天文古書の森、クロウフォード・ライブラリー ― 2021年01月10日 11時10分41秒
自分が今いる部屋は本に囲まれているので、落ち着くと言えば落ち着きます。
でも、狭いといえばこの上なく狭いし、現状がベストなわけでは全然ありません。
よく骨董の目利きになるには、“とにかくホンモノを見ろ、本当に良いものを見ろ”と言いますね。この小さな部屋を、より味わい深いものにしようと思ったら、世界の優れたライブラリーを眺めて目を肥やすに限る…というわけで、ちょっと覗き見をしてみます。
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エジンバラ王立天文台に付属する「クロウフォード・ライブラリー」。
この世界有数の天文貴重書コレクションの概要は、以下のページに書かれています。
■The Crawford collection at the Royal Observatory Edinburgh
かいつまんで言うと、その名称はスコットランド貴族で「第26代クロウフォード伯爵」を名乗ったジェイムズ・ルドヴィック・リンゼイ(James Ludovic Lindsay、1847-1913)に由来し、アマチュア天文家であり、愛書家でもあったリンゼイが、自分の個人コレクション(総数11,000冊)を生前に寄贈して成立したものです。
上のページからは、さらにグーグルのストリートビューにリンクが張られていて、内部の様子を360度見渡すことができます。
(https://tinyurl.com/y498qvh5 リンク先に飛び、左上の本の画像をクリック。撮影はLeonardo Gandini 氏)
このライブラリーには、天文学史の古典――コペルニクスの『天球の回転について』とか、ケプラーやガリレオの諸著作――が、大抵初版で収まっていて、さらにリンゼイの興味はコペルニクス以前の世界にまで広がり、中世の彩色写本などもコレクションに含まれています。
(上の画像に続いて Leonardo Gandini氏の写真を寸借。以下も同じ)
ここに写っているのは、彼の11,000冊のコレクションの中でも、さらに貴重書を選りすぐった一室ではないかと想像しますが、まことに壮観です。
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まあ、財力のしからしむるところで、クロウフォード・ライブラリーを直接お手本にすることもできませんし、リンゼイの目指したものが私のそれと同じという保証もありません。
でも、北極点踏破を目指さなくても、北極星を目指して歩けば、北の町にあやまたず到達できるし、真北を目指さない人にとっても、北極星はナビゲーションツールとして依然有効です。
それに先達はあらまほしいもの…というのは、クロウフォード・ライブラリー自身が、身を以て教えてくれています。リンゼイの場合は、ロシアのプルコヴォ天文台付属図書館という当時最高のお手本があり、台長のオットー・ストルーヴェから直接指南を受けられたことが、その成立にあずかって大きな力があったと、上のリンク先には書かれています。
ちなみに、その「大先達」であるプルコヴォの蔵書。こちらはドイツ軍の猛攻が続いた第2次大戦中も疎開して無事だったのに、1997年の放火火災で大半が焼失・損耗してしまった…と、英語版Wikipedia「Pulkovo Observatoy」の項に書かれていました。やんぬるかな。まあ、こんなふうにコレクションの諸行無常ぶりを教えてくれるのも、大先達の「徳」なのでしょう。
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現在のクロウフォード・ライブラリーに、強いてケチをつけるとしたら、部屋がいかにも「普通の部屋」であることです。空調も効くでしょうし、その方が本の管理もしやすいのでしょうが、もうちょっと重厚感があると、なお良かったかな…と、これは個人的感想です。
(例えばこんな雰囲気。オックスフォードのボドリアン図書館。出典:De Laubier他、『The Most Beautiful in the World』、Abrams、2003)
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