The Moon on the Shore2011年04月03日 18時35分53秒

今日は新月。干満の差が大きい大潮の時期にあたります。
春の大潮はことに干満の差がはげしく、歳時記には「春潮(しゅんちょう)」の季語が載っています。関連して、「潮干狩り」や「磯遊び」なども春の季語。

  暁や北斗を浸す春の潮  青々

美しい句です。北に海が開けた日本海の景でしょうか。
もっとも、明け方に北斗七星が海に身を浸すのは7~8月頃なので、これは正確な叙景ではありません。ですが、俳人には、春の海が北斗を濡らしているように感じられたのでしょう。

  磯あそび飽くこと知らぬ子がたのもし  ひろし

一読、磯の香がよみがえるようです。作者は自らの幼い日に、眼前の我が子を重ねて、季節と世代の循環を感じ取っているのかもしれません。うららかな楽しい春の一日。

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それにしても、今年の東北地方では、磯遊びをする親子の姿が見られるのでしょうか。
福島では放射能汚染で、磯に近づくことすらできない地域も多いでしょう。
津波に襲われた町では、磯に寄せる波に恐怖する子だっているでしょうし、そもそも、津波の危険は完全に去ったわけではなく、まだ海辺に近寄らない方がいいのかもしれません。

何でも震災に結び付けて考えるのもどうかと思いますが、ささやかな春の行楽までも奪われてしまった現状は、やっぱり寂しいものです。

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さて、写真は古い月のガラススライド。


科学機器や光学製品の老舗、John Browning 社の製品で、19世紀末ぐらいのもの。
撮影機材は、オーストラリアのメルボルン天文台にあった口径1.2mの巨大反射望遠鏡です。1868年に完成したこの望遠鏡は、金属鏡を採用した最後の大型望遠鏡として知られますが、メンテナンスと運用に失敗した結果、ほとんど成果の挙がらなかった「悲運の望遠鏡」としても有名です。

(メルボルン天文台の巨大反射望遠鏡。H.C King, The History of the Telescope より)

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人間の営みは時には微笑ましく、時には悲惨な結果をもたらしますが、それを見下ろす月は昔と変わらず…。 何となく月並みな感想ですが、でも、変らないのは月ばかりでなく、月に思いを託す人間の心だって数千年来変わっていないぞ…とも思います。

軋みと歪みが続く今、人間の変わらない部分こそが大事なのではないでしょうか。


【付記】
心を寒くする出来事が多い中、ちょっと嬉しかったのは、デジカメが復活したこと。液晶モニターが映らなかったのが、グイと押したらまた映るようになりました。もうしばらくこれで頑張ります。