「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展によせて(5)…薬草学(下)2021年09月24日 17時53分17秒

書いていてちょっと疲れてきました。
思うに、ハリー・ポッター展にかこつけて手元の品を紹介しても、それで何か新しい事実が明らかになるわけでもないし、ポッター展の見方が深まるわけでもないので、そろそろ羊頭狗肉的な記事は終わりにしなければなりません。

ただ、ポッター展に触発されて、身辺に堆積したモノを眺めるとき、「はるけくも来たものかな…」と、個人的には感慨深いものがあります。(そして本の虫干しもできたわけです。)

   ★

感慨といえば、「薬草学」の章の冒頭に登場した、ニコラス・カルペパー『英語で書かれた療法と薬草大全(English Physician and Complete Herbal)』、あれも個人的には思い出深い本です。手元の一冊は、7年前の冬にペンシルバニアの古書店から購入したものですが、その店主氏の困苦を思いやって以下の記事を書いたのでした。

何とてかかる憂き目をば見るべき

彼は今どうしているのだろう…と思って、(余計なお世話かもしれませんが)検索したら、お店は無事に存続しているようで、大いにホッとしました。良かったです。

   ★

虫干しついでに、本の中身も見ておきます。
手元にある本は第1巻の標題ページが欠けており、正確な刊年は不明ですが、1794年ごろの版のようです。

(第1巻といっしょに綴じられた第2巻の標題ページ)


内容は上のような解説編と、さらに図版編からなり、解説編の方はイギリス国内向けに、植物名がラテン語ではなく、すべて平易な英語名になっているのが特徴です。その名称も「犬の舌」とか「聖ヨハネの麦芽汁」とか、いかにも民俗的な面白さがあります。和名を当てれば、それぞれ「オオルリソウ」と「セイヨウオトギリソウ」で、特に後者は非常にポピュラーな薬草です。



図版編の方は、上のような小さな植物図を収めたプレートが全部で29枚含まれていて、なかなか見ごたえがあります。


さらにその後ろに、朱刷りで解剖学の知識を伝える図が全11枚つづきます。


この本は、いわば当時の『家庭の医学』であり、18世紀の一般人の医学知識がどんなものだったかを知る意味でも、興味深いものがあります。


そして最後の1枚は、12星座と身体各部の対応関係を示す、古風な「獣帯人間」の図。19世紀を前にしても、まだまだミスティックな疾病観は健在で、本書がハリー・ポッター展に登場する資格は十分にあります。

そういえば、著者のカルペパーは薬剤師免許を持たなかったので、ロンドンの医師会と衝突し、1642年に魔術を使った廉で裁判にかけられた…というエピソードが、展覧会の図録に書かれていました。(結局無罪になったそうです。)

   ★

以下、補足のメモ。昨日の文章に、「ヨハン・シェーンスペルガー(Johann Schönsperger the Elder、1455頃-1521) が手がけた、『健康の庭(Gart der Gesundheit)』」という本が出てきました。記事を書いてから気づきましたが、ハリー・ポッター展では、この本は「魔法薬学」のコーナーに登場しています。

(チラシより)

ただし、チラシにはヤコブ・マイデンバッハという名前が挙がっており、また図録には『Hortus Sanitatis』というタイトル――同じく「健康の庭」という意味のラテン語です――が記されています。

書誌がややこしいですが、シェーンスペルガー(別名 ハンス・シェーンスバーガー)は、1485年に出たアウグスブルク版(ドイツ語版)の版元であり、マイデンバッハは、1491年に出たマインツ版(ラテン語版)の版元です。

そして、この二つの『健康の庭』は内容がちょっと違っていて、ラテン語版はドイツ語版をタネ本にしつつも、そこに動物や鉱物由来の薬物を大幅に増補したものです(ドイツ語版は薬草専門)。まあ著作権のない時代ですから、そういう図太いパクリ本も横行したのでしょう。

   ★

まだまだ関連して触れたい本はありますが、冒頭で書いたように、強いてハリー・ポッター展と絡める必然性は薄いので、それらは折を見て、また単品で扱いたいと思います。(錬金術や、魔法生物の話題もちょっと手が回りかねるので、今回は割愛します。例によって例のごとく竜頭蛇尾也。)

(この項おわり)

「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展によせて(4)…薬草学(中)2021年09月23日 12時13分34秒



昔の本草書の破片たち。破片だけでは、ものの役に立ちませんが、当時の雰囲気を味わうにはこれで十分です。ちょっとしたホグワーツ気分ですね。そしてまた時代を追って見ていくと、学問や印刷技術の進歩が見て取れて、なかなか興味深いです。


これが昨日いった「インキュナブラ」の例で、1485年にヨハン・ペトリ(Johan Petri、1441-1511)が出版した『Herbarius Pataviae』(「パドヴァ本草」と訳すのか)の残欠。

いかにも古拙な絵です。この挿絵で対象を同定するのは困難でしょう。
キャプションには、ラテン名は Fraxinus、ドイツ名は Espenbaum とあります。でも前者なら「トネリコ」(モクセイ科)だし、後者の espen は aspen の異綴で、「ヤマナラシ、ポプラ」(ヤナギ科)の由。確かに葉っぱはポプラっぽいですが、トネリコにしろポプラにしろ、背丈のある樹木ですから、こんなひょろっとした草の姿に描かれるのは変です。下の説明文を読めば、その正体が明らかになるかもしれませんが、この亀甲文字で書かれたラテン語を相手に格闘するのは大変なので、これは宿題とします。

ちなみに、この1485年版の完本(ただし図版1枚欠)が、2014年のオークションに出た際の評価額は、19,200~24,000ユーロ、現在のレートだと約250~300万円です(結局落札されませんでした)。もちろん安くはないですが、同時代のグーテンベルク聖書が何億円だという話に比べれば、やっぱり安いは安いです。そして150枚の図版を含んだ本書が、1枚単位で切り売りされたら、リーズナブルな価格帯に落ち着くのも道理です。


こちらも1486年に出たインキュナブラ。ヨハン・シェーンスペルガー(Johann Schönsperger the Elder、1455頃-1521) が出版した、『健康の庭(Gart der Gesundheit)』の一部で、描かれているのはベリー類のようですが、内容未確認。

この風情はなかなかいいですね。中世とまでは言えないにしろ、中世趣味に訴えかけるものがあります。「いい歳をして中二病か」と言われそうですが、ここはあえて笑って受け止めたいです。

   ★

これが100年経って、16世紀も終わり近くになると、植物の表現もより細かく正確になってきます。


アダム・ロニチェル(Adam Lonicer、1528-1586)が著した『草本誌(Kräuterbuch)』の1582年版より。これなら種の同定もできそうです。

(同書の別のページ。本書は6葉セットで買いました)

また図版の配置も整い、本の表情がいかにも「植物図鑑」ぽいです。植物図譜にも近代がやってきた感じです。


上はフォリオサイズの大判図譜の一部。イタリアのマッチョーリ(Pietro Andrea Mattioli、1501-1577頃)による、『Medici Senensis Commentarii』(これまたよく分かりませんが、「シエナ医学注解」とでも訳すんでしょうか)の1572年版(仏語版)より。

ここには植物(※)を慕う虫たちの姿が描かれていて、生態学的視点も入ってきているようです。後の植物図譜にも、虫たちを描き添える例があるので、その先蹤かもしれません。

(※)左側は「Le Cabaret」、右側は「Asarina」とあります。
キャバレーは、今のフランス語だとパブやナイトクラブの意らしいですが、植物名としては不明。見た目はナスタチウム(金蓮花)に似ています。アサリナは金魚草に似た水色の花をつける蔓植物とのことですが、これもあまりそれっぽく見えません。あるいはカンアオイ(Asarum)の仲間かもしれません。

(珍奇な植物がどんどん入ってきた時代を象徴するサボテン)

   ★

ハリー・ポッター展から離れてしまいましたが、会場に並んでいるのも、要は“こういう雰囲気”のものです。会場に行けない憂さを、こうして部屋の中で晴らすのは、慎ましくもあり、人畜無害でもあり、休日の過ごし方としてそう悪くはないと信じます。

(さらに「下」につづく)

「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展によせて(3)…薬草学(上)2021年09月22日 21時39分24秒


(チラシより)

ここでも図録の内容をまず列記しておきます。

ニコラス・カルペパー『英語で書かれた療法と薬草大全』(1789)
※初版は1652年。薬草の薬効と用法を網羅し、100以上の版が出た大ベストセラー。J.K.ローリングも、執筆の際に参考としたそうです。)
動物の角と骨で作られた播種・収穫用具
(※毎年生え変わる角を使うところに、呪術的意味合いがありました。)
12世紀の写本に描かれたベニバナセンブリ(※蛇に噛まれたときの薬です)
15世紀の写本に描かれたニワトコ(※これも対蛇薬)
ジョン・ジェラード『薬草書あるいは一般植物誌』(1579)所載、ヨモギニガヨモギ
レオンハルト・フックス『植物誌』(1542)所載、クリスマスローズの仲間
エリザベス・ブラックウェル『新奇な薬草』(1737~39)所載、ニワトコ
14世紀のアラビア語写本に描かれた雌雄のマンドレイク
ジョバンニ・カダモスト『図説薬草書』(15世紀)に描かれたマンドレイク
マンドレイクの根(16~17世紀)
○和書『花彙』(1750)所載、コンニャク(※シーボルト旧蔵書)
○華書『毒草』(19世紀)所載、タケニグサ


点数が多いですが、大半は昔の薬草書(本草書)です。
登場する薬草も様々ですが、ハリー・ポッターでも人気のマンドレイクは、とりわけ力を入れて紹介されています。

(図録の一部を寸借します)

これらの本草書を彩る古拙な挿絵は、いかにも魔法学校の授業に出てきそうな雰囲気があります。

ただ冷静に考えると、写本の時代はともかく、印刷本の段階に入ると、こうした薬草書は、人々の切実な需要にこたえるものとして、出版点数も多ければ、その刷り部数も非常に多かった気配があります。したがって、同時代人にとっては「秘密の書」というよりも、むしろ「ありふれた実用書」だったんじゃないでしょうか。

門外漢ながらそう思ったのは、その残存数であり、その価格です。
15~6世紀の本草書の「零葉」、つまり1ページずつバラで売っている紙片は、今も市場に大量に出回っており、気の利いた彩色ページでも、たぶん数千円ぐらいでしょう。

上で「15世紀」と書きましたが、1400年代に出た書物は、古書の世界では特に「インキュナブラ」(揺籃期出版物の意)と呼んで珍重しますが、本草書はそのインキュナブラであっても、零葉ならばやっぱりリーズナブルな価格帯に落ち着きます。これは出版部数の多さの反映であり、活版印刷が始まって、出版工房が最初にフル回転したジャンルのひとつが本草書だったんじゃないかなあ…と、資料に当たって調べたわけではありませんが、そんなふうに想像しています。

   ★

薬草学(本草学)は薬学の一分科であり、大雑把にいうと医学分野です。
同時に、本草学のその後の発展を考えると、これは植物学の母体だともいえます。
以前、この二つの興味に導かれて、古い本草書に手を伸ばした時期があって、ちょうど良い折なので、ハリー・ポッター展に便乗して、それらを眺めてみます。

(この項つづく)

「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展によせて(2)…天文学のこと2021年09月20日 09時14分40秒

昨日、部屋の中でゴキブリを見かけ、殺虫剤を噴きかけたものの、逃げられました。あれがまだ部屋の中にいるのかいないのか、死んだのか生きているのか、シュレディンガー的な状態で、ずっと落ち着きません。別にゴキブリが怖いわけではないんですが、ゴキブリは本でも標本でもかじるので、私の部屋では最大のペルソナ・ノン・グラータ、要注意人物です。ここしばらくは警戒が必要です。

   ★

ゴキブリの話がしたいわけではなくて、ハリー・ポッター展の話です。
図録を見ての感想を書きつけたいのですが、図録そのものをここに載せるのは幾分遠慮して、話の都合上、その展示構成だけ述べておくと、「天文学」の章に登場するのは以下の品々です。こういった品々で、ホグワーツでの天文学の授業を偲ぼうというわけです。

●12世紀の写本から採った「おおいぬ座」の図(※シリウス・ブラックにちなみます)
●太陽・月・地球の配置を描いた、レオナルド・ダ・ビンチの手稿(1506~8頃)
●アラビア製のアストロラーベ(1605~06)
●ケプラーが著した『ルドルフ星表』(1627)(※彼の母親は魔女として捕えられました)
●ドイツのドッペルマイヤーが作った天球儀(1728)
●愛らしい星座絵カード「ウラニアの鏡」(1834)
●ジェームズ・シモンズ作の見事な大太陽系儀(1842)

(チラシより)

この展示構成で気になるのは、「占星術」の話題がまったく出てこないことです。
この展覧会には「天文学」とは別に「占い学」の展示もあるのですが、占星術はそちらにも登場しないので、結局、占星術の話題はゼロです。天文学と占星術の歴史的関係からしても、またハリー・ポッターの世界観からしても、占星術を抜きに語るのは、ちょっと不自然な感じはあります。

(ただ、今の目から見ると占星術はいかにも魔法っぽいですが、近代以前はオーソライズされた学問体系として、むしろ公的な性格のものでしたから、怪しげな魔術師風情といっしょにしないでくれよ…と、昔の占星術師なら思ったかもしれません。)

   ★

考えてみると、ハリー・ポッターと天文学の話題は、相当微妙ですね。
魔法使いたち御用達の「ダイアゴン横丁」では、惑星の運行を表す太陽系儀(オーラリー)が、教材として昔から売られているといいます。でも、オーラリーと魔法はどう関係するのか?

(ジョセフ・ライトが描いたオーラリー実演の光景。「A Philosopher Lecturing on the Orrery」、1766頃)

上の有名な絵も、一見したところ妖しい印象を受けます。
でも実際には真逆で、ニュートンが発見した万有引力の法則によって、天体の運行が見事に説明されるようになったこと、言い換えれば世界から魔術めいたものが一掃されたことを誇っている絵です。要は18世紀の啓蒙精神を鼓吹する絵ですね。

そればかりではありません。作品中には、ハーマイオニーがハリーとロンをたしなめて、次のように言う場面があって、図録でも引用されています。

 「木星の一番大きな月はガニメデよ。カリストじゃないわ…それに、火山があるのはイオよ。シニストラ先生のおっしゃったことを聞き違えたのだと思うけれど、エウロパは氷で覆われているの。子ネズミじゃないわ…。」

…ということは、魔法学校で講じられる天文学は、ルネサンスの手前で止まっているわけでは全然なくて、むしろ惑星探査とか最新の知識に基づいて行われているらしいのです。当然、天体力学や、さらには一般の物理学も踏まえた上でのことでしょう。

さてそうなると、通常の物理法則に従わない、自分たちの魔法・魔術というものを、彼らはどのように説明・理解しているのか?

もちろん、ファンタジーにそうした理屈は不要と割り切ってもいいのですが、こういう展覧会をやるとなると、その辺の接合が少なからず難しいなあ…ということを感じました。

(これもチラシより。それと図録の一部をやっぱり載せてしまいます)

「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展によせて(1)2021年09月18日 15時10分47秒

今年、古書検索サイトのAbeBooks が創設25周年を迎えたのにちなんで、これまでに同社が扱った「最も高額な本ベスト25」というのが発表されているのを、偶然目にしました(ページリリースは今年の6月です)。

それによると、『不思議の国のアリス』のアメリカ版初版(1866)が3万6000ドルで第21位に入る一方、それをわずかに抑えて、『ハリー・ポッターと賢者の石』の初版が3万7000ドルで、第20位に食い込んでいました。さらに、作者J.K.ローリングのサイン入り「特装版ハリー・ポッターシリーズ全7巻」は、3万8560ドルで第19位。やはりハリー・ポッターは大したものです。(それでもトールキンにはかなわず、『ホビットの冒険』初版(1937)は、実に6万5000ドルで堂々の第3位です。)

   ★

神戸で「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展が始まって、1週間が経ちました。
前回の記事【LINK】を書いた後、結局展覧会の図録を購入しました(兵庫県立美術館のミュージアムショップに注文したら、翌日届きました)。何かものを言うにしても、図録ぐらいは見てないといけない気がしたからです。

まず私が気になっていたその中身について、最初に確認しておきます。
既述のとおり、この「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展は、大英図書館で2017年に開催された同名の展覧会を引き継いで、その国際巡回展の一環として開かれているものです。そして英国展の際の図録は、すでに邦訳が出ています。

(左:英国展図録・邦訳版、右:今回の日本展図録)

表紙からして微妙に違いますが、日本展図録の末尾にはこう注釈が入っています。

 「本書は、大英図書館「ハリー・ポッターと魔法の歴史」展図録(日本語版、2018年)を、「ハリー・ポッターと魔法の歴史」日本巡回展(2021~2022年)に合わせ一部内容を改訂・増補したもので、掲載図版と展示作品が一致しない場合があります。ご了承ください。」

英国展図録の邦訳版は持ってませんが、そのオリジナルはネットで読めるので、それと今回の日本展図録を比べてみたところ、以下のことが分かりました。

まず日本展図録には、冒頭に日本展の担当学芸員(兵庫県美の岡本弘毅氏、東京ステーションギャラリーの柚花文氏)による解説文が挿入されています。

それ以降の章立ては両者同一ですが、各章の図版と文章については、日本展の図録では、割愛されている部分が少なからずあります。その一方で、日本展だけに見られるものも少数ながら存在します。あるいは英国展に登場した、ジョン・トロートン製のオーラリー(太陽・地球・月の回転モデル)の代わりに、日本展ではジェームズ・シモンズ製のグランド・オーラリー(太陽・地球・月に加え、他の惑星も回転します)が登場するなど、微妙な違いもあります。

これは上の注釈にもあるとおり、おそらく実際の展示内容の違いを反映したもので、日本展は独自の要素を含みつつ、全体としては英国展より小ぶりになっているのでしょう。

   ★

(チラシも一緒に送ってくれたので、行かないけれども行った気分)

で、改めて図録を見ながらの感想ですが、個々のテーマ、たとえば天文学とか、薬草学とか、錬金術とか、このブログにも少なからず関係するテーマについて、その扱いがやや食い足りないのは否めません。でも、逆にそれぞれのテーマが「食い足りる」ものだったら、見ているうちにすぐお腹いっぱいになって、最後まで見て回れないかもしれません。

それに、これは基本的に「ハリー・ポッター展」なのですから、そこは割り引いて考える必要があります。まあ、ハリー・ポッターと関係があってもなくても、大英図書館所蔵の貴重資料をじかに拝めるなら、それだけでも良しせねばなりません。

(以下、各論につづく)

「ハリーポッターと魔法の歴史」展を覗き見る2021年09月10日 06時12分54秒

明日、9月11日から神戸の兵庫県立美術館で、「ハリーポッターと魔法の歴史」展が開催されます。

(兵庫県立美術館公式サイト

上に記された、その概要を転記すると、

日本で開催される大英図書館史上初の国際巡回展!
イギリスの国立図書館である大英図書館(British Library)は、世界で最も優れた研究図書館の一つです。250年以上をかけて収集されてきたコレクションは1億7000万点に上り、いずれも有史以来のさまざまな時代の文明を代表する資料です。本展は、大英図書館が2017年に企画・開催した展覧会“Harry Potter: A History of Magic”の国際巡回展です。大英図書館の大規模な展覧会が日本に巡回するのは初めてであり、その充実したコレクションの一端をご覧いただける絶好の機会となるでしょう。

…ということで、これは小説「ハリー・ポッター」の展覧会であると同時に、そこで描かれた「魔法・魔術」を切り口に、大英図書館が所蔵する数々の貴重資料を展観するという、大いにそそられる内容です。

日本での展示も、イギリス本国でのそれをなぞる形で、以下の10の小テーマに沿った展示構成になっています。

第1章 旅
第2章 魔法薬学
第3章 錬金術
第4章 薬草学
第5章 呪文学
第6章 天文学
第7章 占い学
第8章 闇の魔術に対する防衛術
第9章 魔法生物飼育学
第10章 過去、現在、未来

このうち、「魔法薬学」「薬草学」が何となくダブって感じられますが、英語だと前者は「portion 水薬」で、薬草に限らず、ありとあらゆる材料をグツグツ煮たり、蒸留したりして薬液をこしらえる作業、後者は「Herbology 本草学」で、広く植物を採集したり分類したりする作業に重点があるようです。

   ★

コロナ禍の下では、なかなか会場に行くのも大変ですが、同好の方のために、以下に情報を整理しておきます。

【会期と会場】

本展覧会は、明日からの兵庫会場(9月11日~11月7日)と、12月からの東京会場(12月18日~3月27日)の2箇所を巡回します。

詳細は兵庫会場と東京会場を束ねる、「特別展 ハリーポッターと魔法の歴史」の公式サイト↓から確認できます(公式サイトがいくつもあってややこしいですが、きっと権利関係も錯綜しているのでしょう)。

(展覧会公式サイト https://historyofmagic.jp/


【内容詳細を見るには】

直接会場には行けないが、そのあらましだけでも見たいと思った場合どうするか?
その一部は、以下の兵庫県美のサイトでも触れられていますが、


ただ、これは本当にさわりだけなので、不全感が残ります。

そこで登場するのが、先日も話題にしたGoogle Arts & Culture です。
そこには、2017年にイギリスで展示されたときの内容が、大英図書館自身の手によって、要領よく紹介されています。
下のページに並ぶ「10個のストーリー」というのがそれで、それぞれハリー・ポッター展の10の小テーマに対応しており、今回日本で展示される品も、ほぼ同様のはずです。



【図録について】

さらにそれを補強するものとして、「図録」があります。
兵庫県美のサイトを見ると、以下の記載があって、図録は今後一般書店でも(たぶんアマゾンでも)購入できるようです。

図録販売のご案内
「ハリーポッターと魔法の歴史」開催期間中、当館ミュージアムショップ(1階)及び展覧会場特設ショップ(3階)において、限定価格で販売しています。
ハリーポッターと魔法の歴史展図録は、一般書店で通常価格2800円で販売されています。

なお、これもややこしい話ですが、英国展の際に編まれた図録がすでに邦訳されて、『ハリー・ポッターと魔法の歴史』(静山社、2018年)として、販売されています(アマゾンでも買えます)。

(今日の画像はこの不死鳥ばっかりですね)

ただし、こちらは定価5,280円の豪華本で、今回の図録とは別物だそうです(兵庫県美に確認しました)。ただし、お値段からいって、こちらの方が内容的には充実してるんじゃないでしょうか(この点は未確認です)。

そして、ここが重要ですが、その原書である『Harry Potter - A History of Magic: The eBook of the Exhibition』は、アマゾンのKindle価格1,090円、しかもKindle Unlimited会員なら0円で読むことができます。

(アマゾンの該当ページにリンク

結局のところ、どうやらネットで見られる情報だけでも、何となく会場に行った気分にはなれそうなので、私の場合、それで満足しようと思います。

   ★

今日はとりあえず外形的なことに終始しましたが、展覧会の内容については、また別にコメントするかもしれません。それにしても、本当に魔法があったらなあと、コロナを前に思うことしきりです。

アドラーのヴァーチャル展示2021年09月04日 10時32分28秒

Googleが世界中の美術館・博物館と連携して、ヴァーチャル展示会を提供している、「Google Arts & Culture」というサービスがありますが、その中にシカゴのアドラー・プラネタリウムが、テーマを決めて自館の収蔵品をあれこれ紹介しているページがあるのに気づきました。


Google Arts & Culture :Adler Planetarium のトップページ

アドラー・プラネタリウムのコレクションは、いわゆる天文アンティークに類する品を含め、広く古今東西の天文関連の文物を対象にしているので、バラエティ豊かで、目で見て楽しいです。しかも、ヴァーチャル展示は、ほんのさわりを紹介しているだけで、その向こうにはさらに多くの品が山とあるわけですから、本当にすごいです。

たとえば占星術についての展示、あるいは月についての展示、あるいは貴重書についての展示…。

こういうのを見ると、「いいなあ」と思と同時に、同様のコレクションを自分でも持ちたいと思ってしまうのが、私の弱点です。こんなことを真顔で言うと、何だか見てはいけないものを見るような目で見られるかもしれません。でも、Jリーグにあこがれて練習に励む小学生のように、夢を抱き、目標を高く持つことは決して悪いことではないはずです。

とはいえ、私は小学生ではないし、その夢がかなう可能性はゼロなので、世間的には全く無意味な試みです。それでも、自分だけの「小さなアドラー」が持てたら、それだけで心豊かな老後を送れるような気がします。


-------------------------------------------------------------------
【閑語】

いよいよ政局ですね。「政治と政局は違う」というのは正論で、「今はそんなことで騒いでいる状況ではない」というのも確かですが、しかし今の局面だからこそ、この先の展開は大いに気になるし、水面下での後ろ暗い動きにも、十分目を向けておきたいと思います。このゴタゴタの中から、人間について学べることも多いでしょう。

ときにふと気になったのですが、ひょっとして「人間、口ではどんな綺麗事を言っても、所詮は私利私欲で動いているんだ」というのが、2021年現在の日本の「本音」であり、共通認識になってはいないでしょうか?でも、私はそれに当たらない実例をたくさん見聞きしてきました。信じられない人には信じられないかもしれませんが、私利私欲で動かない人はたしかにいるのです。それも少なからず。

問題は、今の永田町にそういう人がどれだけいるかです(これは自民党に限りません)。少なくとも、総裁選に関して言うと、「赤あげて、白あげて」の旗揚げゲームのように、出馬を宣言したり、こそこそ引っ込めたりする人は、欲得づくの心底が透けて見えて、最初から論外でしょう。

社会貢献2題2020年10月25日 12時16分05秒

ブログの更新が止まっても、「天文古玩」的活動が止まることはないので、いろいろ見たり、聞いたり、考えたり、買ったりすることは続いています。ただし、書くことだけは止まっている…そういう状態です。

まあ、書くにしたって、内向きのつぶやきばかりでは、あまり社会的活動とは言えませんが、「天文古玩」も、ときに社会に向けて開かれた活動をすることがあります。

   ★

たとえば、寺田寅彦に触れた8月の記事。

明治科学の肖像

あそこで紹介した東大の古い卒業写真の複製パネルが、現在、高知市の寺田寅彦記念館に飾られています。記事をご覧になった、「寺田寅彦記念館友の会」の山本会長からお問い合わせをいただき、画像ファイルを提供したものです。

(友の会会報 『槲(かしわ)』 第89号より)

山本氏によれば、この時期の寅彦の写真、しかも正面向きの像は珍しい由。そう伺うと、なんだか有難味が増しますが、私一人が有難がっていてもしょうがないので、これは寅彦ゆかりの場所で、多くの寅彦ファンの目に触れるのが正解です。(もちろん現物を寄贈すれば、なお良いのですが、そこは趣味の道ですから、今しばらくは手元で鍾愛することにします。)

   ★

もう1つはアートに関する話題です。

今年は各地で展覧会の休止が相次ぎましたが、そんな中にあって、苦労の末に開催まで漕ぎつけたのが、横浜美術館で開催された横浜トリエンナーレ2020です(会期:2020年7月17日~10月11日)。

そこに私が多少かかわった…というのも謎ですが、さらにこの現代美術の祭典に、ヴィクトリア時代の天文家、ジェイムズ・ナスミス(1808-1890)が、アーティストとして参加していた…と聞くと、いっそう訳が分かりません。その分からないところが現代美術っぽいわけですが、事情を述べればこういうことです。

   ★

ナスミスは、月に強い関心がありました。
そして望遠鏡で覗くだけでは飽き足らず、石膏で月面の立体模型をこしらえる作業に熱中しました。月の地形をいろんな角度から眺めたかったのでしょう。実際、彼は出来上がった模型をいろいろな角度から撮影して、「月面に立って眺めた月の光景」を仮想的に生み出し、それを本にまとめました。それが『THE MOON』(初版1874)で、これについては昨年記事にしました。

ナスミスの『月』

今ならCGでやることを、19世紀のナスミスは模型という形で実現したのです。
そして、ナスミスの奔放な想像力が生み出したこれら一連の作品と、その営為が、現代アートの先蹤と捉えられ、晴れて「ヨコトリ」に登場となったわけです。

今回、ナスミスに目を留めたのは、イベント全体のディレクターを務めた「ラクス・メディア・コレクティブ」(ニューデリーを拠点にするアーティスト集団)であり、ナスミスの作品――『THE MOON』所載の図を拡大出力したもの――は、「AFTERGLOW―光の破片をつかまえる」をテーマとする本展覧会の、いわば「プロローグ」として、会場入口付近に並べられたのでした。

(内山淳子氏撮影。以下も同じ)


で、私が何をしたかといえば、手元の『THE MOON』を主催者にお貸ししただけで、結局何もしてないに等しいのですが、それでも説明ボードの隅に、「「天文古玩」コレクション “Astrocurio Collection”」という文字を入れていただき、「どうだ!」と、家族の手前、大いに面目を施したのでした(いじましいですね)。

   ★

夏炉冬扇といい、無用の用といい、無駄なように見えてこの世に無駄はないものです。
大地に生物地球化学的循環があり、あらゆる生物がそこに参画しているように、「天文古玩」もまた、この世における作用者として、なにがしかの意味と機能を有しているのでしょう。

幻の店をの門をくぐる…「博物蒐集家の応接間」2020年09月13日 10時52分32秒

第8回を数える「博物蒐集家の応接間」のご案内をいただきました。
今回は豪華なオールカラーの小冊子です。手に取るだけで、豊かな気分になります。



(撮影小物は、波佐見焼結晶構造模型(ルーチカ)、メタセコイアの球果、チェコ製算数教材)

第8回のテーマは「Librairie Trois Bémol」すなわち「トロワ・べモル書店」。
この謎めいたタイトルは、パリの歴史地区の一角に立つ、妖美な古書とアンティークを商う店の名に由来します。そして秘密の知に通じているらしい、その謎めいた店主の横顔に―。

もちろん、トロワ・べモル書店は架空の存在です。
でも、パリにはそういった雰囲気の店舗や小路が実際にあると聞きます。そして、その妖異な気は今や日本にも伝搬して、各地に不思議を商うお店があります。今回の応接間は、そうした6つのショップと5人のクリエイターが神田神保町に集い、幻影のトロワ・べモル書店の現し身を描こうという試みです。

   ★

不思議な町、不思議な通り、不思議な店…そういうのを私は夢によく見ます。
夢から醒めた後、毎回その味わいをしばらく反芻するんですが、あれはいったい何を表しているんでしょうね。自分の中にある、自分でも知らない秘密とか可能性なんでしょうか。「実現することのなかった自分」たちが、心の一角に集まって、ああいう町を作っているのかもしれませんね。

トロワ・べモル書店の門をくぐった先にあるものは、たぶん人によって違うでしょうが、私の場合は、自分の心の奥の奥に通じている予感があります。そして店主の瞳をのぞき込むと、双頭双尾のウロボロスが複雑に回転しているのが見えるかもしれません。

   ★

イベント詳細は下記を参照。


■第8回 博物蒐集家の応接間 Librairie Trois Bémol
○会期: 2020年9月26日(土)~9月29日(火) 10:00~19:00(28日は~20:00)
○場所: 三省堂書店神保町本店8階催事場
○参加蒐集家: Landschapboek・メルキュール骨董店・ANTIQUEROOM 702
 JOGLAR・sommeil・antique Salon
○参加クリエイター: スズキエイミ・松本 章・Arii Momoyo Pottery・UAMOU
 川島 朗

自宅鉱物Bar2020年07月25日 08時36分25秒

梅雨は明けず、コロナは蔓延し、今や国土全体が瘴気に覆われているようで、気分が滅入ります。私もそうですが、何となく逃げ場のない感じで、自宅に逼塞している方も多いでしょう。しかし、何かしらの工夫は必要です。心が涼しくなるような工夫が。

   ★

例年、夏になると夕暮れ時のファントムのように出現する、鉱物アソビさんの「鉱物Bar」。今年は期間限定のイベントではなく、ついに実店舗が吉祥寺にオープンしたとの報に接し、「これは涼やかだなあ…!」と思いました。お店の情景と、冷たい鉱物の世界を思いながら家飲みするのは、今の場合、上々の工夫です。


鉱物のようなお菓子と、鉱物のようなドリンクを楽しめる、このお店を脳内で訪問しながら、机の抽斗から取り出したのは、実際に食べられる鉱物、いやそれどころか、これさえあれば、いくらでもお酒が飲めるという、実にありがたい鉱物です。

すなわち<岩塩>。等軸晶系。硬度は2。
舌で触れれば、鹹味(かんみ)の中にかすかな甘味があり、日本酒によく合います。夏場はことにうれしい味覚。


手元の結晶は蛍光こそ発しませんが、紫外線ランプで青く輝く色合いも涼し気です。
そして、冷酒もよいですが、何か鉱物のようなドリンクはないかな?と思って、家の中を見渡したら、ちゃんと「飲める鉱物」もありました。


H₂Oの固相、<氷>です。氷は多形ですが、通常は六方晶系。氷点付近の硬度は1.5。
これまた夏場には実にありがたい鉱物で、そのまま口に入れても好く、日本酒に浮かべても好いです。(この頃は酒に弱くなったので、ふつうの日本酒をロックで飲んでちょうど良いです。)

   ★

こうして鉱物をせっせっと身中に摂り入れたら、ついには金剛不壊(こんごうふえ)の肉身となって、コロナも怖るるに足らず…とか、そんなことを考えている時点で、すでに壊れかかっている証拠なので、心をクールダウンする工夫がさらに必要です。