星図をあるく2017年01月28日 08時54分47秒

時と所を替えて現代日本。
心優しい本といえば、先日、月兎社の加藤郁美さんが、こんな優しい本に言及されていました。

(左右は付属のカードと星巡りの「地図」)

花松あゆみ(作)
 星図をあるく Ambulo stella chart
 2013年、24p.

作者の花松さんは、ゴム板に版を彫る「ゴム版画」の作品を主に制作されている方で、本書も星座をモチーフにしたゴム版作品集です。


本書の中で綴られるのは、二人の男の子が、星座から星座へと歩み続ける物語。
そう聞くと、『銀河鉄道の夜』を連想される方もいると思いますが、たしかにそこには共通するものが感じられます。それはプロットだけでなく、情調においてもそうです。


その共通するものとは、「さみしさ」。
優しと淋しさは両立するものでしょう。…というより、両者は本来二つで一つのものではないでしょうか。(「かなしい」という言葉に漢字を当てると、「愛」とも「悲」とも「哀」ともなることを連想します。)


広漠とした星の世界もさみしいし、自らの生を生きることもまたさみしい。
でも、その底にある優しさこそ、賢治は(あるいは花松さんも)伝えたかったのではないかなあ…と、これは私の勝手な想像ですが、そんなことを思いました。


星の旅の最後まで来ると、主人公の男の子たちは、双子座の二人であり、彼らに影のように付き従ってきたのは、こいぬ座だったことが分かります。

(星巡りの「地図」)

(ページの表裏が透かし絵になっていて、光にかざすと、銀河を宿した鉱石の中に、子犬の姿が浮かび上がります。冒頭、この子犬が目を覚ます所から物語は始まるので、本当の主人公は彼なのかもしれません。)

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花松あゆみさんの公式サイトは以下。

AYUMI HANAMATSU WEB SITE
 http://ayumihanamatsu.petit.cc/

そして、花松さんの作品販売を手掛けるお店は以下。

えほんやるすばんばんするかいしゃ
 http://rusuban.ocnk.net/

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余談ながら、2月の声を聞けば、完全に年度末モードに突入し、職場によっては戦場のようになるところもあるでしょう。まあ、戦場は大げさですが、私の身辺もそんな気配があります。自ずと記事が間遠になり、コメントへのお返事も遅くなりますが、どうぞご賢察ください。

天文トランプ初期の佳品: ハルスデルファーの星座トランプ(3)2016年11月03日 06時08分03秒

昨日の記事を読み返したら、「ハルスデルファー」という人名を、自分は途中から「ハデルスファー」と書いているのに気づき、修正しました。こういうことが最近多くて、話し言葉だけでなく、書き言葉でも「ロレツが回らない」状態というのはあるのだなあ…と、身の衰えを感じます。最近は「てにをは」も一寸おかしいです。

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さて、ぼやきはこれぐらいにして、昨日のつづき。

(左:へびつかい座、右:オリオン座)

これもバイエルの図そのままです。

余談ですが、これを見てバイエル星図の不思議さを悟りました。
バイエル星図は地球視点――いわゆる geocentric orientation ――で、星の配列は地上から空を見上げたとおりの形に描かれています(つまり、天球儀上の星座のように、左右が反転していません)。

それなのに、星座絵の方は、天球儀と同じく背中向きに描かれています。結果として、天界の住人は左利きが優勢になって、オリオンもヘルクレスも左手に棍棒を持ち、ペルセウスは左手で剣を構えるという、ちょっと不自然な絵柄になっています。

天球儀を見慣れた目には、背中向きの方が星座絵らしい…と感じたせいかもしれませんが、常にお尻を向けられている地上の人間にとっては、微妙な絵柄。(でも、ふたご座、おとめ座、カシオペヤ、アンドロメダは、ちゃんと正面向きです。一方、むくつけき男性陣は後ろ向き。そこには或る意図が働いているようです。)

(左:ぎょしゃ座、右:くじら座)

昨日も述べたとおり、この美しい彩色は、オリジナルのトランプにはなく、復刻版の著者であるマクリーン氏が、自ら施したものです。ただし、版画に手彩色することは、昔から広く行われたので、オリジナル出版当時も、彩色した例はきっとあるでしょう。


本の最後に登場するのは「ドングリの10」。
羽の生えた奇怪な魚が描かれていますが、これは「とびうお座(Volans)」です。
その脇を泳ぐ、これまた変な魚は「かじき座(Dorado)」。

トビウオの方は、変は変なりに言いたいことは分かります。
むしろ「かじき座」の方が、昔から今に至るまで正体のはっきりしない星座で、文字通りカジキを指すとも、本当は全然別のシイラを指すとも言われます(mahi-mahiはハワイの現地語でシイラのこと)。南海に住む巨魚は、ほとんど区別のつけようがなかった時代ですから、それも止むを得ません。むしろ、この星座絵に漂う奇怪さこそ、南の空と海に対する、当時のヨーロッパ人の<異界感>そのものなのでしょう。

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一組の星座トランプも、仔細に見れば、そこにはいろいろな発見があり、大げさに言えば「時代相」を読み取れる気がします。

天文トランプ初期の佳品: ハルスデルファーの星座トランプ(2)2016年11月02日 07時03分53秒

昨日の文章はちょっと舌足らずだったので補足しておきます。
マクリーン氏の『The Astronomical Card Game』という本は、書名からすると、何となく天文トランプ総説のような感じですが、実際には1656年に出たハルスデルファーの星座トランプを、その絵柄とともにひたすら紹介している本です。


上は冒頭に登場する、おひつじ座を描いた、「木の葉のキング」。

ドイツでも、今や英米式のトランプが一般的だと思いますが、本来は「ダイヤ・ハート・クラブ・スペード」の代りに、「鈴・ハート・木の葉・ドングリ」のスートを用いるのがドイツ式。数字の方は、英米式と同じく各スート13枚から成り、このハルスデルファーのトランプも、都合52枚のカードから構成されています。

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ハルスデルファーのトランプの絵柄は、ドイツのヨハン・バイエル『ウラノメトリア』(1603年)の図を踏襲し、それを簡略化したものです。
サンプルとして、「はくちょう座」の図で比較してみます(参考としてモクソンの図も挙げておきます)。

(バイエルの『ウラノメトリア』)

(ハルスデルファーの星座トランプ)

(モクソンの星座トランプ)

並べてみると、モクソンのトランプは、20年前のハルスデルファーのそれよりも、むしろ古拙な感じを受けます。

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17世紀は、銅版による挿絵印刷技術の進歩を受けて、それまで「星表」という、単なる数字の羅列として記録されてきた恒星の位置データが、正確な星図として表現されるようになった時代です。

中でも、バイエルの『ウラノメトリア』は、後続のヘヴェリウス『ソビエスキの蒼穹―ウラノグラフィア』(1687)や、フラムスティード『天球図譜』(1729)、そしてボーデの『ウラノグラフィア』(1801)と並ぶ、<四大星図>の一角を占め、その嚆矢となった金字塔(※)。

(※)四大星図については、以下を参照。
  ■四天王の共通点 http://mononoke.asablo.jp/blog/2014/11/09/

こうした精緻な星図隆盛の余波が、17世紀中葉以降トランプ界にも及び、星座トランプという新趣向を生み出した…ということなのでしょう。

ついでなので、他にもいくつか内容をサンプルとして挙げておきます。

(この項つづく)

天文トランプ初期の佳品: ハルスデルファーの星座トランプ(1)2016年11月01日 07時15分07秒

一昨日の記事で引用した Darin Hayton 氏によれば、17世紀後半、モクソン以外に天文学・地理学に関するトランプを作った人として、地理学者のJohn Adler と数学者のThomas Tuttelの名が挙がっていました。

イギリスで、モクソンが星座トランプを出したのは1676年前後のことですが、その20年前、ドイツでも星座をデザインしたトランプが出ていたことは、わりとマイナーな事柄と思いますので、書いておきます。

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原著者は、ニュルンベルグの法律家・文筆家である、ゲオルグ・フィリップ・ハルスデルファー(Georg Philipp Harsdörfer、1607-1658。そのトランプの表題は、当時の常で以下のように長いものです。

 『Das Astronomische Kartenspiel: Das ist Kunstrichtige Abbidung aller Gestirne am Himmel / oder und unter der Erden: Zu Behuf der lehrgierigen Jugend / Gleich dem Geographischen und Historischen Spielkarten verfasset.』 (天文カードゲーム。即ち天上ならびに地平線下のすべての星に関する芸術的かつ正確な描写。地理学・歴史学のトランプと同様、これを好学の若者に捧ぐ。)

最後の一句は、トランプの教具化に関しては、地理学や歴史学が先行しており、天文学関係のものは、当時新機軸だったことをうかがわせます。

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ハルスデルファーの星座トランプのことは、以下の本で知りました。


Adam McLean(編・彩色)、Paul Ferguson(訳)
 The Astronomical Card Game
 私家版、2011

これは、イギリスのアダム・マクリーンという人が私家版で出した、ちょっと変わった本です。マクリーン氏は、天文学の専門家でも、トランプの専門家でもなくて、錬金術やヘルメス学の研究者であり、これまであまり知られていない古い文献を「アートブックシリーズ」と銘打って、小部数(各50部)出す試みを続けており、上の本はその6冊目に当たります。

出版にあたって、氏は自らの美意識で彩色も手掛け、上に「編・彩色」と記したのは、そういうわけです。(なお、ファーガソン氏による「訳」というのは、オリジナルのトランプ1枚1枚に書かれたドイツ語の説明文を、英訳したものを指し、本書各ページ下部に書かれたテキストがそれに当たります。)

さて、前置きはこれぐらいにして、その中身を見にいきます。

(この項つづく)

ヒヨコ星2016年10月09日 10時57分34秒

ところで、昨日のリービッヒカードを見て、気になったことがあります。

(画像再掲)

上の真ん中のカードに注目してください。


長いパイプを手に、星界の秘密を語る老天文学者と、思わず身を乗り出す髭の紳士。「あらあら、ふたりとも熱心だこと。さあ、冷たいパンチを召し上がれ」という、奥方の華やかな声が聞こえてきそうなシーンですが、問題はその下の雌鶏とヒヨコの絵です。

このカードはプレアデスを描いたもので、脇の説明文には、
「プレアデスは、『Poussinière』と呼ばれる」とあります。
Poussinière(プシニエール)とは、「卵を抱く雌鶏」や、「ヒヨコを育てる保育箱」の意味だそうで、日本語だと一語で表現しにくいですが、強いて言えば「雛守り(ひなもり)」といったところでしょう。

西洋では(他の多くの地域でも)、プレアデスを七姉妹に喩えるのが普通ですが、フランスではヒヨコに見立てる…というのは初耳でした。

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さっそくフランス語版のwikipediaで、プレアデスの項を見たら、果たしていちばん下の方に、「フランスの田舎では、晩夏の晴れた空に見える〔星の〕一団を「雛守り」と呼んだ。 Dans les campagnes françaises, l'amas bien visible dans le ciel pur des nuits de fin d'été était appelé "la poussinière"」という記述がありました。

ただし、その出典として挙がっているのは、19世紀フランスの作家、アルフォンス・ドーデーの『風車小屋だより』で、ドーデーはたぶん何か根拠があって書いたのだと思いますが、彼の創作が混じり込んでない保証はありません。また、こうした呼び名が、彼の住んだ南仏プロヴァンスを超えて、どこまで広がりを持つのかも不明です。
(『風車小屋だより』はプロヴァンスを舞台にした短編小説集で、その中の「星」という作品に、若い羊飼いのセリフとして、「雛守り」の件が出てきます。岩波文庫では「雛籠」と訳しています。)

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これだけだと、「へえ、なるほどね」で終わってしまいますが、妙に気になったのは、この件を調べる過程で、出雲晶子さんの『星の文化史事典』 (http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/04/06/6770289)を開いたら、「七羽のひよこ星」という項目があったことです。

「お、これこれ」と思って読んだら、たしかにそれはプレアデスを7羽のヒヨコに喩えた伝承に関するものでしたが、それは案に相違して、フランスではなくタイの仏教説話でした。以下、短文ですので、全体を引用させていただきます。

「仏教への信仰が厚い老夫婦は一羽のにわとりと七羽のひよこを飼っていた。そこに一人の旅人が来たが出す食料がなく仕方なくそのにわとりを食べようということになった。そのことを知ったにわとりは子供たちに仲良く暮らすよう言い残したが、七羽のひよこたちも母親が煮られている鍋に飛び込んだ。旅人は実はお釈迦さまで、老夫婦に感謝し、七羽のひよこは空にあげて昴とした。」 
(出雲晶子・編著、『星の文化史事典』、p.291)

母鶏のその後が気になりますが、たぶん原型は「一羽の鶏と六羽のヒヨコ」で、全員仲良く空に上って星になった…のではないでしょうか。

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フランスの羊飼いとタイの仏教徒に接点はないでしょう(ないはずです)。
それでもこういう一致が生じるのは、不思議なことです。
それを偶然と見るか、必然と見るか。必然とすれば、それはいかなる必然なのか。

答は有って無いようなものですが、すばるにヒヨコの愛らしさや、母子の情愛を読み取った異国の人の心根に、しみじみ胸を打たれます。その胸を打たれるところが、フランスの羊飼いと、タイの仏教徒と、日本の勤め人に共有されていることが、こうした伝承が世界のあちこちで生まれたベースにあるのは確かだと思います。

目覚め男2016年10月08日 15時44分08秒

さて、そろそろ目覚めなければなりません。
でも目覚めてみれば、世はさらに乱脈を極め、何だかすぐにまた眠りにつきたくなるありさまです。

ここでふと、「このごろ都に流行るもの 夜討 強盗 にせ綸旨…」で始まる、二条河原の落書を想起するのですが、一つの秩序が倒れんとするとき、そこに佞臣・奸賊・梟雄・無頼漢が湧いて出るのは、常に変わらぬ人の世の習いかもしれません。

現今の世相も、まさにエセ、ウソ、虚飾が大手を振ってまかり通る、浅薄にして醜怪な世となっていますが、それを嘆くばかりでなく、今こそ人間社会の「深い真」を学ぶ絶好の機会なのですから、心ある人は肉眼と心眼を見開いて、世の転変を見つめようではありませんか。

このあと、混乱を経て新たな秩序が生まれるのか、混乱がさらに大乱となるのか、いずれにしても、我々は大きな歴史の実験場に立ち会っていることは間違いありません。

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…と、ちょっと大きく出ましたが、この「天文古玩」自体は、「歴史の実験場」とは縁遠い、ごくささやかな愉しみを開陳する場に過ぎません。世間の荒っぽい動きと対照するとき、こういう小市民的な試みが、ちょっと馬鹿っぽく見えるかもしれませんが、しかし、こういう愉しみが否定されねばならないとすれば、それは世の中の方がおかしいのです。

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1903年に出たリービッヒ・カードの「星座シリーズ」、全6枚のうちの3枚。
(リービッヒ・カードというのは、リービッヒ社のスープの素に付いてきた、昔のオマケカードです)。


星空の美しさは、はるかな昔と少しも変わることがありません。


そして、それを見上げる平穏な地上の暮らしもまた無類に貴いものです。
そしてさらに、こういうチマチマしたカードを集める小市民的な愉しみだって、その貴さの1ピースなのですから、大いに大切にされなければ嘘だ…と思うのです。

星の子どもたち2016年03月21日 17時51分55秒

穏やかな春分の日。
桜の開花宣言も出て、季節は春たけなわに向かいつつあります。

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さて、天文古玩におけるマイナー・アイテムというと、たとえば星座の切手。
しかも、こんな切手は間違いなくマイナーだと思います。


ウクライナの12星座切手(2008年発行)。

別に切手としてはマイナーではなくて、かわいい絵柄で一部では人気だと思うのですが、天文古玩趣味からすると、ぜんぜん「must have」ではないでしょう。
単に星座がモチーフという以上の接点はないし、そもそも理科趣味とはまるで関係がありません。…いや、多少はあるんでしょうか?いずれにしても、それも分からないぐらい、天文古玩趣味の中核からは遠いです。

しかし、古代から受け継がれた12星座が、その表現を変えながら、こうして今も重視されているという事実は、我々が文化の連続性の中に生きている証(あかし)であり、一見他愛ない星座占いにしても、一つの文化事象として見た場合、その見た目ほど他愛ないわけではありません。

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…と、無理やり理屈をこねるのはやめて、どうですか、この切手。
かわいくないですか?



かに座やうお座の着ぐるみもかわいいし、



やぎ座やふたご座のポーズもかわいいです。
そして極めつけにかわいいのは、


てんびん座と…


みずがめ座。
これは古代人もびっくりの図像表現。かわいすぎる。

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ここにあふれている「かわいさ」には、古代オリエント・ギリシャの神話以上に、現代日本のサンリオ的な「かわいい文化」が影響している可能性もあるんでしょうか。ちょっとそんな気がします。それとも、ウクライナは―いろいろゴタゴタしていますが―やっぱり子供にやさしい国なんでしょうか。

(背景は金属光沢のあるインクで刷られていて、印刷もきれいです。)

カモメと南十字2016年03月09日 19時00分12秒



アルゼンチンの続きで、1枚の切手を載せます。


碧く澄んだ空。カモメ。南十字。
北十字が白鳥なら、南十字はカモメ…というわけでもないでしょうが、とてもスッキリとした好いデザインです。

この愛らしい小芸術は、1966年発行の「アルゼンチン海軍航空学校・創立50周年記念切手」。ちょうど50年前が50周年ですから、同校は今年で100周年を迎えることになります。1916年2月11日がその創立記念日で、場所はやっぱりラプラタだとか(https://en.wikipedia.org/wiki/Argentine_Naval_Aviation)。

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カモメと飛行機乗りというと、年配の人は「どこで死ぬやら果てるやら…」という「ダンチョネ節」の一節を思い出したり、「私はカモメ」のテレシコワさんを連想したりするかもしれません。そこには、自由に空を翔けながらも、何となく寄る辺ない感じが漂っています。

以前、群れ飛ぶカモメに深い寂寥感を感じたのも、やっぱりアルゼンチンの光景でした。


(画像再掲)

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昨日はドミンゴ・サルミエント大統領を大いに持ち上げましたが、アルゼンチンの政情は一貫して不安定で、国の歩みは苦難続きでした。
空をゆくカモメ、天をめぐる星を見上げて、深く吐息を漏らしたアルゼンチンの人も、きっと多かったのではないでしょうか。

ハッカ風味の星のシガレット2016年01月30日 07時49分57秒

今朝…といっても、日が昇る前の真っ暗な時間帯ですが、その真っ暗な空の底から、かすかに青味が差してくる気配を感じながら、傘を杖代わりに、コツコツと黒い街を歩いていました。

別に夜の散歩者を気取ったわけではなくて、よんどころない事情があったせいですが、雨に濡れた道路にボンヤリと街灯が反射し、あたりの空気がいかにも「森閑」としているのが、心地よいと思いました。

昔は、昼と夜の境がはっきりしていて、夜が更ければ、町場でも森閑とした空気に事欠かなかったと思うのですが、今ではその辺のけじめがなくなって、森閑さを求めようと思ったら、未明の街をさまよわねばなりません。今でも夜と朝の境目は、かなり明瞭に残っているようです。

夜の散歩者も、今では「朝の散歩者」たらざるを得ず、すこぶる健康的になった観があります。

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さて、森閑とした夜の散歩者に似合う、エフェメラルな星の世界。


上はサザンクロス、すなわち南十字星を描いたシガレット・パッケージです。
メーカー名の「M.B.C.」については詳細不明(中国タバコかもしれません)。いずれにしても、戦前のものです。

昨日の「巴館」のマッチラベルとカラーリングが似ており、こちらもミントの清涼感にあふれた佳品。タイトルに書いたように、実際にハッカ風味だったかどうかは不明ですが、もしそうだったら素敵ですね。


南十字星は、それ単独で「みなみじゅうじ座」という星座になっていて、これは全天でいちばん小さい星座です。南天を流れる濃い銀河の只中に浮かび、その縦棒はまっすぐ天の南極を指しています。

パッケージでは右下に見える濃紺の雲状のものは、おそらく「コールサック(石炭袋)」の名で知られる暗黒星雲。実際には十字の左下に位置するので、これだと裏焼になってしまいますが、おそらくはデザイン上の要請で、左右の位置を変えたのでしょう。

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ここがジョバンニたちを乗せた銀河鉄道の終着駅です。

天と地と2016年01月22日 22時33分36秒

これも連想尻取りめきますが、天球と地球を直接対応させる…という発想が生んだものとして、こんな品があります。

(カードの裏面は無地)

星座絵と世界のあちこちの地図が印刷された「トランプ」。
トランプといっても、ハートやスペードのマークはありません。
ルールは不明ですが、何らかのカードゲームに用いたらしい、60枚のカードセットです。


箱の中に入っていた説明書には、以下のように書かれています。

「この2004年に印刷されたトランプセットは、スペインのヴィトリア・ガステイス(Vitoria-Gasteiz)に立地し、アラバ地方名誉評議会(Excma. Diputación Foral de Álava)が所有している、「アラバ県『フォルニエ』トランプ博物館」(”Fournier” CARDS MUSEUM IN ALAVA)のコレクションから見出されたオリジナルを復刻したものです。」

固有名詞が多くて分かりにくいですが、アラバはフランスとの国境に近い、スペイン・バスク地方の県で、ヴィトリア・ガステイスはその県庁所在地。そして「フォルニエ」というのは、同地で19世紀から続くトランプの老舗メーカーで、同社のトランプ・コレクションは世界でも有数のものだそうです。


今回登場の復刻品も、そのコレクションの一部で、オリジナルは1828年にイギリスで出たもの…と箱には書かれています。

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各カードには、星座絵や地図の他、左肩のところに「S26°」とか「N46°」といった数字が印刷されています。大方想像がつくように、これは「南緯26度」、「北緯46度」の意味です(注)。


で、たとえば南緯13度のカード。
星図の方は「やぎ座」で、地図のほうはブラジルです。
両方の緯度が同じということは、ブラジルに行けば、南中時には「やぎ座」が頭の真上に見えるということです。


同じように、フランスに行けばペルセウス座が、


アフリカのギニアに行けばオリオン座が、頭上高く輝くというのですが、これらの国々で該当の星座が格別重視されている風でもありませんし、「だからどうした?」という思いが、チラッと頭をかすめます。そもそも、人間は頭上のことは、かえって意識に上りにくいものです。


改めて数えて見ると、
  南の星座は10枚 (1,6,10,13,15,16,26,29,52,60)、
  南の地図は6枚 (1,5,12,13,34,35)
あります(カッコ内の数字は緯度)。

北の方も、いちいち緯度は挙げませんが、星図が20枚に対し地図が24枚で、星図と地図で対が取れているわけでもないし、南と北で対が取れているわけでもありません。緯度の間隔もバラバラです。これで一体どんなゲームをしたのか?

パッと見の印象としては、「面白くてためになる」当時の家庭教育用の品だと思うのですが、いささか企画倒れの感がなきにしもあらず。

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ただ、優美なことは確かです。
天上の星も、遥かな国々も、同じような神秘の香りに満ちていた時代ですから、雄弁なお父さんがいる家庭では、このトランプを手にしながら、話に花が咲いたであろうことは想像に難くありません。

ヴィクトリア時代がまだ幕を開ける前、イギリスに真の田園生活があったとされるジョージ王朝時代の余香が、画面に漂っている気がします。
これは、その優美さを愛でる品なのでしょう。


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(注) 空の星たちも、地球上の「北緯・南緯」や「東経・西経」と似た方式を使って位置を表わし、南北方向は天の赤道を基準に「赤緯」で、東西方向は春分点(昨日登場した「黄道」と天の赤道の交点です)を基準に「赤経」で表示します。

赤緯に関しては、「北緯~」に代えて「プラス何度」、「南緯~」に代えて「マイナス何度」という呼び方をするのが普通ですが、このトランプでは天地いずれも「北緯・南緯」と呼んでいます。