明治日本のアマチュア天文家…前原寅吉翁のこと(2)2010年12月28日 18時13分12秒

『野の天文学者 前原寅吉』には、具体的な年代が書かれていない部分も多いのですが、適宜時代を区切って事項を配列してみます。(以下、〔 〕内の年次は、原文に記述がないものの、前後関係から私が推測したものです。また年齢は数え年で統一しました。)


【誕生~修学】
1872(明治5)年2月26日…1歳
・前原正明(元八戸藩士で、維新後は八戸役場に出仕)の三男として八戸に生まれる。
・1歳のときに実母が死去。父は後妻を迎え、異母弟妹と合わせ6人きょうだいの中で育つ。
1878(明治11)年…7歳
・八戸小学校下等入学。
1881(明治14)年…10歳
・同校中等科(3年課程)に進級。中等科の頃より、星に興味を抱き、天文の基礎知識や自らのアイデアを記した「天文日誌」の筆録を始める。
1883〔原文1885〕(明治16)…12歳
・父・正明、病気により死亡。
○〔同年〕…12歳
・八戸小学校高等科(2年課程)に進級。
・「天文日誌」に星座の観測記録が増える。
・時計屋の仕事に興味を持つ。


【青年期~独立まで】
○1885(明治18)年…14歳
・小学校卒業と同時に八戸の時計屋に住み込みで弟子入りする。
○1889(明治22)年…18歳
・時計屋での奉公を終える。
○1890(明治23)年…19歳
・八戸城下の中心に近い番町に自分の店「前原時計店」を構える。
(時計店の開店は「寅吉23歳のとき」という記述も文中にありますが、前後と整合しません。)


【壮年期…天文一途の時代】
○以下、年次不明
・「なか」と結婚。
・東京から本を取り寄せ、天文学の勉強を続けるとともに、初めての望遠鏡を購入する(長さ(鏡筒長?)1.2m、倍率80倍)。
・時計店が繁盛し、店員を雇い入れる。
・望遠鏡をさらに2台追加購入(1台は長さ2m、188倍。もう1台は長さ1.7m、
100倍)。
・同じく番町で営業していた高野写真館の高野直太郎と協力して、月・太陽・星座の写真を撮影する。
・自分で撮影した天体写真を添えた天文学の啓蒙チラシ「天体之現象」を作成。数千枚を印刷して、日本全国の学校、朝鮮、台湾、清、ハワイに配布する。
・「天文山(てんもんさん)」を名乗り、店名を「天文堂前原時計店」と改める。
・八戸藩9代藩主旧蔵の望遠鏡を、藩主の縁故者より贈られる。
・自説を論文の形にまとめるようになる。「音声の速度は夜は昼の3倍になる」などの説を唱える。


(↑「天文山主」前原寅吉。この絵葉書は昭和に入ってから作られたものですが、写真自体は青年期に撮影されたものでしょう。)


○1908(明治41)年…37歳
・日本天文学会の「天文月報」第1巻第5号に〔本の中では“第1号”になっていますが、正しくは第5号です〕、寅吉の質問が掲載される。「太陽黒点上に雲のようなものが通過するのを観察したが、プロミネンスだろうか?」という内容。天文学会は「プロミネンスではないでしょう」と回答。
○〔1908(明治41)か〕
・「太陽面直接観望用眼鏡」を製作。(この装置は現存せず詳細不明。これについては後ほど詳しく見ます。)
・日本天文学会特別会員に推挙される。
○1910(明治43)年…39歳
・南極探検に出発する白瀬中尉に「星座時計」を贈る。(「暗い夜でも北極星に針をあわせれば時刻がわかる」と文中にありますが、南極探検に北極星はやや不審。)
○1910(明治43)年5月19日…39歳
・ハレー彗星の日面通過を望遠鏡で観測。(この件も後ほど詳述)
○1911(明治44)年…40歳
・電灯を使ったプラネタリウムを自作。
・この前後、論文を立て続けに発表(発表先は書かれていません)。「不規則気象の変化に就いて」(1910)、「地球は果たして楕円形なるか」(1911)、「天候は果して人為に依りて左右せらるか」
○1913(大正2)年…42歳
・論文「天文学上より凶作の原因を論ず」を天文学会に提出。(これは「地球を取り巻くガスの変動によって土地が冷える」ことを主張する内容でした。)


【失明~晩年】
○1922(大正11)年…51歳
・養嗣子を迎える(寅吉夫妻には実子がありませんでした)。
・この頃より視力が衰え、ついに失明に至る。失明後も口述により論文の発表を続ける。「太陽のプロミネンスを容易に見る法なきか」、「地球太陽は如何なる処を通過するか」、「ウエンネッケ彗星の過去、現在、未来」、「太陽の自転と地球上の影響」。
○1938(昭和13)年…67歳
・養嗣子・義臣が中国で戦死。
○1950(昭和25)年…79歳
・逝去

(この項つづく)

コメント

コメントをどうぞ

※メールアドレスとURLの入力は必須ではありません。 入力されたメールアドレスは記事に反映されず、ブログの管理者のみが参照できます。

名前:
メールアドレス:
URL:
コメント:

トラックバック