スチームパンクと古玩趣味2008年01月03日 10時03分59秒

(↑スチームパンクな味わいのオーラリー。ジェームズ・ファーガソン作。1780年ごろ。出典:Bruce Stephenson et al., THE UNIVERSE UNVEILED, Cambridge University Press, 2000)

《新春2連投。前の記事の続きです》

‘steampunk’、‘clockpunk’ というのが、例のブログのカテゴリーにも挙げられていて、以前の記事では、「蒸気仕掛け」 「時計仕掛け」 と、いい加減に訳しましたが、完全に誤訳なので訂正しておきます。

こういう辞書に載ってない単語は、その筋の人には自明なのでしょうが、門外漢にはさっぱりで、私もネットで検索して初めて(おぼろげながら)意味が分りました。

「スチームパンク」、「クロックパンク」 というのは、いずれもSFファンタジーの1ジャンルで、「サイバーパンク」から派生したものだそうです。「サイバーパンク」 が、人体と機械、脳とコンピュータの融合した世界を舞台に、その中で展開する作品群であるのと同様、スチームパンクとクロックパンクも、一種の独自の世界 ― 現実世界とは異なる進化を遂げた 「ありえたかもしれないもう一つの世界」 におけるストーリーを描くのが特徴です。

スチームパンクの方は、ヴェルヌの 『海底二万マイル』 がその先蹤とされることからも分るように、蒸気機関に代表される19世紀的なテクノロジーが過剰に発展した世界を舞台にした作品群で、宮崎駿監督の 「天空の城ラピュタ」 なんかもその系譜に位置づけられます。

他方、クロックパンクの方は、ルネッサンス風の機械テクノロジーが進化した世界が舞台だそうですが、私にはちょっと具体的な作品イメージが湧きません。(ご教示いただければ幸いです。)

で、そういう言葉を知ってみれば、ストンと腹に落ちることがあります。
フープ博士も明らかにスチームパンクですね。「銀河鉄道の夜」 や、長野まゆみ作品の一部にも、その気(け)がありそうです。私なりに敷衍すれば、要するにスチームパンクとは 「真鍮と鋳鉄製の科学機器が似合う世界ないし物語」 だと思います。

してみると、この 「天文古玩」 が目指す“リリカルな、郷愁の天文趣味”というのも、実は、現実の19世紀天文学に、スチームパンクなスパイスをまぶしたものではないか…ということに、ハタと気づきました。

件のブログの記事の標題、「スチームパンクの銀河」 というのも、オーラリーやテルリオンといった器械装置に、スチームパンクのイメージを重ねているのでしょう。

考えてみると、大方の歴史好きは、多かれ少なかれ 「パンク」 な要素があるのではないでしょうか。水戸黄門や暴れん坊将軍を通して江戸時代をイメージする、源氏物語や安倍清明を通して平安時代をイメージする、いずれもフィクションと知りつつ、現実の過去に重ねてしまうところに 「パンク」 の匂いを感じます。

■参考■

○ウィキペディア 「スチームパンク」 の項
 http://tinyurl.com/25rs3r

○Da Vinci Automata より‘Introducing Clockpunk’
 http://davinciautomata.wordpress.com/2007/03/03/introducing-clockpunk/