鋼の人、ジョージ・エアリーの面影 ― 2025年08月20日 18時15分53秒
前回、『ビクトリア時代のアマチュア天文家』の最終章で、ジョドレルバンクのことを意識した…ということを書きました。
今考えるとちょっと変な気がするんですが、そのときの自分は、まだイギリスのアマチュア天文史に無知でしたから、どうすればその全体像に迫れるかを考えた末に、本の最初と最後に出てくる人物の肉筆書簡を手に入れることを思い立ちました。「From A to Z」の「A」と「Z」の肉声を聞けば、その途中の声をすべて聞いたに等しい…という、少なからず呪術めいた思考に囚われていたわけです。
その計画はただちに実行に移され、私の手元には2通の手紙が届きました。
今、記録を見ると、2通を購入したのは、ともに2003年4月のことです。
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その「A to Z」の「A」は、第7代グリニッジ天文台長・兼・王室天文官のジョージ・エアリー(Sir George Biddell Airy、1801- 1892)で、「Z」は言うまでもなくバーナード・ラヴェルです。
エアリーは、徹底したプロの天文学者ですが、その彼が『ビクトリア時代のアマチュア天文家』の冒頭に登場しているのは、そのプロフェッショナリズムと対比したとき、イギリス天文学の著しい特徴、すなわち生活の糧とは無縁のところで天文活動を営んだアマチュア天文家たちが、それをリードしたという事実が、より鮮明になるからです。
そしてバーナード・ラヴェルも、完全にプロの天文学者ですから、結局、その二人の書簡を手にしたところで、イギリスのアマチュア天文史に迫れるはずもなく、無知とは恐ろしいものだと思いますが、当時の自分の行動力だけは、なかなか侮れません。
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ともあれ、エアリーはグリニッジ天文台の改革を、鋼の意志で進めた立役者であり、一代の傑物と呼ぶに足る人物です。天文マニアの方であれば、「エアリーディスク」(※)にその名を残す人として、思い当たるでしょう。
ここで、ことの順序として、エアリーの手紙を先に見てみます。
「王立グリニッジ天文台 1839年3月26日」で始まる文面を文字起こしすると、
「An account of the experiments on Iron Ships alluded to in your letter of the 25th would occupy me for several hours. I need not point out to you that it is quite impossible for me to give this time to each individual interested in the subject. I am at present preparing an account for the Royal Society, but I cannot say when it will be completed.
I am, Sir, Your obedient servant, G B Airy」
I am, Sir, Your obedient servant, G B Airy」
と読めます。
「拝啓 貴殿の25日付書簡で言及された鉄製船舶に関する実験についてご説明するには、数時間を要することでしょう。このテーマに関心を持つ方々それぞれに、それだけの時間を割くことが不可能なことは、申すまでもありません。 現在、王立協会への報告に向けて準備中ですが、完成時期は未定です。 貴殿の忠実な僕、G・B・エアリー」
文は人なり。その後、19世紀の天文学者の書簡をいくつか手にしましたが、エアリーの文字は非常に几帳面、かつ丁寧で、現代の我々にも読みやすいです。他の人だと、大抵は眉間にしわを寄せて、判じ物のように読むことが多いですが、これはいわば楷書の筆記体ですね。
(エアリーのサイン)
ただし、内容はきわめて事務的で素っ気ない。
しかし素っ気ないけれども、手紙を貰ったらすぐに返事を書く律義さ。
そう、やっぱり「文は人なり」で、この一通の手紙にも、エアリーの人柄はよく表れています。

(Sir George Biddell Airy、1801- 1892)
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ところで、なぜここに「鉄製船舶」が出てくるかですが、AIに聞くとたちどころに以下のことを教えてくれました。
「王立天文官ジョージ・ビデル・エアリーは、鉄船の磁気コンパスに関する研究で知られています。 彼は鉄船が引き起こす擾乱を調査し、コンパスの偏差を修正する方法を開発しました。 彼の研究は、当時普及しつつあった鉄船の安全な航行に極めて重要な役割を果たしました。」
なるほど、グリニッジは海事も司っていましたから、これは重要な研究です。
その実験に関する説明は、王立協会のサイト【LINK】に当たると、彼の1839年の報文、「Account of experiments on iron-built ships, instituted for the purpose of discovering a correction for the deviation of the compass produced by the iron of the ships(船舶の鉄が引き起こすコンパスの偏差を補正する方法を発見する目的で実施された鉄製船舶に関する実験報告)」として読むことができます(ただし、エアリーはこの前後にも同じテーマでいくつか論文を書いています)。
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この手紙、購入後22年目にして初めてじっくり読んだのですが、購入した時は164年前の手紙だったものが、今では186年前の手紙になっている事実に思い当たり、時の流れの不思議さを感じます。
(用紙の透かし模様。見る人が見ると、これで製紙工房が分かるらしい)
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(※)光の回折により、理想的レンズであっても、点光源が点像を結ぶことは決してなく一定の円盤像になること――すなわち解像限界が存在することを、エアリーは数学的に示しました。その円盤像がエアリーディスクであり、その周囲を取り巻く光環像がエアリーリングです。



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