『日本産有尾類総説』を読む(3)2024年07月26日 11時10分32秒

前々回も書いたとおり、この本は本文520頁、カラー図版31葉、さらに序・凡例・目次が21頁、巻末の索引が7頁という堂々たる本です。さっき目方を量ったら2.4kgありました。

(カバーを取った本の表情。題字は佐藤の父親、與之助(号・翠園)が揮毫したもの)

(本書奥付)

(著者検印。この小紙片はおそらく佐藤自身が手に触れ、自ら押印したものでしょう。手元の一冊は限定1000部発行のうち717の番号が入っています)

私のような門外漢にとって、本書のハイライトは一連の美麗なカラー図版ということになりますが、もちろん本書の価値はそれにとどまりません。手間のかかる調査と観察から得られた精緻で膨大なデータ、そしてそれを整約した末に見えてくる日本産有尾類の見通しの良い全体像――それこそが研究者にとって得難い宝物だと思います。


それを補強するのが各種の図版で、本書には別刷りのカラー図版以外にも、本文中に149点のモノクロ挿図と87点の表が含まれています。

(オオダイガハラサンショウウオ(大台ケ原山椒魚)の発生図。著者自身による作画)

   ★

本書の目次から細目を割愛し、その章題のみ掲げれば、


 日本産有尾類研究の歴史
 日本産有尾類の分類
 日本産有尾類分類表
 日本産有尾類の生態
 日本有尾類の分布〔ママ。本章のみ‘産’の字なし〕
 日本産有尾類の核型
 日本産有尾類の類縁系統
 文献
 学名索引
 和名索引

…という構成になっており、その記載の徹底ぶりが知れます。

本文末尾近くには「日本産有尾類の核型」という章があって、ここに佐藤の尖端的な志向がよく表れているように思います。佐藤は生物個体の外形的特徴のみならず、その細胞に含まれる染色体構成(染色体の数や形態)を調べる「核形態学」によって、有尾類の進化と類縁関係を明らかにしようとしました。これはゲノム解析によって塩基配列を決定し、それに基づいて生物の種間距離を決定する現代的な手法の前駆的アプローチでしょう。

佐藤がその生を全うし、戦後の分子生物学の発展を目にしたら、そこからさらにどんな成果をつかみ取ったろう…と思わずにおれません。歴史に“if”を持ち込みたくなるのは、こういうときです。

(次回は本書の白眉、カラー図版を見に行きます。この項つづく)

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック