星図収集、新たなる先達との出会い ― 2022年10月29日 08時22分55秒
「星図コレクター」というと、質・量ともに素晴らしい、書物の中でしかお目にかかったことがないような、ルネサンス~バロック期の古星図が書架にぎっしり…みたいなイメージがあります。
そういう意味でいうと、私は星図コレクターでも何でもありません。
典雅な古星図は持たないし、特に意識してコレクションしているわけでもないからです。でも、19世紀~20世紀初頭の古びた星図帳なら何冊か手元に置いています。そして、そこにも深い味わいの世界があることを知っています。ですから、星図コレクターではないにしろ、「星図の愛好家」ぐらいは名乗っても許されるでしょう。同じような人は、きっと他にもいると思います。
そういう人にとって、最近、有益な本が出ました。
まさに私が関心を持ち、購書のメインとしている分野の星図ガイドです。
■Robert W. McNaught(著)
『Celestial Atlases: A Guide for Colectors and a Survey for Historians』
(星図アトラス―コレクターのための収集案内と歴史家のための概観)
lulu.com(印刷・販売)、2022
『Celestial Atlases: A Guide for Colectors and a Survey for Historians』
(星図アトラス―コレクターのための収集案内と歴史家のための概観)
lulu.com(印刷・販売)、2022
「lulu.com(印刷・販売)」と記したのは、これが自費出版あり、lulu社が版権を保有しているわけではないからです。lulu社はオンデマンド形式の自費出版に特化した会社で、注文が入るたびに印刷・製本して届けてくれるというシステムのようです。
同書の販売ページにリンクを張っておきます。
著者のマックノート氏は、巻末の略歴によればエディンバラ生まれ。少年期からアマチュア天文家として経験を積み、長じて人工衛星の航跡を撮影・計測する研究助手の仕事に就き、ハーストモンソー城(戦後、グリニッジ天文台はここを本拠にしました)や、オーストラリアのサイディング・スプリング天文台で勤務するうちに、天文古書の魅力に目覚め、その後はコレクター道をまっしぐら。今はまたイギリスにもどって、ハンプシャーでのんびり生活されているそうです。(ちなみに、マックノート彗星で有名なRobert H. McNaught氏とは、名前は似ていますが別人です。)
本書は、そのマックノート氏のコレクションをカタログ化したもの。判型はUSレターサイズ(日本のA4判よりわずかに大きいサイズ)で、ハードカバーの上下2巻本、総ページ数は623ページと、相当ずっしりした本です。
収録されているのは全部で292点。それを著者名のアルファベット順に配列し、1点ごとに星図サンプルと書誌が見開きで紹介されています。
(日本の天文アンティーク好きにもおなじみの『Smith's Illustrated Astronomy』)
そこに登場するのは、いわゆる「星図帳」ばかりではなく、一般向けの星座案内本とか、星図を比較的多く含む天文古書、さらに少数ながら、星座早見盤や星座絵カードなども掲載されています。時代でいうと、18世紀以前のものが零葉を含め30点、1950年以降のものが16点ですから、大半が19世紀~20世紀前半の品です。これこそ私にとって主戦場のフィールドで、本当に同好の士を得た思いです。
(同じくギユマンの『Le Ciel』)
もちろんこれは個人コレクションの紹介ですから、この期間に出た星図類の悉皆データベースになっているわけではありませんが、私がこれまでまったく知らずにいた本もたくさん載っていて、何事も先達はあらまほしきものかな…と、ここでも再び思いました。
本書の書誌解題には、当該書の希少性について、マックノート氏の見解が記されていて、「わりとよく目にするが、初期の版で状態が良いものは少ない」とか、「非常に稀。全米の図書館に3冊の所蔵記録があるが、私は他所で見たことがない」…等々、それらを読みながら、「え、本当かなあ。それほど稀ってこともないんじゃないの?」と、生意気な突っ込みを入れたりしつつ、マックノート氏と仮想対話を試みるのも、同好の士ならではの愉しみだと感じました。
★
円安の厳しい状況下ではありますが、この本で新たに知った興味深い本たちを、これから時間をかけて、ぽつぽつ探そうと思います。(こうなると、私もいよいよコレクターを名乗ってもよいかもしれません。)
コメント
_ toshi ― 2022年10月30日 00時20分35秒
こんばんは。これこそ私がやろうとしていることの西洋版ですね。江戸の世界地図のカタログは3年前に刊行して英語版を今年出した(ほとんど売れていない)のですが,近い将来,江戸期の天文古図のカタログを同様に出版したいと思っています。その節はご一緒にやってみませんか?
_ 玉青 ― 2022年10月30日 11時45分17秒
ええ!!!…と驚きつつ、ご高著をアマゾンで拝見しました。
ブログでの詳密な記載だけでも驚愕していたのに、存じ上げぬうちにこれほどの大著をものされていたとは!本当に言葉もありません。紹介文には「蒐集家が蒐集家で終わらず、研究者の領域を遥かに凌駕している一例」という専門家の方の賛辞が引用されていましたが、まさに至言かと。
さらにまた江戸期の天文古図についても、ぜひ一書をおまとめくださいますように。断片的な資料はあちこちで見かけますが、それを一望できる形でまとめた著作は、まさに空前絶後と思います。「ご一緒に」とのお言葉、まことに身に余る光栄です。まあ、知識も能力も根気もない身としては、残念ながらお断りする他ありませんが、ご出版のあかつきには真っ先に購入させていただきます。その日を心待ちにしております。
ブログでの詳密な記載だけでも驚愕していたのに、存じ上げぬうちにこれほどの大著をものされていたとは!本当に言葉もありません。紹介文には「蒐集家が蒐集家で終わらず、研究者の領域を遥かに凌駕している一例」という専門家の方の賛辞が引用されていましたが、まさに至言かと。
さらにまた江戸期の天文古図についても、ぜひ一書をおまとめくださいますように。断片的な資料はあちこちで見かけますが、それを一望できる形でまとめた著作は、まさに空前絶後と思います。「ご一緒に」とのお言葉、まことに身に余る光栄です。まあ、知識も能力も根気もない身としては、残念ながらお断りする他ありませんが、ご出版のあかつきには真っ先に購入させていただきます。その日を心待ちにしております。
_ toshi ― 2022年11月01日 23時29分28秒
いえいえ,明治期以降は玉青様にお任せしたいと思いますが,いかがでしょうか。。。
_ 玉青 ― 2022年11月02日 06時30分33秒
重ねてのお言葉、ありがとうございます。
もちろん、お手伝いできることは何でもいたします。ただ、その「できること」があんまりないという、しょうもない話でして…。でも、もし何かできそうなことがありましたら、何なりとお声がけください。
もちろん、お手伝いできることは何でもいたします。ただ、その「できること」があんまりないという、しょうもない話でして…。でも、もし何かできそうなことがありましたら、何なりとお声がけください。
_ toshi ― 2022年11月02日 17時53分45秒
玉青様は謙虚でらっしゃるので。かねてから思っているのですが,このブログを纏められれば,よいレファレンス本になると思うのですが,ぜひご検討くださいませ。
_ 玉青 ― 2022年11月03日 11時23分25秒
真面目にお答えすると(いつでも真面目ですが・笑)、以前、ブログを冊子にしてくれるサービスの利用をチラッと考えたことがあります。でも、コメントのことまで考えると(本文以上にコメントが貴重な記事もありますので)、今となってはボリューム的に難しそうです。
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