宇宙は何から出来ているか(1)2015年11月22日 09時49分18秒


しばらく雑事に追われていましたが、ようやく一息ついています。
で、何か記事を書こうと思うのですが、なんだか頭の芯がしびれたようになって、何も思い浮かびません。

こういうときは、己を鼓舞するために、かえって話を大きく持って行った方がよいので、あえて問いかけましょう。皆さんは宇宙が何から出来ているか、すなわち何から構成されているかご存知ですか?

多年の研究により、私はついにそれを解明しました。
それは…

(ついに逝ってしまったか…と思わせつつ、この項つづく)

宇宙は何から出来ているか(2)2015年11月23日 10時36分09秒

(昨日のつづき)

はたして宇宙は何から構成されているのか?
それを考えるヒントに、1枚の絵葉書を見てみます。

下の絵葉書は、巨人望遠鏡を備えたベルリンのトレプトウ天文台を描いたもので、1900年前後の多色石版画です。(同天文台については http://mononoke.asablo.jp/blog/2007/06/18/ を参照。)


そして、ここにほぼ完璧な「宇宙」が存在するのです。
すなわち「宇宙」とは…


点綴する恒星彗星土星


そして、望遠鏡から構成されているのです。

   ★

何が言いたかったかというと、要は人々が「宇宙」と聞いて思い浮かべるイメージは何によって表されるのか?…というテーマを以前から考えていて、その主な要素は上の5つであろうというのが、私の結論です。

もちろんそこにはヴァリアントもあって、彗星が流星に置き換わる場合も多いし(市井の人々にとって、両者は常に交換可能なイメージです)、また五大要素のいくつかが脱落したり、さらに渦巻銀河や、宇宙から眺めた地球を加えて七大要素とする説もありますが(嘘)、いずれにしても、人々のイメージする「宇宙」は、驚くほど少数の要素から出来ていることは確かだと思います。

(渦巻銀河が「宇宙」の表象となった早い例。カミーユ・フラマリオンの『アストロノミー・ポピュレール』 表紙、1880年)

こういうのを、いろいろな時代や国で比較対照したら面白かろうと思うのですが、もうどこかで誰かがやっているかもしれません。

宇宙は何から出来ているか(3)2015年11月24日 06時27分59秒

昨日挙げた「五大要素」の話。
過去記事を探したら、こんな美しい例もありました。


この「恒星、土星、彗星、月、望遠鏡」の宇宙イメージは、かなり強固なもので、21世紀に入っても、まだまだ健在です。


上のAKTEO(仏)のデザイン・ウォッチなんか、まさにそれですね。
ここでは時針が月、分針が土星、秒針の両側が望遠鏡と彗星(流星?)になっていて、恒星が散った文字盤の上をくるくる回っています。


これこそ、19世紀以来今日に至るまで、人々に広く共有されている「宇宙」イメージなのでしょう。

   ★

下は今から3年前(2012.8.18)、朝日新聞のコラム「お金のミカタ」に載ったイラスト(画・深川直美氏)。


私はこの一コマ漫画にいたく感動し、ずっとHDに保存して座右の銘としていたのですが、今回話題にした「宇宙イメージ」という点からも興味深い作例で、やはりこの辺が現代の最大公約数的な宇宙の描き方かと思われます。

(ちなみに、この日の「お金のミカタ」のテーマは、「高金利でお得な定期預金!?にはカラクリが/うまい話は転がってない」というものでした。まあ、たしかにうまい話はないですね。でも、広い宇宙のどこかには…)

11月の星座…リヴァプールの街から2015年11月25日 06時38分12秒



早くも月末になってしまいましたが、恒例の季節の星座めぐり。
11月はリヴァプールの中心部、ライムストリートから見上げる星空です。


以下、星図キャプション。

 「11月の星座。この星図を使って、皆さんは11月中旬から12月中旬の星座を学ぶことができるでしょう。皆さんは、今リヴァプールのライムストリートから南の方を向いているところです。右手に見えるのはセント・ジョージ・ホールです。先月の星図にあった星たちの多くは、西から西南にかけての方角に見えるでしょう。そして天の川は頭上近くを横切っています。」

地平近くの星座は、西南にみずがめ座、東南にくじら座(Cetus)。
くじら座は、星座絵では、我々の知っているクジラとは似ても似つかぬ巨大な海獣の姿で描かれます。真南の空にぽつんと輝くディフダ(くじら座β星)が、その尻尾の星。そして海獣の首には、有名な変光星のミラが、約11か月周期でゆっくりと脈打っています。


秋空の主役だった白鳥やペガススは、今や西に傾き、中天から頭上にかけては、うお座、アンドロメダ座、おひつじ座、ペルセウス座、ぎょしゃ座がひしめいています。もう少し頭を東に向ければ、牡牛やオリオンの姿も見えてくる頃合いですが、彼らが空の主役になるには、もうちょっと間があります。

   ★

星図につづく「今日は何の日」のページ。

(右側に写っているのは、11月30日生まれの英国首相チャーチル)

昨日、11月24日はダーウィンの『種の起源』が出版された日でした(1859年)。
また1642年のこの日、オランダ人航海家のアベル・タスマンがオーストラリア南方に新島を発見し、ここは後に「タスマニア」と呼ばれることになります。

そして今日11月25日は、アメリカの鉄鋼王カーネギーが生まれた日であり(1835年)、ちょっとマイナーなところでは、スペインの劇作家ロペ・デ・ベガが生まれた日であり(1562年)、いっそうマイナーなところでは、天文古玩の管理人が生まれた日でもあります。

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馬齢を重ねた目で、西に消えつつある天馬の姿を追ってみようと思いましたが、今宵はあいにく雨模様だそうで、侘しい上にも侘しいことです。

My Dear Caterpillars2015年11月26日 21時59分51秒

昔、さる旧制高校に「青虫(カタピラー)」とあだ名された、非常に篤学の教師がいました。彼は学校の蔵書の充実を図ることに異常な努力を傾け、結果として、同校の図書館はある偏倚な傾向を帯びてはいたものの、特定の専門分野に関しては、大学図書館をも凌ぐ質と量を誇るに至りました。

「青虫」は一種偏屈な奇人と目されていましたが、その驚嘆すべき学殖は、最も怜悧な一群の学生たちにも畏敬の念を起こさせるものがありました。

ある日の深更、「青虫」の殊遇を得て、図書館内の一室に起居する権利を得た学生・黒川建吉のもとを、友人の三輪与志が訪ねます。

―君だね。
と、再び呟きながら、彼は三輪与志の前へ椅子を押しやった。
―青虫(カタピラー)の部屋にはまだ電燈がついているようだった。もう十二時…過ぎではないかしら。
―あ、そう。さっき此処からアキナスの『存在と本質』を持って行ったっけ…。
黒川健吉が傍らに差出した椅子に目もくれず、三輪与志は卓上に拡げられた書物を覗いた。
―『存在と本質』…あれは独訳だったかしら。青虫(カタピラー)はまだ神にへばりついているのかね。
舎監室の気配を窺うように、三輪与志は躯を曲げたまま、顔を傾けた。

この日、二人の共通の友人である矢場徹吾が謎の失踪を遂げ、それから幾年かの後、三輪は癲狂院に収容されている矢場と再会を果たす…というところから、埴谷雄高(はにやゆたか)の形而上小説『死霊(しれい)』のストーリーは幕を開けます。


   ★

とはいえ、『死霊』の内容を今となっては全く思い出せません。
いや、そもそも学生時代にリアルタイムで読んだときだって、全然理解できていなかったと思います。まあ、そこが形而上小説と呼ばれるゆえんなのでしょうが、ただ上に記した冒頭の描写は妙に印象に残っています。

暗い雰囲気の中で延々と続く衒学的な会話と、それを盛る器としての古風な四囲の描写に、若い頃の私はいたく心を奪われ、カタピラーの存在にも微かな憧憬を抱いたのでした。


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本当は『My Dear Caterpillars』と題された、別の本の話をしようと思ったのですが、ゆくりなくも『死霊』のことを思い出し、話題が横滑りしました。肝心の本の話は次回に。

(この項つづく)

再び「My Dear Caterpillars」(1)2015年11月27日 19時48分53秒

(昨日のつづき)

さて、本題の「My Dear Caterpillars」。


表紙には大きく「MY DEAR CATERPILLARS」と書かれていますが、これは副題を英訳したもので、正式な書名は『日本産スズメガ科幼虫図譜』といいます。

■松浦寛子(著)
 『日本産スズメガ科幼虫図譜―わが友いもむし』
 風知社、2004年(第2刷 / 初版第1刷は 2002年刊)

この本とは、昔の昆虫図譜を探しているときに出会ったのですが、ご覧のように昔どころか、ごくごく最近の出版物です。それでも購入する気になったのは、少女時代から筋金入りのアマチュア昆虫家だったという著者の経歴と、この特殊な内容の本が、ネット上で多くの人から好評を博している事実に興味を覚えたからです。
 
  ★

巻末の著者紹介によれば、松浦寛子氏は、昭和8年(1933)、東京・青山の生れ。
本業は伝統織物である佐賀錦の作家さんだそうです。
その松浦氏と昆虫との関わりは、本書の「はじめに」で詳述されています。


 「〔…〕丁度終戦の年1945年に小学校を卒業したが、すでにこの年、カリエスという骨の結核にとりつかれていて、その後十年余りにも亘る歳月を闘病生活に費やさねばならなかった。そんな私に生きる喜びを与えてくれたのは、ほかでもない、小さな虫の世界の生命の営みであった。卵、幼虫、蛹、成虫と完全変態する蛾の一生は、唯々目を見張るばかりの不思議の世界だった。翅の模様の微妙な美しさ、幼虫の興味尽きない生活のいろいろ、そして閉ざされた蛹の中から魔法のように飛翔する世界への変身。」

病躯を抱え、その観察のフィールドは、自宅の庭と近所の空地に限られながらも、松浦氏の目は、昆虫の世界に大きく見開かれました。そして十代の終わり、1952年からは、本書の元となるスズメガの観察とスケッチに打ち込まれることになります。

 「体の具合の良い時には家の外まで出歩くこともできたが、悪くなると寝たきりになり、採った幼虫を枕元に置いて腹這いになって写生したものだった。」

幸い23歳の時に、手術が成功して健康を取り戻され、1963年からは信州の山荘を利用できるようになったことで、氏とスズメガとの関わりは、いっそう熱を帯びることになりました。そして、ご家族を介護されるため、途中ブランクをはさみながらも、氏のスズメガへの興味は静かに持続し、これまで描きためた大量の記録を一書にまとめたいという思いが徐々に萌したのでした。

 「それでも、日本産全部の76種まではまだ遠い。もう一年、もう一年と待つうちに老いは容赦なく忍び寄る。私はもう決断せねばならない時を迎えたと思う。ここから先、また見つかった種は出来れば、補遺として出す事も出来るかも知れない。ともかくも、私は50種を越えた今、50年の記録を一つの区切りとしてここに纏めることとした。」

「蛾の幼虫」と聞いただけで、身構える人もいると思います。
しかし、この「現代の虫愛づる姫君」が、53種類ものスズメガの幼虫や卵を入手し、自ら育て、観察し、スケッチを繰り返した…その膨大な時間と努力と愛情を思うとき、この図譜の重みが実にただならぬものであることは、万人が認めるでしょう。そして「My Dear Caterpillars」の語が伊達ではないと思うはずです。


(次回、図譜の中身を見にいきます。この項つづく)

再び「My Dear Caterpillars」(2)2015年11月28日 10時09分34秒

松浦寛子(著)『日本産スズメガ科幼虫図譜』は、A4サイズの大型の図譜です。
収録されているのは、日本産スズメガ類全76種のうち53種。

(クロテンケンモンスズメとホソバスズメ)

カラー図版は見開きで、原則として左右それぞれ1種類のスズメガを取り上げ、その各齢幼虫(幼虫は卵から孵化し、脱皮して大きくなるごとに1齢、2齢…と数えます)と蛹、成虫の姿がスケッチされています。

再度強調しておきますが、これらの図はすべて松浦氏自身が、実物を手元に置いてスケッチされたもので、写真や文献を見て写したものは1つもありません。それに各齢幼虫と簡単にいいますが、幼虫を育て無事に蛹化・羽化させるのは、なかなかの難事で、見慣れない幼虫を飼っても、成虫になる前に死んでしまったら、自分が果たして何の幼虫を育てていたのか分からない…なんてことも起こります。

上に挙げたクロテンケンモンスズメも、1966年、1971年、1991年の各スケッチをまとめることで、その生活史の全体が表現されています。


次頁はこれも見開きで、前頁に掲載した種の解説になっているのですが、この私家版の図譜では、生物学的客観描写よりも、観察当時の個人史的事項や、その種への思い入れに紙幅が割かれ、滋味豊かな昆虫エッセイとして読むこともできます。


たとえば、このいかにも芋虫然としたコエビガラスズメの幼虫。
これも著者にとっては、鮮烈な記憶を呼び覚ます蛾の一種です。

 「1965年8月12日、初めて軽井沢の小瀬林道を歩いた日である。〔…〕右に左に気を配り乍ら幼虫を探して歩く私の目の高さの枝から、いきなり鮮やかな紫色の斜線が飛び込んできた。あお向けに体を反らして止まっている見事なコエビガラスズメの幼虫だ。写真などですでに私の頭には印象深くきざみ込まれている幼虫だが、現実に目の前に見るその鮮やかな色彩は衝撃的であり、三十数年もたった今でもその時の感激は消えていない。緑色の体に7本の斜線、それが紫、濃紫、白と三段に重なり、橙色の気門と、漆黒の尾角をそなえたまさに芸術品である。」 (19頁)

   ★

そもそも、山野で暮らす昆虫の生活史は分かっていないことが多く、スズメガ類にしても、成虫の姿は昔から知られていても、その幼虫がどんな姿で、何を食草にしているかは謎…という種類が多かったそうです(おそらく今でも全容は分かっていないでしょう)。

小学校のときにモンシロチョウの飼育観察をされた方は、同じ青虫から蛹になったのに、蛹の色が緑だったり、茶色だったりしたのを記憶されていると思いますが、スズメガの場合、すでに幼虫時代から色彩変異が顕著で、同じ種類でも褐色型の幼虫もあれば、緑色型の幼虫もあり、さらに身体の斑紋にも個体差があり…という具合で、そこに対象同定の難しさがあると同時に、観察のしがいもあるわけです。

蛾の生活史の解明が進んだのは1960年代のことで、それには主にアマチュア昆虫家の活躍によるものでした。「1960年代の中頃は、ガの幼生期の観察が最も盛んな時で、週末毎に、同好者の間では新発見によるショッキングなニュースが飛び交い、幼虫戦争と呼ばれる程、活況を呈していた。」と、松浦氏は書かれています(30頁)。もちろん、氏もその「戦火」をくぐり抜けたおひとりです。

蛾の生態もさることながら、本書の随所に顔をのぞかせる、そうした蛾類ファンの生態や交友記録も、部外者にはとても興味深いです。

   ★

有体に言って、私は個人的に蛾が苦手で、その幼虫にも積極的な興味はありませんでした。しかし、本書を読んでその印象はずいぶん変わりました。それは実に豊かな世界であり、一個の小宇宙を形成している観があります。

   ★

いや、単なる比喩ではなしに、文字通り芋虫はその身体に宇宙を内包しており、我々の住むこの宇宙も、実は一匹の芋虫に他ならないのだ!…という奇想の作品が、楳図かずお『14歳』で、これは『死霊』以上に形而上的な印象を与えるものでした。


一匹の芋虫から学ぶことは、まだまだ多そうです。


師走は光と闇の神戸へ2015年11月30日 16時50分22秒

いよいよ11月も終わり。
12月の声を聞くと、先日話題にした神戸で開催されるイベントを思い、気分が徐々に浮き立ってきます。


■Salon d'histoire naturelle 博物蒐集家の応接間 ―錬金術士の実験室―
○会期: 2015.12.12(土)~12.14(月)
      12時半~19時(最終日は18時まで)
○会場: Landschapboek(ランスハップブック)
      〒650-0012 神戸市中央区北長狭通3-11-8ロクガツビル2F & B1
○参加店舗antique Salon(主催・企画)、LandschapboekMercure Antiques、 
      dubheORLANDOÔ BEL INVENTAIRE、 (特別参加 天文古玩)
○公式サイト: http://ameblo.jp/salon-histoire-naturelle/
      (フェイスブック https://www.facebook.com/salonhistoirenatulle/

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博物系アンティークショップが集い、それぞれ秘蔵の品を披露する物蒐集家の応接間。今年1月の名古屋から始まり、6月の東京、そして12月の神戸と、このヴンダーな催しも、第3回目を迎えました。

今回のテーマは、いやが上にも妖異なムードが漂う「錬金術士の実験室

参加店舗の数には入りませんが、天文古玩も足穂をネタにお味噌で参加します。
だからと言うわけではありませんが、ぜひ師走の神戸で、ルミナリエのまばゆい輝きとともに、妖しく昏い異空間をお愉しみいただければと思います。