タルホ的なるもの…夜明けの空2016年05月29日 06時49分41秒

「三日月」というのは、月の満ち欠けを基準にした旧暦の三日に出る月の意です。

そして、本来の三日月は、必ず左向きです。つまり、月の向かって右側の縁が明るく輝き、それを人の横顔に見立てれば、その顔は向かって左を向いているわけです。方位でいうと、輝いているのは月の西側、そして顔は東向きです。

(左を向いた三日月。古いトランプのデザイン。)

月が光るというのは、太陽に照らされて光るわけですから、三日月はさっき沈んだばかりの太陽によって、脇から照らされている格好になり、月自身も太陽をおっかけて、宵の内には沈んでしまいます。

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足穂が好む「右向きの三日月」は、これとは天体の位置関係が逆になります。
つまり、間もなく東から顔を出す明け方の太陽に照らされて、月の向かって左(東)の縁が輝き、その横顔を右(西)に向けているのが、「右向きの三日月」です。

もちろん太陽が顔を出しても、月はそのまま空にとどまっているわけですが、細い月は太陽の光に負けて、すっかり目立たなくなってしまうので、右向きの三日月を拝めるのは、夜明け前の一刻に限られます。

語源を考えれば、この状態の月を「三日月」と呼ぶのは変で(旧暦だと25~26日頃の月になります)、昔の人は特に「有明月」と呼びました。でも、今の我々の語感からすれば、「右向きの三日月」の方が、やっぱり分かりやすい気がします。

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さて、そろそろ空が白んできました。


「DAWN(夜明け)」と題された絵葉書。
その絵柄の軽やかさと、オフセット印刷の仕上がりから、わりと最近のものに見えますが、実際には1913年の消印を持つ、100年以上前の絵葉書です。イギリス製。


鎌のように細く光る月と、美しい明けの明星。
静かに夜明けを見つめる幼児は、新しく始まる「時」の象徴でしょう。


夜の名残の澄んだ青は、微妙なグラデーションを経て、オリーブ色の曙光へと変わります。


あの水平線から太陽が顔を出すのも、もうじきです。

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夜通し歩いたタルホ界の散歩も、これでひとまず終わりです。
またいつか、夜の匂いが恋しくなる頃に、ご一緒しましょう。

コメント

_ S.U ― 2016年05月30日 20時10分37秒

>「右向きの三日月」
 これをなんと呼ぶかは難問ですね。
 私は一応、昔からある言葉を使って「有明月」と呼んでいるのですが、時代がかかっていてあまり現代的でないように感じます。現代風には、「マイナス三日月」と呼びたいところですが、理に勝ちすぎているような気もします。

 最近、ラジオで「鏡三日月」という呼称を知りました。これは、NHKラジオに出ている気象予報士の伊藤みゆきさんの造語らしいのですが、これが普及するようならこの言葉でもよいかと思っています。でも、難を言うと、三日月と鏡三日月では月面の光っている部分が違うので、鏡に映せば良いというわけではなく、この名称も不正確で今ひとつだと思います。

_ 玉青 ― 2016年06月01日 20時13分08秒

「有明月」は雅な名で、その眺められる時分も教えてくれる良い呼称だと思いますが、いかんせんその形が伝わりにくいですね。まあ、「三日月」にしても、本来名が体を表わしているわけではありませんが、歴史の中で「三日月形」という言い方が生まれて、自ずと名が体を表わすことになりました。

いっそ、crescentのように、三日月と有明月を統合して、両者共通の「弓月」のような名称を新設したら…とも思います。それぞれを区別する場合は、「明けの弓月―宵の弓月」とか「右弦の弓月―左弦の弓月」と呼べば、混乱はなかろうと思います。でも、これは「三日月」が既に定着している現在では、望めないことでしょう。

「鏡三日月」も悪くない工夫ですが、本来の三日月の向きを知っている人でないと、意味が通じにくい点が、若干苦しいですね。

_ S.U ― 2016年06月02日 07時56分45秒

>両者共通の「弓月」のような名称
 名称としてはこちらが便利ですが、またデメリットとして左右の向きの混同を助長してしまうかもしれませんね。現在でも、舞台の書き割りやドラマのカットで左右逆の三日月が現れてもぜんぜん問題にされず、天文に詳しい人だけ徹夜の会合でもう夜が明けてしまう、と心配したりすることになります。
 馬琴の『椿説弓張月』は題名だけは学校の古典か歴史で習うと思うので、「弓張り月」ならある程度普及させることが可能かもしれません。

_ 玉青 ― 2016年06月04日 08時06分54秒

「マイナス三日月」は妙案ですね。
新月をはさんで±3日という、三日月の語源にも叶うし、そこから月の満ち欠けの仕組みを語る、よいきっかけになりそうです。

_ Ha ― 2016年06月04日 22時30分56秒

私は昔から有明月を使っていますが、最近、有明月=昼間に見える月と書いてあるサイトがあったりして困ります。どうしたもんだか…。

さらに悩むのは、月齢10くらいの月です。
何かいい呼び名が無いものかといろいろ考えるのですが、いくら考えても、なかなか妙案が思い浮かびません。

_ 玉青 ― 2016年06月05日 16時02分49秒

ずばり「十日月」でもいいのかもしれませんが、あの形を表わすうまい言い回しが、なかなか無いですね。英語だと「Waxing gibbous」だそうで、これに対する日本語訳はたいてい「十三夜」になっていますが、英語版Wikipediaを見ると、その用法はもっと広く、半月から満月の間は、全部こう称して良いようです。
https://en.wikipedia.org/wiki/Lunar_phase

手元の岩波の辞書はその点正確で、「the gibbous moon」に対して「凸月(半月と満月の中間)」の訳を当てていました。「凸月」とは、あまり聞いたことがありませんが、まあ強いていえばこの辺りでしょうか。(日常語としては「小太り月」でも良いように思いますが、一部には支障があるでしょう・笑)

_ S.U ― 2016年06月05日 19時44分44秒

横からお邪魔で失礼いたします。
「レモン月」はいかがでしょうか。
<出典>
・ネットにある情報によると、『一日歳時記』(金田一秀穂著、小学館、2008)という書物に十日月の異名として掲げられているらしい。
・「レモン月夜の散歩道」(歌謡曲、1967) 西沢爽 作詞、市川昭介 作曲、都はるみ 唄
・「月はいびつなレモン形だったが」(稲垣足穂、「莵」(うさぎ)、1957、初出作1939?)

 私がこの言葉を初めて聞いたのは、都はるみさんの口からだと思います。

_ 玉青 ― 2016年06月06日 07時10分53秒

あ、レモンはいい喩え。
両端がピンと尖って、しかも丸々した感じが出ていて、小太り月に数段まさります。

_ Ha ― 2016年06月06日 22時16分18秒

いろいろアイデアをありがとうございます。

>玉青さま
「小太り月」いいですね! グッドアイデアだと思います。^^

>S.U さま
じつは私も以前から「レモン月」が良いだろうと思っていたのですが、知人から「レモンは長軸に対して回転対称だが、十日月はそうではない」とケチを付けられまして…。(汗)
私は「レモン月」を確かにどこかで聞いたことがあったはずなので、その時にネットでいろいろ調べたのですが、有益な情報を見つけることができませんでした。今回、出展を3つもお教えくださり、ありがとうございます。それぞれ、精査してみようと思います。
足穂翁も「いびつなレモン形」と記述されているというのは心強いです。私は漠然と「クシー君で見たのかなぁ?」というイメージを持っていたのですが、挙げていただいた3つからすると、都はるみの可能性のほうが高そうに思います。^^;

_ S.U ― 2016年06月07日 07時08分20秒

Ha様、
 ご事情の説明ありがとうございます。また、ご精査をよろしくお願いします。

 都はるみの「レモン月夜の散歩道」は当時ルーティン的に発売されていたシングル新曲の一つで普通程度に売れた曲だと思いますので、「レモン月」の言葉は当時はこれで広まったものと思います。また、「レモン月」自身もこの歌詞で(文学作品上は)初登場した、つまり、西沢爽氏の造語である可能性があります。

 しかし、私には、ここでちょっとひっかかることがあります。それは、この3番まである歌詞に月の形状を形容する言葉がまったくないことです。「レモン月」といえば月齢10くらいの月のことで、これがだいぶ育ってきた若い男女の恋仲にふさわしいことは明らかで、その意味に何の疑いもないのですが、仮に西沢氏が自身の造語という意識があったならば、月の形状に触れたくなるのが人情だと思います。ということは、すでに当時、別に先行する文学作品に「レモン月」の出典があってそれを踏まえていた可能性もあるのではないでしょうか。探す価値があるように思いますが、一方で、造語でも敢えて何の説明もしないというのも作詞の技でしょうから、西沢氏ならそうしたところで何の不思議もないとも思います。

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