月男の横顔2024年02月23日 16時16分14秒

最近こんな絵葉書が届きました。


ドイツ語のErstes Viertelは、英語の The first quarter で、「上限の月」の意。


石版刷りにエンボス加工をほどこした洒落た1枚。


1916年にハンブルグで投函されたものです。

これはたぶん<新月、上限、満月、下限>の4枚セットで発行されたんだろうなあ…と、これを書きながら想像しましたが、でもそうだとすると、それぞれ<赤ん坊、青年、壮年、老人>に当てるのが自然ですから、こんなひねこびた「青年」がいるもんだろうか?と、そこに不審を抱きました。

ものは試しと検索すると、はたして同シリーズの下限の月を見つけました。

(eBayで販売中の品)

こちらは懐も財布も空っぽの草臥れた老紳士です。
なるほど、これは無一文(新月)から徐々に羽振りが良くなり(上弦)、得意の絶頂(満月)を迎えて、やがて零落する(下弦)男の人生を描いた絵葉書だろうと、これまた想像ですが、そんなふうに推測できます。

   ★

今期も年度末に入り、なかなか忙しいです。
心も体もすり減って、今の私はちょうどこの下弦の月の男のような表情を浮かべていると思いますが、月と同じように、極限を超えたところでまた光を取り戻せるのかどうか?

まあ仕事の繁閑はさておき、人生全体を月の満ち欠けになぞらえると、そのサイクルは一回限りのもので、欠け始めた光がふたたび甦ることはないのかもしれません。つまり人は諦念を噛みしめつつ、最後の光がふっと消えるのを待つしかないわけです。

でも、月では謎めいた「月面発光現象(TLP)」というのが折々報告されています。
私の人生だって、徐々に闇に沈みながら、突如パッと火花を散らせることもないとは言えません。

コメント

_ S.U ― 2024年02月24日 08時17分17秒

英語で、上弦、下弦の月で、waxing moon, waning moon というのがありますよね。この場合、waxing、waning というのは、どういう語感なのか、他に類例もなく、母国語人の感覚はまったく思いやることができませんが、元気や懐具合の登り坂、下り坂というような感覚があるのでしょうか。天文民俗学的言語感覚として以前から気になっています。

 それで、ドイツ語でも、似たような言い方があるか調べたところ、zunehmender Mond、abnehmender Mond というのがあるようです。

https://www.timeanddate.de/astronomie/mond/mondphasen

 辞書を引いたところ、zu/nehmen, ab/nehmen という分離動詞の派生で、増加する・減少するの意味ですが、他に、確かに、成長する・減退するという意味も出ていました。

_ 玉青 ― 2024年02月24日 11時04分43秒

waxとwaneはいずれもゲルマン系の単語で、それぞれ「増幅・成長する」と「減衰・衰亡する」が原義ですから、この語が月の満ち欠けを指すようになった後も(そうした用例は14世紀頃に始まる由)、そこに「盛-衰」のイメージは長くついて回ったと思います。

_ S.U ― 2024年02月24日 13時16分17秒

ゲルマン系言語の人は先祖代々脈々と、月は毎月、成長と衰退を繰り返しているのですね。
 そう言われますと、ドイツ語のzunehmender/abnehmenderも、nehmenが「つかみ取る・自分のものにする」というニュアンスなので、元の単語の部品の意味の感覚がどれほど残っているか、これまた母国語人以外にはわかりませんが、単なる増減ではなく、「身につく」/「身から離れる」という感覚が生じるのだと思います。ちょうど、日本語の「気をつける」「気を抜く」とかそういう感じではないかと勝手に思っています。

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