3-D宇宙…『Our Stellar Universe』三部作のこと2018年01月08日 13時00分48秒

さて、ヒースの本の話題の続き。
ヒースの本はあれだけにとどまりません。

実は、ヒースの『我らの恒星宇宙』三部作になっていて、前述の本がその第1部に当たります。ヒースは立て続けに、あと2冊の本を、いずれも1905年に出しています(第3部の序文は1905年11月7日付なので、ひょっとしたら刊行自体は1906年かもしれません)。

その2冊とは、いずれもヒースの単著として、第1部と同じ出版社(King, Sell & Olding, Ltd.)から出た、以下の本です。

■Our Stellar Universe: Six Stereograms of the Sun.and Stars.
 『我らの恒星宇宙―太陽と恒星に関する立体図6種』 

■Our Stellar Universe: Stereoscopic Star Charts and Spectroscopic Key Maps.
 『我らの恒星宇宙―立体星図と分光学的基礎図』 


(第1部と第3部。本の体裁はまったく同じです)

手元には第2部が欠けていますが、第3部を読むと、この間の出版事情が分かります。

まずヒースの第1部は、完全な書下ろしではなく、雑誌『ナリッジ(Knowledge)』に発表した数編の記事を元にまとめたもので、その最終成果が、先に紹介した2つの立体星図です。すなわち、①「両眼の間隔が107光年で、太陽から500光年の位置に視点を置いたもの」と、②「両目の間隔が26光年で、太陽から100光年の位置に視点を置いたもの」の2種類。

ヒースはその成果を生かし、さらに大規模で詳細な立体星図づくりに乗り出します。
基本的な方法は最初と同じですが、こちらは両目の間隔が26光年、視点を太陽から100光年、150光年、300光年離れた場所に置いたものです。

一部、最初の星図と設定がかぶっていますが、出来上がった星図は、それぞれ幅25インチ、高さ16インチ(約63cm×41cm)という巨大なもので、しかも星の部分は、その明るさ応じて大小の穴をうがち、さらに星のスペクトルタイプに応じて着色ゼラチンを塗布してあるという凝りようで、光にかざして見ると、カラフルな星たちがフワッと3次元空間に浮かび上がり、まことに美しく、幻想的な眺めでした。まさに神の視覚です。(これを眺めるには、専用のビュアーを使ったのでしょう。)

ヒースは出来上がった立体星図を、王立協会や王立研究所、王立天文学会で展示・公開し、マスコミも好意的にこれを取り上げました。この第2弾の立体星図を縮小して出版したのが、『我らの恒星宇宙』の第2部です。

   ★

しかし、ヒースはこの2番目の作品を人々に見せた結果から、あることを学びます。
それはずばり「ヒースの図は分かりにくい」ということです。

ヒースとしては、太陽から遠く離れた場所から星々を眺めることで、恒星宇宙における太陽の立ち位置を相対化することに意義を認めていたのですが、一般の人は(あるいは星に詳しい人でさえ)、見慣れた星の配列と全く異なる星図を見ると、頭がすっかり混乱してしまうのでした。

そこで、ヒースは方針を転換して、地球(太陽)に視点を置いて、そこから眺める立体星図を作ることにしたのです。これは星図製作史の観点から言えば、ある意味、地動説から天動説への後退(=地球中心主義の復活)を意味しますが、背に腹は代えられぬといったところでしょう。

ここから生まれた成果が、『我らの恒星宇宙』の第3部です。
まことにヒースはまめというか、行動力のある人だと感心します。


(記事が長くなるので、第3部の中身は次回に。この項つづく)