デ・ラ・ルーとその時代(2)2016年10月22日 07時47分29秒

トランプが気になる…というのは、以前も書いたとおりで(http://mononoke.asablo.jp/blog/2016/05/10/)、私は昔からトランプに対して、いくぶん強迫的な嗜好があります。

(北原白秋の『思ひ出』も、トランプ憧憬に一寸影響しています)

そのせいで、天文モチーフのトランプやカードゲームを手にすることも多いのですが、それは気合を入れて別項目で紹介することにして、ここではデ・ラ・ルー社のトランプの話題です。

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このトランプを買ったのは、10年近く前のことです。
古いトランプが欲しいと思って、最初に見つけたのがこのトランプでした。


このバラのデザインは、少々乙女チック過ぎる気もしますが、英国人にとってのバラは、日本人にとっての桜にも等しい、深い精神性を帯びた存在らしいので、これはいかにもイギリス的なデザインです。

(スペードのエースには、薔薇戦争で名高い「チューダー・ローズ」の意匠)

(各スート(マーク)の形が丸っこいのが昔風)

絵札のデザインや、角がスクエアな形状から、1860年代のものと推定されるデ・ラ・ルー社のトランプ。売り手はさらに「1865年」という特定の年次を挙げていて、その根拠は聞き洩らしましたが、1865年といえば、ちょうど『不思議の国のアリス』が刊行された年です。このトランプは、あの世界に登場してもおかしくない存在だ…というのも、買う気をそそられた点でした。

(ハートの女王と4人の王様)

   ★

1830年代に始まるデ・ラ・ルー社のトランプの歴史については、以下のページにやや詳しい解説があります。

THOMAS DE LA RUE: a brief history of De la Rue’s playing-cards
 http://www.wopc.co.uk/delarue/index

それまでの素朴な木版・ステンシル彩色のトランプ製造の世界に、機械印刷方式を持ち込み、スッキリと洗練されたカードデザインを考案したのがデ・ラ・ルー社で、前代の妙にいびつなトランプも、それはそれで魅力的ですが、トランプにいかにも謎めいた人工性が宿ったのは、何といっても同社の手柄です。

そして、この印刷術の技術革新の波の中で、トーマスの息子である二代目のウォレンは、写真術と天文学への嗜好を育み、アマチュア天文家として一家を成したのでした。

(この項つづく)


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■閑語(ブログ内ブログ)

アメリカの基地を守り、同じ日本人を見下す者が「レイシスト」と呼ばれる奇妙な現実を見るにつけて、右翼は死んだなあ…と、つくづく思います(そもそも、「彼ら」は右翼ではないどころか、本来レイシストと呼ばれる価値もないはずです)。

私がイメージするのは、戦前の右翼の巨魁である、頭山満(とうやまみつる)や、杉山茂丸(夢野久作の父といったほうが通りがいいかもしれません)なんかで、別にその思想に共鳴するわけではないのですが、いずれもスケールの大きい人物だったことは認めます。そして、そのスケール感は、沖縄で露呈した「彼ら」の狭量さと鮮明なコントラストを見せています。

   ★

アジアの革命家たちとネットワークを築き、アジア解放(欧米列強からの)を夢見た「大アジア主義者」たち。少なくとも、彼らの視線の先には、今回の「土人」や「シナ」といった愚昧な差別意識(それは根拠のない優越意識と表裏しています)はなかったでしょう。

戦前の右翼は、たしかに「反共」ではあったと思います。でも、頭山満はいわゆる「主義者」とも普通に付き合っていましたし、今のネトウヨと呼ばれる人々の「嫌中」は、「嫌韓」と抱き合わせになっていることから明らかなように、別に反共といった思想的背景はなく、単なる感情的反発にすぎません。(それに現在の中国は、「全体主義国家」ではあっても、社会の成り立ちは、日本よりいっそう資本主義的です。そもそも共産主義国家に株式市場があるのは変です。)

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日本の政権中枢にとって、沖縄という弧状列島は捨て駒でしかありません。
それは、アメリカの政権中枢にとって、日本という弧状列島が捨て駒でしかないのと全く同じことです。沖縄はいわば日本の縮図であり、残酷な戯画です。

そんなことは、今さら私が言うまでもないことですが、そのことが「彼ら」の脳裏にどんな像を結んでいるのか。「彼ら」の発言は不愉快にしても、その点はちょっと興味があります。

   ★

そして、宮内庁長官の首をこれ見よがしにすげ替えて、露骨に天皇に圧力をかける現政権に対して、「一大不敬事件なり!!!」と、右翼が騒ぎ立てないのも不思議な話で、やっぱりこれは右翼そのものが死んだ証拠なのでしょう。

コメント

_ S.U ― 2016年10月22日 09時43分57秒

>沖縄は日本の縮図
 昔、柳田国男が言ったことに(「世界苦と孤島苦」という講演で、『故郷七十年』という本に収録されているらしいですが原文未見です)、日本には以前よりこのような離島の階層構造があり、日本本土にとっての沖縄、沖縄本島にとっての離島(例えば八重山群島)、その離島に対してのさらなる小島(水納島など)、について、精神的にいずれも入れ子的な階層構造がくみ上げられている、そして、日本も世界の中の沖縄ではないか、と締められていたということです。時代が進んでもこういうことがなかなか克服されないものだと思うと悲しいです。そもそも克服する努力を放棄している人たちに、国際外交を指導する能力は無いということだと思います。

>右翼そのものが死んだ証拠
 私の見立てでは、(確かに死んでいますが)今の右翼は現政権に近い「反知性主義」になっていると思います。つまり、彼らの邪魔者は在野の知識人(安い給料の学校、大学の先生も含む)で、在野の知識人=大半はリベラルな意見を言う人→左翼のインテリということで、いわゆる「低級インテリの排除」という旗印で右翼をやっているものと考えます。本来は右翼自身も苦境に耐えて独自に頑張る在野知識人であってほしいのですが、これが最近死んだということでしょう。

 国を主導する政府が反知性主義を進めるのは言語道断ですが、一般人のいわゆるネトウヨの人が反インテリにつくのにはそれなりの理由と合理性があり、これは一部肯定的に考える必要もあるのではないかと思います。ただし、それが現政権の票集めに利用されるのは、結局は一般市民全体の利益に逆行するので、阻止しなくてはなりません。本来の右翼は死んで、ある意味、正統的な反インテリが右翼の名前を借りて出てきているが、それはそれで健全な方向に進んでもらう工夫がいるのではないかと思います。まだ最近考え出したことなので、これで正しいのかどうかよくわかりません。

 「トランプ」からの連想ではありませんが、今話題のトランプ氏は、「保守」陣営なのかどうかよくわかりませんね。その品位は別にして、こういう感じの主張の人なら本来の推奨されるべき右翼と言えるのではないかと思います。

_ 玉青 ― 2016年10月23日 09時36分49秒

>右翼自身も苦境に耐えて独自に頑張る在野知識人であってほしい

そこですよね。
右派知識人も骨のある筋の通った主張で物申してほしいですが、どうもすぐに「御用知識人」化して、見苦しいことこの上ないです。ご本人は「いや、自分は筋を通している」と言われるかもしれませんが、自分がどういう文脈で利用されているかについて、余りにも思慮のない人が多いと思います。むしろ利用されて得意顔だったりします。(まあ、この点は左右の別なく言えることかもしれません。)

ともあれ、知識人を自ら以て任ずる人は、己の中にひそむ権力におもねる心、権威主義志向、「力への意志」と常に対峙し(これは知識人に限らず多くの人が共有しているものでしょう)、良心に恥じるところはないかを、一日に三度省みてほしいと切に望みます。

反知性主義については、先日(http://mononoke.asablo.jp/blog/2016/09/27/8203594)のS.Uさんとのやりとりの中で、自分なりに整理がつきましたが、「皮相で空疎な知識」に反対する意味での「反知性主義」(それはある意味「真の知性」を希求するものであったはずです)には存在理由があっても、今の反知性主義には、「真の知性」のかけらもない、単なる「獣性主義」の謂いに堕しているように見えます。


>トランプ氏

は、やっぱりダメ過ぎないですかね。
彼は良心に恥じるべきですし、恥じないというなら、良心そのものが無い人と言われても仕方ないように思います。

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