ジョバンニが見た世界(番外編)…活版所(4)2013年05月21日 20時36分50秒

さて、この後は当時の印刷所の様子を、絵葉書で見ていこうと思います。
なお、以下「*」の付いた画像は、手元にオリジナルがなくて、ネットで見つけた画像です。本来なら出典を明記すべきですが、オークションサイトから引っ張ってきた、うたかたのような画像なので、特に出典は示しません。

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「銀河鉄道の夜」によれば、ジョバンニの活版所は相当大きいようなので、まずは思いっきり大きい例です。
 
(Imprimerie de Montligeon, 1910年前後)

フランスのノルマンディー地方オルヌ県、ラ・シャペル=モンリジョンという町で創業したモンリジョン印刷所の全容。さらにその奥に見える尖塔のある建物は、ノートル=ダム・ドゥ・モンリジョン大聖堂で、この大聖堂と印刷所はともに、町の発展を願うビュゲ神父という人が19世紀の末に建てたものです。

何だか大きすぎて、ジョバンニの住む町にはありそうもない風情ですが、意外にそうでもありません。というのは、ラ・シャペル=モンリジョンは、もともとごくちっぽけなコミューンに過ぎず、寂れてゆく町の先行きを案じたビュゲ神父が、世界中から寄付金を集めて大聖堂を建立したおかげで、ようやく町はにぎわいと経済力を取り戻したという話。(ちなみに、モンリジョン印刷所は、現在別の場所に移転して盛業中です。)

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続いて、モンリジョン印刷所の内部を見てみます。
 

↑は活字を拾って版を組む植字工たち。1925年の消印のある絵葉書です。
 
(*)

こちらも同じ部屋でしょうか。
欧文の印刷は、アルファベットと数字、その他の記号のみで用が足りるので、版を組む際も、直接活字ケースから字を拾えばよく、植字工はめいめいの活字ケースを前に黙々と作業を進めています。

前回の記事の末尾でチラッと書いたように、日本ではこの前に「文選」という作業工程が入ります。以下はてっとり早くウィキペディアから関連記述のコピペ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%87%E9%81%B8_(%E5%87%BA%E7%89%88)


「文選(ぶんせん)とは、活版の工程の一つで、原稿に従って活字棚から活字を順に拾い、文選箱に納めること。採字とも。

欧文組版では活字の種類が少ないので活字ケースから活字を取り上げながら植字(ちょくじ、しょくじ)することが可能であり、これを拾い組みとよぶ。しかし、日本語(和文)や中国語の組版での拾い組みは著しく効率が悪いうえ、活字を拾うこと自体に専門的能力が要求されるため、文選と植字を別工程とした。文選工は活字を拾うことに専念し、植字工は活字を並べて約物を挟むことに専念する。

和文の組版環境において、熟練した文選工は、同じく熟練した植字工が組版を整える約1/2のスピードで文字を拾っていく。このため、植字工1名と文選工2名の組み合わせで、遅延なく工程を進行させることができる。 半分というと遅いように聞こえるが、膨大な数の和文活字を、約物やインテルを挟んで整形していく(だけの)作業の半分の時間で進めていくことができるというのは、各活字が活字棚のどこにあるかを身体で覚えている必要があるため、生半可なことではない。

欧文活字の拾い組みでは、大文字は植字台の上部に立てかけられていたケースに、小文字は植字台の下部のケースに収められていた。英語で大文字小文字の区別をケース(case)と呼び、さらに大文字のことをupper case、小文字のことをlower caseと呼ぶのはここから来ている。

宮沢賢治は「銀河鉄道の夜」で、主人公ジョバンニが文選のアルバイトをしている姿を描いている。この場面では活字をピンセットで拾っているが、活字合金は鉛を主体とした軟らかいものであるため金属製の器具で扱うと傷を付けるおそれがあるため、少なくとも日本では、多くのところでは素手で扱っていたという。」
 

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つづいて「たくさんの輪転器がばたりばたりとまわ」っている、印刷室の様子です(1910年頃)。

(*)

以前ご紹介した、二コラ・コンタ(著)『18世紀印刷職人物語』によれば、同じ印刷所の内部でも、印刷工と植字工は気風が違って、互いに反目していたそうです(植字工は、自分たちの仕事の方が上等だと考えていたとか)。1つ上の絵葉書の、ネクタイを締めた植字工たちの様子を見ると、20世紀初頭でも、そういうのは残ってたんじゃないかなあ…という気がします。

(この項つづく。次回はもうちょっと小ぶりの印刷所を見に行きます。)

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