小さな泡。泡。泡。泡。泡泡泡。。。。…泡箱のはなし(1)2009年08月05日 21時50分36秒

私の住む地方でもようやく梅雨が明けました。
長いこと待たれた日射しですが、実際に降り注ぐとなかなかに暑いです。

それを見越してのことか、先日、某氏から涼しげな栞が送られてきました。
この栞の元が何だかお分かりでしょうか。
この透明感あふれる栞は、かつて尖端的な実験で使われたフィルムの断片で作られているのです。

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泡箱。
かつて霧箱と並んで、素粒子の軌跡を肉眼的に観察するために使われた物理実験装置です。

原理は比較的単純です。直径1メートルほどの装置には液体水素が満ちており、加圧減圧が自由にできるようになっています。今、圧を一気に下げると、液体水素は一触即発で気化沸騰するような不安定な状態となり、わずか1粒の荷電粒子がそこを走り抜けただけで泡立ち、粒子の軌跡が泡の列として目に見えるようになります。
その曲がり具合や反跳の仕方から、粒子の性質が分かるのだそうです。

それを解析するために、1970年代に記録されたフィルムが、すなわちこの栞の前身です。

(つづく)

泡箱のはなし(2)2009年08月05日 21時56分03秒

(前の記事のつづき)

泡箱写真の拡大。素粒子が描いたアート。

ところで、この絹糸のように細い泡の筋。細いとは言っても目に見えるのですから、元の粒子と比べれば、信じがたいほどの大きさを持っているはずで、おそらくは1千億倍以上のオーダーにはなるでしょう。

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かつて銀の羽を持った1羽のカモメがおりました。
そのカモメは、あまりにも高く、あまりにも速く飛ぶために、その姿を実際に見た者は誰もいませんでした。
しかし、カモメが翔んだその跡には、不思議なことに大きな泡が―何と地球よりも大きな、いやそれどころか、地球の公転軌道ほども大きな泡が―無数に連なったために、遠い異世界の住人にも、はっきりとその存在が感じ取れたそうです。

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おとぎ話めいて書けば、そんな感じでしょうか。

小さな泡とはいえ、液体水素が泡だつときにも、きっとかすかな音がするのでしょうね。
シュッ…シュワッ…シュワーッ…と。

ビールの栓を抜くと泡が立つのも、泡箱に泡の軌跡が生じるのも、煎じつめれば原理は同じだそうです。ビールを眺めながら、ぼんやり極微の世界に思いをはせるのも、この時期ならではの風流かもしれませんね。