江戸の人が見た世界…世界地図を求めて書誌の森へ2025年02月22日 19時15分23秒

江戸の出版人・蔦屋重三郎を主人公にしたNHKの大河ドラマ「べらぼう」の影響で、江戸時代の出版文化に注目が集まっているようです。江戸の出版文化は、夜郎自大的要素を抜きにしても、世界的に見て相当大したものだと思います。

   ★

先日、畏友…とお呼びするのもおこがましいですが、日本でも指折りの古星図コレクターである海田俊一さんから、近著をご恵贈いただきました。


■海田俊一
 江戸時代に刊行された世界地図 続編Ⅰ―書籍中の世界図―
 アルス・メディカ(制作)・三恵社(印刷・製本)、2024

A4判ハードカバーで全358頁、しかもオールカラーという大変豪華な本です。
海田さんは、東西の古星図の蒐集家であると同時に、世界地図の蒐集・研究も続けられており、その成果の一端がこの『江戸時代に刊行された世界地図』です。

本書は「続編Ⅰ」となっていますが、これは先に出た『図説総覧 江戸時代に刊行された世界地図』(2019)を本編とする、その続編という意味です。本編の方は“一枚もの”として刊行された世界地図を採り上げたのに対し、この続編では江戸時代の百科事典である「節用集」をはじめとする、各種の書籍の挿図として登場する世界地図を採り上げています(「Ⅰ」と銘打つからには、「Ⅱ」も続くのでしょう)。

(左:海外諸島図説、右:外蕃容貌図画/いずれも海田氏蔵)

そこには鎖国下の日本にあって、異国の地理と風俗に旺盛な好奇心を燃やした、市井の人々の心意が感じられます。

(世界各国の男女図(部分)。豊栄節用世宝蔵より/海田氏蔵)

こうして本書では数々の世界地図が紹介されていくのですが、本書の特徴は書目を博捜するだけでなく、その一冊一冊の書誌を徹底的に深掘りしていることです。

   ★

例えば、近世天文史に興味のある方なら、望遠鏡製作者として名高い岩橋善兵衛(1756-1811)が考案した「平天儀」を、書籍や展覧会でご覧になったことがあるでしょう。


5層のヴォルヴェル(回転盤)によって、特定の日時における月齢と干満、あるいは天球上での太陽と月の位置が読み取れるという優れモノです。

まあ、私も含め普通のファンだったら、「うん、見たことあるよ。面白い工夫だよね」で済ませてしまうところでしょうが、海田さんは同じ「平天儀」でも、そこにはいろいろなバリエーション(異版)があって、少なからず差異があることを教えてくれます。


要は「平天儀?ああ、あれね」と、何でも一緒くたにして、気楽に語ることはできないということです。

   ★

あるいは吉雄南皐(よしおなんこう、通称は俊蔵、1787-1843)が著した『遠西観象図説』。この文政6年(1823)に初版が出た書籍も、実際にはいろいろな版があって、海田さんはこれまた徹底的に書誌解説を行っています。


私の手元にもこの本はありますが、海田さんの解説のおかげで、家蔵本は同氏の分類による「C」本に当たり、東大図書館本と同じ版であることを知りました。


   ★

それにしても、一冊の本の書誌を明らかにするのでも大変なのに、これほど多くの書物の書誌探求をするというのは、いささか(良い意味で)狂気じみており、まさにマニア(ギリシャ語でも、それを借用したラテン語でも、「狂気」の意)ならではの著作だと思います。

   ★

本書はアマゾンでも購入できますが【LINK】、税込13,200円という相当高価な本です。でも、海田さんからのメッセージによれば、

「『天文古玩を見た』とメール(arsmed2020@gmail.com)でご連絡いただければ,定価12,000円のところ10,000円+税+送料430円(レターパックライト)で、(有)アルス・メディカより発送します」

…とのことです。提灯記事を書くつもりは毛頭ありませんが、とにかくすさまじい本ですので、同好の方への耳寄り情報として書き添えておきます。

コメント

_ 海田です ― 2025年02月23日 21時17分33秒

過分のご紹介ありがとうございます。引き続きよろしくお願いいたします。

_ 玉青 ― 2025年02月23日 23時12分07秒

この度は本当にありがとうございました。
ご高著、座右に置いて味読させていただきます。
今後のますますのご活躍をお祈りしています。

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック