続・東大発ヴンダーの過去・現在・未来…西野嘉章氏の軌跡をたどる(9)2013年05月06日 10時37分11秒

結局、ゴールデンウィークは何もせずダラダラしてしまい、そのおかげで小まめにブログは更新できましたが、世間のモノサシで言うと、これは非常にダメな過ごし方なのでしょう。反省と悔悟とともに、連休最終日を迎えました。

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さて、西野氏と東大ヴンダーのつづき。
西野氏は、かなり早期からヴンダーカンマーをめぐる美術界の潮流に自覚的だったと想像しますが、それを自ら実践するには、そのための器が必要であり、それが東京大学総合研究博物館・小石川分館だったのではないでしょうか。

(雨の小石川分館。2006年11月に訪問時の写真)

本郷には本郷の事情があり、官学の常として前衛的な試みを喜ばない空気もおそらくあったはずで、西野氏はそれを乗り越えるために、以前書いたところの「表芸」には本郷本館を、「裏芸」には小石川分館を、という使い分けを意識的にされていたように思います(←すべては憶測です)。

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明治の擬洋風建築である「旧東京医学校本館」を転用した小石川分館がオープンしたのは2001年11月。その開館1周年を記念する催しが、マーク・ダイオンの「ミクロコスモグラフィア」展でした。
以下、総合研究博物館のサイトにある「過去の展示」のページ(http://www.um.u-tokyo.ac.jp/exhibition/index_past.html)から、小石川分館の各展示がどのように自己規定されていたかを書き抜いてみます。

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まずは、改めてMICROCOSMOGRAPHIA―マーク・ダイオンの『驚異の部屋』」展(2002年12月17日~2003年3月2日)から。

同展は、「120 年を超える東京大学の歴史のなかで蓄積されてきた多種多様な学術標本を用いたアート・インスタレーション」であり、「ミュージアムの「原風景」を、科学(サイエンス)と芸術(アート)の関わりからあらためて掘り下げてみせる展示」だと称しています。

これまで繰り返し書いたように、この展覧会は全体が1つの「アート作品」であり、アートとサイエンスの関わりを、はっきりとアート側から表現したものでした。

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次に、このコスモグラフィア展の後を受け、マーク・ダイオンの作品を換骨奪胎して、西野氏オリジナルの常展企画として始まったのが、COSMOGRAPHIA ACADEMIAE―学術標本の宇宙誌」展(2003年3月19日~2006年2月19日)でした。

本展は、医学・自然(動物・植物・鉱物)・建築・工学という4 つのセクションから構成され」、「これら〔=標本・掛図・模型・機器・什器〕のコレクションの学術的位相とともに、骨・剥製・植物・鉱物あるいは木・石・金属・なまりガラスなど、標本1 点1 点の質感のヴァリエーションを重視し、標本を支える什器も古いものを中心に厳選して相互に最適な組合せを模索することで、全体として一つのアート作品に比肩しうる三次元「小宇宙」の実現を図った」ものでした。

ここでもやはりアートへのこだわりは明瞭ですが、その一方で、タイトル通り「学術」が強調され、コレクションそのものの価値を前面に出して訴えている点に、西野色が出ているようです。

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さらにその後、6年半の長きに及ぶ驚異の部屋―The Chambers of Curiosities」展(2006年3月9日~2012年9月30日)が始まります。

本展は、常設展示「COSMOGRAPHIA ACADEMIAE―学術標本の宇宙誌」へ新たな標本や什器を加える形でスタートした」ものです。「東京大学草創期以来の各分野の先端的な知を支えてきた由緒ある学術標本をもとに、「驚異の部屋」を構築し、「大学の過去・現在・未来へ通底する学際的かつ歴史的な原点とは何なのかということ」を問いかけようという意図が込められていました。

「コスモグラフィア・アカデミアエ」展と、この「驚異の部屋」展とは何がどう違うのか?上の説明では、後者は前者に「新たな標本や什器を加える形でスタート」したとあります。私は前者を見ていないので何とも言えませんが、当時の観覧記↓を拝見する限り、両者はほとんど同じもののように見えます。

陰影礼賛:強行旅行2(by かなゑ様)
 http://undergrass.air-nifty.com/bosch/2006/02/2_172f.html
日毎に敵と懶惰に戦う:小石川から秋葉原、銀座(by zaikabou様)
 http://d.hatena.ne.jp/zaikabou/20050312/p1

結局、小石川ではマーク・ダイオンの「コスモグラフィア」展から数えて、ちょうど10年間、「驚異の部屋」をテーマにした展覧会が延々と続いていたことになります。

この間、本郷本館では多様なテーマで、実に多くの展覧会が行われたことを考えると、小石川分館の展示の「賞味期限の長さ」、つまり完成度の高さと、訴求力の持続性がよく分かりますし、西野氏の「驚異の部屋」への愛着ぶりもうかがえるように思います。

(この項、いよいよ次回完結の予定)

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