確には「昔は高かったから」なのですが)ですが、関連してさらに深い理由があって、私は今でも、できることなら電子天秤と上皿天秤の両方を学校には揃えていただきたいと思っています。(理科教材メーカーの回し者でありません(笑))

 それは、理科実験好きの皆様ならご存じのように、両者の働きが根本的に違うからです。分銅を使う上皿天秤は「質量測定系」であり、電子天秤は「重力測定系」であるからで、重力の強さが場所によって微妙に違うので、0.1%の精度を問題にする電子天秤は使用場所ごとに較正がされないといけません。最近の電子天秤はこの機能が内蔵されているそうです。この機能のために今までは電子天秤が高かった(あるいは使いにくかった)のが、最近は安くなってきたということなのでしょうか。

 こういったことを小中学生に授業で教える必要はありませんが、電子天秤と上皿天秤は本質的に違うものを量っているということを、中学校を卒業してからでもよいから、上皿天秤が釣り合っているイメージとともに考えていただけると私としては嬉しいです。

_ 玉青 ― 2014年06月16日 22時07分21秒

いやあ、あえて告白すると、質量と上皿天秤の話は、私の中では今もって解決が付いていなくて、子供に聞かれたらどうしようかと思っていました(幸い聞かれることはありませんでしたが)。

(思い出その1)
「バネばかりはね、月に持って行くと重さが6分の1になってしまうんだ。月は重力が小さいからね。でも、天秤ばかりだったら、地球で100グラムのものは、月でもきっちり100グラムだろ。そういう風に、重力の大きいところでも小さいところでも変わらない量、それを質量と言うんだ。」
 …そういう説明を聞いて、子供時代の私が思ったこと。「でも、それって『100グラムの分銅はどこでも100グラム』っていう「約束」を決めただけじゃないのかなあ。それだったら、バネばかりだって、月面で100グラムの分銅を吊るしたときのバネの伸びを基準にして、新しい目盛りに付けかえればいいだけだし、いったい両者はどこが違うんだろう?」

(思い出その2)
さらに思ったこと。「先生は天秤ばかりはどこでも使えて、同じ物だったら重さ…質量だったかな…は変らないと言ってた。でも、本当に天秤ばかりって、どこでも使えるのかな?宇宙船の中だったら、はかりも分銅もフワフワ浮いちゃって、重さを測るどころじゃないんじゃないかな?先生の言うことは正しいのかな?」

もちろん、今だったら、いろいろ言葉を尽くして説明しようとするでしょう。
「じゃあ、宇宙空間にフワフワ浮かんでいるものは、みんな重さゼロだよね。石ころも、月も、太陽も…。でも、石ころよりは月の方が、月よりも太陽の方が、何だか重そうな感じがしないかい?その『重そうな感じ』の正体は何だろうね?」とかなんとか。
あるいは「釣り合い」ということの意味を考えて、宇宙船の中でも使えるはかりを一緒に工夫するとか。

でも、気を抜くと論破されてしまうかもしれないぞ…という一種の危うさは、今でも感じています。

_ S.U ― 2014年06月17日 07時00分13秒

これは、シビアな問題になりましたね(笑)。
 幸か不幸か、このような疑問を持つ子どもは多くないでしょうし、細かい議論に無理に導くのも善し悪しでしょうから、成長してから自分で解決させるようにしてもあまり問題にはならないかと思います。でも、尋ねられたら無視するわけにはいきませんね。

 それにしても、玉青さんの思い出のような疑問を持つのは、よほどまれに見る理屈っぽい子どもではないかと・・・もちろんこれが間違いなくポジティブな評価であることを、お疑いにはなりますまい・・・

 (その1)のように、子どもは直覚的に重量すなわち重力で物質量を定義するのが適切と考えるでしょうね。この考えは電子天秤の較正法と同じで実用的にも首尾が通っていますので、頭ごなしに否定できないところが辛いです。でも、そのことだけなら、重力ではなく、月に運んでも変わらない物体を構成している粒(原子)の数を量の単位として定義することがさらに合理的であることで納得してもらえるのではないでしょうか。

 ところが、(その1)、(その2)を通して、となると、本当に納得してもらうには、無重力下でも測れる「慣性質量」と天秤が測る「重力質量」の等価性を原理としておく一般相対性理論を持ち出す必要があると思います。権威に左右されない子どもは、理論の優れたアイデアと一連の実験による検証の両方を説明しないと得心するところにはならないでしょうから、これは特別にチャレンジングな問題だと思います。

 幸いにして、それを世のお父様方に問う子どもはごく少なく、苦心するのは高校か大学の物理の先生方でしょう。

_ 玉青 ― 2014年06月17日 21時47分06秒

>粒(原子)の数を量の単位として定義することがさらに合理的

おお、これは明快ですね!
さっそく過去の自分に教えてあげることにします。彼もきっと破顔一笑、小さな膝を打つことでしょう。(笑)…まあ、上の話は現在の視点からだいぶ整理されていますし、あの「先生」は生身の先生ではなく、本で読んだことだと思いますが、それでも質量の話題をねちっこく覚えているのは、我ながらよほど印象深かったのだと思います。

それにしても、子どもばかりでなく、昔の人にとっても、質量って分りにくい概念だったでしょうねえ。感覚的に捉えやすい重量にしても、重い物の方が速く落下すると人々は長年信じていたぐらいですから、この辺は感覚が容易に真実を欺く気がします。

ところで話は飛躍して、「もし仮に…」と空想するのですが、もし仮に人間が水中で進化していたら、物理法則の発見はいったいどんな順番で進んだでしょう。水中人は「物体はすべて下方に向かう性質を持つ」という憶見とは無縁でいられたでしょうが、かといって、それによって重力の発見が促進されたかどうか。また質量概念の確立はどうであったか。

…そんなことを、海辺やプールサイドで子どもと話し合うと良かったのですが、子どもが大きくなるのは本当にあっという間ですね。

_ S.U ― 2014年06月18日 05時26分32秒

>昔の人にとっても、質量って分りにくい概念
 ちゃんと調べたことはありませんが、ニュートン以前においては、この「原子の数」的考え、すなわち自然哲学の原子論(東洋では「気」の哲学)に基づくイメージで、理論派の学者は質量を比較的明瞭に理解していたのではないかと思います。「質量」(massも)というのは、もともと物質の実質分という意味で、原子論的に考えれば隙間だらけであるはずの物質を仮に圧縮してギュウギュウに(今のイメージでいうと中性子星みたいに)詰めたときの物質量という定義であったろうと思います。一般には重力で測定・理解されましたが、重力と物質量を根拠を持って対応させるにはニュートンの出現を待たねばならなかった、というのがおおまかな科学史の見方になるのではないでしょうか。

>人間が水中で進化していたら
「魚は水中に在ってその水を知らず」と申しますし、水中で泳げば自由に上下に移動できますので、人間は水も重力も気づかずに長いこと暮らしたのではないでしょうか。沈む物、浮かぶ物はありますが、その多くは無生物(あるいは死んだ生物)で、無生物には「下に落ちる物」と「上に落ちる物」の2種があると分類したかもしれません。現実にはニュートンの時代に実験と天体観測と数学が集結して、力学と重力の突破口が同時に開かれましたが、水中にいるとこれらが同時に起こらず、例えば、水の発見→流体力学→運動の法則→重力の発見と進んで、重力の解明は相当遅れたかもしれません。
 
 これは、子どもとの対話というよりも、大人同士の酒飲み話のテーマかもしれませんね。最後は発散して虚空に(あるいは水中に)拡散しそうです。

_ 玉青 ― 2014年06月18日 20時01分40秒

>物質量~一般には重力で測定・理解~重力と物質量を根拠を持って対応~ニュートンの出現

人として生を受け半世紀。
質量の話は、必ず重さの話題から入り、次いでばねばかりと天秤ばかりの話になって、最後にハテナマークがポッと頭上にともるという無限連鎖に陥っていましたが、ようやく今解脱できました。「質量とは重量と似て非なる何か」という理解を強いられたおかげで、ずっとモヤモヤしていたのが、ようやく事態が飲み込めた気がします。そして、日々体験している「重さ」に新たな意味が付け加わりました。そうか、そういうことだったんですね。
まこと得難きものは良師です。本当にありがとうございました。

…と杯を挙げつつ、心はのんびり水中をたゆたうことにいたしましょう(^J^)

_ S.U ― 2014年06月19日 20時34分42秒

 望外というか不相応とも言うべき高い評価をいただきましたので、少し図に乗って、蛇足なのですが物理学の原理からの質量の見方について、多少、私見を加えさせていただきたいと存じます。

 質量の定義としてどれを取るかの問題で、一般には、慣性質量(物の動かしにくさ)あるいは重力質量(重力の強さ)で考えることになっているようです。定義が1種類である必要はないので、間違っているとまでは申しませんが、これらの立場には少なからず疑問を持ちます。

 質量のそもそもの動機は物の量ですから、「加算性」があるということがもっとも重要と考えます。つまり1グラムと物体と1グラムの物体を合体すると、全体の質量は2グラムになるということです。ところが、加速度で慣性質量を測ったり、重力で重力質量を測った場合は、この加算性が当然に(自明に)予期されるものではありません。たとえば、バネばかりの皿上の2個の100円玉が、1個の100円玉の2倍の力でバネを引っ張るかどうかは、重力の性質に関わることなので測ってみて初めてわかることです。従って、慣性質量や重力質量の加算性は「定義」に由来するものではなく、観測で見出される「自然法則」ということになります。

 一方、相対性理論によりますと、「質量の加算性」はエネルギー保存則にその根拠を持つことになります。エネルギー保存則は、宇宙の時間の並進対称性に根拠を持っています。こうして、「加算性」が原理から保証されるので、質量の加算性を出発点にして、慣性質量や重力質量は実験で証明された物理法則から派生していると考えるほうが、全体を理解しやすいと思います。また、これは古代から現代まで指導原理として機能している原子論の考えとも合致します。私には、慣性質量や重力質量による質量の定義は、17~19世紀限定バージョンのような気がします。

 これに関係したことは、私たちの同好会誌の次号の「長屋談義」で触れる予定ですので、またよろしくお願いします。

_ 玉青 ― 2014年06月20日 00時50分34秒

話がぐっと深まりましたね。
何度か読み返して、第3パラグラフまでは何となくご趣意が分かりかけてきました。
しかし、第4パラグラフに至ると、やや手にあまります。
八つぁん熊さんとご隠居の活躍を、長屋の垣根越しに耳を澄ませて待っていますので、お手数ながら、ひとっ走りご注進に及んではいただけませんでしょうか。(^J^)

_ S.U ― 2014年06月20日 21時35分20秒

おぉ... 半ばは私見でしかも自分でも理解が詰められていない議論に深くおつきあい下さり、恐懼の至りにございます。特に第4パラグラフは途中の論理のつながりをはしょっているところがありましたので、多少の補足をさせていただきますが、おそらく最終的なご理解に至るだけの内容は始めからないと思います(すみません)。

 まず、相対性理論によると、質量とエネルギーは等価であります。ここでいう質量、エネルギー、等価性の具体的な意味については、次回に、八つぁん、熊さんに解明していただくよう頼んであるのでしばらくお待ち下さい。今はとにかく、都合のよい等価性があるということにしてください。エネルギーの「保存則」がエネルギーの「加算性」を前提としていて(足し算しないと保存されているか確認できないので)、これが「質量の加算性」につながることは問題ないと思います。

 次に、エネルギー保存則の起源ですが、これは、時間並進対称性、すなわち宇宙を支配する物理法則が時間の経過で変化しないという原理から数学の定理(ネーターの定理)から導くことができます。これは、一般的な力学法則の数学的枠組に関する形式論です。以上から、物理理論で原理(宇宙の時間並進対称性と相対性理論)をトップダウンに設定すれば、質量の加算性は数学論理で導き出されるので、あとはここを出発点にして、質量に関係する様々な理論を展開して、そこから予想される法則が実験と矛盾しないか検討すれよいということになります。

 一方、これとは独立に、原子論に立てば、物質について何らかの「物質量」が定義できるならば、それは加算性を持つべきであるということが当然のこととして要求されます。つまり、質量の加算性のない原子論は、原子論の体をなさないだろう、ということです。

 以上のことより、質量の加算性は原理から導くことができますし、それは原子論から期待されていることです。しかし、慣性質量あるいは重力質量の定義から出発すると、個々の物体についてそれぞれ局所的に質量を測定することはできますが、その「加算性を原理的に保証する」ことはできなくなります。私が原子論主義の徒だからだと思うのですが、加算性が原理から保証される前者の定義をより推奨したいという気持ちです。

 ある物理量の定義は、原理から決まっても、物理法則の成立を仮定しても、はたまた局所的な現象に基づいていても、それは人間の都合の範囲で決めて良いものですので、それぞれに一長一短があるだけで、どれが正しい間違っているものではありません。人が長所の多いと思われるものが推奨されるというだけのことだと思います。

_ 玉青 ― 2014年06月21日 12時05分18秒

>最終的なご理解に至るだけの内容は始めからない

とおっしゃっていただいたので、最初から安心して理解できずにいることができました。(笑)

そういえば質量はエネルギーと等価なのでしたね。
となると、風呂上がりにヘルスメーターに乗るのは、地球の重力場において自己のエネルギー量を日々測定していることになるわけですね。そしてエネルギーの増減に一喜一憂していると。

ご隠居「…とまあ、そういうわけで質量が失われると莫大なエネルギーの放出を伴うわけだな。」
熊さん「なるほど!それでうちの嬶も毎日えっちら自転車をこいだくらいじゃ、ちっとも質量が減らないわけだ。」

_ S.U ― 2014年06月21日 20時11分09秒

>最終的なご理解に至るだけの内容
 「読書百遍意自ずから通ず」と申しますが、それは先哲の書いた名高い文章の場合で、半可通の書いた理学の解説は、わからんものは何回読んでもわからないです。

 熊さんの奥方の体重の話は面白いですね。次回のためにネタを拝借します。

_ 玉青 ― 2014年06月22日 07時09分08秒

いえいえ、S.U大人は私にとってまさに先哲の雄なるもの。
そしてまた、文章理解は書き手と読み手の関数ですから、ときに熊さんの迷言が先哲の名言以上のものを読み手に与えることもあり、今後長屋でどんな議論が起こるのか、注目しています。(^J^)

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