抱影翁のはがき2007年10月31日 22時20分19秒


今日はハロウィーン。
日本でいえばお盆に相当する、死者がこの世を訪れる日(らしい)です。

ちょうど昨日が命日だった、野尻抱影翁(1885-1977)の魂も、今宵は来訪されているのでしょうか。ただ、翁は生前からオリオン星雲を墓所と定めていたそうですから、地球まで来るのも一苦労でしょう。

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翁は一種の手紙魔で、生涯におびただしい量の手紙を書いたそうです。そして、その字体がまた独特で…と聞かされて以来、何とかその手蹟を手に入れたいと思っていました。「手紙魔」のわりに市場に出物がないのは、受け取った人がみな珍蔵しているケースが多いせいでしょう。

それでも、先日ようやく古書店で売りに出ているのを見つけました。

ロシア文学者の中村白葉(1890-1974)に宛てた葉書で、昭和41年7月25日の消印があります。文面は、白葉による何かの連載物が終了したのを惜しみつつ祝福する内容。

「ようこそ十回にもわたってお書きになりました。〔…〕一昨日は「これでおしまひか」と名残り惜しく、三回まで繰り返しました。静かな字句の底にこもる熱情、そして遂に到達された澄んだ御心境―それと謡曲との結びつきも成程と頷かれて、敬仰を新たにしました。」

見れば見るほど不思議というか、味わいのある字ですね。

当時、翁は80歳を越えていたわけですが、文面にも字配りにも全く乱れが見られません。年譜によると、翁はこの後も没するまで毎年本を上梓(再刊も含む)していますが、その旺盛な知力は驚くばかりです。

■参考
 ウィキペディア「中村白葉」
 http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%AD%E6%9D%91%E7%99%BD%E8%91%89