星図収集、新たなる先達との出会い2022年10月29日 08時22分55秒

「星図コレクター」というと、質・量ともに素晴らしい、書物の中でしかお目にかかったことがないような、ルネサンス~バロック期の古星図が書架にぎっしり…みたいなイメージがあります。

そういう意味でいうと、私は星図コレクターでも何でもありません。
典雅な古星図は持たないし、特に意識してコレクションしているわけでもないからです。でも、19世紀~20世紀初頭の古びた星図帳なら何冊か手元に置いています。そして、そこにも深い味わいの世界があることを知っています。ですから、星図コレクターではないにしろ、「星図の愛好家」ぐらいは名乗っても許されるでしょう。同じような人は、きっと他にもいると思います。

そういう人にとって、最近、有益な本が出ました。
まさに私が関心を持ち、購書のメインとしている分野の星図ガイドです。


■Robert W. McNaught(著)
 『Celestial Atlases: A Guide for Colectors and a Survey for Historians』
 (星図アトラス―コレクターのための収集案内と歴史家のための概観)
 lulu.com(印刷・販売)、2022

「lulu.com(印刷・販売)」と記したのは、これが自費出版あり、lulu社が版権を保有しているわけではないからです。lulu社はオンデマンド形式の自費出版に特化した会社で、注文が入るたびに印刷・製本して届けてくれるというシステムのようです。
同書の販売ページにリンクを張っておきます。


著者のマックノート氏は、巻末の略歴によればエディンバラ生まれ。少年期からアマチュア天文家として経験を積み、長じて人工衛星の航跡を撮影・計測する研究助手の仕事に就き、ハーストモンソー城(戦後、グリニッジ天文台はここを本拠にしました)や、オーストラリアのサイディング・スプリング天文台で勤務するうちに、天文古書の魅力に目覚め、その後はコレクター道をまっしぐら。今はまたイギリスにもどって、ハンプシャーでのんびり生活されているそうです。(ちなみに、マックノート彗星で有名なRobert H. McNaught氏とは、名前は似ていますが別人です。)


本書は、そのマックノート氏のコレクションをカタログ化したもの。判型はUSレターサイズ(日本のA4判よりわずかに大きいサイズ)で、ハードカバーの上下2巻本、総ページ数は623ページと、相当ずっしりした本です。


収録されているのは全部で292点。それを著者名のアルファベット順に配列し、1点ごとに星図サンプルと書誌が見開きで紹介されています。

(日本の天文アンティーク好きにもおなじみの『Smith's Illustrated Astronomy』)

そこに登場するのは、いわゆる「星図帳」ばかりではなく、一般向けの星座案内本とか、星図を比較的多く含む天文古書、さらに少数ながら、星座早見盤や星座絵カードなども掲載されています。時代でいうと、18世紀以前のものが零葉を含め30点、1950年以降のものが16点ですから、大半が19世紀~20世紀前半の品です。これこそ私にとって主戦場のフィールドで、本当に同好の士を得た思いです。

(同じくギユマンの『Le Ciel』)

もちろんこれは個人コレクションの紹介ですから、この期間に出た星図類の悉皆データベースになっているわけではありませんが、私がこれまでまったく知らずにいた本もたくさん載っていて、何事も先達はあらまほしきものかな…と、ここでも再び思いました。

本書の書誌解題には、当該書の希少性について、マックノート氏の見解が記されていて、「わりとよく目にするが、初期の版で状態が良いものは少ない」とか、「非常に稀。全米の図書館に3冊の所蔵記録があるが、私は他所で見たことがない」…等々、それらを読みながら、「え、本当かなあ。それほど稀ってこともないんじゃないの?」と、生意気な突っ込みを入れたりしつつ、マックノート氏と仮想対話を試みるのも、同好の士ならではの愉しみだと感じました。

   ★

円安の厳しい状況下ではありますが、この本で新たに知った興味深い本たちを、これから時間をかけて、ぽつぽつ探そうと思います。(こうなると、私もいよいよコレクターを名乗ってもよいかもしれません。)

天文スライド略史2022年01月11日 22時30分28秒

天文スライドはどのように発展し、どのように受容されてきたのか?その時代的特徴は?―― 天文スライドを愛好する人ならば、そうしたことを知りたく思うでしょう。
まあ、詳細を語ればキリのない話だと思いますが、そのあらましを要領よくまとめた論文を見つけたので、参考に載せておきます。


■Mark Butterworth(著)
 Astronomical lantern slides.
 The new magic lantern journal, vol. 10, no. 4 (Autumn 2008), pp.65-68.

著者のバターワース氏については、1954年~2014年という生没年と、2003年に王立天文学会に入会されたこと以外は未詳です。
全体でわずか4ページの論文ですが、17世紀のホイヘンスから説き起こして、19世紀の幻灯黄金期を中心に、天文学と幻灯スライドのかかわりを説いて、興味津々。

内容はそれぞれにご覧いただくとして、ここでは昨日の記事と関連して、天文スライドの終末期を説いた末尾の部分だけ適当訳しておきます。なお、文中に出てくる「スライド」というのは、フィルム・スライドではなくて、あくまでもガラス製の幻灯スライドのことです。

(以下、〔 〕は訳注。冒頭1字下げは原文の改段落、それ以外は引用者による。)

   ★

 19世紀の終わりには、天文・科学機器のメーカーは、同時に天文スライドを手がけるようになっていた。また世界の多くの主要天文台、特に米国のヤーキスとウィルソン山天文台では、自台で撮影された著名な写真に基づくスライドの頒布を始めていた。ロンドンでは、王立天文学会(RAS)がスライド制作を手がけ、講演や授業で用いるため、会員の多くがそれを購入した。1930年代に入ると、アマチュア団体である英国天文協会(BAA)までもがスライド頒布を行うようになり、それを会員向けに貸し出すライブラリーを設立した。RASとBAAは、今でも自前の参考図書館内にスライドのコレクションを所蔵している。

 ただし、幻灯とスライド自体は、それ以前から衰退しつつあり、1920年代には、天文スライドはもっぱら学術機関内部で使用されるか、天文諸学会が利用するために制作されるものとなっていた。後期のスライドセットは、見る者に一定レベルの予備知識があることを前提としているものが多かった。

スライド制作を手掛ける会社は、ついには1、2社にまで減少した。英国で1930年代ないし1940年代初頭まで、最後の天文スライドを作り続けた会社がニュートン社(Newton & Co.)で、同社も第2次世界大戦が終結すると、結局商売を畳んでしまった。

大学と天文台は、教育目的で自前のスライドを1950年代を通して制作し続けたが、その多くは本の挿絵を撮影して作られたものだ。筆者は1970年代初頭に、セント・アンドルーズ大学で聴講した天文学の講義を思い出す。それはひどく無惨な白黒スライドを使って行われた(筆者が幻灯に興味を抱くようになるずっと前のことである)。

ただし、キーストーン社(The Keystone View Company)は1950年代に入ってもなお、あるいはおそらく1960年代初頭までは、初等教育向けのスライドセットを製造していた。NASAでさえも、初期スペースシャトル計画の広報用を含め、啓発資材の一部として1970年代初めになってもスライドを制作していた。

 天文を扱ったスライドは、他のどんなテーマのスライドよりも、たぶん商業的にいちばん長命を保ったろう。最初期のメーカーに始まり、Mary Dicas〔18世紀後期の光学・科学機器メーカー〕や Philip Carpenter〔同じく19世紀前半のメーカー〕の時代、そしてヴィクトリア時代盛期を経て、さらに1970年代 ―― つまり広告以外の他のあらゆるテーマのスライドが消滅、もしくは他のメディアに移行したずっと後まで、それは存続した。だが残念ながら、他のスライドタイプと同様に、その存在と重要性は、今日の天文学者には事実上まったく知られてないし、科学史家でさえもそうである。

   ★

天文スライドは、他のスライドとは一寸違ったコースをたどったことや、大学や研究機関が、その重要な制作者であったことなど、昨日の記事と読み合わせると、当時の事情が一層立体的に浮かび上がってきます。

なお、文中に出てくる王立天文学会が制作した天文スライドは、以下に登場済みです。

■空のグリッド https://mononoke.asablo.jp/blog/2019/05/27/
■フランクリン=アダムズの天体写真 https://mononoke.asablo.jp/blog/2019/05/30/
■壮麗な天体写真 https://mononoke.asablo.jp/blog/2019/05/31/

星座早見盤大全2020年05月17日 08時30分59秒

先達はあらまほしきものかな―。
これまで何度も繰り返してきましたが、これはやっぱり一大真理です。

先日、コロナの記事に関連して、HN「パリの暇人」さんからコメントをいただきました。氏は天文学史と天文アンティーク全般に通じた大変な人で、私にとっては先達も先達、大先達です。パリの暇人さんに教えていただいたことは山のようにありますが、その1つである天文アンティークの王道的資料を、ここで同好の士のために載せておきます。


■Peter Grimwood(著)
 Card Planispheres: A Collectors Guide.
 Orreries UK, 2018.

書名の「Card Planisphere」は、日本語の「星座早見盤」と同義。
星図のコレクターガイドというのは、これまで何冊か出ていますが、本書は史上初の「星座早見盤に特化したコレクターガイド」です。本書の成立には、パリの暇人さんも直接関わっておられ、本書に収めた品のうちの何点かは、そのコレクションに由来します。

裏表紙に著者紹介と内容紹介があるので、まずそちらから一瞥しておきます(いずれも適当訳)。


 「ピーター・グリムウッドは、工学士にしてオーラリー・デザイナー。彼は過去20年以上にわたって、古今の星座早見盤の一大コレクションを築いてきた。関連する参考書が全くないことに業を煮やした彼は、星座早見盤コレクターのためのガイドブックを自ら作ることにした。」

 「本書は、著者自身の豊富なコレクションに加え、同好の士の所蔵品から採った星座早見盤の写真と解説文を収めたもので、1780年から2000年までに作られた、総計200種類にも及ぶ多様な星座早見盤が、その寸法や構造の詳細、考案者や発行者に関する背景情報とともに記載されている。
 本書は徐々に増えつつある星座早見盤コレクター向けに出版された、このテーマに関する最初の参考書である。
 本書が目指しているのは、コレクターが手元の星座早見盤を同定し、その年代を知る一助となることであり、さらにまだ見ぬ未知の品を明らかにすることだ!」

  ★

その紹介文にたがわず、この本は情報豊富な大変な労作です。アンティーク星座早見盤に惹かれ、自ら手元に置こうと思われるなら、ぜひ1冊あってしかるべきです。

(以下、画像はイメージ程度にとどめます)

内容を見るに、欧米の星座早見盤については、まことに遺漏がなく、例えば愛らしいハモンド社の「ハンディ・スターファインダー」や、定番のフィリップス社の星座早見盤のページを開くと、各年代のバージョン違いも含めて、詳細な解説があります。


ただし、そんな本書にも「穴」はあります。

本書の<セクション1>は、「Roman Alphabets」、すなわち通常のアルファベット(ラテン文字)で書かれた、主に西欧とアメリカで出版された星座早見盤が集められており、それに続く<セクション2>「Non Roman Alphabets」には、それ以外のもの――ロシア製、イスラエル製、スリランカ製、そして日本製――が紹介されているのですが、セクション2に登場するものを全部足しても、わずかに7種類です。

日本製に関しては、渡辺教具の製品が2種類と、三省堂から出た金属製の品(1970年代)が1種類出てきますが、同じく三省堂が戦前に出した逸品(↓)は載っていません。


他国は知らず、日本に限っても、戦後出た星座早見盤は無数にありますし、遡れば江戸時代の文政7年(1824)に、長久保赤水が出した『天文星象図解』所収の星座早見盤【LINK】のような、貴重で美しい作例もあります。したがって、名うてのコレクターであるグリムウッド氏にしても、この領域はほとんど手付かずと言ってよく、日本のコレクターの活躍の余地は大いにあります。(まさに本の紹介文にあったように、「さらにまだ見ぬ未知の品を!」というわけです。)

振り返って私自身はどうかというと、この本に出てくる早見盤のうち、手元にあるのは1割ちょっとぐらいですから、先は長く、楽しみは尽きません。まあ、楽しみが尽きるより前に、財布の中身が尽きるでしょう。


【2020.5.21 付記】 上記の長久保赤水(1717-1801)の著作に関する記述は不正確なので、訂正します。リンクした『天文星象図解』(1824)は、赤水の没後に出た「復刻版」で、赤水のオリジナルは、生前に『天象管闚鈔』(1774)のタイトルで出ています。このことは、本記事のコメント欄でtoshiさんにご教示いただきました。(さらなる書誌はtoshiさんのブログ記事で詳説されています。ぜひ併せてご覧ください。)


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【余滴】

漱石全集に「断片」の名の下に収められた覚え書きにこんなのがあった。或る病院で腸チフス患者が巻き紙に何事か記したのを、大切に枕の下にかくしている。医者が無理に取り上げて見たら、退院の暁きに食べ歩るいてみたいと思う料理屋の名が列記してあった。この一章の文もその巻き紙の類かもしれない。

…というのは、経済学者の小泉信三氏が書いた『読書論』(岩波新書)の一節です。最後に出てくる「この一章の文」というのは、「第9章 書斎及び蔵書」を書くにあたって、この本が出た1950年(昭和25)当時の日本では、理想の書斎を語ることがいかに困難であったかを物語るものです。

時代は違えど、2020年の令和の世も、なかなか生き難い世界です。
私も天文古玩にまつわるストーリーを、倦まず語ろうとは思うものの、世態に照らせば、これもやっぱり「巻き紙」の類なんでしょうね。それでも意志あるところに道あり―。和やかな時代の到来を夢見て、精一杯文字を綴ろうと思います。

古星図と天文アンティーク2019年11月30日 16時14分20秒

前回触れたアンティーク望遠鏡の本ですが、著者のウォルフ氏から、「配本が大幅に遅れるよ」と連絡がありました。例のメーリングリストの影響か、注文が重なって在庫払底の由。

紙であれ、電子であれ、レファレンスブックというのは、いつの世も有用なもので、関心領域のそれは、手元に置いて、いつでも参照できるようにしたいものです。ウォルフ氏の本が在庫切れとなったのも、そう思う人が世界には依然たくさんいる証拠でしょう。

   ★

ときに、レファレンスブックで思い出しましたが、今から7年前に(…と自分で書いてビックリ。もうそんなになるんですね)、星図蒐集の参考書を取り上げました。

■改めてアンティーク星図の話(3)…収集の手引書

そこで取り上げたのが、Nick Kanas(著)History, Artistry, and Cartography』(Springer)です。リンクした記事で書いたように、この本は初版が2007年、初版改訂版が2009年、そして第2版が2012年に出ています。

今年、その第3版がついに出ました。かなりニッチな本のわりに、よく売れているのは、この分野でしっかりした参考書を求める人が多いことを示しています。

(『STAR MAPS』第3版)

第3版刊行の意図と、それ以前の版との違いは、冒頭におかれた「第3版への序」でカナス氏自身がこう書いています(以下適当訳。改行は引用者)。

 「〔…〕さて、今や第3版を出すべき時だ。

この第3版は、前の版に対して、多くの重要な変更や追加が行われている。まず多くの読者の要望に応え、今回はハードカバー版とし、耐久性が増した。さらにカラー図版を巻末の別項にまとめるかわりに、本文と一体化した。

また、「第11章 地上及び天空の絵地図」及び「第12章 美術絵画における天空のイメージ」という2つの新章を加え、さらに5点の図版を鮮明なものに差し替え、54点の図版を新たに加えた。そのうち20点は第11章、28点は第12章に配し、その他何点かの図版を、先行する各章に配した(すなわち図4.9、6.4、6.5、8.61、8.62、8.63)。そして、第2版出版後に公刊された情報を反映して、新たな参考文献を83点追加するとともに、本文中でもそれに対応するアップデートを行った。また新たな節として、大航海時代がもたらした新星座に関する「4.3.4 イスラム世界への影響」と、「8.7.6 口絵のコスト削減の手立て」が加わっている。最後に本文全体を見直し、誤植を訂正し、表現をより明確かつ詳細にした(特にイスラムとビザンツの章と、「8.1 天球儀とゴア」〔ゴアは天球儀用船形星図のこと〕)。

総じて、読者の便と理解向上を図るため、本書は多くの点が新しくなっている。
ぜひご一読を!」 

…というわけで、カナス氏はなかなか意気盛んです。

   ★

あくまでもパラパラ見ただけの感想ですが、本書の内容増補のあり方が、なかなか興味深くて、それはカナス氏の蒐集対象の拡大が、日本の天文アンティーク趣味の外延(ちょっと強気に出れば、私自身の興味の広がり)をなぞっているように感じられたからです。

これは強調されねばなりませんが、日本で「天文アンティーク」と総称されるアイテム群を指す言葉は、英語にはありません(フランス語にもドイツ語にもないでしょう)。それを指す言葉がないということは、それに対応した概念もないということです。

日本で「天文アンティーク」というと、堂々たる古星図あり、天文古書あり、真鍮製の望遠鏡あり、星座早見あり。さらには、ペンダントやブローチ、シガレットカードに切手、絵葉書、ピンバッジといった小物類にまで及びます。そのモチーフも、正統派天文学史の遺品もあれば、月や星、コメットを洒落たデザインに落とし込んだアクセサリーもあり、宇宙開発ブームのなごりの品もあるという具合で、その範囲ははなはだ広いです。

我々は、それを「天文アンティーク」と総称して怪しみませんが、でも異国の人には、かなり奇異に感じられる嗜好だと思います。天文アンティークとして売買されるのは、主に異国の品ですが、その異国の品々から紡がれた「天文アンティーク」という概念は、あくまでも日本生まれのものであり、ひょっとしたら、将来「TEMMON-ANTIIKU」という言葉が、外来語として英語の辞書に載るんじゃないかと思えるほどです。

この辺の事情は、日本の漫画やアニメが、“comic”や“cartoon”、“animation”ではなく、あくまでも「MANGA」や「ANIME」として言及されるのに似ています。そして、フランスを舞台とした「ベルばら」に、今度はフランスの人が憧れ、コスプレイヤーとして来日するなんていう「ねじれ現象」が、天文アンティークの世界にも起こるんじゃないか…ということを、カナス氏の本を読んで感じました。

  ★

カナス氏の本も、最初は普通の古星図の解説書でした。

15世紀、16世紀、17世紀と、世紀を追うにつれて、より精緻に、より大量に作られるようになった美麗な星図の歴史をたどり、さらに18世紀、19世紀、20世紀に至る星図たちを、その作者とともに総まくりした内容だったのです。

しかし、そうした古星図に一通り馴染んだあとも、カナス氏のコレクション欲が衰えることはなく、新天地を求めて、さらに多方面に触手が伸びていきました。コレクターにはありがちなことだし、私も大いに共感を覚えます。

氏の関心は、天球儀やアストロラーベ、星座早見、ヴォルヴェル(回転盤)を備えた天文古書へと広がり、まあ、ここまでは星図のお仲間といえますが、さらに星図以外の天文測器の古図とか、さらには天体を描いた現代絵画やフォークアート、バック・ロジャースのコミックポスター、古い果物ラベルや切手、カード類まで手を出すに及んで、ついに氏は日本の天文アンティークの徒と一味同心となったのです。

(左は2017年の日食記念切手(アメリカ)、右は1964年発行のソ連の人工天体切手)

そして、第12章第5節「Children’s Art(児童画)」では、自身のお孫さんの作品も登場して、天文アートの本質が大いに語られるのですが、ここまでくると、私もちょっとポカーンとするところがなくもありません。

(右がお孫さんのネイサン君で、この絵も当然カナス・コレクションの一部。)

この勢いで増補が繰り返されると、第5版が出るころには、快著がすっかり怪著化する可能性もあって、それはそれで大いに楽しみです。

   ★

ちなみにカナス氏の本業は医学者。氏は少年時代から望遠鏡で星を覗くことと、古地図が好きでした。大人になってから、たまたまロードアイランドのアンティーク屋で、フラムスティード星図のバラ物を2枚購入し、さらにその数年後、大英博物館で星図展を見たことがきっかけで、氏の2つの興味関心が同時に火を噴き、氏はすっかり古星図のとりことなり、あとは蒐集まっしぐら―。

そうした経歴も大いに共感できるし、勝手に同志意識を抱いてこの本を読むと、いっそう興が深まります。

改めてアンティーク星図の話(3)…収集の手引書2012年09月23日 09時53分21秒

前回の記事の末尾で「ハウツー」と書きました。
でも、私自身にそのハウツーがあるわけではありません。そもそも、私はアンティーク星図のコレクターではなく、たくさんの星図を手元に置いているわけでもありません。

しかし、これからアンティーク星図のコレクションを始められる方に何か有用な情報を…と考えたとき、絶対の自信を持ってお勧めできる本があります。

それはNick Kanas 著、『STAR MAPS: History, Artistry, and Cartography』(Springer)です。初版は2007年、初版の改訂版が2009年に出た後、初版に全面的に手を入れた「第2版」が今年出たばかりです。

(左:2009年改訂初版、右:2012年第2版)

Kanas氏の本業はカリフォルニア大学に籍を置く医学者ですが、星図コレクターとしても筋金入りで、本書に収められた大量の図版は、大半が氏の個人コレクションから採ったものです。

(多数のカラー図版も載っており、参考になると同時に目を愉しませてくれます。)

本書は、星図史全体の歴史的叙述、各星図の書誌、星図作者の伝記事項を遺漏なく盛り込んだ、大変な情報量の本です。巻末の付録・索引も完備しており、冒頭から通読しなくても、星図コレクションの際のレファレンスブックとしてだけでも大いに役立ちます。私は著者にも出版社にも、別に何の義理もありませんが、これだけの本(第2版)が、アマゾン価格で現在3,015円だというのですから、買っても決して損にはならないでしょう。

   ★

『STAR MAPS』の巻末付録Aは、レファレンスも含めて7ページほどの短い文章ですが、「星図の収集 Collecting celestial maps and prints」という表題で、非常に実践的な内容ですので、私自身の私見もまじえながら、その内容をかいつまんで見てみます。

(他人のふんどしを借りつつ、この項つづく)

「や、これはべんりだ!」…グーグルブックを読む2012年07月08日 09時27分33秒

昨夜、9時過ぎにベランダに出たら、空は雲ひとつない快晴。しかも雨上がりのせいで、空気が素晴らしく澄んでいました。35ミリの双眼鏡で眺めた空は、ちょうど裸眼で見た田舎の空のような感じで、うっすらと天の川の存在も分かりました。これは私の町では非常にまれなことです。

その後、自分の記事に触発されて、11時過ぎにもう1回見に出たら、こんどは薄雲が流れていて、おまけに明るい月まで顔を出し、星の方はさっぱりでした(雨のことばかり気にして、月の存在を失念していました)。でも、七夕の晩にあれだけの星を見ることができたのですから、これはもう100点満点と言っていいでしょう。

   ★

さて、今日は「天文古玩」には珍しく、実用情報です。
既にご存じの方もいらっしゃるでしょうが、私は知らなかったので、本当に感動しました。出典は某メーリングリストの某氏です(先方が迷惑を感じるといけませんので、お名前は伏せます)。

それはグーグルブックに関すること。
グーグルブックは便利ですが、ときどき(というか頻繁に)読めないことがありますよね。

たとえば、19世紀の末にリチャード・アレンという人が書いた、『Star-Names and Their Meanings』(1899)という有名な本があります(後に『Star Names: Their Lore and Meaning』に改題)。
ふつうにグーグルブックで探すと、下のURLが表示されます。
http://books.google.co.jp/books/about/Star_names_and_their_meanings.html?hl=ja&id=5xQuAAAAIAAJ
しかし、このページを開いても、「電子書籍がありません」と表示されて、読めません。


私はいままで「電子書籍がないんじゃしょうがないな」と思って、それ以上追及しませんでした。しかし、実は電子書籍はあるんだそうです。

   ★

以下、某氏のメールを適当訳。(文中の「あなた」というのは、私のことではなく、別のリストメンバーです。)

「あなたが直面している問題は、グーグルブックが(その理由は不明ですが)19世紀の出版物の多くについて、米国外からスキャン画像にアクセスすることを禁じていることに由来します。〔…〕これを解決するには、米国内のプロキシサーバーを経由して閲覧することです。以下にその一覧があります。
http://www.publicproxyservers.com/proxy/list_rating1.html
この中から、米国内にあるプロキシサーバー、どれでもいいのですが、たとえば
http://www.graduatefast.info/
を選んで、該当書籍の正確なアドレスを、表示されたウィンドウに貼り付けてください。そうすれば米国内のユーザーと同じようにページが表示され、PDFファイルのダウンロードも可能になります。」

え、そうだったのか!

   ★

さっそく、先ほどのアレンの本で試してみましょう。

まず某氏の助言にしたがって、
http://www.publicproxyservers.com/proxy/list_rating1.html
にアクセスすると、プロキシサーバーがずらずら出てきます。


米国内のサーバーならどれでもいいのでしょうが、ここでは某氏にならって、garduate.fastを選んでクリックします。


画面の下にURL欄があるので、先ほどのグーグルブックのURL、http://books.google.co.jp/books/about/Star_names_and_their_meanings.html?hl=ja&id=5xQuAAAAIAAJ をそのまま入力し、「GO」ボタンをクリックすると、


今度は、「電子書籍がありません」の表示が消えました。
さらに、下の方にスクロールすると、ページのサンプルや目次が表示され、自由に内容を読むことができます。


さらに、右上のボタンで、ふつうにPDFをダウンロードすることもできます。


やった!

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感動ついでに「便利情報」というカテゴリを新設しました。