彗星酒造の青い灰皿2017年05月17日 07時08分54秒

昨日の夕空は、朱と紫が入り交じった、ちょっと凄みのある夕焼けでした。
ここしばらく地味な画像が続いたので、少し色のあるモノを載せます。

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フランスといえばワイン…という連想が働きますが、19世紀のフランスでは、パリでも地方でもビールが大層人気で、人々は店先で黄金色の液体をグイとあおって、大いに渇を癒やしたものらしいです。しかし、地元の醸造所が流行ったのはせいぜい戦前までで、フランスもご多聞に漏れず、その後はハイネケンなんかに席巻されてしまいます。

そんなフランスの地元メーカーのひとつに、19世紀から続く「コメット酒造(Brasserie de la Comète)」という、素敵な名前の会社がありました。ここは戦後もずいぶん頑張っていたそうですが、結局、他社と統廃合の末、1980年代に歴史の彼方に消えていきました。

そのコメット酒造の代表的なビールの銘柄が、「スラヴィア(Slavia)」です。


上は「スラヴィア」ビールの販促用、あるいは店舗用に作られた灰皿。
彗星の尾に「グルメのビール、スラヴィア」の文字が浮かんでいます。

どうです、この色、このデザイン。カッコイイでしょう。


材質はプレスガラス、発色はコバルトだと思います。
この色は、カメラだと青味が強く出て、目で見たままの色を再現するのが難しいですが、上は画像を調整して、見た目に近づけました。ご覧のように紫色を帯びた美しい青です。


青紫のガラスの夜を翔ぶ金色の彗星。
これは足穂氏にぜひ見せたかった…


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▼閑語(ブログ内ブログ)

土産物屋で見かける「親父の小言」グッズ。
あれはなかなか含蓄に富んでいて、「人には馬鹿にされていろ」なんていうのも、つまらないことに腹を立てがちな自分としては、座右の銘にしたいぐらいです。

しかし、「馬鹿に馬鹿にされるいわれはない!」と、さすがの親父の小言も役に立たないことが最近多くて、いくら親父に「人には腹を立てるな」と言われても、やっぱり腹を立ててしまいます。

よその家のお嬢さんが婚約されて、まあお目出度いことだねと思いますが、それを現下の状況下で「スクープ」して、目くらましを図ろうとするNHKの心根たるや―。
ことが慶事だけに、それを利用しようとするのは、この上なく下品で下劣だと思います。

宇宙鉛筆2017年03月07日 07時09分12秒

博物趣味っぽいモチーフを含む、ヴィンテージな絵柄のステーショナリーで知られる、サンフランシスコのカヴァリーニ社。

■Cavallini & Co.  

レターセットとか、付箋とか、紙物が目立つラインナップの中、同社のペンシルセットに目が留まりました。



銀の缶ペンケースに入った「Celestial Pencil Set」。
こういう過去の絵柄をそのままパクっただけの商品は、何となく芸がないと感じますが、普段使いする分には、ちょっといいかなと思いました。


絵柄は2種類、各5本の10本セット。


天球図と日食説明図の2種の天体モチーフが、一本一本に刷り込まれています。


お尻に消しゴムが付いているのもいいし、付属のシャープナーが木製なのも、好感が持てます。

カヴァリーニ社の製品は、日本でも流通しているので、すでに国内でも売られているかもしれませんが、これはeBayで見かけて、そのまま注文しました。
送料のいちばん安いイギリスの業者から送ってもらったのですが、製品自体は台湾で作られているので、エネルギー効率を考えると、ちょっと無駄が多かったです。ここは「地球をぐるっと一周して届いた宇宙鉛筆」という、その微妙な有難さに免じて、地球環境に許しを乞いたいと思います。

ガリレオの瞳2017年02月18日 14時46分01秒

先日、ガリレオ(Galileo Galilei、1564-1642)の誕生日が2月15日だというので、いくつか関連の記事を目にしました。

ただし、ガリレオはユリウス暦とグレゴリオ暦の端境期を生きた人で、誕生日の2月15日というのも、昔のユリウス暦のそれだそうです。今の暦に直すと、1564年2月25日が誕生日。いずれにしても、彼は今月で満453歳を迎えます。

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ガリレオの名を聞いて思い出したのが、下のカメラ。
1950年代前半に出た、イタリアのフェラーニア社製「エリオフレックス」。


これも「クラシック・カメラ」と言って言えないことはないのでしょうが、戦後の量産品ですから、わりとどこにでも転がっています。それでも、これを購入したのは、その出自がやっぱり天文古玩的な色彩を帯びているからです。


それは、このカメラが、ガリレオの名を負っていること。
レンズの脇には「オフィチーネ・ガリレオ(ガリレオ製作所)」の名が見えます。


オフィチーネ・ガリレオは、1862年にさかのぼるイタリアの老舗光学メーカー。
今では光学機器にとどまらず、光電子機器の製造も行なっています。

光学機器メーカーとしてはちょっと異色ですが、オフィチーネ・ガリレオの創設者は、二人の天文学者、アミーチ(Giovanni Battista Amici、1786-1863)と、ドナティ(Giovanni Battista Donati、1826-1873)で、さらに遡れば、1831年にアミーチが職人たちをモデナから呼び寄せ、フィレンツェ天文台の隣に光学機器製造の工房を設けたのが、その淵源だそうです。当然、その社名は尊敬する大先輩のガリレオにちなむものでしょう。

(19世紀の広告カードに描かれた、往時のオフィチーネ・ガリレオの建物。中央上部にガリレオの肖像。「オフィチーネ・ガリレオ創立150周年記念展」の案内ページより。

同社の光学製品は、明治の日本海軍にも納入されたそうですから、日本との縁も浅からぬものがあります。そして、その後も長く軍用品の製造に携わったのは、同社の技術力の高さを物語るもので、同社はイタリア国内のメラーテ天文台や、アジアーゴ天文台のような、プロユースの大型望遠鏡も手がけました。

(eBayで見かけた、オフィチーネ・ガリレオを舞台にした戦前の労働争議の図。ジブリの「紅の豚」的光景。歴史が長ければ、それだけいろいろなドラマがあるものです。)

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そんなわけで、この安手のカメラは(今では埃にまみれているとはいえ)「ガリレオの瞳」を持ち、その向うにイタリアの光学機器製造の歴史が仄見えるのです。


なお、冒頭、このカメラをフェラーニア社製と書きましたが、同社の本業はフィルムメーカーで、オフィチーネ・ガリレオ製のカメラに、自社の名前を入れて販売していた由。つまるところ、このカメラは、ボディも含めて全てオフィチーネ・ガリレオの工場で生まれたもののようです。


【参考リンク】

1)オフィチーネ・ガリレオについて
Museo Galileo「Scientific Itineraries in Tuscany(トスカーナ地方科学の旅)」より
 「オフィチーネ・ガリレオ」の項

2)フェラーニア社とガリレオ社について
クラシックカメラの物語「デザインのイタリアカメラ」

白銀の雪2017年01月06日 22時38分53秒

昨日から冷え込みが厳しいです。
私のすむ街は、今シーズンはまだ雪らしい雪がなくて、年末に白いものが舞ったとニュースでは言ってましたが、自宅からは見えませんでした。でも、この冷え込みだと、天から白い便りが届くのも、もうじきでしょう。

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毎年、クリスマスソングが町に流れ出す頃、注文しているものがあります。
それは本物に先駆けて届く「白銀の雪」。

(素材は銀ではなくピューター)

雪の結晶写真で有名な、ウィルソン・A.ベントレー(1865-1931)を顕彰する、地元バーモント州のジェリコ歴史協会は、毎年ベントレーの膨大な結晶写真から1枚を選んで、それにちなむグッズを制作しています。

Snowflake Bentley (ジェリコ歴史協会)
 http://snowflakebentley.com/

その1つである「スキャッターピン」、すなわちピンブローチを、以前から気長に集めていて(何せどんなに頑張っても1年に1個しか集められないのですから)、今シーズン届いたのが上の品というわけです。

(5センチ角の銀の小箱に入って届きます)

雪の結晶をモチーフにしたアクセサリーは、世間に無数にありますけれど、様式化されすぎて、現実の結晶とは乖離したものも多いようです。その点、この品は何と言っても本物の結晶に基いて作られているので、正確さという点では申し分ありません。

(これまで制作されたスキャッターピンは、全部で11種類)

この先どれだけ集められるか、私の命が尽きるとき、あるいはジェリコ歴史協会そのものが歴史のかなたに消えるとき、海を越えて舞い落ちる白銀の雪も降り止み、あとにはささやかな雪原が残ることでしょう。

旋盤職人の入れ子2016年12月19日 20時20分45秒



いつもの机の上に載っている不思議な物体。



真鍮の立方体に丸い窓をうがち、その中に一回り小さい立方体が入っています。
そして、小さい立方体の中には、さらに小さい立方体が…という具合に、大小5個のキューブが入れ子になっています。


キューブ同士の接合部は、ほぼ点ですから、これは非常に正確な加工技術の賜物であり、切削機械の力を借りたとはいえ、1個の立方体からこれを削り出した職人の技量は、恐るべきものがあります。


そして、このキューブは軸受けにベアリングが入っていて、クルクルと軽やかに回転することで、目を楽しませてくれます。

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この品は、ドイツのヴォルフスブルグに住む人から購入しました。
ドイツ北中部にあるヴォルフスブルグは、新興の工業都市で、あのフォルクスワーゲンの企業城下町。この品は売り手の伯父さん(彼もおそらく同じ町の住人でしょう)が製作したもので、伯父さんはかつて旋盤工場を営んでいたそうです。


売り手の人も詳細は不明のようでしたが、銘板を見ると、おそらく1964年に創業した工場が、79年に創立15周年を迎えた記念として制作されたもので(79年9月31日とあるのはご愛敬)、友人・知人・関係者への配り物とされたのでしょう。と同時に、伯父さんは自社の加工技術の高さを、こうして目に見える形で残しておきたかったのだと思います。

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純粋なオブジェとしても面白いですし、あの名車ビートルの生産を支えたであろう旋盤加工の冴えを偲びつつ、伯父さんの職人魂に乾杯!…といったところですね。

天球の入れ子2016年12月18日 14時01分07秒



ちょうどミカンぐらいの大きさの、まあるい木の挽き物細工。


上下には太陽と月、側面には12星座が描かれています。


そして内面を彩る深い青と金の星。
さらに、この卵のような天球の中には…



太陽の卵と月の球(月は中身の詰まった木球です)が、マトリョーシカのような入れ子になっています。

本当は天球の外側を、地球をかたどった卵が包み込む4層構造になっていたはずですが、手元の品は地球を欠いています。

でも、これは無い方が意味が通ります。天球の外側に地球があるのは、いかにも不自然だからです。(ここは地球を中心に据えて、天球―太陽―月―地球とするか、あるいは系の階層を基準に、天球―太陽―地球―月とした方が素直です。)

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この民芸チックな品、ファッション用品やアクセサリーの通販会社、リリアン・ヴァーノン(ニューヨーク)が1980年代に扱っていたもので、今でもときどきオークションサイトで見かけます。さして古くもないし、他愛ない品ですが、いろいろカラーバリエーションがあって、味のあるとぼけた絵柄は、見ていて楽しいものです。

ケプラーの入れ子(後編)2016年12月16日 06時21分57秒

今回、ケプラーの太陽系モデルを注文したのは、現在ボストンを拠点に活躍している造形作家、バスシバ・グロスマンさんのサイトを通じてです。

Bathsheba Sculpture http://bathsheba.com/

バスシバさんは、数学や科学の世界に登場する不思議な「かたち」の数々を、金属やレーザークリスタルで再現した作品を手がけていて、数年前にもガラスの銀河系モデルを紹介したことがあります。


化粧箱を開けると、8センチ角のガラスキューブが顔を出し、ケプラーのモデルはその内部に存在します。


なかなかこれが写真に撮りにくいのですが、真横から見ると下のような姿です。


正多面体の入れ子と、それを覆う球殻層――キューブの右下に見られるように、このモデルでは、全球ではなく半球としてそれが表現されています――が、ガラスの中に浮かんでいます。


このモデルは、ちょうど上の図と同じ形になっていて、正十二面体とそれに外接する火星軌道までが表現されています。(さらに外側の木星と土星まで含めると、全体が大きくなり過ぎて、手で持てなくなるか、逆に中心部が小さくなり過ぎて、何だかわけが分からなくなるせいでしょう。)


微細な気泡が描く、ケプラーのイマジネーション。


裏返しにして、積み重なる球殻層を通して太陽系を眺めたところ。
なんと儚く、美しい宇宙モデルでしょうか。

400年前、天空を見上げるケプラーの目には、透明な球体と巨大な多面体がはっきりと見えていたはずです。

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【閑語】(ブログ内ブログ)

最近の日本を見ていて思い浮かぶのは、「自己家畜化」という言葉です。
「自己家畜化」自体は、ヒトという生物種の特殊性を説明するための概念で、別にシニカルな意味は含まないのですが、どうも今の日本ではその域を超えて、急速に家畜化が進んでいるのではないか…と気懸りです。

真夜中色2016年10月11日 06時48分47秒

そういえば、この土星の青い缶も、最初まちださんのところで見たのではなかったか…

(背景は雑誌『Flâneur』 裏表紙)

カーター社のタイプライター用インクリボン。
ブランド名は『ミッドナイト』。


この缶は数が残っているので、わりとよく見かけますが、中のリボンも完品なのは比較的珍しいと思います(リボンは所詮消耗品なので)。

気になる「真夜中色」はどんな色かというと…


この藍染のような色が、深夜の空を染め抜く色なのです。


真夜中に、真夜中色の文字が綴る、真夜中の物語。
まあ実際には、散文的なビジネスレターなんかに使われることが多かったでしょうが、遊歩者流に想像すると、そこにいろいろなドラマが浮かびます。

天文倶楽部へようこそ2016年08月21日 12時01分34秒

チェコつながりで、小さな白い土星のピンバッジ(全長47mm)。


「Klub Mladých Astronomů」というのは、チェコ語で「Young Astronomers Club」の意味だそうで、天文好きの青少年のクラブが、かつてチェコにあったのでしょう(今もあるかもしれません)。

1968年に起こったチェコの民主化運動、「プラハの春」によって、国内のあちこちに温暖な風が吹き、それを受けて、天文趣味界隈にも、こういう民主的なクラブが生まれた…となると、ちょっと興味深いのですが、このバッジの背景は何も分かりません。それでも、日本の例から推して、この種の団体が熱心に活動していたのは、1960~70年代あたりではなかろうかと思います。


それに、昨日の記事にいただいたS.Uさんのコメントによれば、チェコスロバキアは東欧諸国の中でも、ことに天文熱が高かったそうなので、プラハの春は脇に置いても、こういうクラブが設立されたのは必然だったのかもしれません。

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私自身は、子供の頃、兄が買ってくる「天文ガイド」誌は読んでいましたが、天文クラブには参加していませんでした。

身近にそんなものがあることを知らなかったし、天文以外にもいろいろ気の多い生活を送っていたせいですが、今にして思えば、子供の頃にそういう経験をしていたら、もう少し宇宙や人間に対する見方も変わっていたかなあ…と、ちょっぴり残念な気がします。

まこと、子供時代の良き友・よき導き手は、何物にも代えがたい宝です。

機械仕掛けの水族館2016年08月17日 06時34分27秒



昭和戦前のエンゼルフィッシュ時計(金魚時計)を模したリプロ製品。
現代の中国で大量に作られているものです。

オリジナルのエンゼルフィッシュ時計は、機械部分がカバーされていて見えませんが、リプロの方は、あえてそれを見せることで、一種の景色を作っています。


仔細に見れば、たしかにいろいろ弱点はあります。
手前のごつい歯車は、単に見かけだけで、時計としては機能していないように見えますし、


上部の3つの歯車は、安手のプラスチック製です。


それでもゼンマイを巻けば、上の2匹は秒針代わりに回旋を始め、


下の1匹は盛んに身をくねらせて、時の流れの中を元気よく泳ぎだします。

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緑の色ガラスも涼し気で、全体のチープさは玩具めいた気安さに通じます。

カルピスを飲みながら、あるいはガリガリ君を齧りながら、こんなものをぼんやり眺めて一日を過ごす…というのが、正しい夏の過ごし方ではなかろうかと思います。