理系アンティークフェア in ロンドン2012年04月29日 08時45分51秒

連休に入り、早くも夏のような天気です。
久しぶりの記事なので、ちょっとのんびり気分で書きます。

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ネットで検索すると、「理系アンティーク」という言葉は、現状では、その筋のショップ関係者によって使われる例が多いようです。たとえば、今や老舗の観のある、ル・プチ・ミュゼ・ド・ルさん(http://www.petit-musee-de-lou.com/)や、あのラガード研究所さん(http://lagado.jp/)など。あるいは、最近個人的に注目しているトロワ・ブロカントさん(http://trobro.kakuren-bo.com/)では、「サイエンス系アンティーク」という表現をされていますが、これも同じ意味合いの言葉でしょう。

ともあれ、その用例はごく狭い範囲にとどまっており、一般的な用語とは言い難い。
これは端的に言って、市場規模の小ささを物語るものだと思います。そもそも、「理系アンティーク」という語のネット上での初出が、グーグル先生曰く、この天文古玩の2006年4月4日の記事(http://mononoke.asablo.jp/blog/2006/04/04/315295)だそうですから(あらビックリ)、いかにその市場が幼弱であるか、分かろうというものです。
 
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もちろん、これは日本限定の話で、欧米ではその種の店も多く、マーケットとして古くから確立しているらしいことは、これまでも何度か話題にしました。
そして、そこで取り扱われる商品に関しても、日本ではどちらかと言えばシャビー寄りの「古物の美」を愛でる路線が中心ですが、欧米では、黄金をあざむくような真鍮の輝きを愛でる「王道アンティーク」が主体で、そうした背景の違いも目につきます。

そんな海の向こうのマーケットの姿を実感できる催しが、今日これから始まります。

Antique Scientific Instrument Fair
 http://www.scientificfair.co.uk/

(すみません、以下、写真は勝手に貼らせていただいています)




この市は、ロンドンで半年ごと(4月と10月)に開かれているもので、今回の参加業者は38店舗、主催者は「この種のものとしては世界最大」と胸を張ります。(たぶんアメリカやオランダあたりでも、似たような催しはあるでしょうが。)

以下、トップページより。

 「この市には世界中からディーラーとコレクターが集まり、科学・医学・技術関連のアンティーク機器から成る、驚くような展示が行われます。
 そこに並ぶのは、顕微鏡、望遠鏡、海事関連品、測量機器、地球儀・天球儀、薬学・医学用セット、静電関連機械、幻燈、覗きからくり、栓抜き、時計、コンパス、建築用製図器、書籍、定規、オーラリー、計算機、古い電信装置…などなど。そして、それらすべてが、わずか2~3ポンドから購入できるのです!
 この市も今年で26年目、この4月の市は52回目のイベントになります。」

ああ、行ってみたいなあ…と思いますが、行ったにしても、財布の中身が付いていきませんし、仮に多少の持ち合わせがあったとしても、買った物を置く場所がすでにありません。それでも、こういう空間に身を置いて、同好の士と時間を共有するのは、きっと楽しい経験だろうと思います。

今日、ロンドンに行かれる方は、ぜひラッセルスクエア駅から徒歩3分の会場にお越しいただき、その実際をご覧ください。(ちなみに次回は10月7日)

古の神戸を歩く… Landschapboek 新装開店記念2012年03月28日 21時14分38秒

貧窮スターゲイザーの件は、慎重を期して少し寝かせておきます。

さて、神戸のランスハップブックさんが移転し、3月24日にリニューアルオープンされました。新店舗は、生田街道を越えた、以前よりもちょっと北寄りの場所。

http://www.tit-rollo.com/lands.html
 〒650-0004 神戸市中央区中山手通3-4-1

下のオンラインショップのページで、店内風景のスライドショーを見ることができます。喜ばしいことに、ヴンダーな味わいは依然健在。

http://landschapboek.muse.bindsite.jp/

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春を迎え、神戸散歩を楽しまれる方も多いと思いますが、こだわりのそぞろ歩きのお供に、古い神戸地図を一挙掲載します(一部は以前も掲載しましたが、今回はより広域を、より精細な画像で載せます)。以下は大正12年(1923)に駸々堂が出した地図のスキャン画像。

まずは神戸東部エリア。現在の三ノ宮駅(=地図の左端に見える「(阪神)三宮駅」の位置がそれ)から東一帯の地区です。東の端っこ(欄外)には、稲垣足穂が通った、昔の「関西学院」も見えます。


次いで旧三ノ宮駅(現元町駅)を中心とした神戸中央エリア。トアロード、旧居留地を含む、最もハイカラな地区です。


最後は神戸西部エリア。神戸駅周辺およびその西側の地区です。


おまけに記号凡例。


春の深更、足穂の霊気を感じながら、神戸の街をコツコツ徘徊するのもいいかもしれませんね。

さあ、みんなでハーシェルの天体を見よう2012年01月14日 21時27分15秒

※この記事は、1週間トップ表示します※
【1月22日付記: トップ表示の期間が満了したので、本来の位置に戻します。】

今日は天文古玩には珍しく、リアル天文趣味の話題です。

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古来、人類の歴史を変えた天文家が幾人かいます。
プトレマイオス、コペルニクス、ケプラー、ガリレオ。あるいは天文家ではないですが、宇宙の理解を飛躍的に高めたニュートンやアインシュタインなど。

イギリスで活動したウィリアム・ハーシェル(1738-1822)も、間違いなくその一人です。

(Sir Frederick William Herschel,  1738-1822)

新惑星・天王星を発見し、赤外線の存在を実証し、太陽系が恒星宇宙の中を疾駆している事実を見出し、銀河系の形状を観測データから明らかにし、膨大な星雲星団の目録を超人的な努力でまとめた人。40歳を過ぎて天文家に転身する前は、優秀なプロの音楽家だったという、その経歴からして、とびきり異色の存在です。

そうした個々の業績も驚くべきものですが、その最大の功績は、この大宇宙(太陽系を超えた遥かな世界)の真の姿について、人類は単なる思弁のみならず、具体的な観測によってもアプローチできることを、身をもって実証したことでしょう。後続の学者たちは皆、このハーシェルがこじ開けた扉を目にしたことで、果敢な挑戦に打って出ようという勇気を与えられたのです。

これは人類の精神史における、一種の革命だと言ってよいのではありますまいか。それまで庇護されるばかりの存在だった幼児が、ある日ふと「自分もやればできるんだ!」と気づいた瞬間…とでも言えばいいでしょうか。

この偉大な天文家を慕う人々は今も多く、イギリスにはウィリアム・ハーシェル協会があり、日本にも日本ハーシェル協会があって、活動を続けています。

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さて、ハーシェルについて熱く語りましたが、私も会員である日本ハーシェル協会では、本年「ハーシェルの天体を見よう2012」というイベントを開催します。会員であってもなくても、世界のどこからでも参加自由という、気軽な催しです。

内容は、今年1年かけて、ハーシェルにちなむ天体を5つ見ようというものです。(そう、たった5つです。これならば、ものぐさな人や、ライトな天文ファンでも十分チャレンジできそうですね。)

そのラインナップは以下のとおり。

1.天王星
2.ハーシェル天体H VII-2(いっかくじゅう座 散開星団 NGC2244)
3.ハーシェル天体H V-24(かみのけ座 銀河 NGC4565)
4.ハーシェルのガーネットスター(ケフェウス座μ星)
5.ハーシェル天体H V-1(ちょうこくしつ座 銀河 NGC253)

街中でも小型望遠鏡があれば十分チャレンジできるものをセレクトしました(一部は双眼鏡でも観測可)。昔、天体望遠鏡を買って、土星の輪っかや木星の縞模様は見たけれど、天王星はまだ見たことがない…という方も多いでしょう。この機会にぜひ挑戦してみてください。
個々の天体に関する情報や、イベントの詳細は、以下の特設ページをご覧ください。


■ハーシェルの天体を見よう 2012
 http://www.d1.dion.ne.jp/~ueharas/hsjsub/herschelwatch2012/

このイベント、参加費や事前エントリーはもちろん不要ですが、「見えた!」「残念、ダメだった」, etc. …のレポートを、日本ハーシェル協会の掲示板にお書き込みいただければ有難いです。偉大なる天文家の追体験を、多くの方といっしょに楽しめればと思います。

なお、この情報について、個人サイト;Twitter;口コミ等で拡散していただければ、これまたありがたいです。どうぞよろしくお願いいたします。

暗黒・耽美・驚異のアーカイブ2012年01月13日 20時52分10秒

(出典:http://laboratory.vicious-sabrina.com/

以前(http://mononoke.asablo.jp/blog/2011/09/24/6111609)、中目黒の「博物Bar」と共にご紹介した創作ユニット、Vicious Sabrina。

彼らは、ダークでヴンダーな味わいのアクセサリーを制作・販売しつつ、その過程そのものが1つの表現行為でもあるという、そんな人たちです。彼らのブログ Vicious Sabrina Archives (http://vicioussabrina.blog72.fc2.com/)は、新作リリース情報などのプレス機能を果たすと共に、その創作の源である、美しいもの、不思議なもの、奇怪なものを集積するアーカイブ機能も有しており、最近再訪したら、その幅はますます広く、奥行きもいよいよ深くなっているようでした。

たとえば、Museum Archivesでは、ロンドンの医学系博物館や、フリーメイソンに関する資料館と並んで、あの(とあえて言いましょう)ウィリアム・ハーシェル博物館の探訪記までも取り上げており、私は思わずポンと膝を打ちました(本当に打ったわけではありません)。

彼らの心が向かう先には、墓場あり、廃墟あり、博物図あり、解剖学あり、そしてカルトな人気を集める映像作家・クエイ兄弟あり…という具合で、こういう対象に惹きつけられる人々は、心をグイとわしづかみにされることでしょう。しかも、最近はオリジナル作品ばかりでなく、博物系アンティークの商いも徐々に始まっており、なかなか目を離すことができません。

脂の乗った、まさに旬のサイトとして、同好の士に広くお勧めする次第です。

あるヴンダー趣味の徒の述懐…「ノーチラス」再訪2011年12月25日 21時21分06秒



以下、black-poolさん(http://black-pool.tumblr.com/)経由の情報です。

以前「世界のヴンダーショップ」と題してご紹介した、イタリアはトリノにある、
ノーチラス」(http://mononoke.asablo.jp/blog/2010/11/22/5527067)。
ここがますます訳の分からないヴンダーな空間になっているようです。

ソースは以下のページ。

上記の記事を、ずっと下の方までスクロールすると、店内近影がずらっと紹介されています。 【12月26日付記: 上記にアクセスできない場合は、こちらのflickrページでも画像を見ることができます。ただし、ノーチラス以外の画像もまじっています。】
もう何と表現していいのか分かりませんが、とにかくすごいです。現代のヴンダーカンマーの理想形の1つかもしれません。私の目指す理科室趣味とは、いくぶん(というか、かなり)ズレますが、興味深い空間であることは間違いありません。

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ノーチラスは、AlessandroさんとFaustoさんという2人の男性が共同経営しているのですが、上記記事には、そのうちの1人、アレッサンドロさんへのインタビューが掲載されています。

私はイタリアに行けば、こういう奇怪な店がごろごろあるのかと思っていましたが、どうもインタビューを読むと、なんぼイタリアでも、誰もが怪奇趣味に染まっているわけではなくて、ノーチラスはイタリアでもやっぱり「変な店」であることに変わりはないそうです(当り前か)。

そして、このやりとりの中には、ノーチラス誕生のエピソードに加えて、現代における、ひとりのヴンダー趣味の徒の真情(そのヴンダー観やコレクション観)が見事に語られていると思うので、以下勝手訳で恐縮ですが、インタビューの内容を切り張りして、適当訳してみました。

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(ノーチラスはいったいどのようにして誕生したのですか?)

「この店の歴史は2005年に幕を開けました。その年、我々は自らの夢を実現しようと心に決め、自分たちのコレクションをじっくりと味わい、他のヴンダーカンマー好きの人々とそれを共有できるような場として、この私的ヴンダーカンマーをオープンしたのです。

私はモノ集めが大好きで、子どものころから、カードやら、ビンのふたやら、シールやら、あるいはあらゆる蚤の市に出かけては、目に付く限りの、ありとあらゆるガラクタを集めてきました。それがある日、木製のステレオスコープを見つけたことがきっかけで、自分の内にある、古い医療機器への愛好癖を自覚し、この嗜好が後に科学の歴史のあらゆる側面に及ぶことになったのです。

ファウストのたどった道も、私のと似たり寄ったりですが、彼のほうが一枚上手です。何せ10歳のころには、自宅のガレージで、ミリタリーグッズから成る「驚異の部屋」の展示会を開き、料金を取って友達に見せていたぐらいですから。」

(商売人である以前に、あなたは何よりもコレクターだというわけですね。ご自分がなぜ蒐集をするのか、考えられたことはありますか?コレクターとはいったいどんな人種なのでしょう?)

「ノーチラスは、通常の意味での店舗ではありません。むしろ、普通の店であれば、商売を成功させるためには絶対に避けるべき要素を凝縮したものとさえ言えるでしょう。たとえば、この店はいつも閉まっていますし、売り上げも僅かです(何せお客さんが買うのをためらえば、我々の方も「やめておきなさい」と掻き口説く始末ですから)。売値は日によって変わるし、懐具合や、お客さんの惚れ込みよう、我々の執着の程度によっても変わります。もう無茶苦茶ですね。だから、経営というのは、本当に周辺的な要素なのですが、でも他にやりようがあるのでしょうか?そもそもコレクターというのは、決して物を売ろうとしない人種なのですから。

コレクターの心理については、多くの語るべきことがあります。でも、この難しい質問は心理学者か誰かにお任せしましょう。私自身が完璧だと思うコレクターの定義とは、「年をとった少年 senex puerilis / an “elderly boy”」というものです。まさにコレクターとは、2つの矛盾した側面、すなわち大人の特徴であるシニカルな知恵と、子どもの特徴である驚異を感じ取る能力とを一体化した存在なのです。コレクターは、時の呪いから古きモノを救いだし、それに新しい生命を与えるために、時の流れに抗い、それと戦う存在です。あるいは、それによって自らが永遠不滅の存在に至れると考えているのかもしれませんね。」

(ところで、ノーチラス(オウム貝)という店名を選んだのはなぜですか?この貝と何か関係があるのですか?それとも『海底2万マイル』に登場する、ネモ船長の潜水艦の名前に捧げたものでしょうか?いずれにしても、ノーチラスという名前が、外界からのある種の避難所を意味していることについて、何かお考えになったことは?)

「あなたはノーチラスの核心部分を見事に突かれましたね。我々は、ふたりともジュール・ヴェルヌの小説を読んで育ったので、ノーチラスという店名は、もちろん彼の代表作に捧げたものです。しかし同時に、そこにはこの店の2つの方向性、すなわち科学と太古の自然とが含意されており、前者は潜水艦によって、後者は貝によって象徴されています。そしてノーチラスは、たとえ一時的にせよ、日常生活から逃れて、2万海里のかなたに赴く機会を与えてくれる、ある種の象牙の塔でもあるのです。」

(このお店は、商品がきわめて適切に配置されているのが印象的です。無秩序の中に秩序を感じさせ、醜悪なモノから一種のハーモニーが生まれている、そういう矛盾をはらんだ配置法のように、私には感じられました。お二人は美術史の教育を受けられたのですか?)

「我々は芸術表現ならばどんなものでも好きですが、ただ美術に関する教育を受けたことは全くありません(私自身は電子回路の技術者です)。あなたも気づかれたように、ここにあるモノたちは、どれ1つとして無造作に置かれたものはありません。

この店の基本デザインは、ファウストの前職(彼はヨットのデザイナーでした)の賜物ですが、モノを配置するのは私の仕事で、ご覧のように、私はシンメトリーに強くこだわっています。昔のヴンダーカンマーの典型的な分類法は、私には耐えがたいものです。私はさまざまなモノを配置して、通常ならありえないような、尋常ならざる組み合わせを生み出すのが好きなのです。それによって、モノたちに新しい生命を吹き込み、これまで知られていなかった美を明らかにできればと思っています。」

(ノーチラスを訪問すると、「美」とはいったい何なのか、困惑してしまう人もいるでしょうね。この店には醜悪なもの以外に、恐ろしいものや、嫌悪感を催すもの、気味の悪いものが満ちあふれていますから。これらのモノの、いったいどこが一番気に入っているのですか?あなたにとって、「美」や「醜」とはいったい何なのでしょう?)

「私の美に関する観念は、きわめて古典的かつ伝統的なものです。そして、我々のコレクションに「醜い」モノが含まれていることは否定しませんが、しかし、もしヴンダーカンマーの中に歩み入れば、美醜はもはや考慮に値する価値基準ではありませんヴンダーカンマーが拠って立つ唯一の原理は驚異をもたらすことであり、醜悪さや恐怖をもたらすモノこそ、我々を最も驚かせるものなのです。ちょうど蝋で作られた「解剖学のビーナス」の模型がそうであるように、ときとして美は驚異と混然一体となる場合もありますが、そうなると我々は「崇高さ」について次に議論しなければならなくなるでしょう。」

(あなたがなぜこういったモノを好むのか理解できない、という理由で、あなたの趣味を批判する人も多いと思います。あなたの奇妙な趣味について質問を受けたり、あるいはそのせいで変人扱いされたことはおありですか?)

「ええ、ご想像の通り、そうした質問を受けることは多いです。たぶん、世界には2種類の人間がいるのでしょう。ノーチラスに足を踏み入れる人間と、そうしない人間と。まあ、こういうとちょっと大げさかもしれませんが、実際そうだと思いますよ。

私は確かに奇妙なモノに心を奪われ続けてきましたが、唯一それだけが驚異をもたらすものだというわけではありません。驚異の念を生むには、未知であること、通常とは異なること、予期せぬものであることが必要です。

気味の悪さは、たしかに私のコレクションの一側面ですが、ホルマリン漬けの解剖学標本や胎児のような、きわめて恐ろしい品であっても、私はそこに気味悪さを感じることはありません。個人的に言わせてもらえば、現在の社会がふつうに受け入れている言論の中にこそ、私はいっそう気味の悪い、醜悪なものを感じ取っています。ともあれ、この問題はきわめて個人的な要素が強いものでしょう。

“この場所で過ごすのが怖くないんですか?”と尋ねられることもよくあります。でも、その度に、“私にとっては、この場所を離れることの方が、よっぽど怖ろしいのです”と答えることにしています。いったい本当の変人とは誰なんでしょうね?」

博物学者の部屋… Liberal Arts Lab:DARWIN ROOM(4)2011年11月19日 13時39分23秒

朝から冷たい雨が窓を打ち付けています。 冬近し。

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さて、ダーウィンルームの店内を改めて画像つきでご紹介します。

この「天文古玩」は、著作権の扱いが全般に緩く、自他に甘いのですが、以下の画像はダーウィンルームさんのご好意により提供していただいたもので、著作権は同店にあります。その点につき十分ご留意願います。(なお、お送りいただいた画像はもう少し大きかったのですが、画面に収まるよう今回75%に縮小しました。)


六差路の角に開口部を持つ店舗。
エクステリアのグリーンも美しく、ドアから覗く店内の光景が好奇心を誘います。
スタッフのOさんからいただいたメールには、「ドアの右側は時計草です、5月から10月末頃まで花が咲き続けます。ボタニカルアートには欠かせない博物趣味の植物ですね。左側はブドウです」とありました。

ドアの左右につづく窓際は、カフェのカウンターになっていて、ここでコーヒーを飲みながら、街ゆく人を眺めたり、買ったばかりの古書にゆっくり目を通したりできます。


店内風景。中央奥にカフェカウンターが見えています。
昆虫標本はここに写っている以外の場所にも、たくさん置かれています。


「教養の再生」をうたう書棚。化石人骨のレプリカが目を引きます。
棚に並ぶのは当然、自然史やサイエンス系の本ですが、その範囲は驚くほど広く、品揃えは多彩です。ここでも本の合間に、化石や昆虫標本が所狭しと並んでいます。


博物濃度がひときわ高い一角。
奥にチラリと見えるシマウマ、そしてシマウマと並ぶ「2枚看板」のペリカンの剝製。
棚の最上段には、福音館の古典童話シリーズと南方熊楠全集が見えますね。この不思議な取り合わせも自然に思えるのが、この店の特徴です。
この角度からだと見えませんが、この奥がレジになっています。

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いかがでしょうか?
当然のことですが、実際の店舗内は、ここに写っていない標本や剥製、その他の品も沢山あって、写真から想像されるよりも、さらに豊穣な空間となっています。
いくらコーヒーをごちそうになったとはいえ、提灯記事を書くつもりは毛頭ないのですが、やはりここは実際に足を運ばれることをお勧めします。

博物学者の部屋… Liberal Arts Lab:DARWIN ROOM(3)2011年11月17日 20時46分41秒

ダーウィンルームのお土産編です。


一つは前から欲しかった「テンシノツバサ(天使の翼)」。


この和名は、英名Angel wingの直訳で、その由来は一目瞭然。

学名はCyrtopleura lanceolata(キュルトプレウラ・ランケオラータ)。
ネットのチラ見情報によれば、Cyrtopleura 属には現在3種が含まれており、中でも最初にリンネが命名したC. costataというのが、最も有名かつポピュラーな存在で、英語のAngael wing は、厳密にはこの種を指すという人もいますが、3種とも姿形はよく似ているので、一般名としては全部まとめて「天使の翼」と呼んでも良いのでしょう。

自然の造形も驚きですが、これを天使の翼と呼んだ人の発想もすばらしい。

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もう一つは丸皿サンゴの一種。


ダーウィンルームのスタッフの方は、「シイタケみたいですねえ」と言われましたが、それ以来シイタケにしか見えなくなりました(笑)。でもこの類は、科名で言うと「クサビライシ科」で、「くさびら」とはキノコの古名だそうですから、やっぱり誰もがキノコを連想するのでしょう。これまた「名は体を表す」というか、自然の造形の妙と、秀逸なネーミングの取り合わせの例ですね。

(裏側)

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今回は出張の合間で、しかも神保町でも買物をしたので、ストイックに振る舞わざるを得なかったのは、かえすがえすも残念でした。本当は各種昆虫標本にも強く心を奪われたのですが、やむを得ず断念。
しかし、せっかくダーウィンルームに来たのですから、何か強烈なインパクトのあるものはないか?と思って選んだのがこれです。


熱帯~亜熱帯の樹林に育つ、つる性のマメ科植物「モダマ」の莢(種子入り)です。
これはアフリカ産のEntada phaseoloides(エンターダ・パセオロイデス)。

(余談ですが、ラベルに「採集地:ブルキナファソ」とあって、私はブルキナファソが西アフリカにある独立国の名前で、この地域には11世紀以来王国が栄えていた、という事実を今回初めて知りました。)

さて、これがどれぐらい大きいかというと…



これぐらい大きいのです。全長は約90センチ。どうです、大きいでしょう。
でも、もっと大きいのもざらにあるようです。

モダマの仲間は日本の南西諸島にも分布していて、その種子は黒潮に乗って本土にまで流れ着き、ビーチコーマー(漂着物採集家)にとっては、恰好の収集対象なのだとか。南方憧憬を誘う品ですね。

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本日、ダーウィンルームさんから正式に画像を提供していただいたので、次回、改めて店舗の様子を大きな画像でご紹介したいと思います。(ひょっとしたら、ネットでは本邦初!かもしれないので、刮目してお待ちください。)

博物学者の部屋… DARWIN ROOM(2)2011年11月15日 22時24分59秒

(ダレル&ダレル著、日高敏隆・今泉みね子訳、『ナチュラリスト志願』、TBSブリタニカ、1985. 単なるイメージ画像ですが、そういえば日高敏隆さんのお名前も会話の中には出てきました。)

欅の黄葉にはまだ間があります。
いっぽう花水木や染井吉野の葉はすっかり赤く色づきました。
そして路傍のエノコログサは、とうに枯れ色です。
植物たちはそれぞれのペースで、冬への準備を進めているようです。

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さて、前回のつづき。

私が店に入ったとき、清水さんは雑誌取材を受けている最中で、記者氏にいろいろとお店のことを説明されていました。私はその間、店内をぐるぐる回りながら、その品ぞろえに目を奪われつつ、何を購入すべきか考えていました。

取材も一段落し、清水さんがレジに戻られたところで、私も品物の支払いをするべくレジへと行き、清水さんとちょっと言葉を交わすうちに、だんだん熱がこもってきて、「お茶でもどうですか」と誘っていただいたのを幸い、店内のカウンターでさらに長々と話しこんでしまったのでした。

以下は、会話体の部分も含め、清水さんのお言葉そのままというよりも、私の再解釈がまじっているので、その点を含んでお読みいただければと思います。

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まず、以前からの疑問、「ダーウィンルームは、デロールの影響を受けているのだろうか?」という点について、ずばりお聞きしてみました。

清水さんは、これまで商品の買い付けやら何やらで、ヨーロッパには100回以上、アメリカにはさらにそれ以上の回数出かけられているそうです。その旅の途次、関係するショップや場所を見て回り、ご自分のやりたいことを模索し続け、その結果として今のダーウィンルームがある、というお話。

「だから、その過程でデロールから影響を受けたものもあるとは思います。でも、自分はデロールの模倣をしたいわけではないんです」。清水さんは、このことをはっきり述べられました。「デロールは、過去の伝統を今にどう伝えるかに腐心しているようです。でもダーウィンルームは過去よりも現在、そして未来のことを考えていきたいと思っています。だから、ヴンダーカンマー的なものとは、ちょっと方向性が違うんです」。

この辺は、現在・未来の生態系や地球環境の問題を強く意識されているのかな…と思いながら、お話をうかがいました。実際、店内にはそうした方面の書籍がたくさん置かれています。

ザ・スタディルーム(=清水さんが立ち上げたサイエンスショップ)で科学に目覚めた子供たちが、今や大学生や大学院生として、ダーウィンルームを訪れてくれる…という素敵な話もうかがいました。
「でも、この店に一番興味を示すのは、理系の学生よりも、むしろデザイン系の学生ですね。まあ、スタディルームは科学への入口としては良かったんですが、ダーウィンルームでは、さらにその先にあるものを目指したいと思っています」。

「その先にあるもの」とは、店舗名の一部ともなっている「LIBERAL ARTS LAB」、すなわち豊かな真の教養がほとばしる場ということでしょう。

「この土地には、豊かな経験を持ちながら、今はリタイアしているような方が大勢暮らしていますから、そういう人が気楽に立ち寄って交流できる場となったら嬉しいですね。サロンと言ってしまうと、ちょっと後ろ向きな感じがしますけれど。私自身は学者ではありませんが、専門の研究者を招いて、積極的に情報発信していけるような拠点が理想ですね」。

半年前の記事で、「店を支える人的資源がどうなっているか」、要するにスタッフの資質の問題について触れましたが、清水さんもそのことは先刻ご承知で、今後、専門スタッフの確保が課題であるともおっしゃっていました。現状は、これまでの人脈を生かして、上野の国立科学博物館等の諸先生からアドバイスを受けつつ運営されているのだそうです。

上でダーウィンルームは、ヴンダーカンマーとは一線を画すという話がありました。
「でも好奇心という点では、謎めいた要素があってもいいですよね。隠された地下室に物凄い剥製がある、なんていうのも面白いじゃないですか」。

「アンティーク的なものは置かれないのですか?」と私。
「ええ、店の備品として置いてある古い品を買いたいというお客さんもいますし、そういうのを考えないわけではないのですが、なにしろこれだけのスペースしかないもんですから…」。

現在のダーウィンルームが抱える最大の課題は、スペースの問題のようです。
店の「看板娘」であるシマウマの剝製も、スペースの問題からわざわざ子どものシマウマの剝製を選ばれたそうです。そして、驚くべきことに、この店内最高価格の品を買いたいというお客さんがすでに複数いるそうですが、代替品の補充が難しいので、オーダーはすべてペンディングになっているというお話でした。

「この六差路はちょっとカルチェラタンの風情でしょう。店を拡張するとしたら、今のこの場所で広げたいんですけど、隣接するテナントはどこも黒字のようですから、なかなか空きがなくて…」。

さらにパワーアップし、謎めいた香りも漂わせたダーウィンルームの登場が待ち遠しいです。

この日は他にも科博のトロートン望遠鏡の話やら、下北の再開発の話やら、昆虫採集の話やら、気がつけばあっという間に1時間以上経っていたので、お礼を言ってあわてて店を辞去したのでした。

いや、本当に愉しくも充実した時間をどうもありがとうございました。
この場を借りて、改めてお礼を申し上げたいと思います。


(次回はダーウィンルームのお土産編)

博物学者の部屋… DARWIN ROOM(1)2011年11月13日 11時52分57秒


さて、しばらく頭が働きませんでしたが(いつものことです)、記事を再開します。
「ジョバンニが見た世界」の方はボチボチ続けるとして、先日、出張の合間に東京・下北沢にある素敵な博物ショップ、ダーウィンルーム↓を訪ねたことを書かねばなりません。

好奇心の森「ダーウィンルーム」 http://www.darwinroom.com/

(今回の「合間」の目標は、このダーウィンルームと、それから久しぶりに神保町を訪ねることでした。神保町では、掘り出し物を狙う、目つきの悪い男たちの群れが昔と変わらぬ様子で徘徊していて、ちょっとホッとしました。)

ダーウィンルームについては、半年前にいくぶんヨタった記事を書きました。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2011/05/29/5887822
読み返してみると、かなり失礼なことも書いているので、今回はしっかり自分の目で見、そして耳で聞いたことを元に、改めて記事を書くことにします。

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ややもすれば方向を見失いがちになる下北沢の町の中で、目指す店は、駅前から南に続く南口商店街をまっすぐ行った六差路(すごい!)の一角に立っています。

店のドアを開けると、即座に鮮やかな色彩が目に飛び込んできます。
内装は、木を主体とした落ち着いたムードなのですが、そこに自然や博物学に関する本が並び、店内のあちこちに昆虫、鳥、貝、鉱物の標本や剝製がディスプレイされ(それらも商品です)、その全体が穏やかな光に満ちているという、とても居心地のいい空間です。

この「明るさ」と「鮮やかさ」が、この店の1つの特徴だと思います。
同じ博物趣味の徒でも、ナチュラリスト志向の人は「光系」、ヴンダーカンマー志向の人は「闇系」を好むと思いますが、ここは明らかに「光系」。

そして店内が明るく鮮やかに感じられるのは、標本や剥製の質が驚くほど良いということも、その大きな理由になっています。
鳥たちは艶々とした羽を閉じ、あるいは開き、生き生きとしたポーズで静止しています。その姿は、埃をかぶった「理科室の古い剝製」のイメージとは、およそ異なるものです。昆虫標本も完璧な展翅展足が施された完品ぞろい。しかも、美々しい蝶や甲虫ばかりでなく、コノハムシもいれば、バイオリンムシもいるし、巨大アリの標本まで並んでいるという具合で、そんなところに、この店のこだわりを感じます。

また下北という土地柄ゆえか、若いお客さんも多く、それも明るさの理由でしょう。(と言って、老人が暗いというわけではありませんが、やはり若さはそれ自身エネルギーですから。)

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今回のダーウィンルーム訪問で、もっとも大きな収穫は、店主である清水隆夫氏とゆっくりお話ができたことでした。

(長くなるので、ここで記事を割ります。この項つづく)