夏の日の天文台2016年07月18日 12時07分19秒

博物蒐集家の夏休みに相応しい気分を整えるため、夏向きの品に目を向けます。


中世の城塞のような天文台。


その前をコツコツと歩く女性。
白い雲と濃い緑に、夏の匂いを感じます。


キャプションには、Erfurt. Sternwarte im Kulturpark(エアフルト。文化公園内の天文台)」とあります。
エアフルトはドイツ・チューリンゲンの古都。
同地の市民公園の中に置かれた公共天文台の外観を写した絵葉書です。

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この絵葉書でちょっと驚いたのは、その発行時期。


この絵葉書は、オフセットの網点印刷ではなく、石版刷りなので、黙って見せられたら1910年頃の絵葉書か…と思ってしまいそうです。

(切手は旧・東ドイツのもの)

でも、裏面の消印は「1964年8月31日」付けで、戦後も戦後、戦争が終わって20年近く経ってからのものです。石版がこの頃まで絵葉書に使われていたのは意外でした。

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(現在の天文台。出典:Wikipedia「Zitadelle Cyriaksburg」の項より)

ときに、「城塞のような」と書きましたが、これは1528年に建てられた、本物の城塞建築の遺構であり、この地には12世紀以来、都市防備の城壁が築かれていたのだそうです。

その支配者は時と共に変わりましたが、1919年に周辺緑地を含めて、市民のための公園として開放され、戦後は東独政権下で、さまざまなイベントを催す場となりました。
この絵葉書当時は、「文化公園(Kulturparkクルトゥルパーク)」と呼ばれましたが、現在は「エガパーク(Egapark)」の名で親しまれています。

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さて、気になる天文台の詳細ですが、この塔が天文台に改装されたのは、やはり戦後の1950年のことで、大規模なガーデン・ショーが開かれたのに合わせてオープンしました。

ドームはカール・ツァイス・イエナ製、そしてメイン機材は、口径130ミリ、焦点距離1950ミリの屈折望遠鏡…と聞くと、天文台にしてはずいぶん小さいと思われるかもしれませんが、これは元々同地の中等学校にあった古い望遠鏡を譲り受けたもので、その歴史性が尊重されたのでしょう。

ドイツ語版ウィキペディアの記事(egaparkの項)には、「この天文台は、偉大な天文学者ヨハン・ヒエロニムス・シュレーターの生誕地における、最初の、そして今日に至るまで唯一の公共天文台である」と記されていて、なるほどと思いました。

ヨハン・シュレーター(1745-1816)は熟練の観測家で、月や惑星の観測で名を残しましたが、たしかに彼が用いた機材も、これと大同小異のものでしたから、シュレーターを偲ぶには恰好の場かもしれません。

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…というようなことを調べながら書いていると、1枚の絵葉書からでも、いろいろ学ぶことは多いです。まあ、低徊趣味といえば低徊趣味で、そこから何か新しいものが生まれるとは思えませんが、博物蒐集家の休暇には、こういうのんびりした、ちょっと物憂い時の過ごし方こそあらまほしいものです。


【参考ページ】
■egapark (Wikipedia)
 https://de.wikipedia.org/wiki/Egapark
■Zitadelle Cyriaksburg (同)
 https://de.wikipedia.org/wiki/Zitadelle_Cyriaksburg