透かし見る空…透過式星図(3)2020年09月25日 06時42分02秒

さて、次に登場するのは、Friedrich Braun 『Himmels-Atlas in transparenten Karten』 (1850年)です。

ブラウンのこの透過式星図は、連載第1回に登場した、レイノルズの星図と並んで有名なので、ご存知の方も多いでしょう。日本のアンティークショップでも、折々売られているのを目にします。しかし、有名なわりに、ブラウンその人の背景については、今のところよく分かりません。これは今後の宿題です。


全体は、濃い緑のポートフォリオに包まれています。


内容は、28.5×22.8cmの星座カードが30枚、さらに、それよりちょっと大きいカードを4枚つなぎ合わせた約60×50cmの天球図(四つ折りになっています)が付属し、図版としては計31図から成ります。

全図版の詳細は、以下のページ(※)で見ることができます。

Himmels-Atlas in transparenten Karten by Friedrich Braun in 1850
  http://www.atlascoelestis.com/Braun%20pagina%20base.htm

(※)余談ですが、ページ・デザインからお分かりのように、上のページは前回も参照した、イタリアのフェリーチェ・ストッパ(Felice Stoppa)氏ATLAS COELESTIS のコンテンツです。星図について調べごとをしていると、しょっちゅう行き当たるサイトで、情報量もすごいし、その星図愛に圧倒されます(ストッパ氏は、ミラノ在住の天文学史研究者で、教育図書の編集発行が本業だと聞きました)。

上のような立派なサイトがあるので、屋上屋を架すこともないのですが、人の褌を借りてばかりではいけないので、自前の画像を載せておきます。


試みに、上の2枚(おおいぬ座とおうし座)を光にかざすと、どう見えるか?



ブラウン星図の特徴は、裏に貼った薄紙が彩色されていて、星が黄色く輝くこと、そして何といっても、星だけでなく、星座絵もピンホールによるドットラインで表現されていることです。後者の点は、工夫としては面白く、現代のプラネタリウムの映像を思い起こさせます。しかし当たり前の話ですが、現実の空に星座絵はありませんから、「リアルな星空のシミュレーション」という意味では、これは良し悪しです。その後、模倣者が出なかったのも、手間がかかるわりに効果が今一つだったからではないでしょうか。

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こちらは、天の北極を中心に-40°までを描いた天球図。


光にかざすと、こんな感じです(薄っすら見える横じまは、背後のブラインド)。


よく見ると、星は裏から多様な彩色が施してあり、星座絵カードのように黄色一色ではありません。ただし、現実の星の色を塗り分けてあるわけではなくて――そうだったら良かったのですが――単に星座を区別しやすくするための工夫として、同じ星座に属する星は、すべて同じ色で塗られています。

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ところで、上で参照したストッパ氏のページには、ブラウン星図を包むポートフォリオとして、天球をかつぐ巨人アトラスの姿をデザインしたものが掲載されています。この「アトラス像版」は、私の手元にもあります。


ただし、「アトラス像版」の中身は、天球図のみで、30枚の星座絵カードは入っていません。こちらは最初から天球図単体で販売することを目的とした商品のようです。(そのことはポートフォリオの「まち」幅から明瞭です。この薄さに30枚のカードをはさむことはできないでしょう。)

ストッパ氏のページは、別ページで普通の濃緑色のポートフォリオも紹介しているので、これは見場を考えて載せてあるのだと思いますが、この「アトラス像版」を見ていると、或る疑問がむくむくと湧いてくるのです。

(この項つづく)