冬の思い出。本の思い出。2011年01月06日 21時02分42秒

濃く青い空。
それをバックに鋭角的に伸びる樹々の枝。
かさこそ鳴る落ち葉。
その陰にひっそりと息づく草の緑。

子どもの頃は、そうしたものに囲まれて、冬越しをする虫たちの姿を観察するのが、今の時季の愉しみの一つでした。
今は寒がりになったので、なかなかそれができなくなりましたが、こんな絵本を開くと、その頃の感覚が生き生きとよみがえります。


■たかはしきよし(絵)、奥本大三郎(文)
 『冬の虫 冬の自然』
 福音館かがくの本、1989


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福音館、偕成社、ポプラ社…理科の絵本はひと頃ずい分買いました。
幼い子どもたちのために…と言いながら、実は自分のために買っていたようです。
きっと幼い息子と、幼い頃の自分を重ねて見ていたのでしょう。

やや唐突かもしれませんが、古い博物画の魅力を受け継ぐもの、それは今の図鑑よりも、むしろこうした理科絵本ではないかと感じることがあります。肉筆でありながら、主観を極力排した細密な自然の描写。と同時に、そこには透徹した深い抒情があります。

(以下、上掲書より)




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となると、私が19世紀の博物趣味の香気を求めると称して、古書をしきりに買っているのは、実は理科絵本に象徴される、自分自身の過去を反芻したいという、いわばプルースト的郷愁のなせるわざなのかもしれません。
であれば、いくら買っても微妙な飢餓感が常に残る理由はよく分かります。