アストロノミア(後編)2018年05月26日 13時19分48秒

ずっと欲しかった「アストロノミア」。
空に浮かぶ星のように、遠くから憧れることしかできなかった存在―。
それが今、こうして手元にあるのですから、こんなふうに顔を赤くして、いかにも自慢たらしく語るのも、世人これを許せ…といったところです。


アストロノミアは、ふつうのトランプと同じように、1スートが13枚、それが4スートの計52枚のカードから構成されています。各スート、すなわちトランプのクラブ、ハート…に相当するのは、春(青)・夏(赤)・秋(黄)・冬(白)。そして、各スートを構成する13枚には、全スートに共通する11枚と、スートごとに異なる、2枚のスペシャルカード(leading card)が含まれます。

(夏の木星と土星)

共通カードには、当時知られていた7つの惑星(水・金・地・火・木・土・天)と、

(秋のセレス)

セレス、パラス、ジュノー、ヴェスタの小惑星が当てられています。

(秋の彗星と星座)

また、スペシャルカードには、各季節の黄道十二星座と、月(春)、太陽(夏)、彗星〔1680年のキルヒ彗星〕(秋)、太陽系天体の軌道図(冬)が描かれています。

(冬の軌道図(中央))

果たして、これでどうやって遊んだのかは、ルールブックが手元にないので不明ですが、おそらく共通カードをそろえて「役」を作りながら、スペシャルカードで点数アップを狙ったり、あるいは他のプレイヤーから手札を巻き上げたりして遊んだんじゃないでしょうか。想像するだに雅です。

   ★

残念ながら、手元のセットは、全52枚中46枚(6枚欠け)しかない不完全なものですが、その美しい仕上がりを堪能するには十分です。

(春の月。左側はカードの裏面。裏面は白紙になっています)

例えば、この月カードの繊細さはどうでしょう。
月の輝きと本体をとりまく光のローブが見事に版画で表現されています。

(冬の地球。欄外の「Tellus」は、ラテン語で「Earth」と同義)

   ★

宇宙を美しく描こうとする試みは、もちろん18世紀以前にもありました。
例えば、華麗な星座絵を、これでもかというほどカラフルに彩色したり、グラフィカルな天球表現で見る者の目を楽しませたり…。

でも、星のかなたに広がる漆黒の闇の深さ、広大な宇宙が醸し出す静謐な詩情、あるいは宇宙を貫く望遠鏡のクリアな視界――こうした現代に通じる「天文趣味」が誕生したのは、やはり19世紀になってからだと思います。それは、観測技術の向上によって、新天体の発見が相次いだことや、恒星までの距離測定が可能となり、宇宙の大きさが実感されてきたことと無縁ではないでしょう。

この1830年頃作られたカードは、そうした新時代の宇宙美を端正に表現した、初期の名品と呼ぶにふさわしい品です。この延長線上に、あのエドウィン・ダンキンの傑作、『真夜中の空』も位置付けることができるように思います。


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▼閑語(ブログ内ブログ)

「あれ?おかしいなあ。安倍さん、なんでまだ総理大臣やってるんだろう?」
「すぐにも辞めるはずだったのに、なんで?」
…と、狐につままれたような気分の方も多いんじゃないでしょうか。

事情通の人に「それこそが、すでに独裁の完成した証拠さ」と耳打ちされ、「あ、そうか」と今更ながら気づきました。比喩とか揶揄とかでなしに、正真正銘の独裁というのは、こういうことを言うのかと、得心がいきました。

まことに恐ろしいことです。
私の中では、どこかまだ「話せばわかる」的な思いもあったのですが、「問答無用!」とバッサリやられた無念さを覚えます。もう無茶無茶です。まあ、「独裁」イコール「無敵」ではないし、独裁が続いたためしはありませんから、私は今後もよこしまな相手には非を鳴らし続けます。

   ★

ときに、上の文章を書くついでに、昭和の暗い時代を象徴する「五・一五事件」と、凶弾に散った首相・犬養毅のことをウィキペディアで読み返していました。

そこに出てくる「犬養の演説は理路整然としていて無駄がなく、聞く者の背筋が寒くなるような迫力があった」…とか、「政界で隠然たる影響力を誇っていた山縣有朋が『朝野の政治家の中で、自分の許を訪れないのは頭山満と犬養毅だけ』と語った」…とか、「宮崎滔天ら革命派の大陸浪人を援助し、宮崎に頼まれて中国から亡命してきた孫文や蒋介石、インドから亡命してきたラス・ビハリ・ボースらをかくまった」…とかの記述を読むと、毀誉褒貶はありながらも、犬養が非常にスケール感のある人物であったことは否めません。

振り返るに、今の宰相はどうか。何だかため息しか出ませんが、戦前回帰するなら、せめてこういう性根の部分で回帰してほしいなあと思います。それにしても、安倍さんの場合、仮にその場になっても「話せばわかる」とは、お義理にも口にできないでしょうね。

コメント

_ S.U ― 2018年05月26日 14時57分29秒

おぉ、これはすばらしいカードですね。デザインがすっきりしていて、そんな古そうにはみえません。どうやって遊ぶんでしょうね。

 とりあえず、欠札もあるそうですから、花札の花合わせのルールで遊ぶというのはどうでしょうか。場に出す時と山をめくる時に同じ種類(数)ならゲットというやつです。何となくですが、本来の遊び方とそんなに遠くないような気がします。「巨大惑星=木・土・天」とか「4大小惑星」とか「月夜のカニ座」とか適当な役をつくればよいでしょう。

>閑語
 独裁の完成とは恐ろしいことですね。独裁の進め方と止め方は国民誰しも一通り学んでおく必要があると思います。
 まだ現状では野党の連合で首相を変えることは可能ですが、与党に有利に選挙制度の変更を強行採決することによりこの芽をつぶすことはいくらでも可能です。裁判所は違憲の選挙でも無効にすることも人権侵害のしないのが現状ですので、選挙制度が変わる前に手を打たねばなりません。
 もうひとつ、諸外国の例に見るように、デモはいまでも有力で、現場でおいそれとは取り締まれないので、国家権力のもっとも恐れるところですが、日本ではことさらこれを軽視するふりの宣伝をしています。その一方で、共謀罪でデモに参加しそうな一般市民を罪に問う準備を進めています。
 これらが尽きると、残念ながら外圧に頼るとか国が破綻するとか戦争に負けるとかしかなかなか策がないように思います。でも、若者を特攻隊で片道燃料で送り出すようなことになるよりは、国が破綻するほうがはるかにましだと思います。

_ 玉青 ― 2018年05月27日 18時45分07秒

ありがとうございます。
この素敵なカード、なかなかお値段が良かったので、気楽に遊ぶのは勇気が要りますが、そのうち手製の復刻版を作ったら、遊び方を工夫してみたいですね。

日本はお上がいくら腐敗しても、決して大規模デモが起こらないんだ、いつでも長いものに巻かれる国民性なんだ、昔からそういう国柄なんだ…なんてことを、万一お上が考えて安心してるようであれば、それこそ好都合かもしれませんね。
強訴、逃散、一揆、打ちこわし…日本にも多彩で過激な民衆デモの文化があったことを忘れては、私ら庶民は、それこそご先祖様に顔向けができません。

_ S.U ― 2018年05月28日 07時49分40秒

>気楽に遊ぶのは
 では、こっそりと白手袋でソリティアなどされるのはどうでしょうか。カードに負担がかからぬもの、フリーセルなどでしょうか。

>民衆デモの文化
 お上より先に市民が忘れては話にならないので、日本史の復習は大事ですね。

_ S.U ― 2018年05月29日 18時42分43秒

>民衆デモ
 関連してふと思いついたのですが、日本人が讃える忠義の物語で、興行が不人気になってもこれをかけると客が復活するというスーパー人気を誇るのは、「忠臣蔵」と「勧進帳」で、これらは忠義の物語に違いないのですが、お上から見ると、前者は司法権に楯突く集団私刑物語であり、後者は計画的偽計関所破り物語ですよね。日本人の忠義の美徳はこうでないといけません。

_ 玉青 ― 2018年05月29日 21時45分53秒

おお、これは程よく不穏当になってきましたね。(^J^)
ぜひ歴史に学んで、非道な為政者の心胆を寒からしめたいところです。

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