フォルタン気圧計(補遺)2017年09月27日 06時51分37秒

昨日の気圧計が我が家に来てから、もう5年になります。
このちょっとした出来事にも、それに先立つエピソードがあります。

   ★

2012年初夏。私は案内してくれる人を得て、滋賀県の豊郷(とよさと)町にある、豊郷小学校旧校舎の見学に出かけました。ここは建築家ヴォーリズの手になる名建築として知られます。

そのときご案内いただいたY氏の尽力によって、旧校舎の理科室は、その後見事に整備されましたが、当時はまだ整備前で、相当雑然とした状況でした。それが私の心をいっそう捉えたのですが、しかし「整備にかかる前に、あまり舞台裏を出すのはちょっと…」という関係者の声に配慮し、その際の探訪記はいったんブログで公開した後、じきお蔵入りとなったのです。

その訪問の際に、私の目にパッと飛び込んできたのが、このフォルタン気圧計でした。


理科準備室の隅に横たわる、いかにも古色蒼然とした器械(写真は5年前)。


ラベルに書かれた「フオルチン水銀気圧計」の筆文字も、相当インパクトがありました。

訪問を終えた私は、戦前の理科室にタイムスリップしたかような眼前の光景に、興奮の極にありましたから、古い気圧計に食指が動いたのも、単なる気象趣味にとどまらず、そうした「理科室趣味」に発する追い風も大いに作用していたのです。
イギリスから例の気圧計が届いたのは、豊郷小訪問の翌月だ…といえば、その風力がいかに大きかったか、ご想像いただけるでしょう。

   ★

そんなわけで、この気圧計を見ると、いろいろな思いがむくむくと湧いてきます。
モノに念がこもるというのは、何も怪談の世界だけのことではありません。


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コメント

_ S.U ― 2017年09月27日 17時49分49秒

おぉ、玉青さんもこの式の気圧計に当てられたのですね。小学校にありましたか。
 さぞ、高かったと思うのですが、どのくらいの値段だったのでしょうか。学校で、ちょっと買えるような値段ではないように思うのですが、廉価版もあったのでしょうか。私の通っていた小学校にあったかどうか。あっても、気圧計だとは当時の私には識別できなかったかもしれません。アネロイド気圧計は百葉箱にあって、これが簡易版の装置であることは知っていたと思います。たぶん、中学校で見たのではないかと思います。

 その後、水銀柱の血圧計でもよいので、ほしかったです。医院にありました。でも、今なら、タダでくれると言われても血圧計はいりません(笑)。

 ところで、血圧は、上が 140 下が 90とかいって、測るごとに一喜一憂するわけですが、この数値の単位は、mmHg ですね。今時、水銀柱式を使っている医者はなかなかいないと思いますが、単位には残っています。

 本当は、SI単位系の ヘクトパスカルあたりを使ってほしいところですが、これだと、血圧120(mmHg)の正常が、血圧160(hPa)になるので、これでは、驚いて正常な人まで高血圧になりかねず、どうしても SI単位系に移行できないのだと思います。さて、今後、一般人が水銀を決して目にしない世になっても、人々は水銀柱の単位の数値に悩ませられ続けることになるのかもしれません。

_ 玉青 ― 2017年09月27日 23時55分34秒

>mmHg

あ、水銀はそんなところに生きていたのですね!
嬉しいような気もしますが、よく考えると別に嬉しくもないような、何だか微妙な感じです。(^J^)

_ S.U ― 2017年09月28日 06時47分33秒

>嬉しいような気もしますが、よく考えると別に嬉しくもないような

 これが嬉しいと感じる人こそ、フォルタン気圧計の真の心酔者でしょうね。

 お時間のあるときでけっこうですので、また、可能ならば、例によって1950~60年代の学校向け販売カタログで価格を調べてお教え下さいますよう、お願いいたします。
 小中学校の理科室でほとんど使われていない機器のなかでは最高額の部類の可能性があると感じました。この手の気圧計が目立つところに設置されて生徒や学生が毎日測定しているという話は聞いたことがありません(アネロイド式で十分でしょう)。水銀柱式を授業でそうそう使うとは思えません(地学ではなく物理になりそうです)。風速計なども高かったと思いますが、あれはどこなりと設置すると目立ちますので持ち腐れにはなりません。
 トリチェリの真空など水銀では簡単につくる方法が確立していて、適当な精度で単に水銀柱の高さの変化を見るだけなら、とにかく真空部分を作れば良い訳ですから意外に廉価版があったのではないかという気もします。

_ 玉青 ― 2017年09月29日 18時11分55秒

お尋ねの件、うっかり見落としていました。
早速、昭和30年発行の学校教材カタログを見てみました。すると、「フオルチン式水銀気圧計」(戦後もなおこの表記です)は、20,000円~24,000円、さらに「検定付」のハイグレード品は35,000円でした。小学校の先生の初任給が8,000円の時代ですから、やっぱり相当高額な教材です。(ちなみにアネロイド式は、一般用で2,500~4,000円、検定付でも4,500~5,000円で、値段が一けた違います。)

_ S.U ― 2017年09月29日 21時31分16秒

ありがとうございます。すぐにお値段をお尋ねしたりして、まことに下世話なものです。

 確かにお高いですね。でも、目ン玉が飛び出て絶対に買えないというほどではないと思います。人件費ベースで考えると、今のお金で50~60万円ほどでしょうか。かなり高いですが、当時は、テレビでもカメラでもとにかく生活必需品でない器械はなんでも給料と比べると高かったですから、その中でいうとリーズナブルな範囲かもしれません。

 だとすると、これが小中学校において必要あるいは有用な買い物であったかということですが、そもそもちゃんとした用途があったのかが問題になります。上にも書きましたが、観測にはアネロイドで十分で、その密閉容器の変形のほうが理解もしやすく、「フォルチン式」のトリチェリの真空とか水銀柱の圧力などというのは、通常の小中生徒が興味を持って理解に努めるレベルではないと思うのですが。校長室の前の廊下にでも置いておけば威厳はあったかもしれませんが、蹴り倒されて壊れて水銀が出ても困りますので、そうそう人通りを多いところには置いてなかったと思います。
 (私もほしいとは思いましたが、これの原理や使い方を勉強をして、毎日観測したいとは思いませんでした)

_ 玉青 ― 2017年09月30日 12時52分05秒

フォルタン気圧計がまとっているムードは、要はかつての理科室に漂っていたそれと同質のものなんでしょうね。それこそ、S.Uさんの言われる「威厳」でしょうか。

昔の理科室には(そして、そこに居並ぶ機器・標本類にも)大いに威厳がありました。さらには、理科そのものや、それを教える先生にも威厳がありました。その威厳の内には、一部「こけ威し」の空疎なものも混じっていたとは思いますが、他方真の「厳粛さ」も予感させるもので、子供の憧れを誘うに十分でした。

動作原理が分かりにくいと、かえって威厳は増すものですから、フォルタン気圧計の場合、その原理の分かりにくさは、長所にこそなれ、短所ではなかった…ということかもしれませんね(まあ、これは「こけ威し」の類でしょう)。

_ S.U ― 2017年09月30日 16時55分13秒

そうですね。フォルタン気圧計で「こけ威し」を演じるのは、水銀、トリチェリの真空、高さ1万メートルに及ぶ地球大気、パスカルの法則、といずれも超一流どころのカリスマ役者ですから、だた威されるだけでも価値があります。

_ 玉青 ― 2017年10月01日 07時55分32秒

>高さ1万メートルに及ぶ地球大気

いやあ、我が言は天に唾しかねないものでした。
元よりこれは高価な機器を校長室前に顕示し、生徒を畏怖せしめんとする学校関係者の浅慮を戒めたものとお受け止めください。

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