江戸のコメットハンター(2)2024年10月17日 05時43分09秒

さて、話をもとに戻して江戸時代の彗星の話。
話が2回ないし3回で終わるか定かでないので、前回のタイトルを「江戸のコメットハンター(前編)」から「同(1)」に改めました。

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この「御届書付」は、まったく同じものが大崎正次(編)『近世日本天文史料』(原書房、1994)に出てきます(本文p.490、巻末附図p.615)。


(巻末附図11)

この彗星の正体は、「1811年の大彗星(C/1811 F1)」と呼ばれるもので、1811年の3月に発見後、時と共に明るさを増し、4月~12月まで8か月余りにわたって目視可能だったという顕著な彗星です(10月に最大光度0等級に達しました)。

『近世日本天文史料』には、1811年9月10日(和暦:文化8年7月23日)から始まって、同時代の諸書(ex.「若杉家日記」、「春波楼筆記」、「続王代一覧後期」…etc.)に出てくる計14件の記録を収録しており、「御届書付」もその一つです。

「御届書付」が提出された「8月14日」は、グレゴリオ暦だと10月1日に当たります。また観測を行った8月11日~13日は、同じく9月28日~30日なので、この天文方の報告が日本で最初の記録というわけではありませんが、天文方としては第一報のようです。

その内容を『近世日本天文史料』の翻刻によって見てみます。

 「去ル十一・二日頃より昏時地平之上九度斗薄雲之間彗星ニ而も可有御座候哉、戌亥より北斗天璣天枢之間を建相見候得共、薄雲中ニ付碇と相分り兼候処。昨十三日昏時見留候処、彗星ニ而光芒凡一尺余相発申候ニ付測量仕候。猶又昨暁丑寅之間地平上凡十度斗ニ彗星ニも可有御座哉相見候得共、薄雲中ニ而難見定候ニ付、今暁篤と見出候処、彗星ニ而、光芒凡五尺斗相発候ニ付別紙略測記相添此段申上候。尤追々連測相成候て、尚又細測記可奉入御覧候。依之此如奉申上候以上。/天文方/三名」

口語に直せば、大要次のような意味かと思います。

 「(旧暦)8月11、12日頃から、夕暮れ時の地平線上約9度の高さに、薄雲を通して彗星らしきものがあり、北西方向から北斗七星の天璣(フェクダ)と天枢(ドゥーベ)に寄った位置に、直立して見えたが、何しろ薄雲中のことではっきりとは分からなかった。しかし、昨13日の夕暮れに見たところ、たしかに彗星であり、光芒が約1尺余りも伸びていたので、測量を実施した。また昨日の夜明け方、北と東の間の方角、地平線上約10度の高さに彗星らしきものを認めたが、薄雲中でこれまた見定め難かったので、今日の夜明け方に改めて観測したところ、やはり彗星であり、光芒が約5尺ばかりも伸びていたので、別紙の略測記を添えてご報告申し上げる。今後さらに連続観測を実施して、一層詳細な観測記録をご覧に入れたい。以上ご報告まで。天文方三名より」

(ウィキペディア掲載の図に北斗各星の中国名を付加。原図出典:

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ここで気になったのは、上の翻刻と手元の史料とで、一部文字の異同があることです。以下に異同を赤字で示します(〔 〕内が手元の史料の表記。ゟ(より)、茂(も)等の変体仮名の違いは省略)

 「去ル十一・二日頃〔比〕より昏時地平之上九度斗薄雲之間彗星ニ而〔而の1字欠〕も可有御座候〔候の1字欠〕哉、戌亥〔間の1字有〕より北斗天璣〔機〕枢〔桓〕之間を建相見候得共、薄雲中ニ付〔而〕碇と相分り兼候処、昨十三日昏時見留候処。彗星ニ而光芒凡一尺余相発申候ニ付測量仕候。猶又昨〔又昨の2字欠〕暁丑寅之間地平上凡十度斗ニ彗星ニも可有御座哉相見候得共、薄雲中ニ而難見定候ニ付、今暁篤〔得〕と見出〔正〕候処、彗星ニ而、光芒凡五尺斗相発候ニ付別紙略測記相添此段申上候。尤追々連測相成候て、尚〔猶〕又細測記可奉入御覧候。依之此如〔段〕奉〔奉の1字欠〕申上候以上。/天文方/三名」

(手元の書付全文)

こう見ると結構違いますね。このことは、『近世日本天文史料』の典拠と、手元の書付との「史料的距離」を物語るもので、たしかに元は同じでも、人間のやることですから、書写を繰り返しているうちに、これぐらいの差は生じるということでしょう。

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ここで、『近世日本天文史料』に収められた史料の出典を確認しておくと、「聞集録」となっていて、これは現在、東大史料編纂所が所蔵しています。

この『聞集録』の成立事情も絡めて、江戸の情報網の中で、彗星の話題がどう拡散していったのか、その中で手元の書付をどう位置づけるか…みたいなことを、あまりしっかり論じることもできませんが、さらにつぶやいてみます。

(この項つづく)

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