土星堂だより2017年08月17日 21時25分45秒



鳴り物入りでスタートした土星堂活版舎ですが、ご多分に漏れず、昨今の出版不況で、経営難にあえいでいます。しかも、会社の印刷技術がちっとも向上しないせいで、かしわばやし方面からも注文がさっぱり入りません。

それでも、時には新たに印刷ブロックを買い足して、顧客のニーズに応えようと努力はしているのです。


最近も、紙面を華やかに彩る銀河の飾罫を導入しました。

(何となく星条旗っぽいのは、アメリカで使われていたせいかも。)

これさえあれば、美しい星の詞がいっそう美しくなること疑いなしです。
それなのに、なぜ?…と、活版舎のあるじは、今日も窓から首を伸ばして、お客が来るのを日がな待っているのです。

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今回使用したインクは、星の詞に最適の(株)ツキネコ製 「ミッドナイト・ブルー」

この世ならざる天体写真展2017年08月10日 06時06分05秒

人気のない小学校の校庭、誰かの家のホオズキの朱い実…そんなものに、そこはかとない詩情を感じる時期です。立秋も過ぎ、昨日は青い空に赤とんぼが一匹飛んでいるのを見ました。

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さて、前回、前々回の続きです。
遠い宇宙を極微の世界に眺める、不思議な天体写真展。


手元にあるのは、以前5枚セットで売っていたものです。


画題となっているのは、以前もご紹介した「満月」と「アンドロメダ銀河」のほか、「半月」、「モアハウス彗星」、そして「土星」という顔ぶれ。

月、彗星、土星、銀河…と来れば、ポピュラーな宇宙イメージは尽くされており、写真展の開催に不足はありません。でも、ラベルに振られたナンバーを見ると、1番のアンドロメダ銀河から、12番のモアハウス彗星まで、番号が飛び飛びです。ですから、本来はもっと充実したセットで(12番以降もあったかもしれません)、私が持っているのは、その一部に過ぎないのでしょう。

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オリジナルは1910年に、シカゴ近郊のヤーキス天文台で撮影された写真。
ごつごつした、良い面構えの月ですね。硬派な感じです。

それにしても、この小さな感光面に、顕微鏡でようやく見えるぐらいのクレーターまで鮮明に写し込むとは、写真術とは大したものだなあ…と改めて驚きます。

なお、この写真は、マイクロフォトグラフの創始者、J.B.ダンサーが1896年に店を閉じた後に撮影されたものですから、マイクロフォトグラフ化したのも、ダンサー以降の人ということになります。

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1908年に接近したモアハウス彗星。

この彗星は、世界中で競って写真に収められましたが、このマイクロフォトグラフの原版は、月と同じくヤーキス天文台で撮影されたものです。
その姿は身をくねらせる竜を思わせ、今にも「シュー」という飛翔音が聞こえてきそうです(上下反対にすると、花火っぽい感じもします)。

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むむ、これは…?

これも現実の写真を元にした画像だと思うのですが、露骨に補筆したせいで、まったくマンガチックな表情の土星になっています。

なんだか不真面目な気すらしますが、でも、足穂先生に言わせれば、「本当の星なんてありゃしない、あの天は実は黒いボール紙で、そこに月や星形のブリキが貼りつけてあるだけだ」そうですから、むしろこの方が真を写しているのかもしれません。

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首をひねりつつ接眼レンズを覗き、
レンズから目を離して、ふたたび首をひねり、
スライドグラスに載った粒状のフィルムを見て、みたび首をひねる。

―夏の夜の夢、不思議な写真展にようこそ。

真夜中色2016年10月11日 06時48分47秒

そういえば、この土星の青い缶も、最初まちださんのところで見たのではなかったか…

(背景は雑誌『Flâneur』 裏表紙)

カーター社のタイプライター用インクリボン。
ブランド名は『ミッドナイト』。


この缶は数が残っているので、わりとよく見かけますが、中のリボンも完品なのは比較的珍しいと思います(リボンは所詮消耗品なので)。

気になる「真夜中色」はどんな色かというと…


この藍染のような色が、深夜の空を染め抜く色なのです。


真夜中に、真夜中色の文字が綴る、真夜中の物語。
まあ実際には、散文的なビジネスレターなんかに使われることが多かったでしょうが、遊歩者流に想像すると、そこにいろいろなドラマが浮かびます。

土星キャラ立ち史(その9)2016年08月28日 08時05分44秒

木星に着くと、すぐに無人コントロールの戦車が、ビルたちを襲ってきます。


しかし、朝鮮戦争で鍛えた歴戦の戦士は、光線銃で機敏に塹壕を掘り、これを撃破。


さらに隙をついてアラゴア・ヴォンのいるドーム内に侵入するビル。


アラゴア・ヴォンも銃で必死に応戦し、時間だけが空しく経過します。
焦りの色を隠せないビル。顔を伝って汗が盛んに流れ落ちます。

「たとえアラゴア・ヴォンを倒しても、みんなで地球に帰る私の計画が失敗したら、このまま木星に島流しだぞ…!」


しかし、アラゴア・ヴォンと銃撃戦を演じながら、ビルは冷静に「ある場所」を探り当てます。

「私が銃を撃ってる間、奴は用心してこのキャビネットの前に立とうとしなかった。奴がわざとそうしなかったということは、この中に私の探しているものが隠してあるに違いない!」

ビルが探していたもの、それは「地球の頭」でした。
土星のカンデア・オールが、やすやすと地球に行けたのは、彼が「地球の頭」を被ったからに違いない…そしてカンデア・オールがそうしたなら、木星のアラゴア・ヴォンも同じことをしたはずだ…と、ビルは推理したのでした(嗚呼、何という名推理でしょう)。


地球の頭が手に入れば、あとはこちらのものです。
ビルは仲間とともに、「地球の頭」の力で、あっという間に地球に戻ることができました。そして、生命維持装置を着けないまま地球に飛ばされたアラゴア・ヴォンは、たちまち絶命し、灰の山となりました。

これこそがビルの作戦であり、ソ連の兵士にモールス信号で伝えた内容です。

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ソ連の兵士も、我々のようにうまくやりおおせただろうか?…と気を揉むまでもなく、その答はすぐにラジオから聞こえてきました。


「アメリカの同胞の計画のおかげで、我々も土星のカンデア・オールを倒すことができました。我々両国、さらに世界の他の国々は、この地球や、木星・土星の上で、共に平和に暮らせることが証明されました。」

それを聞いて、ビルは深く頷きます。

「そのとおり!土星や木星では素晴らしい発明品の数々が我々を待ち受けている。それはみんなのものだ。宇宙時代にはもはや敵国なんて存在しない。あるのはただ平和を愛する地球人だけだ!」

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まずはめでたし、めでたし。
いささかオメデタすぎる気がしなくもないですが、この楽天性こそが、平均的アメリカ人の有する(あるいは有した)資質なのでしょう。

冷戦期の極度の緊張状態の中、人類の宇宙進出によって、「地球人意識」が芽生え、国家間の戦争も終結するに違いない…というかすかな願望が、ある程度(少なくともコミック誌の中で真顔で語られるぐらいには)一般化していたらしいのも、興味深く思いました。

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今、南の空では、土星が火星やアンタレスと明るく競演しています。

いつかあそこから「土星の頭」が届き、それをきっかけに地球に平和が訪れることはないにしろ、みんなが星空を見上げ、頭の中が少しずつ宇宙色に染まれば、少しは平和の訪れも近づくだろう…という程度の楽天性は、あって然るべきではないでしょうか。(各種の国際会議も、ときには満天の星をふり仰いでやってほしいです。)

土星キャラ立ち史(その8)2016年08月27日 09時21分08秒

(昨日のつづき)

そのとき、恐怖に打ち震えるビル・スメイザーの身に、第2の異変が生じます。
服をはためかせる強い風。熱さと冷たさが交互に襲ってくる感じ。まるで風に舞う埃になったような気分です。


気が付くと、目の前に1人の異星人がいました。
消えたと思った友人たちもいます。
異星人はビルの「土星の頭」を脱がせながら、語りかけました。

「ようこそ、土星へ!私の名はカンデア・オール。私が君たちをここへ呼んだのだ。私を助け、この歴史上もっとも長きにわたる戦争を戦ってもらいたい。」

あの土星の頭は、カンデア・オールと名乗る土星人が送り込んだもので、それを被った者と、その光線を浴びた者たちを、土星に瞬間移動させる力があったのでした。
(何だか読んでいる方も「風に舞う埃」になった気分ですが、ここは理屈で考えることはやめて、さらにストーリーを追います。)


カンデア・オールの話によると、土星にはかつて多くの民が住んでいましたが、木星との激しい戦争によって荒廃し、今やカンデア・オールが唯一の生き残りとして、依然木星との戦争を続けているのだそうです。そして、木星もまた同じ運命をたどり、今や木星の唯一の生き残りが、アラゴア・ヴォン

彼らは元は同一の種族だったらしく、外見もそっくりで、さらには互いの心を読むこともできます。そのため戦いは膠着状態にあり、決着が着きません。


そこでカンデア・オールが思いついた秘策が、地球人に木星を攻撃させることでした。さすがのアラゴア・ヴォンも、地球人の心までは読めないので、その攻撃を防げないだろうというわけです。

しかし、カンデア・オールの計画は、ただちに木星側に知れるところとなり、アラゴア・ヴォンも対抗策を打ってきます。(そして対抗策を打ったことは、カンデア・オールにも伝わります。うーむ、何とややこしい話でしょうか。)

土星がアメリカの勇士をリクルートしたなら、木星はソ連で対抗です。

(ついに木星の頭も登場)

「あ、イワンの上に木星の頭が!いったい、あれはどこから来たんだ?」

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木星を制圧した後は、地球侵略をほのめかすカンデア・オールですが、既に彼によってマインド・コントロールされたビルたちは、カンデア・オールに逆らえず、宇宙船で木星に向かうはめになります。


その途中、ソ連の兵士が乗った木星の宇宙船とすれ違います。
もちろん、彼らはアラゴア・ヴォンの命を受けて、土星のカンデア・オール攻撃に向う途中です。

「地球上では、彼らは我々の敵だったかもしれない。だが、ここでは異星人に立ち向かう同じ地球人だ!」 「よし、いい考えがある!」

ビルは通信システムを使って、彼が思いついた「ある計画」を、ソ連の兵士にモールス信号で伝えます。


(あまり引っ張るような話でもありませんが、冷戦を背景にした、この奇怪なストーリーを追って、さらにこの項つづく。次回、大団円)

土星キャラ立ち史(その7)2016年08月26日 06時13分41秒

「サターンマン」のルーツは依然さっぱりです。
でも、まさにその名にふさわしいのが下の人物。


 “The MAN with the HEAD of SATURN!”「土星の頭を持つ男!」

…という文字の脇で、土星頭の男がビビビビ!と怪光線を発し、人々が逃げまどっています。見るからにわけが分かりませんが、これは『ストレンジ・アドベンチャーズ』というアメコミ誌の1963年9月号の表紙です。

9月号は、この「土星の頭を持つ男」と「原子の騎士(Atomic Knights)」というコミックの2本立てですが、とにもかくにも「土星の頭を持つ男」の内容を見てみます。

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謎の宇宙船と戦う男たちのタイトルページ。

その脇に、私の名前はビル・スメイザーズ。カルダー・カレッジの天文学教授だ。だが10年前、私は朝鮮戦争で中国共産党と戦う中尉だった…」という主人公の独白が書かれています。このビル・スメイザー教授が、本作の主人公。


かつての戦友たちと懐かしい再会を果たし、自分の勤務する大学を案内するビル。
しかし、そのとき彼の身体に突如異変が生じます。

「あ、いったいどうしたんだ?目が、目が見えない!」
「ビル、君の頭の回りに変な光が!」

「なんてこった!土星の形になったぞ!」
「ビル、早くそれを取れ!」

…と騒然となったところで、表紙絵のコマになります。


必死に土星のかぶりものを取ろうとするビル。
しかし、土星の頭は怪光線を発射し、それを浴びた友人たちは次々に消滅してしまいます。ビルはその気配を察して、さらに焦ります。

「いけない、この土星の頭を脱がないと、私は地球上の人々を全て破滅させてしまうかもしれない!」

ビルは…そして人々の運命は…?!

(この項、緊迫してつづく)

土星キャラ立ち史(その6)2016年08月24日 20時56分37秒

土星は、その輪っかのせいで擬人化されやすく、これまでいろいろな“サターンマン”が本や絵画や映像に登場してきました。その姿の変遷をたどりつつ、できればそのルーツも探りたい…という願望から、「土星キャラ立ち史」というのを、これまで都合5回書いてきました。

それは左のカテゴリー欄の「土星」を見ていただければ良いのですが、手っ取り早く、下にリンクを張っておきます。


その最後(直上リンク先ページ)に登場した、「憎らしい土星」の現物を、その後手にしたことはまだ書いていませんでした。


1890年頃のシガーボックスラベル(ラベル全体のサイズは12×18.5cm)。


うーむ、何と憎々しい土星でしょう。


以前の記事で書いたように、リトグラフの版元はフィラデルフィアの George Harris & Sons社です。

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…というのは、あまり意味のない前振りで、最近これに負けず劣らずキャラが立った土星を見かけたので、そのことを書こういうのが本題です。

(この項つづく)

天文倶楽部へようこそ2016年08月21日 12時01分34秒

チェコつながりで、小さな白い土星のピンバッジ(全長47mm)。


「Klub Mladých Astronomů」というのは、チェコ語で「Young Astronomers Club」の意味だそうで、天文好きの青少年のクラブが、かつてチェコにあったのでしょう(今もあるかもしれません)。

1968年に起こったチェコの民主化運動、「プラハの春」によって、国内のあちこちに温暖な風が吹き、それを受けて、天文趣味界隈にも、こういう民主的なクラブが生まれた…となると、ちょっと興味深いのですが、このバッジの背景は何も分かりません。それでも、日本の例から推して、この種の団体が熱心に活動していたのは、1960~70年代あたりではなかろうかと思います。


それに、昨日の記事にいただいたS.Uさんのコメントによれば、チェコスロバキアは東欧諸国の中でも、ことに天文熱が高かったそうなので、プラハの春は脇に置いても、こういうクラブが設立されたのは必然だったのかもしれません。

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私自身は、子供の頃、兄が買ってくる「天文ガイド」誌は読んでいましたが、天文クラブには参加していませんでした。

身近にそんなものがあることを知らなかったし、天文以外にもいろいろ気の多い生活を送っていたせいですが、今にして思えば、子供の頃にそういう経験をしていたら、もう少し宇宙や人間に対する見方も変わっていたかなあ…と、ちょっぴり残念な気がします。

まこと、子供時代の良き友・よき導き手は、何物にも代えがたい宝です。

めぐる命2016年03月19日 15時01分36秒

しばらくぶりに家でノンビリしています。
雨が上がり、空をゆく輪郭のぼやけた雲に、のどかな春を感じます。

こうして春が来て、夏になり、秋が来て、冬が来る。
仕事で忙しい忙しいと言いながら、その仕事だって、いずれは終わります。
そして、ぼんやりと季節の移ろいを眺めながら、死んでいくのでしょう。

私ぐらいの齢だと、まだ自分の死をそれほど切実に感じませんが、それでも他者の死はこれまでずいぶん目にしました。人はやっぱり死ぬものです。電車の中でも、「100年後には、ここにいる人はみんな居ないのだなあ…」と、何だか妙にしみじみすることがあります。

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命の不思議さを封じ込めた木箱。


中身は蛙の発生過程を示すプレパラート標本です。



受精卵から、桑実胚、嚢胚を経て原腸胚まで10枚がセットになっています。


第1プレパラートの受精卵と第10プレパラートの原腸胚後期の比較。
たった1個の細胞が分裂を繰り返し、消化管の基礎である原腸が形成される段階まで、通常の環境だとおよそ3日以内に完了します。

しかし、この3日間で個体が経験するものの何と大きなことか。
個体発生が系統発生を繰り返すというのは、今や古風な学説かもしれませんが、それでもやはりその変化は、単細胞生物から多細胞生物へという、何億年にも及ぶ進化の歴史に匹敵する大した「事件」なのだと思います。


このパースペクティブは、生命に刻まれた「時間」そのものです。

原腸胚のあとは、神経管が形成される神経胚、口と尾が形成される尾芽胚を経て、1匹のオタマジャクシになります。そしてその身体はさらに変化を続けてカエルとなり、次の世代を産み落とし、死んでいきます。

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メーカーの科学共栄社は、験電瓶の項に既出(http://mononoke.asablo.jp/blog/2014/05/20/7317102)。


赤の書…金彩の天文台2016年02月20日 17時46分58秒

先ほどから雨脚が強くなってきました。
ザザッ…ザザッという音を聞きながら、今日も天文古書の話題です。


昨日の青金の表紙に正面から対抗し得るのは、この朱金の本ぐらいですが、これは9年前に既出(http://mononoke.asablo.jp/blog/2007/05/27/)。でも、そのときは、自前の写真でご紹介できなかったので、今日は9年ぶりに再登場してもらうことにします。


■Edmund Weiss,
 STJERNHIMMELN I BILDER: Astronomisk Atlas
 Oscar Lamm, Stockholm, 1888

ドイツ語の原題は『Bilderatlas der Sternenwelt(星界の絵地図)』といい、これはそのスウェーデン語版です。


各地の天文台をモチーフにした表紙絵は、ドイツ語版と共通ですが、ドイツ語版のカラーリトグラフに対し、スウェーデン語版では豪華な金蒔絵風のデザインを採用しています。


こんな風にドームの「穴」から、ぬっと望遠鏡が突き出ることは現実にはありませんが(筒先は常にドームの中にあって、開閉式のスリットごしに空を観測します)、子供たちにとっては、この方が天文台らしく感じたかもしれません。

以下、いくつかサンプルページ。

(土星)

(1858年のドナティ彗星)

(北天星図)

スウェーデン語はさっぱりでも、挿絵の美しさだけでも十分愛蔵するに足る本。

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おまけ。こんなふうにライティングを変えると、また印象が違って感じられます。