理科室愛好倶楽部会報 (通巻第1号)2010年07月13日 19時54分16秒

嗚呼、永遠ノ理科室!
理科室ノあともすふぃあニ無限ノ憧憬ヲ抱ク人々ヨ。
共ニ考ヘヤウデハアリマセヌカ。現代ノ理科室事情ノ実相ヲ。

   ★

愛知教育大学の牛田憲行先生による、以下の調査報告書をネット上で拝見しました。

■~小学校教科「理科」の充実と実験授業改善に向けて~
  小学校 理科教育アンケート調査
  http://www.step.aichi-edu.ac.jp/report001.pdf

これは、同大学で今年の2月に開催された「『理科離れ実相調査』ミニ・シンポジウム」の際の資料で、愛知県の小学校で理科を担当されている、現場の先生方を対象にしたアンケート結果をまとめたものです。

その中に以下の設問があります(報告書のp.4、PDFファイルでは9ページめ)。

「17. 教師の多忙化のため、理科室の管理が十分でないため、器具・ 薬品・消耗品の不足や装置の故障があったり、理科室のどこに、何があるのかよくわからない、という声がよく聞かれます。理科備品の管理、「理科準備室の体力」 について貴校の率直な現状、ご意見をお寄せください。」

自由記述式の回答を見て、とても複雑な思いを抱きました。
そして、「理科好き」と「理科室好き」は、やっぱり違うのかなあ…と思いました。

   ★

以下順不同に抜粋。

◆整理棚(木製)が古く、新しいものにしたくても予算がないなど、難しい状況です。◆準備室が狭く、過去の古いものが多いことから、うまく必要なものを整理しておくことができないです。(過去のものは、かつて手作りされたものばかりでなかなか捨て切れない事情があります。)
◆備品がかなり古い。 備品は、なかなか思い切ってすてきれないので、何年も使っていない物がたくさんある
◆何年か前の備品で、現在の指導過程では使用しないものの処理に困っています
◆古い器具が多く使えるもの、現行の教科書に合ったものは半分程度。 整理するにも時間、人手が足りない。
◆理科の準備室がとてもせまい ・古い備品、消耗品がたくさん残っている
器具が古い(備品要望が通らないことが多く、30年前40年前に購入したものを使っている)。
◆夏季休業中に同僚教員2人くらいと3日間くらいで理科室と準備室の整とんをおこなった。しかし、授業で使われるたびに使ったクラスの担任が片づけず、どんどんぐちゃぐちゃになってしまう
◆器具、薬品、消耗品の維持管理を担当だけで行うのは大変であると感じている。備品の管理について、手続きに手間がかかり、なかなか処分ができず、たまっていき、そのことで理科室が混沌とした状態になっているので備品管理の手続きを、もう少し柔軟化してほしい。
◆理科室及び準備室に昭和よりずっと置き続けられているものが多数あり、使えない装置も多い。職務もあるし、部活もある為、時間もあまりなく、正直どこから手をつけていいかわからない。

混沌たる古い理科室!
謎めいた器具であふれかえった理科室!!
先生方はもちろん「これは困ったことだ…」という趣旨で回答されているのですが、私には素晴らしいことのように思えます。「木製の棚」「手作りの教材」、いずれも大いに結構ではありませんか。こういった学校の児童がむしろ羨ましくもあります。

他方、上の流れからすれば当然ですが、以下のような回答もでてきます。

◆夏休みに備品の移動と消耗品の点検をしました。転勤して新しい職場にきたので自分が必要と思うものと以前の人と趣味が違うので過不足、移動がたいへんでした。 消耗品をすてるにせよ、ゴミもお金がかかるので、家に持ち帰ってすてていました
◆3年前、今の学校に来てから、使いやすい理科室に心がけてきました。古い器具を破棄したり、器具の整頓に配りょしてきました。
◆校舎が新しくなり、古い理科室と共に、使用していない古い器具を捨てることができた。 その結果、かなり使いやすくなった
◆今年度4月に赴任し、準備室がひどい状態だった。 夏休みにかなり整備することができた。 「古いものは捨てる」ことが大切だと思う

ああ!古い理科室の空気が失われていく!
捨てたらアカン!
(どうせ捨てるなら…とは敢えて言いませんが、こういう理由によって古い理科室備品が古物市場に出てくるわけですね。)

   ★

現場の先生のご苦労は、たいへんよく分かります。そして、もちろん理科室は、古玩好きの子供ではなく、理科好きの子供を育てる場なのです。

サレド、嗚呼!サレド…
言葉ニナラヌ思ヒヲ、此ノ場デ皆サント共有デキマスレバ幸デス。

コメント

_ かすてん ― 2010年07月15日 06時54分38秒

下見板張りの木造校舎の2階端にあった理科室。きしむ床、少しジトっとする木製の実験机、カビ臭い空気、それを懐かしい記憶とする世代が少なくなって、記憶の継承もままならなくなっていると言うことでしょうかね。

_ S.U ― 2010年07月15日 08時00分02秒

あぁ、インパクトが強すぎてコメント困難です...
>「古いものは捨てる」ことが大切
 これは正しいですね。ここで問題なのは、何をを捨てるのか...「珍しい物を残し、ありふれた物を捨てる」、これが普通の人の発想であり、お役所の発想なのでしょう。しかし、たぶん我々の要求は「ありふれた物こそ残してほしい」ということでしょう。「ありふれた物」を残すには何らかの指導原理(教育史や民俗学など)からの視点が明瞭であることがぜひとも必要なのだと思います。

 もうひとつの方法として、かすてんさんのコメントにあるような「レトロ趣味」を講習などで若い先生方にも普及させるのはどうでしょうか。

_ 玉青 ― 2010年07月15日 22時14分11秒

○かすてんさま

今の現場の理科の先生は、総じて私よりもお若いでしょうから、木造校舎経験率は非常に低いと想像します。まあ、私自身も未経験なので、偉そうなことは言えませんが(連れ合いは経験したみたいです)。私の場合はむしろ戦前のコンクリート校舎に思い入れがあって、あれはあれでまた独特の風情がありました。

きっと新しい校舎でも、それなりに理科室のオーラはあって、理科室への思い入れも再生産されてるんだと思いますが、それがどんなものかは、うーん…ちょっと想像の埒外になってしまいますね。実際のところどうなんでしょう?

○S.Uさま

最近は学校の統廃合で使われなくなった校舎を、地域の文化施設として活用する例が増えてきているようですね。いっそのこと、学校の怪談的な、学校民俗学のテーマパークとして、徹底的にディテールにこだわった施設ができたら結構人気を博すかもしれません。

…いや、しかし学校コミュニティを支えていた地域のコミュニティをどう再生するかが、まず考えるべき課題であり、ノスタルジック一辺倒の箱物施設を作っても、一時の仇花にしかならないのではないか…etc、考えるといろいろ内なる声も聞こえてきて、思いは千々に乱れます。

とりあえず今は個人的レトロ趣味を満足させるべく、日々奮闘中です。その中で見えてきたことを踏まえつつ、理科室趣味の伝承のあり方を引き続き模索することにします。

_ S.U ― 2010年07月15日 23時08分50秒

確かに、箱物をつくっても、根づくまでに見に来る人が飽きてしまって仇花になってしまいそうです。ここは都道府県の教育委員会が教科毎にパイロット校のようなものを指定して、何十年かじっくりかけ、校舎や教材が、寺院や陶磁器のように文化的価値とレトロ趣味が見る人の心で渾然一体となるまで待つ必要があるのかもしれません。伝統ある大学ではすでにそのような文化財を持っているところがありますが、これを一般の小中学校に広げることができるかどうかです。名高い学校も一般の学校もともに時代を歩んできたという歴史の重みに違いはないはずなのですがねぇ。

_ nona ― 2010年07月16日 19時22分48秒

>「理科好き」と「理科室好き」は、やっぱり違うのかなあ…と思いました。
いままでそんなふうに考えたことがなかったですけど、
あぁそういうものかしら、と目から鱗?(笑)

木造校舎が取り壊されてコンクリート新校舎が建つ、
という時期に進級したわたしは
真新しい理科室と古めかしい理科室の両方を経験できましたが、
木造理科室を知っていてラッキーだったなといまでも思っています。
ひっそりと暗い薬品棚のあいだをおさんぽしつつ
気にいった薬品壜(硫酸銅とか)などを
見つけるのがひそかな楽しみでした。
そんな“趣味”は誰にも言いませんでしたけど。

_ 玉青 ― 2010年07月16日 19時56分34秒

○S.Uさま

おお、遠大な計画!これは実現できたら素晴らしいですね。
でも、今の情勢だと真っ先に仕分けされてしまうかも(笑+涙)。
学校に寄せる人々の(特に地元民の)愛情が事の成否を左右すると見ました。

○nonaさま

理科主任を務めるような先生は、元々「理科好き」の人達だろうと思うのですが、その先生方にしてもアンケートを見る限り、特に「古い理科室」への思い入れはなさそうで、そこに感性の違いを感じます。「理科室好き」は、どちらかといえば文系人間に多いのかもしれません。

nonaさんのお話を伺い、子供の頃に木造校舎の理科室を経験できなかったのは、一生の痛恨事だと今さらながら思います。木造校舎の写真集などを見ながら、その場を想像してはみるのですが、やっぱり子供の目と心でリアルに体験するのとは、天と地ほども違うでしょう。

_ S.U ― 2010年07月17日 08時36分42秒

>仕分けされてしまう
お役所言葉的に言えば、「成果の評価に数十年単位の期間を要することが明瞭である事業は、仕分けの対象としてなじまない」はずなのですがねぇ。

_ 玉青 ― 2010年07月17日 10時48分58秒

お言葉の端々に、先般の事業仕分け騒動に対するS.Uさんの並々ならぬ思いが感じられますねぇ(笑)。

さて、レトロ学校文化保存事業。
いざやるぞ!となったら、いろいろアイデアが出てきそうですね。
まず時代も明治前期、後期、大正、昭和戦前、昭和30年代…etc、にぎやかに取りそろえてほしいです。そして箱物だけではなく、一部は動態保存して、髭をはやした先生が、絣の着物の生徒たちに日々厳かに授業をしていると素敵ですが、御真影の礼拝が強制されたりすると、それもまた問題かもしれません。でも、考えてみるとそういうことも含めて、過去の教育システムは機能していた筈で(というか、近代国民教育制度と天皇制は切り離せないので)、戦前の学校を本気で復元するとなると、奉安殿なども含めて復元することになるのでしょう。ちと穏やかでないですね。やはり昭和30年代ぐらいにとどめておくのが穏当でしょうか。。。

_ ガラクマ ― 2010年07月17日 11時00分53秒

 まさに、「レトロ学校文化保存事業」って、私どもの活動そのものです。
私らは天文関係のみですが、学校から棄てられる器具の回収をしております。プラネタリウム、天体望遠鏡、天球儀 .etc.

学校統合に伴う廃校の情報に注目。貴重な文化遺産を棄てさせないよう、みなさん頑張りましょう。

_ 玉青 ― 2010年07月17日 11時37分40秒

おお、レトロ学校文化財保護運動の最前線!
本当に貴重な活動だと思います。

みんなの思い出の詰まった品が、今日も日本のどこかで廃棄されているはず。
彼らは失われたら、二度と帰ってきません。

ええ、頑張りましょう!!

_ S.U ― 2010年07月17日 13時04分32秒

えぇ、頑張りましょう!!

_ fuu ― 2010年08月19日 09時56分41秒

はじめまして。
いつも楽しく拝見させていただいております。
2年前には、拙著「鉱物アソビ」を取り上げていただき、
とても興奮いたしました!
私は「鉱物Bar」というイベントを不定期(今年は8月18〜29西荻窪みずのそらで開催中)に行っているのですが、
その際、いつも展示方法について、いつも考えさせられております。今回の「理科教室」「古い校舎の保存」「美しい標本」についての記述は、まさに同感!と膝をうち、思わずコメントさせていただいた次第です。
なにやら意味不明なコメントになって恐縮ですが、
今後とも、博物学的な情報楽しみにしております。

_ 玉青 ― 2010年08月19日 16時51分02秒

あわわわ!これはこれは、わざわざ足をお運びいただき恐縮です。
恐縮しつつも、はなはだ図々しいのですが(笑)、さっそく「鉱物Bar」の便乗紹介記事を書かせていただきました。ご笑認いただければ幸いです。

『鉱石アソビ』は文字通り座右の書で、机の脇のすぐ手の届くところに置いて、繰り返し読ませていただいています。今後も詩的な鉱石アソビの世界が展開していくことを、本当に楽しみにしています。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。<(_ _)>

_ よう ― 2011年04月03日 15時15分33秒

こんにちは。私も理科教師を退職しましたが、文化遺産としての理科実験の足跡を教育博物館として残したい物です。今、廃校の活用もあり、その一つとして残したい物です。

_ 玉青 ― 2011年04月03日 19時44分21秒

よう様、こんにちは。

現行の科学館は主に最先端の科学を紹介するものですし、博物館にはたいてい偉人の足跡ばかりが印されていますね。

初等・中等教育における理科教育は、近代日本の形成において、とても重要なファクターだったと思うんですが、当時の実験器具をはじめ、それを支えた「物」がきちんと整理されていないのは遺憾です。理科教育史の本は山のようにあるのに、それをテーマにした博物館がないのも不思議といえば不思議です。

旧制高校時代の実験器具のデータベース化など、少しずつ試みは始まっているようですが、小学校、中学校レベルではまだまだだと思います。現場から物がどんどん失われつつある今、手遅れにならないよう関係者には強く要望したいです。

…と、思わず演説をぶってしまいましたが^^; どうぞ(私の憧れの)理科の先生のお立場から、今後もご意見やご感想等、お書き込みいただければ幸いです。

_ よう ― 2011年04月04日 19時06分39秒

玉青様、こんばんは。早速、コメント頂きありがとうございます。私も中学理科教育に携わり、古い実験器具が廃棄されるのを残念に感じていました。一部はもらい受けたりしていますが、場所もなくいいところはないかと考えることもありました。まだ、学校に残されているのもあり、管理が各教育委員会ですのです。全国版で運動すれば、まだ、残されると思います。文部科学省にも働きかけたいものです。
 私も明治からの教科書や科学読み物なども集めています。
 玉青様の掲載している化石の本も野尻さんの本も所有しています。
 いろいろと読ませて頂き深めることができました。
 私は物理を中心にしているので、そちらも参考になればと思います。いろいろとご指導ください。

_ 玉青 ― 2011年04月04日 22時55分53秒

何だかワクワクしてきますね。
廃校を利用した理科室博物館 ― ええ、是非実現してほしいです。
できれば、絶対に話題になると思うんですが…
それにしても、ようさんのコレクションも相当なもののようですね。
さしあたり、リアル博物館ができるまで、ネット上で「ヴァーチャル博物館」を開設されるというのはどうでしょう?

_ よう ― 2011年04月06日 21時37分23秒

私のブログは上記のブログに少しだけですが掲載しています。まだ、ブログになれていないし、文才もないので、それにまだ、非常勤で教鞭も執っているので、時間が足りないです。でも、少しずつ手がけたいですね。理科関係の本は1万冊くらいあり、整理に困っている状態です。時にはゴミ屋敷に見えることもあります。そこらの助言もお願いします。または、提案でもいいです。よろしくお願いします。

_ 玉青 ― 2011年04月06日 21時57分50秒

1万冊…………絶句。
ぜひ拝見させてください。

ところで、ようさんのブログのURLはどちらになりますか?
ここのコメント欄には、「名前」、「メールアドレス」、「URL」、「コメント」の4つのボックスが並んでいますが、URLのボックスに、ようさんのブログのURLを記入していただくと、ようさんのお名前から、そちらへのリンクが自動的に張られます。(試みに私の名前の「玉青」から「天文古玩」へのリンクを張ってみました。動作をご確認ください。)

差支えなければ、他の方のためにも是非よろしくお願いします。

_ よう ― 2011年04月07日 21時42分17秒

私は横浜市戸塚区に住んでいます。よかったら、一度遊びに来て頂いて、本なども見てもらうのもいいですね。URLも貼り付けてみますが、入れるかわかりません。ヤフーに載せています。

_ 玉青 ― 2011年04月08日 21時17分37秒

ようさま、お招きありがとうございます。
いやあ、その場を拝見したら、ものすごい迫力でしょうね。
機会があればぜひ。
ところで、URLは…うーん、開けません。無念…

_ よう ― 2011年04月08日 22時09分01秒

上のメールアドレスにパスワードが必要ですね。ヤフーのブログからように入れると思います。本は野外に小屋3つのほかに家の本棚にもあります。江戸時代の気海観瀾広義から物理階梯などの明治の教科書の和冊子などもあります。玉青さんは天文の専門家ですか。実に詳しく説明されていますね。

_ 玉青 ― 2011年04月09日 19時45分20秒

いやいや、これは幅広いライブラリーですね。
私に関して言えば、今のところ和本まではとても手が回りません。当時の雰囲気を知るためのサンプルとして、明治の理科教科書類の端本を手元に置いている程度です。内容よりも、もっぱらムードを味わうための小道具なので、蒐書がぜんぜん系統だっていないのが遺憾です。
ちなみに、私は天文どころか、他のあらゆる分野に関しても専門家ではなく、強いて言えば「愛好家」ですね(笑)。

_ よう ― 2011年04月10日 22時14分32秒

こんばんは。趣味でも高尚ですね。私も趣味の域です。はじめは日本科学史からはじめました。理科は日本にどのようにして発展していったかがやり始めで、蘭学を通して医者が理学を学び、洋学が長崎の出島を窓口に広がり、明治になってお雇い外国人の教師と留学生で、西洋の科学を導入した。そんな足跡を訪ねていくうちに書籍が増えました。
 ヤフーのIDはhrhk12です。

_ 玉青 ― 2011年04月11日 06時29分21秒

あ、貴ブログ拝見できました!
たしかに関心領域が大分かぶっていますね。
ひょっとしたら、ヤフオクで知らぬ間に競り合っていたかも(笑)。

さて、近世の科学史に関しては、私の方はほぼ天文学の話題限定です。
が、まだまだ勉強が足りません。ひきつづき重要課題として取り組んでいくつもりです。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック