ジョバンニが見た世界(番外編)…活版所(7)2013年05月26日 06時38分02秒

最初のほうに登場したモンリジョン印刷所にも、少年工がたたずんでいましたが、次に「少年のいる印刷所風景」をいくつか見てみます。

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まず、非常に気になるのが下の写真。
 

海を越えたアメリカの光景で、時代は20世紀初頭。「印刷所で働く印刷工と見習い植字工」と題して売られていたものですが、この少年と青年は、インクまみれの職場に不似合いな、ひじょうに小奇麗なナリをしています。
「ん?ひょっとして、これはハイスクールの印刷室か何かかも?」と最初は思いましたが、下の絵葉書を見るに及んで、やっぱりこれは印刷所かと思い直しました。
 
(1908年の消印を持つ古絵葉書)

こちらは、ニューヨーク州ミドルタウンの印刷所で働く2人の少年を写したもの。ベストにネクタイをキリリと締めた、これまた伊達な姿です。
どうも、大西洋の東と西では、印刷工の社会的地位が異なったような気がします。

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舞台は再びフランスに。
もちろん、探せばフランスの印刷現場にも、上のような少年はいたかもしれませんが、でも、その一方で非常に辛い現実もありました。

(*1910年頃。Imprimerie/Ecole Professionnelle d’Auteuil のキャプションあり。)

印刷工を目指して、職業学校で印刷術を学ぶ少年たちを写した絵葉書です。みな、とても真剣な表情ですが、彼らは実はある種の影を背負っています。というのは、この「オートゥイユ職業学校」というのは、フランスの孤児育英団体が運営する学校で、彼らはみな親のない子供たちだからです。
 

上も同じ団体が経営する孤児院の一室。やはり印刷術の実習風景です。こちらは1950年代の絵葉書なので、時代を考えると、少年たちは戦災孤児なのかもしれません。

下はこの絵葉書とほぼ同じ時期、この孤児院で2年間過ごした人の思い出がつまったサイト。

ANCIEN DE L'ORPHELINAT SAINT-MICHEL-EN-PRIZIAC
  près de LANGONNET dans le MORBIHAN

 http://www.ancien-de-saint-michel-en-priziac.fr/index.html

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ジョバンニは孤児ではありません。両親も姉もいます。しかし、父親は異国に行ったまま行方不明。監獄に入っているという噂もあります。母は病気でふせっており、姉も生活を助けるために働いているのか、不在がちのようです。友達とも疎遠になり、いまは本当に一人ぽっちの、寂しい、不安な心を抱えた少年です。

活版所でひたむきに働くジョバンニの姿を思うと、フランスの孤児たちの横顔が、そこに重なって感じられます。