火星幻視2008年01月10日 06時35分09秒

最近、仕事帰りに空を見上げると、南東の空に一際明るく火星が見えます。
その一歩先にオリオンの勇姿も見えますが、さすがは「火の星」、オリオンの右肩に朱を点じた赤色超巨星ベテルギウスよりも、はるかに赤く大きく輝いています。

さて、写真は、19世紀の百科事典(詳しい出典を書いたメモが今見つかりません)の挿絵として刷られた火星の図。オリジナルはいずれも18世紀で、図36はカッシーニ、図37と38はマラルディ、図41~65はウィリアム・ハーシェルのスケッチを模写したものです。これらは当時繰り返し転写され、19世紀前半における火星のイメージを決定付けました。

火星の奇妙な模様といえば、19世紀末に沸騰した運河説が有名ですが、それ以前にもかなり奇妙な図像イメージの流布していたことが分ります。

ヴィジョンとイマジネーションは紙一重。まあ、火星に限りませんが…。

 ★ ★

仕事+私用で日曜日まで留守にします。とりあえず明日、明後日は記事をお休みします。

コメント

_ S.U ― 2008年01月13日 12時11分52秒

こんばんは。こんな不思議な火星のスケッチは初めて見ました。ハーシェルの
スケッチの極冠が出っ張っているのが「リアル」でいいです。

 ところで惑星スケッチの幻視に関してですが、「惑星ガイドブック1」
(誠文堂新光社、1981)の金星のところに、昔、金星に蜘蛛の巣状の模様が
観測された際に、「何も書かれていない白紙を置いて子どもに見せると、
蜘蛛の巣状のものが見える。だから錯覚。」という異論が出たと出ています。
以来ずっと気になっています。時々、部屋の白壁を見つめてしまうことも
あります。このような錯覚が起こることは、心理学実験等で確認されている
のでしょうか。もし何かご存じでしたらお教え下さい。

最近のところでは、Sky&Telescope(2004 March 114頁)で、火星の運河に
関して、望遠鏡にウェブカム(適度に解像度の悪いビデオカメラ?)を
つけて火星を撮影すると、コンディションや画像処理によっては実在しない
ようなかたちの幅の狭い運河らしき像が写る、というのを読んで、ハイテク
機器は人間と同じ錯覚に陥るのかと恐ろしく思い、こちらも記憶に残っています。

_ 玉青 ― 2008年01月13日 20時47分19秒

Uさま、またまた興味深いコメントをありがとうございました。

「完全に白い背景を注視したとき、どんな視覚像が報告されるか」というのは、探せばきっと何か論文があると思うのですが、寡聞にして知りません。ただ、「蜘蛛の巣状」というのが、何か怪しげですね。

私がぱっと連想したのは、「網膜脈管視」という現象で、眼に一定の角度で光が入射したとき、網膜の前を走っている血管像が知覚されるというものですが(通常は常に同じ刺激にさらされているため、馴化が生じて像として意識されない)、これは心理学の本で読んだわけではなく、戦前に発表された、木々高太郎の推理小説「網膜脈視症」の中で解説されているのを読んだきりです。

金星はさておき、火星の運河説に対する強力な反論としての「錯視説」は、1894年のエドワード・モーンダーが最初らしいのですが、当時は実験心理学の台頭期にあたりますので、心理学的解釈が一種ファッショナブルなものだったことは間違いないでしょう。

モーンダーは独自にいろいろ実験を試みて、そうした主張を展開したようですが、心理学プロパーの人が(当時から今にいたるまで)この件に積極的に関与したことがあったのかどうかは、これまたよく知りません。その辺をきちんと跡づけた方もいるんでしょうが…。

あやふやなことばかりで申しわけありません。

_ 玉青 ― 2008年01月13日 22時17分51秒

◎付記

今、ウィキペディアを見たら、「網膜脈管視」および類似の現象は、「内視現象」という項目にまとめて記述されていました。

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%86%85%E8%A6%96%E7%8F%BE%E8%B1%A1

_ S.U ― 2008年01月14日 19時46分23秒

玉青様、どうもありがとうございました。本でこういうのを読むとどうしても
気になるのですが、結局、詳しいことがわからないまま長年放っておくことが多い
です。網膜脈管視というのは聞いたことがありませんでした。関係ありそうな気が
しますので、Wikipediaの解説に従ってぜひ実験してみたいと思います。また、
深い理由はありませんが、個人的には、不規則な淡い明暗模様を放射状で
あるとパターン認識してしまう癖というのもあり得るのではないかと思います
(あるとしても、個人差が大きいかもしれません。天井のしみや木目などを
見て、やたらと人の顔や動物の姿などに見えるとか言って気にする人がいる
ことから連想しました。)

 「惑星ガイドブック1,2」には、その他、「飛蚊症とオーバーラップした火星の
スケッチ」とか、ピク・デュ・ミディでドルフュスが1962年に得た天王星の「放射状」
の模様のスケッチ(これが真実か錯視かどうかについては論評されていません)
とか載っていてなかなか圧倒されます。

_ S.U ― 2008年01月14日 20時56分23秒

早速、網膜脈管視の「実験」をやってみましたところ、確かにそのようなものが
見えました。暗い部屋で、顔の外側から(右目なら右から、左目なら左から)
白目を白色LEDで照らすと、視野が白くかぶって見え、そこに黒い細くてはっきり
した樹状のパターンが見えます。光が瞳に入らないような角度にすると、今度は
黒い背景に白い樹状のパターンが見えます。

 この像はけっこう安定していて、2秒くらいは見え続けますが、やがて消えて
しまいます。光を少々動かしても、パターンはそれほど動きません。光の明暗を
変化させるとずっと安定して見え続けるように思います。

 コントラストが強くパターンが安定しているので、これを惑星観測中に見たとしたら
再現性のある実体のように思われるかもしれません。ただ、私は惑星プロパーの
観測者ではないので、専門の観測家がどう感じるかについては予測できません。

 しかし、惑星観測中にこの現象を見るためには、惑星面の明るさに負けない
くらいの明るい光をアイピースの脇から目に入れる必要があります。表面輝度の
大きい金星や火星にこの像がオーバーラップすることはあまりありそうでない
ように思います。また、私の場合は、枝の方向がある程度揃った「樹状」あるい
は「稲妻状」には見えますが、「蜘蛛の巣状」(放射状とか同心円形)には見え
ません(血管のかたちは人によって違うものでしょうか)。

おかげさまで、また身近な光の実験のレパートリーが増えてありがたく思います。

_ 玉青 ― 2008年01月14日 23時46分53秒

さすがはサイエンティスト、実証的ですね!

私は「実験」まで試みたことはないんですが、最近年のせいか、飛蚊症が目立ってきて、内視現象を体験する機会には事欠きません。それに乱視もきつくて、双眼鏡なんかも裸眼ではどうしてもピントが合わず、苦労しています。子どもの頃のクリアな視界が懐かしい。。。

蜘蛛の巣状の謎は依然解けませんが、他にも何か要因があるんでしょうか。。。そもそも蜘蛛の巣状の模様が見えるというのは、確かな話なのかどうか、その辺から疑ってかかる必要があるかもしれませんね。

_ S.U ― 2008年01月16日 23時22分02秒

玉青様、どうもありがとうございます。
蜘蛛の巣構造の謎については、結局は火星運河の問題に返ってくるように思います。

最近の詳しい写真を見る限り、金星や天王星に地上から可視光で見えそうな蜘蛛の
巣状あるいは放射状の構造は存在しないはずです。帯状、樹状の構造ならありそう
です。なんらかの形状の見誤りだと思います。

火星についても、不規則な明暗模様やクレーターの列、線状の谷、はありますが、
「オアシス」間をネットワーク状につなぐ運河のような構造は実在しないと思います。

これらの構造は、いずれもローウェル、ドルフュスといった高名な観測者によって
指摘されました。やはり問題は人間の心理の側にあるのではないかという方向で、
惑星探査や画像処理の技術が進歩した今、もういちど考えるのが良いように思います。

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