ジョバンニが見た世界…ユンハンス社製のフクロウ時計2012年12月26日 20時25分07秒

「ジョバンニが見た世界」は、新しいアイテムも交えて、この後も続く予定ですが、今日は取り急ぎ、後日談的なご報告を。

ジョバンニが時計屋のショーウィンドウの前まで来たとき、まずその眼を惹いたのが、フクロウの形をしたある物でした。「…時計屋の店には明るくネオン燈がついて、一秒ごとに石でこさえたふくろうの赤い眼が、くるっくるっとうごいたり…」

この件について書いたのが以下の記事。

ジョバンニが見た世界「時計屋」編(3)…フクロウ時計
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2011/11/06/6190398

その中で、この場面にもっともふさわしい候補として、ドイツのユンハンス社が1910年代に売り出したフクロウ時計を挙げました。
その現物をしつこく探し続けて、やっと見つけた!…というのが、いわば後日談です。


気になる眼の色は、残念ながら赤くなくて、オリーブグリーンでした。


この鋭い眼がくるっくるっと動く…はずですが、現状は故障していて動きません。


裏面もこんな感じで、ネジはいくつか失われているし、いわばジャンク品なんですが、あの時計屋の店先を再現するには、ぜひあって欲しいアイテムだったので、先日の星座の掛図と並んで、これは今年に入ってから、最もうれしい買い物の1つでした。


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年末は人並みに年賀状を書いたり、大掃除をしたりで、ちょっと記事が間遠になるかもしれません。

鉱物古玩2012年12月28日 22時09分00秒

天空の星は、人間の営みとは全く没交渉に輝いています。
したがって、天文趣味が純粋に星のみを愛でるものであるならば、そこに骨董趣味が入り込む余地は、本来無いはずです。

しかし、実際には天文趣味と骨董趣味は、オーバーラップする部分が少なからずあって、古い星図、天球儀、古写真…etc、星に対する古人の憧れが投影された品々は、現代の星好きにも強く訴えかけるものがあります。少なくとも、このブログを訪問される方にとってはそうでしょう。

人間界を超えた星界へのあこがれは、昔も今も変わりませんし、むしろ、昔の方が星と触れ合う手段が素朴だった分、その<星ごころ>には、いっそう純で、涼やかな感じが伴います。そして、手仕事めいたそれらの古物に漂う、不思議な懐かしさや愛しさも、多くに人に好ましく感じられるはずです。

要するに、天文趣味というのは、星そのものを愛でるのは当然として、それと同時に人間の中にある「星ごころ」をも一緒に愛でるものなのだ…と思います。

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今さらこんなことを書いたのは、鉱物趣味と骨董趣味の関係を考えていて、連想が天文に及んだからです。

鉱物はもともと「古い」ものです。それも、人間の歴史よりもはるかに長い時間スケールを経て、今ここにあるわけです。そんな鉱物を愛でるのに、せいぜい100年か200年ぐらい前の文物を賞玩する骨董趣味が、そこに入り込む余地はあるのだろうか―?
「大いにある」と私は思います。天文趣味と同じように、鉱物趣味とは、鉱物そのものを愛でると同時に、「鉱石(イシ)ごころ」も同時に愛でるものと思うからです。

色鮮やかな鉱物画、古い標本箱、壜、手書きの標本ラベル…そういったものと共にあるとき、鉱物がいっそう魅力を放つように思えるのは、そこに古人の「鉱石ごころ」が加わるからではないでしょうか?


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鉱物まわりのアンティークを取り揃えた「骨董鉱物店」。
何と魅惑的な存在でしょう。
本当にそんなお店があったら、一日中座っていても飽きることはないでしょうし、いっそのこと自ら店主になりたいとすら思います(残念ながら、その資金も知識もないので無理ですが)。

リアル世界には到底望みがたい、そんな「骨董鉱物店」ですが、ネット空間には既にちゃんと存在します。

フランスの古いものを、独自の審美眼ですくいとるMachidoriさのオンラインショップ、「ル・プチ・ミュゼ・ド・ル」(http://le-petit-musee-de-lou.com/)。
ここは単一のショップというよりは、いくつか特色のあるショップが集まった「モール」と言ったほうが適切かもしれません。

その中にこのたび新たにオープンしたのが、ずばり「骨董鉱物店」という名前のお店です(http://le-petit-musee-de-lou.com/muscat2c/)。
1週間前の開店と同時に、すべての商品がまたたく間に売れて行ったということは、それだけ鉱物アンティークを愛する人が多いということでしょう。
心強くも、羨ましい話です。

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もちろん私としては、骨董鉱物店と並んで、いつか「骨董天文店」が出現することを願っているのですが、ただ残念ながら、「骨董鉱物店」に本物の鉱物が並ぶことはあっても、「骨董天文店」に本物の天体が並ぶことはないでしょう(隕石をのぞけば)。

天文趣味の潔さ、あるいは切なさは、まさにそこかもしれませんね。

骨董天文店を夢想する2012年12月30日 07時44分04秒

いよいよ年も押し詰まってきました。
気ばかり焦りますが、とりあえず一服して記事を書きます。

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「骨董天文店」と聞くと、Flickrで見かけた、パリの理系骨董と古書の店、アラン・ブリウ書店の店先↓とか、
 
(出典: Librairie Alain Brieux, Window Display

ニューヨークで、天球儀やオーラリーなどをにぎにぎしく商っている、ジョージ・グレイザー・ギャラリーの店内↓などを連想します。

(出典: Globes with George Glazer - Martha Stewart(動画))

たしかに、いずれも骨董天文店の名に値するお店です。
ただし、そこに並ぶのはずっしりとした本格骨董ばかりで、シガレットカードや絵葉書のようにエフェメラルなものとか、20世紀の児童書や玩具といった「駄菓子骨董」は置いていませんし、畑違いであるせいか、アンティーク望遠鏡のような光学機器も扱っていないようです。

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もし新規オープンの骨董天文店に、自由に注文をつけられるとしたら…

まず望遠鏡は外せないので、鈍い金色の筒が林立していて欲しい。
(さらに、20世紀に作られた日独のビンテージ望遠鏡の逸品(きりりとした白い筒!)が、さりげなく置かれていると、いっそう奥ゆかしい。)
そして星図。背の高いチェストの中には、大量の古星図が眠っていて欲しい。
もちろんオーラリーもあちこちに置かれていて欲しい。
壁には、さまざまな星座早見盤が掛かっていて欲しい。
店の奥には天井までの本棚があって、ルネサンス期から20世紀まで、各時代の天文古書がぎっしり詰まっていて欲しい。(愛らしい児童書の棚も欲しい。)
店の一角には、天文モチーフのポストカード紙モノを並べたコーナーが欲しい。
ノスタルジックなスペース・エイジもの(玩具やバッジ、スーヴニール)も置いて欲しい。

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まったくの妄想にはちがいありません。
けれども、こうして書いていると、結局これは「天文古玩」というブログを通して、形を与えたかった世界そのものだという気もしてきます。
「天文古玩」とは、理想の骨董天文店を訪問するための、脳内における果敢ない試みだったのかもしれません。


【付記】 上記2店舗については、過去記事でも触れています。

○アラン・ブリウ書店
・動画で登場、パリの“理系骨董+古書”の店
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2009/07/03/4411040
・世界のヴンダーショップ(3)
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2009/07/19/4444908

○ジョージ・グレイザー・ギャラリー
・天文古玩の本丸
 http://mononoke.asablo.jp/blog/2007/07/15/1656298

大みそかの調べに乗せて2012年12月31日 16時45分38秒

年末の風物詩、N響の第九演奏会が、今晩8時からEテレで放送されます。
今年の指揮者は、イギリス出身のロジャー・ノリントン。

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フープ博士たちが暮らす、惑星「ファンタスマゴリア」でも、毎年1回、この時期に冬のコンサートが開かれます。


空の上でスノーマンたちが、
巨大な六方晶の氷の彫刻をせっせとこしらえ、
それが地上にゆっくりと落ちてくる晩。


楽団員たちは、深海2千メートルの「ネプチューン・シティ」にそびえる
巨大な巻貝型のコンサート・ホールに集い、
1年間きたえた、すばらしい楽の音を披露します。


コンサート・ホールは送信器を兼ねており、
その音楽を聴こうと、惑星中の人々は巻貝を耳に押し当て…

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1986年に出た、たむらしげるさんの「冬のコンサート」(単行本『水晶狩り』所収)より。
たむらさんの作品世界にも、時代とともに自ずと変遷があるのでしょうが、私としてはこの時期のものがいちばんしっくり来ます。(己の若さを懐かしむ気分も混じっているのでしょう。)

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地上に矛盾が渦巻いた2012年もまもなく終わりを迎えます。

こうして巻貝を耳に当てても、残念ながらファンタスマゴリアの楽の音は聞こえません。
でも、美しい世界に憧れる心の向こうに、たしかにファンタスマゴリアは存在するのでしょう。いや、むしろタルホが発見した薄板界のように、それは案外この世界のすぐ隣に在るのかもしれません。

それに…と思います。
心静かに見渡せば、草木も、虫も、鳥も、石くれも、星も、不思議な美しさに満ちあふれており、ファンタスマゴリアにだって、おさおさ引けを取るものではありません。
厄介な人間の心も、深く分け入ってみれば、山あり谷あり泉あり、なかなか興味の尽きない一大世界です。

来年は早くも8年目に入る「天文古玩」。
いささか足取りがヨタヨタしてきましたが、まだまだ杖にすがって、この不思議な世界を旅して回ろうと思います。気が向いたときには共に歩み、言葉を交わしていただければ幸いです。

それでは皆さん、よいお年を!