透過式オーラリー2018年01月28日 11時55分04秒

今更ですが、私はこれまで天文にちなむ古物を、随分買ったり眺めたりしてきました。
それでも、天文古玩界はまことに広く、「もはや日の下に新しきものなし」…なんて、チラとでも思ったら、それは慢心以外の何物でもありません。

今日も今日とて、「ウワー!コレハタマランナー!!」という品を見ました。
(これだから、天文古玩の世界から離れられないのです。)



1817年頃、イギリスのEltonというメーカー(伝未詳)が売り出した、一種の天文教具です。マホガニーのケースに仕組まれたカラフルな天文図が、ハンドルを回すとくるくるスクロールするようになっていて、それだけでも面白い工夫ですが、さらに背後から灯りで照らすと、星たちの姿が灯籠絵のように、一層あざやかに浮かび上がるという、まことに艶麗な「天文紙芝居」が楽しめる装置です。

そこに展開するのは、
①地球とその大気、②地球の二重運動(自転と公転のこと?)、③黄道12星座の記号、④オリオン座、⑤月とその見え方、⑥日食、⑦月食、⑧太陽系
の8つの光景です。

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太陽系の惑星の動きをシミュレートする器械装置である「オーラリー」とは、その構造も目的も少なからず異なりますが、この種の教具を「透過式オーラリー(Transparent Orrery)」と称するそうです。

商品紹介文には、当時、ロンドンで天文学講演家として活躍した、アダムとディーンのウォーカー父子の名前が挙がっていて、彼らが透過式オーラリー、別名「エイドウラニオン(Eidouranion)」という装置を用いたことに触れて、上の品もその類品であると解説しています。

ここで「Eidouranion」を検索すると、Wikipediaにその項目がありました。
それによれば、父親であるアダム・ウォーカーは、1780年代に、直径27フィート(8.3メートル)の巨大な像を、背面投影でスクリーンに映写し、さらにその像を機械仕掛けで動かすという装置を発明して、ロンドンの大劇場で公演したそうです。(ちなみにその名称は、ギリシャ語のエイドス(形、姿)とウラノス(天空神)を組み合わせた造語です。)

(Wikipediaの上記リンク先より)

上の品は、ここに登場するエイドウラニオンともまた違いますが、現代のプラネタリウムと同様、透過式オーラリーにも、舞台用の大掛かりな装置から、家庭用の小型装置まで、大小さまざまな品が売られていたのでしょう。(書いているうちに思い出しましたが、天文古玩界の先達、トマス・サンドベリさんのサイトでも、フランス製の小型透過式オーラリーが紹介されていました。)

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件の品はすでに売却済みで、果たしていくらで売れたのかは不明です。
まあ、買える買えないは別として、こういういかにもミュージアムピース的な品が、時に「売り物」としてマーケットに登場するのは、何となく嬉しい事実です。

値段のついでに言うと、この品は1817年当時、定価15シリングだった由。
もののサイトで、今のお金に換算すると、物価ベースだと50ポンド、邦貨にして8,000円ぐらい。あるいは賃金ベースだと、その10倍ちょっとになります(昔は多くの人が貧しく、物は相対的に高かったのです)。間をとって4~5万円ぐらいと考えれば、まあそんなものかという気がします。

今もその値段で買えるといいのですが、200年という歳月に敬意を表して、そこに歳月代を上乗せすれば、やっぱり相当な値段になってしまうことは、やむをえません。