戦前の顕微鏡写真集(その2)2009年04月25日 18時12分28秒

(↑内容目次)

まず、この本の書誌を書いておきます。

■牧川鷹之祐・東初雄(共著)
 『改版 植物顕微鏡写真集』
 昭和10年
 発行所:顕微鏡写真刊行会
 印刷所:田中コロタイプ印刷所

扉によれば、著者の牧川は「福岡高等学校教授、理学士」、東は「同校生物学教室助手」と書かれています(旧制福岡高校は九大の前身の1つ)。発行所と印刷所はともに東京の神田三崎町。定価12円というのは、当時小学校の先生の初任給が50円ですから、かなり高価な本ですね。

「これまで植物学を教授する際、顕微鏡に不慣れな学生に、細胞や組織の観察を指導するのに大いに苦労したが、ふと大型の顕微鏡写真を使えば、掛図や教科書の挿絵よりもいっそう便利だと気がついて、自分で撮影した写真を使い始めたところ、他校の教官にも好評だったので、県庁学務部の推薦を得て、ここに玻璃版で刊行することになった」…というような、出版経緯が「序」には書かれています。

主に中等教育の現場で使われることを想定したもののようです。

戦前の顕微鏡写真集(その3)2009年04月25日 18時14分55秒

さて、帙を開けると、それぞれ黒い台紙に貼られた図版が全部で50枚収まっています。
(ただし、手元にあるのは4枚欠失していて46枚。)

黒い台紙、というのがいいですね。図版はすべてコロタイプ印刷。

コロタイプ印刷とは、同寸大のガラスネガを直接原版として用いる印刷技法です。そのため、かつては「玻璃版」という美しい名前で呼ばれました。オリジナルネガの明暗がそのまま転写されるため、網版では到底不可能な連続諧調と深みのある質感が得られます。その分コストが高く、大量印刷には向かないのが難で、もっぱら絵画の複製などに用いられます。(←この辺はネット情報の受け売りです。)

精細で豊かな画像表現
黒い台紙とのシックな調和
茜色の活版で刷られた説明文に横溢する科学の香り
時代を経た紙の古び具合

そうしたものが相まって、この写真集には何か不思議なアート作品のような味わいがあります。

(この項つづく)