ハロー、CQ、CQ、こちらはバチカン天文台2023年03月19日 10時54分14秒

これも紙モノと言っていいのでしょうが、こんなものを見つけました。


「スペコラ・ヴァティカーナ」、すなわちバチカン天文台に設けられたアマチュア無線局「HV2VO」から送られたQSLカード(交信証明書)です。バチカンにハム(アマチュア無線)マニアがいたと知って、「へえ」と思いました。

珍しさついでに、細部に注目してみます。


右肩のスタンプは、カトリック・プロテスタント・正教会を包摂する「世界教会協議会」のロゴマークで、十字架のマストを立てて海に浮かぶ船は、キリスト教会のシンボルだそうです。


裏面を見ると、問題のバチカンのハムマニアは、エドムンド・J・ベネデッティという人です(最後の「S.J.」はイエズス会士を意味する、一種の称号)。


交信日は1985年2月16日、交信相手はW2NCG(ニューヨークに開設された無線局で、その主は戦中から無線趣味にはまっていた、Ralph Gozen(Golyzniak)というベテランの由)。使用周波数は7メガヘルツ帯で、交信はCW(電信)、すなわちトン・ツーのモールス信号で行われました。通信状況を示すRSTコードは最高度の「599」、すなわち「完全に了解可能で、電波も非常に強く、モールス信号の音調も問題なし」。QSLカードは、先にRalphさんの方から届いたので、「TNX(Thanks)」にチェックが入っており、末尾の「73」は、アマチュア無線家が交信を締めくくるときの符牒で「Best regards」の意味です。

   ★

ハムには小学生の頃憧れたので、こういうのを見ると心にチカっと来るものがあります。それに何と言っても舞台がバチカン天文台ですから、二重三重に興味を惹かれます。

探してみるとこのバチカンのQSLカードはいろいろあって、もう1枚見つけたのがこれです。


ローマ教皇の離宮である、ローマ南郊のカステル・ガンドルフォ(ガンドルフォ城)と、そこに併設されたバチカン天文台の航空写真をデザインしたものですが、バチカン天文台は1980年代に入ってから、アメリカのアリゾナ州に観測拠点の移転を進めたので、これはバチカン天文台が、文字通りバチカンと結びついていた末期の姿ということになります。

こちらも裏面を見てみます。


こちらの交信日は1984年12月7日。交信相手はこれもアメリカにあったW2FP局です(主はニュージャージーのWalter Bernadynさんで、2015年に亡くなられた由)。このときも電信でのやり取りで、RSTは「599」でした。


このカードを見ると、バチカンのアマチュア無線局はHV2VOだけではなく、ベネデッティさんを含む5人が、それぞれ独自のコールサインを持って交信を行っていたことが分かります。こうなると、「よし、この5人のカードを全部集めるか!」と思ったりもしますが、そこまでいくと一寸やり過ぎなので、QSLカードはこれで打ち止めにします。

   ★

バチカンのハムマニア、ベネデッティさんの事績は、『ヴァチカン天文台年報2016』【LINK】に、その訃報とともに載っていました(pp.51-2、以下改行と太字は引用者)。

「エドムンド・ベネデッティ・カリトウスキー神父(イエズス会士)が、〔2016年〕12月13日にバルセロナで死去した。

ベネデッティ神父は1920年にロンドンで生まれ、1935年にイタリアのトリノでイエズス会に入り、1950年にインドのダージリンで叙階され、80年間をイエズス会士として、また66年間を司祭として活躍した。彼は、その長く魅力的な人生の中で、南米でも幅広く活躍した。1950年代にロンドンでエンジニアとしての訓練を受け、1978年にバチカン天文台に入り、望遠鏡のエンジニアとして働き、趣味のアマチュア無線「ハム」に熱心なことでも有名だった

観測陣がアリゾナに移転するのに伴い、1988年にはツーソンに着任し、1992年までVATT(Vatican Advanced Technology Telescope、バチカン新技術望遠鏡)の機器開発に参加した。彼の特筆すべき業績は、アリゾナとアルゼンチンの望遠鏡で広く使用された偏光計VATTPolの開発に携わったことである。

天文台での仕事を終えた後も、VATTの所在地からほど近いウィルコックスの教区司祭としてツーソンに留まり、天文台のコミュニティと関わりを持ち続けた。1998年には、テキサス州コーパスクリスティに移り、80代半ばまで教区の仕事を続けた。2004年、引退してスペインに移住(ブラジルへも何度か旅行した)。」

Edmund Benedetti Kalitowski(1920-2016)。ほぼ御当人で間違いなかろうと思いますが、画像検索の結果からリンク先にうまく入れず、出典は不詳)


【参考記事】

■ヴァチカン天文台廃絶?