天体議会の世界…水蓮の目から零れた碧い石(3)2013年09月29日 11時42分41秒

自分で言うのもなんですが、この一節を再現するために、私はかなり努力しました。
まず「瑠璃青の円い罐」を見つけるまでが一苦労。


実際には、作者は「浅田飴」の青い缶あたりをイメージしたのかもしれませんが
、それではあんまりなので、瑠璃青のコフドロップの缶を求めて東奔西走(そのときの自分がなぜそこまでこだわったかは謎)、下のような試行錯誤を繰り返しました。

(左はフランス、右はドイツののど飴の缶)

そしてやっと見つけたのが昨日の品で、まさに「瑠璃青の円い罐」(と自画自賛)。


そこに並べた蜜色の粒と碧い粒。

ここではシトリン(黄水晶)を、シトロンキャンディに見立ててみました。
ちなみに、シトロンとシトリンは同じ語源の言葉です。いずれも、ラテン語のシトラス(レモン系柑橘類)に由来し、それがフランス語を経由して英語に入ったもの。
一方の碧い結晶はフローライト(蛍石)です。
シトリンも、フローライトも、安価なタンブル(大量の小石を回転容器で一斉研磨したもの)ですが、こうして見るといかにもドロップっぽい感じです。

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鷹彦にとってはもっけの幸い、碧い謎の結晶の効果は歴然としており、彼はふたたび美声を取り戻すことができました。その美声に聞きほれながら、銅貨と水蓮が一服つけるところで第2章は終わっています。

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以上、第1章「鉱石倶楽部」、第2章「天体議会」を一通り見ました。

この後、作品は第3章「変わり玉」、第4章「天河市場〔てんがプラザ〕」、そして第5章「水先案内人〔カノープス〕」と続きます。そちらにも心惹かれる理科趣味的なモノやエピソードは点綴されていますが、そろそろ9月も終わりですし、元々夏休みの宿題として始めた「天体議会の世界」は、この辺でひとまずピリオドを打つことにします。

いずれまた機会を見つけて、全章を完結させられればと考えています(いくつかのモノはすでに準備済み)。


(※)【2013/10/20付記】
 コメント欄でレグルス様から「件のドロップのモデルは、ヴィックスのコフドロップではないか」とご教示いただきました。その蓋然性がきわめて高いと思いますので、ここに注記しておきます。

天体議会の世界…水蓮の目から零れた碧い石(2)2013年09月28日 15時03分36秒

「箸休め」が続きます。

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今回(2)と銘打ちましたが、「水蓮の目から零れた碧い石」の(1)は以下。
http://mononoke.asablo.jp/blog/2013/08/23/6955616
謎の少年によって水蓮のまぶたから取り出された碧い石は、いったん水蓮のものとなったのですが、それが失われた顛末が、第2章の末尾に書かれています。

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きっかけはひょんなことです。
銅貨と水蓮は、議会に遅刻した「罰ゲーム」として海洋気象台屋上の手すりの外側を一周することになったのですが、そのとき鷹彦が声をかけました。

「水蓮、」
 うしろから鷹彦が呼びとめた。
「コフドロップ持ってないか。きみ、いつも持ち歩いているだろう。」
「あるよ。」
「分けてくれよ。咽喉が痛くなった。」
「ヤケになるからだ。」
 水蓮は片膝をあげて鞄を支え、中を手探りしていたが、すぐに瑠璃青〔るりあお〕の円い罐〔かん〕を見つけだし、鷹彦のほうへ投げた。(p.70)


ノドを大切にしないといけないはずの音楽部の鷹彦が、やたらと煙草を吸っていたのは、彼が変声期を迎え、自慢の美声が出なくなったのを悲観したためです。
やがて罰ゲームを終えた二人に、鷹彦は再び屈託のない声をかけます。

「助かった。これ、よく効くな。咽喉が急に楽になったよ。なかなか溶けないから飲みこんぢゃったけどさ。碧玉〔アクアブルー〕のをもらったよ。ほかは全部蜜色だったけど、碧のは一粒しかなかったから悪かったかな。」
「碧玉〔アクアブルー〕。」
 水蓮は俄に顔いろを変え、手にしていた罐の蓋をあけた。銅貨も一緒になって覗きこんだ。罐の中には柘榴石とそっくりな形をした蜜色の粒が揃っている。半透明で、微かに檸檬〔シトロン〕の芳薫〔かおり〕がする。(p.73)


そう、ご想像の通り、水蓮はのど飴と一緒に碧い結晶を缶に入れておいたのです。

「ぢゃあ、鷹彦がのみこんだっていうのは、あの結晶。」
「しッ。」
 しまいまで云わないうちに水蓮の手がのび、銅貨の口を塞いだ。
「この際、黙っておこう。石をのみこんだと知ったら鷹彦の奴、大騒ぎしかねないからな。」
 水蓮は微笑みながら囁いた。(p.74)

(この項続く)

天体議会の世界…Smoking Boys(2)2013年09月25日 21時49分34秒

(昨日のつづき)


これもWillsのスターマークがついた逸品、「FOUR ACES」。


これまた「天体議会」の世界にふさわしいスマートさが感じられるのでは。


こちらはライカ犬のスプートニクと対になる、群青色の「ボストーク」。
キラキラした星、青い月の前で紅の焔をあげて翔ぶロケット。スマートさはありませんが、一種武骨なカッコよさがあります。


スプートニクとボストークのツーショット。

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さて、この辺までは私の勝手な想像ですが、『天体議会』には、ライカの他に、もう1つ固有名を持ったタバコが登場します。それが「帆船(ジャンク」。こちらは銅貨の兄・藍生と、例の謎の少年が愛好しています。

〔…〕彼は背もたれに掛けてあった上衣を手探りし、ポケットから煙草の包みを取り出した。しかし、それは空だったようで、忌々しそうに捩って近くの屑入れへ投げこんだ。
「銅貨、返せよ。帆船〔ジャンク〕、居間の円卓〔テーブル〕の上に置いていたのを、おまえ持ち出したろう。まだ封を切ったばかりだ。」
「知らないよ。ぼくは喫ってない。」(p.83)


〔…〕少年はそう云って淡紫色〔ヘリオトロオプ〕の烟を吐き出した。帆船〔ジャンク〕という名を持つこの煙草の特徴は、うっすらたちのぼる烟が淡い紫をしているところにある。南方への出荷専用で普通に出まわることはないのだが、銅貨の兄はこれをどこかから調達してくるのだった。(p.101)


作者である長野氏が実際に参照したタバコかどうかは不明ですが、現実に「ジャンク」というタバコの銘柄は存在します。下は以前オークションに出され、画像だけ保存しておいたもの(現物は落札しそびれました)。どうやら戦前の中国製のようです。


もっとも、中国帆船をデザインしたタバコは、他にもいろいろあります。
下は青一色刷りのカラーリングが涼しげで、いかにも淡い紫の煙が立ち昇りそうな「民船牌香煙」の包装紙。もちろん、こちらも中国煙草です。


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他にも洒落たパッケージはたくさんありますが、それは足穂やクシー君の話題のところで取り上げた方が良さそうなので、後日に回します。

天体議会の世界…Smoking Boys(1)2013年09月24日 20時14分20秒

「天体議会」の銅貨と水蓮、あるいは「クシー君シリーズ」に登場するクシー君とイオタ君のふたりが、「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカンパネルラのふたりと大いに異なるのは、彼らがやたらにタバコをふかすところ。
この点において、彼らは「賢治の子」であるばかりでなく、「足穂の子」たる資格をも十分備えています。

(「まあ一服」とクシー君とイオタ君。鴨沢祐仁作「流れ星整備工場」より)

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それにしても、タバコほど、ここ四半世紀で、その社会的意味合いを大きく変えた嗜好品も珍しいでしょう。ちょっと前まで喫煙は「大人の象徴」であり、成長過程における通過儀礼的意味合いすらありましたが、今やスモーカーは社会的不適合者と見られかねない勢いです。

私自身は昔も今もタバコをやらないので、そうむきになってタバコ擁護論を展開するつもりはありませんが、しかし、かつては確かに<喫煙文化>や<紫煙の美学>というものがあり、社会の側もそれを公認していた事実は、はっきり指摘しておかねばなりません。

(ロボットも一服。鴨沢祐仁作「1001 bit STORY」より)

「足穂の子」がシガレットを口にするのも、それが明らかに「カッコいい所作」と受け取られていたからで、こういう当たり前のことも、今のような状況が続くと次第に分からなくなっていくかもしれません。

(ちょっぴりへそ曲がりなことを言うと、社会的害悪という点では、アルコールの方がはるかに罪深いはずで、その怖さは脱法ドラッグの比ではないでしょう。そのことは酒毒で苦しみぬいたタルホ御大自らが証明しています。)

そんなわけで、昔のタバコのパッケージは、実力派デザイナーの腕の振るいどころであったとおぼしく、今の目で見ても「うわ、カッコいいな」と思うものが多くて、その方面のコレクターも大勢いるはずです(eBayではそれ単独でカテゴリーが作られています)。

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以下に、天体議会のメンバーが好んで吸っていた(と私が想像する)銘柄を挙げておきます。


まずは「STAR FIELD」。これは言うまでもなく議会メンバー御用達のブランドで、議会招集の折には絶対に欠かせない品(のはず)。


箱の裏側中央に注目。ちょっと見にくいですが、「Star Field」の文字の下に、スターシガレットでおなじみの(http://mononoke.asablo.jp/blog/2011/01/15/5637492)イギリスのWills社の星マークが見えます。もちろんこの「STAR FIELD」も同社の製品です。


厚地のパッケージの他に、薄紙の包装紙も見つけたました。

(この項つづく)

天体議会の世界…ライカ犬の煙草2013年09月23日 09時05分28秒

こうして水蓮と銅貨はちょっとした「事件」を体験し、ふたたび天体議会の会場である海洋気象台まで引き返してきたのですが、時計はすでに7時過ぎ、完全に遅刻です。

屋上には天体議会のメンバーで、音楽部に所属する鷹彦が、たった一人居残り、両名が来るのを待っていました。「遅刻、ふたりともどこへ消えてたんだ。だいたい水蓮は自分で招集したくせに、責任取れよ。」と相当の腹立ちです。

「きみは帰らなかったのか。」
「待ってたのさ、きみたちを。皆が罰ゲームの監視をしとけって。ぼくがもう少し屋上で暇をつぶしてから帰るって、云ったものだからさ。」
 鷹彦は短くなった煙草を捨て、また新しく取り出して火を点けた。彼の傍まで螺旋階段を昇った水蓮は、鷹彦の手から煙草の包みを取って、それを眺めた。
「見かけない包装だな、これ。」
 夜天〔よぞら〕に氷河碧〔アイスブルー〕のロケットと人工天体の飛んでいる絵を背景に、大きく凛とした犬の貌〔かお〕が描いてある図案だった。文字は形も配置も見慣れないものである。
「ライカって読むのか、この文字〔アルファベット〕。ライカ犬の絵だな。人工衛星〔スプートニク〕に乗って宙〔そら〕を飛んだ犬だろう。この犬って回収されたっけ。」(p.68)

(原文通りのデザイン)

『天体議会』の世界は、物質文化の進展の様相が、現実世界とはかなり異なるので、一種のパラレルワールドのように思えるのですが、他方、このライカ犬とスプートニクのエピソードは、現実世界との接点を強く感じさせもします。

(薄紙製のパッケージの全体を開いたところ)

そして、この煙草は後ほどもう1回作中に登場します。
以下、音楽部の手伝いを自ら買って出た水蓮に、鷹彦が礼を言う場面。

「頼んだよ。劇が無事終了したら、何か奢るからさ。」
「それなら、いつかの煙草〔ライカ〕をくれよ。」
「気に入ったのか。」
「図柄がとくにね。」
 水蓮はライカ犬の絵を気に入って、包装紙を保存していた。彼は大変な犬好きなのだが、去年、愛犬〔ピカス〕を喪くしたときの落ちこみようがあまりにひどかったので、以来飼うことを禁じられている身だ。
「了解。父は近々、また衛星〔サテライト〕Aに行くと云ってたから頼んでおく。」(p.124)


(折り目に沿って再度パッケージを組み立てたところ。元はこんな感じだったようです。)

(同じく裏面)

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『天体議会』の世界に、モノを通して分け入るのは、正直なかなか大変な作業ですが、このライカ犬の煙草は「本当の本物」を目にすることができる、数少ない作中アイテム。そしてまた、水蓮が強く惚れ込んだだけあって、なかなか素敵なデザインです。

付記】 
 本文をよく見たら、ライカはさらにもう1か所登場していました。ライカ好きは水蓮から銅貨にも伝染したようです。

 〔…〕兄は煙草を探していたが忘れて来たらしく、諦めて銅貨のほうを見た。
「ライカならあると思うけど。」
 学校のある日の癖で無意識に制服を着ていた銅貨は、上衣をさぐってライカの碧い包みを取り出した。〔…〕
「水蓮がこの包装を気に入って、このところいつもライカなんだ。」(p.187)

天体議会の世界…信号燈2013年09月22日 19時51分38秒

ペンシルロケットを海洋気象台の屋上から発射した水蓮と銅貨。
しかし、どうやら打ち上げは失敗し、目標地点のはるか手前にロケットは落下してしまいます。

「高速軌道〔カプセル〕の橋のあたりじゃないか。」
 銅貨は北側の手摺に駆け寄り、山の方角に目を凝らした。
「かも知れない。行ってみよう。山の斜面まで届くと思ったのに、手前で落下するなんて予定外だ。人に当たってなきゃいいけど。」
「まさか、」
 少年たちは顔を見合わせたあとで、非常階段の方へ走り出した。(p.59)


この後、二人はロケットが落ちたとおぼしい、街の北側の峡谷越しに線路が伸びている陸橋付近まで様子を見に行きます。その夕闇の濃い谷あいの斜面で、ふたりは意外な人物に出会います。

「その後どうだ、眼の具合は。」
「何だって。」
 そろって声をあげた水蓮と銅貨の目の前に現れたのは、鉱石倶楽部で出逢ったあの少年だった。〔…〕額と両膝から血を流すほどの怪我を負っているのもわかったが、少年は平然としたようすで佇んでいた。(p.63)


謎の少年は、水蓮のペンシルロケットが足もとで破裂したはずみで斜面から転げ落ち、けがをしたのでした。それにしても、なぜ彼はこんなところにいたのか?
今、彼はもう一人の人物と、あるゲームをしている最中であり、そのゲームとは、当局の取り締まりの目をかいくぐって、鉄道の信号灯をいくつ壊せるかを競うものだ…と彼は言います。


「赤洋燈〔ランプ〕を狙っても意味はないよ。壊すのは青だけでいいんだ。」
〔…〕
「だってね、青なら十点、赤は一点、黄色は三点だ。そうなれば当然、きみだって青信号を狙うだろう。」
「何の話だ。」
「遊戯〔ゲーム〕だよ。さっきまで持ち点百五十点で勝っていたのに、谷底へ転落しているあいだに抜かれた。」(p.64)


呆然としている水蓮と銅貨をよそに、少年は懐中電灯を消し、さっさと斜面を昇った。そして橋の上を、声をたてて笑いながら走り去ってゆく。甃石〔しきいし〕を叩く足音がだんだん遠のき、続いてガチャン、と硝子の割れる音がした。再び号笛〔サイレン〕が鳴り響き、探照燈〔サアチライト〕がぐるぐるまわりだした。(p.66)


   ★

画像はO(オー)ゲージ規格の古い鉄道模型用信号灯。コードが付いているので、豆球が生きていれば光るはず(未確認)。
私に鉄道模型の趣味はありませんが、以前、「銀河鉄道の夜」の世界を再構成するときに使えないかと思って購入しておいたのを、今回ちょっと流用してみました。

   ★

上の信号灯のエピソードは、理科趣味とは縁が薄いですが、これによって例の少年をめぐる謎がいっそう深まり、彼はいったい誰とゲームをしているのか、それが物語後半に向けた重要な伏線ともなっているので、あえて記事として取り上げました。

天体議会の世界…雲の観測映画2013年09月21日 16時24分04秒

水蓮と銅貨の二人が、ペンシルロケットの打ち上げを準備しながらの会話。

「昨夜〔ゆうべ〕、フィルム図書館で借りた真珠母雲〔しんじゅもうん〕と夜光雲の観測映画を見たんだ。なかなか面白かった。真っ黒な夜天〔よぞら〕で、雲の縁だけが白銀に煌き、海月のように漂うのさ。」
 固体〔ソリッド〕ロケットを組み立てながら、水蓮は銅貨に話しかけた。
「夜光雲って、真夜中に光り出す雲のことだろう。」
「ああ、よく極光〔オオロラ〕に間違われるらしい。」
「ぽくも借りてみよう。フィルム番号は、」
「FPの五六…、待って、図書カードを見るから。」
 水蓮は上衣のポケットから、カードを取り出して確認した。磁気性で、番号は表面に刻みこまれている。
「FPの五六一四。」
 その番号を銅貨が記入しているあいだ、水蓮はロケットを組み立て終え、ポケットから角砂糖のような固体燃料〔キューブ〕を掴みだした。(pp.56-57)

『天体議会』の舞台である未来世界よりも、現実世界の方が先を行っていることはいろいろありますが、このフィルム図書館もそのひとつ。

我々は、フィルム図書館で映画を借り出さなくても、真珠母雲にしろ、夜光雲にしろ、それぞれの英名である「Mother-of-pearl clouds」や「noctilucent clouds」をYouTubeで検索すれば、たちどころにその映像を自宅で目にすることができます。

とはいえ、YouTubeを持ち出して事足れりとしていては、あの風情を味わうことは到底できませんから、がんばって雲の記録映画を探したのですが、そうそう都合よく事は運びません。似た路線で、辛うじて見つけられたのは、戦前の雲のスライドフィルムでした。


最初期のカラースライドフィルムである、ドイツの「アグファカラー・ノイ」による1930年代後半の撮像で、生フィルムをガラス板で挟み、さらに全体を、昔のスライド機器メーカー「Filmosto」の刻印が入ったメタルケース(サイズは5×5cm)に封入してあります。
その硬質でカッチリした感じが、何となく水蓮好みというか…まあ、この辺は単なる強弁です。


上はありふれた積雲の写真ですが、


明度とコントラストをいじると、ちょっと夜光雲のイメージっぽくなります。


上は雲間から日光が差し込んでいる情景、いわゆる「天使のはしご」。


こちらも全体を暗くすると、夜光雲のイメージに近づきます。

   ★

…というわけで、今回はまったくの羊頭狗肉になってしまいましたが、気長に探していれば、いずれは雲の観測映画も見つかるかもしれません。その折には、またひょいと「ホンモノ」が登場することになるでしょう。(それまでこのブログが続いていれば…の話ですが。)

ガラスペンがやってきた2013年09月19日 20時20分47秒

ときに、先日「水蓮の製図ペン」の話題を書いたとき、皆さんのコメントを読んで、自分もガラスペンを、それも胸ポケットに収まりのいい万年筆型のものが欲しいと思い、注文したのですが、それがやっと届きました。

(キャップ装着時)

(キャップを外したところ)

ドイツのHARO社から戦前(1930年代か)に出た「HARO II」というタイプ。
レバーを押してタンクにインクを吸い上げ、あとはそこから飴色をしたらせん状のペン先に、自然にインクが降下する仕組みです。

(インク吸い上げレバー)

(アンバー色をした鋭角的なペン先)

ペン先はなかなか鋭く、製図用にも使えそうな風貌をしていますが、実際には普通の万年筆とあまり変わらない線のようです。


まあ、このシリーズはすべてイメージ先行なので、これはこれで良しとしましょう。

長野まゆみ氏と賢治2013年09月18日 06時19分31秒

台風一過の秋の空。

   ★

『天体議会』の主人公、銅貨と水蓮には、「銀河鉄道の夜」のジョバンニとカンパネルラの影が差していると、多くの方は感じるのではないでしょうか。

長野まゆみという作家に宮沢賢治が影響していることは、ご自身がいろいろなところに書かれていると思いますが、ただ長野氏による、まとまった「賢治論」のようなものがあるのかどうかは、寡聞にして知りません。ただ、長野氏の賢治への関心は深く、持続的であり、今も常に賢治の本を机上に置いていることを、その最近のブログで知りました。

Kotoricoコトリコ: 大増補版「宮澤賢治語彙辞典」
 http://kotorico.exblog.jp/20737831/
 

氏が取り上げている『宮澤賢治語彙辞典』とは、元宮沢賢治イーハトーブ館長である、原子朗(はらしろう)氏が、1989年に東京書籍から初版を出した大著。今回、筑摩書房からその増補改訂版が出たことが、上の記事では触れられています。

原氏はこの間、1999年には新版(『新・宮澤賢治語彙辞典』)を、やはり東京書籍から出しておられますが、今回はそれに更なる増補を施した<決定版>であり、特に「定本」と冠しています。

お値段が結構張るので(12,600円)、とりあえずアマゾンのカートには入れましたが、注文するのはもうちょっと考えてからにします。

天体議会の世界…ペンシルロケット(2)2013年09月10日 22時12分06秒

昨日登場した白銀のペンシルロケット。
なかなかスマートでカッコいいと自画自賛していますが、昨日の記事には一つ嘘が交じっています。

もうお分かりの方もいらっしゃるでしょうが、あのロケットは空を飛びません。いや、ひょっとしたら、お尻から火薬をギュウギュウ詰め込んで火を着けたら、ちょっとは飛ぶかもしれませんが、本来の目的は飛ばすためのものではありません。

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あれの本来の姿はこちら。


逆光で見にくいですが、このロケットは旧ソ連(1970年代頃)の土産物の一部を取り外したものです。底部の「噴射口」は、台座に留めるためのネジ穴。ここにカプセル状の燃料を装填して云々…というのは、私の単なる妄想です。

この土産物は、もともとモスクワの南西、約150キロの所にある、カルーガという町に立っているモニュメントをかたどったもので、現物はこんな姿をしています。


このモニュメントの主こそ誰あろう、偉大なる「ロケット工学の父」、コンスタンチン・ツィオルコフスキー(1857-1935)その人です。
彼自身は、実際にロケットを飛ばすところまで行きませんでしたが、早くも20世紀初頭に、液体水素と液体酸素を燃料とする、現代に通じる流線型ロケットの設計図を発表しており、ここにそびえるロケットの像は、その偉業をたたえるものです。

(ミニチュアのツィオルコフスキー)

(この土産物は、ソ連では一時非常にポピュラーだったらしく、かつてブレジネフとキューバのカストロ議長が会見した場面にも写り込んでいます。)

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今回は、なかなかイメージに近いロケットが見つからなかったための、苦肉の策でしたが、さらに屋上屋を架すが如く、「エスビット」などという、一見どうでもいい小道具をなぜ付け加えたかというと、ロケットとは関係ありませんが、ぜひこの機会にご覧いただきたいモノがあったからです。

(話題を転じつつ続く)