タルホ的なるもの…彗星トランプ2016年05月10日 20時49分46秒

トランプというのはちょっと気になるアイテムです。

それは数字と記号からなる、冷やっこい数理の世界を連想させるいっぽう、その対極ともいえる、トリックやマジックのような妙に人間臭いものも連想させます。そして、絵札の人物たちの、あの謎めいた表情…。

そこには『不思議の国のアリス』のイメージが漂うし、プーシキンの怪奇幻想譚、『スペードの女王』の連想も働きます。

足穂氏の実作品に、どれだけトランプが顔を出すかは不案内ですが、もろもろ考えあわせると、トランプもタルホ的世界の住人たる資格が十分あると感じます。
そして、これは私一人の感じ方にとどまりません。


たとえば、青土社から2008年に出た足穂拾遺物語の表紙デザインも、トランプがモチーフでしたし、もっと昔、1970年代に出た『多留保集(全8巻)も、まりの・るうにい氏の装画による、素敵なトランプ柄で仕立てられていました。

  ★


上はハレー彗星回帰の1986年に、アメリカで出たトランプ。
トランプと彗星の組合せとなれば、これはもう「タルホ的なるもの」間違いなしです。


カードの裏では、ジョーカー2枚を含め、54個のハレー彗星が、青紫の空をくるくる回っています。

76年周期のハレー彗星が、太陽を54周しようと思ったら、4100年余り。
まあ、星の世界ではごく短い時間で、人類が文字を持つようになってからでも、すでにそれぐらいは、彼を空に眺めた勘定です。(でも、実際に記録に残っているのは、その半分ぐらいだとか。)

(表側はごく普通のトランプ)


このトランプの色合いは、モニターで見ると青味が強いですが、実際はもっと紫がかった色です。上の画像は、それに近づけるべく努力しましたが、どうしても再現できませんでした。この辺は何となく、足穂氏の捉え難さと通じるものがあります。

(『彗星問答―私の宇宙文学』、潮出版社、1985(新装版)。装画:まりの・るうにい。発行年を見ると、これもハレー彗星を当て込んだものかも)

コメント

_ S.U ― 2016年05月13日 07時30分09秒

海の向こうの大国でも、トランプ熱がかびすましいようですね。英語ではトランプのことはplaying cardsといって、trumpは特定の遊び方の「切り札」のことを意味するそうですが、この人も切り札になるのでしょうか。

 このハレー彗星のトランプカードでババ抜きをやるとババが周期的に返ってくるとか、ちょっとめまいを起こしそうな印象を感じます。
 
 さて、タルホと少し離れますが、トランプの文学が出てきたので、この際一つ突飛なお尋ねをお許し下さい。

 「不思議の国のアリス」、「スペードの女王」に並ぶトランプの絵札の表情が出てくる名作として、高峰美枝子歌う往年のヒット曲「湖畔の宿」(佐藤惣之助作詞、服部良一作曲)が挙げられます(と私が勝手に思っております)。これの3番に「青いクィーン」なるものが出てきますが、これはどの柄のカードで青いというのはどういうことなのか、具体的なイメージが浮かばない不明に長年戸惑っております。今となっては作詞家に聞くわけにもいきません。トランプが黒でなく青で印刷されているのか、クィーンが青い衣装を着ているのか、カードの地が青いのか、ランプのシェードが青いのか、たまたまそう感じただけなのか・・・ まことにすみませんが、確固としたイメージがありましたらご主観でよろしいのでお知らせ下さい。

_ 玉青 ― 2016年05月13日 22時03分58秒

>湖畔の宿

これはまた大きく横滑りしましたね。(笑)
まあ、広い世の中には、青い絵柄のクイーンもないとは言えませんが、普通に考えれば、これは一種の比喩的表現なのでしょう。
すなわち、物思わし気な主人公(=女性)が、旅先でトランプのクイーンに我が身を重ねつつ、それがいかにも青く淋しく感じられた…という心理を歌ったものではないでしょうか。(作者・佐藤惣之助の用語法に広く当たれば、よりはっきりした解釈が可能と思います。)

_ S.U ― 2016年05月14日 07時36分11秒

ご教示ありがとうございます。「青い」というのも主観的に感じた「表情」というわけですね。私は、そういう感情の機微には疎いので、そういうことで納得しました。

 佐藤惣之助の歌は私が子どものころまでもけっこう親しまれていたのでもっと若い世代の人と思っていたのですが、戦中に50代で病死されていたようでちょっと驚きました。Wikipediaによるとヒット曲作詞の期間は短く、早く生まれすぎた人というべきかもしれません。ヒット曲しか論評できませんが、「人生劇場」、通称「六甲颪」、「男の純情」、「赤城の子守唄」など、一本気なひねりのまったくない詩が多いです。「人生の並木路」、「新妻鏡」はマイナー的ですが、これらは当時公開の映画のストーリーに合わせたものと思います。

 「湖畔の宿」の宿の雰囲気は、服部良一の作曲が大きく作用しているのは間違いありませんが、これは映画関連の曲ではないし、戦時中のことでもあるので、特に企画された制作ではないと思われます。なぜこういう作詞をしたのか詳細はわかりません。
 
 思い切り横滑りしてしまいましたが、天文関係で一つだけ指摘させていただきます。佐藤惣之助によると「男の純情」は「金の星」のあって「夜の都の大空」に出ているそうです。

_ 玉青 ― 2016年05月14日 19時58分08秒

「夜の都の大空」に浮かぶ「金の星」――
なるほど。されば足穂氏こそ、純情一途な男であるわけですね。(^J^)

_ S.U ― 2016年05月16日 06時55分17秒

>純情一途な男
 タルホ氏がそうであることにはまったくご同意申し上げますが、佐藤惣之助の詩によるご判定はぶっとぶほど画期的だと思います(笑)。

_ 玉青 ― 2016年05月16日 20時06分20秒

白状すると「男の純情」を聞いたのは、今日が初めてです。
ということで、この件については、この辺でご容赦ください。

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