旅人未満2017年03月19日 09時24分42秒

永六輔・作詞、中村八大・作曲でヒットした「遠くへ行きたい」。

 知らない街を 歩いてみたい
  どこか遠くへ行きたい
 知らない海を ながめてみたい
  どこか遠くへ 行きたい 

ウィキペディアによれば、この歌の発売は1962年で、ずいぶん古い歌です。
私の耳に残っているのは、その後1970年に始まった旅番組、「遠くへ行きたい」の主題歌として、頻繁に流れるようになってからのことと思います。

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知らない世界を求めて、「今ここ」から「どこか遠くへ」と向かうのが旅。
その中には、知らないモノを求めてさまよう「蒐集の旅」というのもあります。
世界中を自分の足で歩き、不思議な店の門をくぐり、にぎやかなマーケットを覗き、未知のモノを探し出して、トランクに詰め込む。

できれば私もそんな旅がしたいのですが、己の性格と生活環境のしからしむるところにより、自室のディスプレイの画面を、老いた釣り師の如くじっと眺めて、未知のモノが針にかかるのをひたすら待つ…ぐらいが今は関の山です。

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以前ご紹介した(http://mononoke.asablo.jp/blog/2017/02/25/)、「第5回 博物蒐集家の応接間 “避暑地の休暇 ~旅の絵日記~”」の開催まで、あと一週間を切りました(会期は3月25日(土)~29日(水)まで)。

この旅をテーマにしたイベントに、旅をしない自分が、どう関わればいいのか迷いましたが、考えてみれば、人間は――大きく言えば人類は――世界と自分を知るために、長い長い旅を続けているようなものですし、星の世界とのかかわりも、そんな旅の1ページなのだ…と達観することにしました。

そんなわけで、天文の歴史を旅になぞらえた「空の旅」という小さなコーナーを、会場の隅に作っていただくことになりました。

例によって品数が少ないので、その展示意図が伝わらないといけないと思い、あえて「洒落の解説」のような不粋な真似をしましたが、私のささやかな意図はそういうことです。

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先日、針にかかったミッドセンチュリーのタイピン。


彗星を収めた小さな宇宙空間。
この「星界の旅人」を胸元に覗かせて、三省堂の会場内を、旅人のような顔つきで歩いている人がいたら、それは私です。


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▼閑語(ブログ内ブログ)

政治というのは利権が絡むものですから、政治家の中には悪に手を染める人もいる…というのは、時代劇を見ても分かる通りで(そういえば、最近時代劇が少なくなりましたね)、そのことに驚く人はいないでしょう。

それにしてもです。
特定秘密保護法とか、安保関連法とか、共謀罪創設とか、働かせ放題法とか、その他何とかかんとか。安倍氏とその取り巻きが、これほどまでに遠慮会釈なく、大っぴらに悪事を重ねるのを見て、怒りも恐怖も通り越して、一種の異界感すら覚えます。

彼らは、なぜこれほどやりたい放題を続けられるのか?
もちろん、議会の多数を占めているという根本原因があるのですが、話を聞いてみると、それ以外にもいろいろカラクリがあるのだそうです。

例えば、政治家と官僚は、癒着もする一方で、互いに強く反目しているわけですが、その抵抗をそぐための手法が、人事(と予算)の掌握です。安倍氏の場合、第2次政権の発足と同時に、以前からあった内閣人事局構想の具体化に向け全力で動き出し、これによって官僚を無力化することに成功したことが、その権力のベースにあるという話。これは、官僚を意のままに操ることのできる、いわば「魔法の杖」です。

そして、この魔法の杖をぶんぶん振って、司法人事にも介入し、検察や裁判所までも骨抜きにしてしまおう…と狙っているのだとか(その完成も間近だそうです)。

さらに、時の権力者が、ダークな力をふるうための便利な財布が、内閣官房機密費で、これは政権の如何によらず、昔からあるのだそうですが、完全に使途不明のお金だけに、やろうと思えば何でもできてしまうという、これまた実に恐ろしい「杖」です。マスコミが急速に無力化した背景には、この後ろ暗いお金の存在があるらしい…と風聞します。実際、鼻薬を嗅がされた人、弱みを握られた人も相当いるのでしょう。

こんなふうに、抵抗勢力を排除する手法を洗練させ(嫌な洗練ですね)、うまく排除に成功したのが安倍氏とその周辺で、実に鮮やかな手並みと言わねばなりません。我々庶民は、「お上」にうまうまとやられぬよう、こういうことを「世間知」として知っておく必要があると思います。

安倍氏に限らず、その手法に学ぶ政治家は、今後も必ず出てくるからです。


旅人、しばし本の町に憩う2017年02月25日 14時26分41秒

休みの日しか記事を書けないような生活は、いやだなあと思いますが、これも憂き世の定めで仕方ありません。

そんな中ですが、季節の移行は、確実に行なわれつつあります。
暗い地下では、根冠が目覚め、水をゆっくりと吸い上げ、
生体内の物質循環が再開し、枝先では若芽や花芽が膨らみ始めています。

人間界でも、春のイベントに向けて、孜々(しし)と準備が進んでいます。

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来たる3月、これまで多くの博物趣味の徒を惹きつけて来たイベント、「博物蒐集家の応接間」が、神田神保町の三省堂本店で開催されます。題して「旅の絵日記」。

(DMイラストはヒグチユウコさん)

■第5回 博物蒐集家の応接間 「避暑地の休暇 ~旅の絵日記~」
○会期  2017年3月25日(土)~3月29日(水)  10時~20時
○会場  三省堂書店 神保町本店(8階催事場)
       東京都千代田区神田神保町1-1
       MAP・アクセス→ https://www.books-sanseido.co.jp/shop/kanda/
○主催  神保町いちのいち、antique Salon
○参加ショップ
    Landschapboek、メルキュール骨董店、ORLAND、JOGLAR、piika、
    Ô BEL INVENTAIRE、antique room 702、sommeil、antique Salon
    (特別展示:天文古玩『空の旅』、協力:ヒグチユウコ) 
○DMより
    「避暑地への旅 滞在先での楽しい記憶 蒐集した品々 
    そんな思い出を絵日記にして」
    「2016年7月より池袋ナチュラルヒストリエにて展開してきました
    『避暑地の休暇』もいよいよ完結。
    神保町を舞台に旅の思い出をカタチにして、皆様をお待ちしています」

   ★

今回の参加ショップは9店舗。
その品目も、標本、剥製、天文、博物図版、オブジェ、人形、道具、宗教関連…と多岐にわたります。この並びを見ると、「お、ヴンダーカンマーだね」と思われるかもしれません。しかし、日ごろ「ヴンダーカンマーには美意識がない」と公言されている、antique Salon さんが主催者となれば、そこにひねりが加わらないはずはなく、その絵日記に、はたしてどんなストーリーが綴られるのか、大いに注目されます。

そして、臆面もなく…という感じで、天文古玩もお味噌参加していますが、私の方は「空の旅」と称して、人と星との遥かなかかわりを旅になぞらえ、古今東西を放浪することにします。

長い夏休みの終わりが、そのまま春につながる不思議さ。
博物蒐集の旅は、軽やかに季節の歩みをも跳び越えるのです。
次のシーズンも、きっと良い出会いがありますように。




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閑語(ブログ内ブログ)

それにしても、一週間というのは、いろいろなことが起きるのに十分な長さです。
例の森友学園の件も、ここに来てバケツの底が抜けたように、隠されていた事実が出るわ出るわ、本当に驚いています。さしもの安倍夫妻も、ここは逃げの一手。それがまた事件全体の薄汚さを強調しているようです。

ここは、トカゲのしっぽ切りで終わらせず、不正はしっかり糺してほしいものです。

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ときに、今回の一連の報道を見ていて、現代を生きる極右の人の頭の中身が分かったようで、その点興味深く思いました。

森友学園が開校を予定している小学校――当初、「安倍晋三記念小学校」として構想された学校――の教育の要なる案内資料を見ました。

同校は「神道小学校」と喧伝され、また創立者自身もそういう意識でいたと思いますが、改めて眺めると、その内容は、「教育勅語」を暗唱したり、「大学」を素読したりで、あまり神道教義とは関係がなく、この辺は「水戸学」を意識しているのかもしれません。

ちょっと目新しいのは、「般若心経朗唱」によって宗教的情操を育成しようというスローガンで、こうなると神・儒・仏同舟の、いわば虎渓三笑的光景で、それ自体は結構なことですが、まあ江戸時代の国学者が聞いたら、かなりしょっぱい顔をすることは間違いありません。(それに、狂信的な水戸学徒が現代に復活したら、親米を唱える輩は、みな誅戮の対象となるのではありますまいか。)

結局、籠池という人物の脳裏にあるのは、特定の思想なんぞではなく、何となく復古調のものなら何でも良かった…んじゃないでしょうか。そして、その行状を見るに、先人の言葉や思想はまったく血肉化していないとおぼしく、彼は己の支配欲を正当化するために、先人の言葉を切り張りしたに過ぎない…と、私には感じられます。

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とはいえ――。
中途半端な理解による過去への郷愁…というと、まさにこの「天文古玩」もそうですから、これは大いに他山の石とせねばなりません。


秋、懐かしい級友(とも)の顔2016年09月03日 21時42分49秒

9月となり、季節は秋に。
夏の疲れがどっと出て、今日はこんこんと眠り続けました。

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三省堂池袋本店のナチュラルヒストリエで7月から始まった、「博物蒐集家の応接間 避暑地の休暇」も、8月いっぱいで第1章「旅のはじまり」が終り、新たに第2章「petit musée ~ 天文と好奇心の博物館」がスタートです(第2章は10月28日まで続きます)。

博物蒐集家の応接間 避暑地の休暇
 第2章『 petit musée ~ 天文と好奇心の博物館 』

 http://ameblo.jp/salon-histoire-naturelle/entry-12196055330.html

第1章では、会場の賑やかしに私も少しご協力したのですが、会期終了とともにその物品が返却されてきて、それを見ていると今年の夏もつつがなく終ったなあ…と、しみじみ感じます。

第2章はテーマが天文なので、一見、天文古玩の出番がありそうですが、私の提供する品はすべて非売品なので、むしろこの種のイベントには不適だったりする事情もあるわけです。

それはともかく、明日はしばらくぶりで再会した品を棚に戻すので、そのついでに、今回池袋に出かけた品を一瞥しておきます。


(この項つづく)

首都の週末(6)…博物蒐集家の応接間(後編)2016年07月31日 11時32分42秒

今日も暑い一日。蝉の声が耳を圧するようです。

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先々週の土曜、7月23日は、「博物蒐集家の応接間」のレセプションの日でした(イベント自体は8月いっぱい続きます)。


メルキュール骨董店さんによる幻灯上映会と、それに併せて、私が「19世紀の天文趣味と天文アンティーク」をテーマにおしゃべりするというもので、企画を立てられたantique Salonさんにとっても初めての試みですし、まあ、すべてが流れるように進んだとも言い兼ねますが、それもご愛敬でしょう。

…というか、足を引っ張ったのは他ならぬこの私です。
それでも一参加者として、私自身、当日は大いに愉しみましたし、参加された方々もそうだろうと信じています。主催者側の皆さんと、当日参加された方々に、ここで改めてお礼を申し上げます。

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一夜限りの催しとはいえ、そこにはさまざまな出会いがありました。

主催者側であるpiikaさん(http://www.piika39.com/)のお二人とは、久しぶりにお会いしたのですが、あの飄々とした明るさは一体何なんでしょうね。本当に不思議な方たちです(でも素敵なお人柄です)。

そして、オープニング前に、店舗内をブラブラしているとき、声を掛けていただいた男性。「みくろまくろときどきふうけいの」と名乗られて、一瞬何か呪文めいた感じがしましたが、すぐにそれが「ミクロ・マクロ・時々風景」の意であり、常々敬服している理系ブログの書き手である「ZAM20F2」さんその人であることを知って、本当にびっくりしました。

(勝手キャプチャーご容赦を)

ミクロ・マクロ・時々風景 http://mmlnp.exblog.jp/

ZAM…さんは、「レセプションには出ませんが、ご案内だけでもと思い…」と、翌24日に予定されていた「顕微鏡の会」(私は存じ上げませんでしたが、そういう顕微鏡マニアのディープな会があるのだそうです)の例会案内をお届けくださったのでした。当日は日帰りだったので参加することは叶いませんでしたが、こうしてZAM…さんにお目にかかれただけでも、とても嬉しかったです。

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レセプションは、ナチュラルヒストリエに隣接するセミナールームで行われました。

会場には、メルキュールさんが準備された古い幻灯器と、「ミロスコープ」と呼ばれる写真や絵葉書を(透過光ではなく表面反射光によって)投影する装置が既にセッティングされ、メルキュールさんが余念なく調整されていました。その様子は、piikaさんが動画を添えてツイートされています。
https://twitter.com/piika39/status/756793579641548800

幻灯の上映会というと、正面から白いスクリーンに投影する「フロント・プロジェクション」方式を想像されると思いますが、今回は会場内を十分暗くすることができなかったため、擦りガラスの背後から投影し、それを擦りガラスの手前から鑑賞する「リア・プロジェクション」方式を採用しました。

上で試写しているのは、太陽の周りを地球が回る様子をギアとクランクで再現した「メカニカル・ランタン」です(さらにその周囲を黄道12星座が取り巻いています)。


↑は、動画のものとは異なりますが、同様の仕組みを持ったメカニカル・ランタンの例。↓はギア部分の拡大。


こういう映像を見ながら、私は18世紀末のウィリアム・ハーシェルによる銀河宇宙の探求や、19世紀半ばに分光学と写真術がもたらした天文学の革命的進歩、さらにスペクトル観測のデータから帰結された膨張宇宙論などについて触れ、人々の宇宙イメージが爆発的に進化・拡大を遂げた19世紀の時代相を伝えるべく、熱弁をふるったのです(まあ、全ては聞きかじりの知識であり、せっかくの「熱弁」も、不明瞭な言葉遣いのせいで、要領を得ないものであったことは遺憾に思います。)


また同時に、本格的な産業社会・市民社会の到来によって、19世紀には趣味で天文を楽しむ人が増え、そうした人向けに生み出されたモノを、我々は現在「天文アンティーク」として享受しているのだ…という事実を指摘し、「現在作られている宇宙グッズも、100年後にそうなっているといいですね」と結んだのでした。

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レセプション後も、フジイキョウコさんや、そのお連れの編集者I氏と、立ち話ですがお話しできて、大いに元気をもらいましたし、「ブログを読んでますよ」という奇特な――とても奇特です――若い方に声をかけていただき、同好の士を見出した嬉しさに、思わず興奮してしまいましたが、どうぞ良き蒐集を重ねられますように…と、もしこの一文をご覧になっていたら、改めてお伝えしたく思います。

末筆ながら、「ナチュラルヒストリエ」という趣味性の濃い空間を作り、その運営に尽力されている三省堂書店の担当者の方々にもエールを送ります。常に算盤片手の会社組織の中で、この種の試みはなかなか大変なことだと思いますが、文化の創出・発信という、書店本来の在り方に立ち返り、今後も息の長い取り組みを期待します。

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今日は決戦の舞台となっている首都。
誰が首都の顔となるのかは予断を許しませんが、新知事には、ぜひ人々の暮らしと文化を大切にする街づくりを行なってほしいです。

首都の週末(5)…博物蒐集家の応接間(前編)2016年07月30日 13時30分24秒

この1週間は、ずいぶん長く感じました。
大きな事件が世間を揺り動かし、私自身も揺さぶられました。
それでも、こうして振り返りの時間を持てるのは幸いなことです。

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三省堂池袋本店でのイベントに参加したのは、ちょうど先週の今日でした。

■博物蒐集家の夏休み
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2016/07/16/8132654

あの日は、西荻窪から時計荘さんと連れ立って池袋に行き、西武のデパ地下をうねうねと歩いた末に会場までたどりついたのでした。書店の4階に設けられた「ナチュラルヒストリエ」の空間は、まさに日常の中に突如出現した非日常として、我々を迎えてくれました。


…と言いつつも、その非日常は同時に日常でもあって、何となればその入口に展示されているのは、私が毎日目にしていたものに他ならず、そういう見慣れたものが見慣れぬ場所にあるという奇妙な感覚が、これまた非日常的なのでした。


どうです、立派でしょう。
何と「天文古玩コレクション」ですよ。鼻が高いというか、お尻がムズムズするというか、こんな厚顔無恥ぶりも、非日常に免じて許しを乞うのみです。

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とはいえ、これはいわば店先の演出に過ぎず、今回の催しの核心はこちらです。


旅する博物蒐集家の書斎をイメージした一角。


机の上も、


その脇に置かれた棚も、この部屋の主の心象風景を物語っているようです。
彼は今、旅の空にあるのか、それとも次の旅に備えて想を練っているのか、いずれにしても彼の心が、遠い風景への憧れで満たされていることは間違いないでしょう。

この空間を見れば、いやでもインターメディアテクを思い出さないわけにはいきませんが、両者の最大の違いは、池袋に並んでいる品は、その気になれば、すべてそのまま連れ帰ることができることです。

あれも、これも、そしてあれも…




私はわりと物欲を刺激されやすいので、こういう空間に長時間身を置くことは危険です。でも、人間には、あえて危険を承知で行動しなければならないときもあるのです。

(この項つづく。次回は印象深い出会いとレセプションの話。)

首都の週末(3)…星の子ども(前編)2016年07月28日 21時21分51秒

東京駅から西荻窪に向う途中で道に踏み迷いましたが、元の地点に戻ります。

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袖触れ合うも他生の縁」と言いますが、長く生きていると、本当にそうだな…と感じることが多々あります。

西荻窪で「星の子ども」展を開催されたとこさん(以下、TOKOさん)や、この日、西荻窪から池袋までずっとお付き合いいただいた時計荘のzabienaさん(以下、時計荘さん)とも、文字通り袖が触れ合ったことから、言葉を交わすようになったのでした。

10年前、東大総合研究博物館で、もし床しい和服姿のTOKOさんを見かけなかったら…。あるいは3年前、初めて訪れたcafeSAYAで、偶然時計荘さんと相席にならなかったら…。 これぞまさに縁というものでしょう。

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そのTOKOさんの個展については、以下に既報です。


駅で時計荘さんと落ち合い、ギャラリー cadoccoの前まで来ると、既に会場は多くの先客でにぎわっていました。展示の様子は、ギャラリーの特設ページでも見ることができますが、壁面にはペン画や水彩画の原画がずらりと並び、それらもTOKOさんの画業のほんの一端に過ぎないので、20年の厚みはやはりすごいです。

(時計荘さんに頂いた「時計荘×シャララ舎」作、蛍石の琥珀糖。右は本物の蛍石。)

お客さんも多く、あまりお邪魔してもいけないので、久闊を叙したあと早々に会場を後にし、時計荘さんと駅前の昭和な喫茶店で四方山話をしてから、いっしょに池袋に向った…というのが、この日の行程でした。

それにしても、お二人とも元気だなあ…と、心底思いました。
私に羨ましがられても、別に嬉しくはないでしょうが、でも羨ましかったです。

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この日の思い出に、ここでもモノにこだわって、いろいろ購入させていただきました。



(モノを交えつつ、おもむろにこの項つづく)

首都の週末(1)…インターメディアテク(前編)2016年07月24日 20時50分06秒

味のある一日であった。
…昨日経験したさまざまな出来事を、そう総括したいです。

時間にすれば一日、いやわずか半日のことですが、人間によって生きられる時間は、物理的時間以上に伸縮・濃淡に富むものです。そして、昨日は大いに時間が濃くかつ長く感じられました。

昨日出かけた主目的は、既報のごとく、池袋のナチュラルヒストリエで開催中の「博物蒐集家の応接間」のレセプションに出席することでしたが、そこに至るまでにも、いろいろなプレ・イベントがあったので、ゆるゆると流れに沿って振り返ることにします。

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東京駅に着いたら、何はともあれ、インターメディアテクを訪ねなければなりません。
一途にそう思いこんだわけは、昨年10月から始まった「ギメ・ルーム開設記念展“驚異の小部屋”」を見たかったからです。

「驚異の小部屋」と名付け、インターメディアテクという巨大な驚異の部屋の中に、さらに小さな驚異の部屋が作られているという、一種の入れ子構造が面白いのですが、この「小部屋」は、デザインがまた良いのです。

インターメディアテクは相変わらず写真撮影禁止なので、その様子は下のページに載っている写真を参照するしかありません。

■大澤啓:ギメ・ルーム開設記念展『驚異の小部屋』
  「展示法」の歴史と交流―フランス人蒐集家エミール・ギメ由来の展示什器と
 その再生

 http://www.um.u-tokyo.ac.jp/web_museum/ouroboros/v20n2/v20n2_osawa.html
 (画像だけならば、手っ取り早くこちらで)

赤を基調としたメイン展示室とは対照的な、この浅緑の空間は、実に爽やかな印象を与えるもので、ヴンダーカンマー作りを目指す人に、新たなデザインの可能性を示唆するものでしょう。

(赤を基調としたメイン展示室。『インターメディアテク―東京大学学術標本コレクション』(平凡社)より)

…と、デザイン面だけ褒めるのも変ですが、実際、この展示室の目玉は、個々の展示物よりも、それを並べているフランス渡りの古風な什器(19世紀のフランス人実業家、エミール・ギメが自分のコレクションを展示するために誂えたもの)であり、それを配した「展示空間」そのものが展示物であるという、これまた奇妙な入れ子構造になっているのでした。

私は小部屋に置かれたソファに腰をかけ、展示されている「空間」を堪能しつつ、「ヴンダーカンマーとは実に良いものだ」と、今さらながら深く感じ入りました。

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そして、これは全く知らずに行ったのですが、現在、特別展示として『雲の伯爵――富士山と向き合う阿部正直』というのをやっていて、これまた良い企画でした。

特別展示 『雲の伯爵――富士山と向き合う阿部正直』
 http://www.intermediatheque.jp/ja/schedule/view/id/IMT0108

「雲の伯爵」というのは修辞的表現ではありません。
本展の主人公、阿部正直(1891-1966)は、華族制度の下、本物の伯爵だった人で、その家筋は備後福山藩主にして、安政の改革を進めた老中・阿部正弘の裔に当ります。


阿部は帝大理学部で寺田寅彦に学び、1923年には1年間ヨーロッパを遊学。1927年、御殿場に「阿部雲気流研究所」を設立し、本郷西片町の本邸内にも実験室を作り、富士山麓をフィールドとした雲の研究に専心しました。

…というと、何だか気楽な殿様芸を想像するかもしれませんが、阿部は戦後、中央気象台研究部長や気象研究所長を歴任しており、その学殖の確かさを窺い知ることができます。

(阿部正直が撮影した山雲の写真。藤原咲平・著『雲』(岩波書店)所収。『雲』は日本の代表的な雲級図(雲の分類図)で、初版は1929年に出ましたが、阿部の山雲写真は、1939年の第4版から新たに収録されました。)

展示の方は、阿部の研究手法の白眉といえる、様々な光学的記録手段――雲の立体写真や、映画の手法を用いた雲の生成変化の記録などをビジュアルに体感できるものとなっています。

(同上)

広大な富士の裾野、秀麗な山容、その上空に生じる雲のドラマ。
想像するだに胸がすくようです。

(同)

上で殿様芸云々と言いましたが、潤沢な資金を用いた阿部の研究は、まさに「殿様」ならではのものであり、その研究を殿様芸と仮に呼ぶならば、その内でも最良もの…と言ってよいのではないでしょうか。

(この項つづく)

博物蒐集家の夏休み2016年07月16日 13時58分57秒

雨模様なのに、蝉が盛んに鳴いています。
今鳴かなければ、他に鳴くときが無いことを知っているかのようです。
日本だけでなく、世界中が揺れ動き、流動化していますが、窓から見える景色はひどく静かです。

   ★

昨日につづき、夏休み向きのイベントのご紹介。


机上のDMに目をやれば、これまた本ブログではお馴染みの『博物蒐集家の応接間』の文字が。


神出鬼没の企画ですが、今回は東京池袋の三省堂書店が会場です。

■博物蒐集家の応接間――避暑地の休暇 旅の始まり
○会期 2016年7月20日(水)~8月31日(水)
      10:00-22:00 (年中無休)
○会場 三省堂書店池袋本店 4階 Naturalis Historia(ナチュラルヒストリエ)
      東京都豊島区南池袋1-28-1
      アクセスMAP http://ikebukuro.books-sanseido.co.jp/access
○参加ショップ
      Landschapboek(ランスハップブック)、piika(ピィカ)、dubhe(ドゥーベ)、
      メルキュール骨董店、antique Salon
○公式ページ http://ameblo.jp/salon-histoire-naturelle/

   ★

第5回を迎える今回のテーマは、避暑地の休暇、そして旅。


鞄ひとつ手に、避暑地に向った博物蒐集家の夏の思い出。
物憂げな瞳と、孤独な背中の持ち主である彼は、そこで何を目にし、何を手に入れるのか。豊かな自然と匂い立つような生命。かりそめの出逢いと別れ。

   ★

今回は、私も会場のディスプレイで少し協力します。
それと7月23日(土)の夕方には、「天文趣味と天文アンティーク」の題目で、少しお話しする時間を作っていただきました(申込みはすでに終了の由)。

当日まであと1週間を切ったのに、まだ話の内容が決まってないという、実にゆるゆるな企画ですけれど、メルキュール骨董店さん秘蔵の幻燈器を使って、古い天体スライドを投影したりしながら、天文アンティークの魅力について、ぼそぼそと語る予定です。

せっかくの夏休みですから、何事も鷹揚にいきましょう。

夏、標本、鉱石2016年07月15日 22時01分52秒

ピンクの百日紅が咲き、紅い夾竹桃が咲き、
その脇を「暑い、暑い」と言いながら出勤する毎日です。
でも、私は基本的に夏が好きなので、そんなに口で言うほど苦ではありません。

そして来週からは、いよいよ夏休み。
夏休み向きの企画が、既にいろいろ始まっています。

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横須賀美術館では、「標本」をテーマにした美術展が開催中。


自然と美術の標本展――「モノ」を「みる」からはじまる冒険
○会期 2016年7月2日(土)~8月21日(日)
      10:00-18:00  (7月4日(月)、8月1日(月)は休館)
○会場 横須賀美術館(http://www.yokosuka-moa.jp/index.html
      神奈川県横須賀市鴨居4-1
      アクセスMAP http://www.yokosuka-moa.jp/outline/index.html#02
○出品参加
      江本創、鉱物アソビ・フジイキョウコ、橋本典久、原田要、
      画材ラボPIGMENT、plaplax、山本彌  (フライヤー掲載順) 
○公式ページ http://www.yokosuka-moa.jp/exhibit/kikaku/1602.html


フライヤーの解説に目をやると、「自然をテーマに、標本や自然を題材にする現代作家の作品」と、「横須賀市自然・人文博物館が所蔵する岩石や昆虫、植物などの標本」を取り合わせることで、「美術館と博物館という境界を越え、「モノ」を「みる」という純粋な行為に身を投じてみてはどうでしょう」と誘いかける企画です。

近年の博物ブームと、それをアートの文脈に位置づける試みが、公立美術館でも大規模に行われるようになった点で、この試みは大いに注目されます。
そしてまた、これまで主に「鉱物趣味の多様化」の文脈で語られてきたフジイキョウコさんの活動が、明確に<現代美術>の営みとして捉えられたことも、鉱物趣味の歴史を語る上で、画期的な出来事と思います。

   ★

さらに、フジイさん以外の方の作品も、興味を激しく掻き立てられます。


超高解像度人間大昆虫写真。
リアルといえば、これほどリアルなものもないですが、リアルを突き抜けた一種の幻想性が漂っています。


江本創氏による幻獣標本。
こちらは逆に幻想にリアルを注入した作品です。
氏の作品は、これまで写真等で見る機会はありましたが、残念ながらその現物を目にしたことはないので、機会があればぜひ直接拝見したいです。

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フジイさんからいただいたご案内には、これまた嬉しいDMが同封されていました。

鉱物Bar (vol. 9) Alchemy ~錬金術~  結晶が科学反応をおこす夜
○会期 2016年8月12日(金)~8月21日(日) 月・火休み
      15:00-21:00 (8月20日、21日は20:00まで)
○会場 ギャラリーみずのそら(http://www.mizunosora.com/index.html
      東京都杉並区西荻北5-25-2
      MAP http://www.mizunosora.com/map.html
○参加メンバー
      鉱物アソビ(鉱物標本)、piika(博物系アンティーク)、
      coeur ya.(アクセサリー)、cineca(鉱石菓子)、彗星菓子手製所(同)、
      なの(同) 
○公式ページ http://www.mizunosora.com/event200.html


「鉱石(イシ)をみながら酒をのむ」
――この文字を目にする季節が、ついにまた巡ってきたのです。

鉱物とアンティーク、そして鉱物にちなんだリキュールとお菓子。
美しく不思議なモノを眺め、それにまつわる物語を聞きながら、舌の喜びを味わう。
何と贅沢な宵の過ごし方でしょう。

今回のテーマは、「Alchemy 錬金術」です。

わりと近い過去まで、鉱物趣味の徒は、高価な光学機器に頼ることなく、劈開を調べ、条痕の色を見、石同士をすり合わせて硬度を決定し、いくつかの試薬や吹管による化学分析を行うという、どちらかといえば素朴な手段によって、鉱物を同定していたと聞きます。

こうした化学分析の営みこそ、8世紀のアラビアの錬金術師ジャビール・イブン・ハイヤーンから、16世紀のパラケルススへと至る、正統派錬金術の直系の子孫というべきものです。

透明な鉱物の向うに、自然を構成する始原の存在を思いつつ、アラビア科学の精華たる「アルケミー」と「アルコール」を併せて堪能する。今回の愉しみのひとつは、そこにあると想像します。

星の子ども2016年07月14日 06時53分55秒

いろいろなことが次々に起こる中、人との結びつきに救われることが多いです。
そして、私は「縁(えん、えにし)」というものを、言葉の綾ではなく、現に在るものとして感じる傾向が強いです。

   ★

ささきさhttp://www.junk-club.net/)――私には以前の「我楽多倶楽部」の方が耳に親しいですが――として制作活動をされているTOKOさんとは、10年前に東大の総合研究博物館で偶然お会いして、あれこそまさに「縁」というものだろうと、今でも不思議に思っています。

TOKOさんの描く世界は、どこか遠くで風の音が聞こえるような、静かな澄んだ世界です。そして作品の主要なモチーフにしても、そこに漂う情調にしても、理科趣味との結びつきが強固です。

そうした世界を追求される作家さんは、その後ずいぶん増えたように思いますが、TOKOさんの創作活動は、10年どころか20年に及ぶとお聞きし、その持続力と尽きせぬ内面の豊かさに驚くほかありません。

そのTOKOさんの創作活動20周年を記念する個展が、来週から始まります。


■星の子ども / TOKO 20th anniv. exhibition

○会期 2016年7月22日(金)~26日(火)
     12:00-19:00 (22日のみ17:00開場)
○会場 gallery cadocco(http://cadocco.jimdo.com/
    東京都杉並区西荻北3−8−9
    (最寄駅:JR中央線・西荻窪 MAPhttp://cadocco.jimdo.com/about-1/
○公式ページ http://www.junk-club.net/2016/

今や「老舗」の貫禄…というと、TOKOさんの軽やかさに照らして、ちょっと違和感がありますが、とにもかくにも20年という歳月を経て、一人の表現者の中で何が変わり、何が変らないのか、おそらく作者ご自身にとっても、多くの気づきを得られる催しではないかと、傍から推察しています。

(TOKOさんが「ルーチカ」名義で制作されたミニチュア星座早見盤ほか)