フラマリオンの手紙2021年10月17日 09時24分15秒



フラマリオンの自筆書簡が手元にあります。
夜のジュヴィシーを刷り込んだ専用の便箋に――フラマリオンも、夜のジュヴィシーを愛していたのでしょう――サラサラと書かれたものです。

 「過去・現在・未来にわたって最も魅力的で雄弁な大臣閣下に、
 常に変わらぬ深い感謝の気持ちを。
 そして未来の大統領に、常に上昇しつづける天文ホロスコープを。
                       カミーユ・フラマリオン
                       ジュヴィシー、1922年7月7日」

この手紙を送られた「大臣閣下」というのは、フランスの政治家シャルル・リベル(Charles Reibel、1882-1966)のことで、彼は第一次大戦後、ドイツから取り戻したアルザス・ロレーヌ地方をフランスに再統合する「解放地域担当大臣」というのに就任していました。

フラマリオンとリベルの個人的関係は分かりません。文面だけ見ると何となくお追従めいた感じもしますが、多分に儀礼的な手紙だったのかもしれません。(ちなみにフラマリオンの託宣にもかかわらず、リベルが大統領になることはありませんでした。)

内容はともかくとして、ここで重要なのは、フラマリオンその人がこの紙片を手に取り、自らペンを走らせたという事実です。
私はもちろんフラマリオンに会ったこともなければ、ジュヴィシーに足を踏み入れたこともないのですが、この手紙はかつて間違いなくジュヴィシーでしたためられたものであり、それはおそらく昨日の書斎においてでしょう。
それを思うと、私はフラマリオンが「今、書きかけの手紙を書いてしまうから、一寸待っていてくれ給え」とか何とか言うのを聞きながら、昨日の書斎に座っていたことがあるような気がしてくるのです。

実際、この紙片を構成する植物繊維の隙間には、あの書斎を満たしていた空気分子が今もいくつか残っているんじゃないか…そんなことも考えます。


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