『雲の結晶 雪片のアルバム』 ― 2026年01月25日 13時00分54秒
ここ数日、日本海側は大変な雪です。
雪の少ない名古屋でも、今朝は白いものが舞っていました。今は青空が広がっていますが、白い雲がぐんぐん空を横切り、上空の風の強さを感じさせます。
雪国の苦労を思うと、雪を美しいと言うのは気が咎めますが、「雪月花」の名の通り、暖地の雪はやはり文芸的主題であり、情緒的鑑賞の対象です。より正確な言い方をすれば、雪は恐ろしいものであると同時に美しいものでもあり、時と所によって、その表情を変えるということでしょう。
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雪のことを考えていて、1冊の本を思い出しました。
■A Lday(編)
Cloud Crystals: A Snow Flake Album.
D. Appelton & Co. (NY)、1864. 158p.
Cloud Crystals: A Snow Flake Album.
D. Appelton & Co. (NY)、1864. 158p.
「さる婦人」の手になるという触れ込みの匿名出版です。これは、その方がロマンチックな感じがして売れると見込んだ出版社の商策でしょう。実際に書いたのは男性かもしれません。
ふつうなら単に「雪の結晶」というところを「雲の結晶」と呼んだのは一工夫ですね。なるほど、言われてみれば、あれはたしかに雲の結晶です。
(タイトルページ)
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本書の内容は、雪に関する詩文集です。
(英国で学び、その後カナダに渡った気象学者、Charles Smallwood(1812-1873)が雪の結晶と電気の関係を論じた論文(下述)より)
冒頭には「雪の結晶形態とその形成途上における大気の電気状態の違い」や「雪の結晶の変容」といった科学的な文章も掲載されていますが、それはほんの付けたりで、あとはもっぱら雪に関する随想や詩といった文学作品からの引用で埋まっています。たとえば有名どころだと、バーンズとか、エマーソンとか、シェークスピア…等々。
(アメリカの文人、Ralph Hoyt(1806-1878)作、「雪:冬の素描」の冒頭)
嗜好としては、同時代のイギリスのヴィクトリア趣味に叶うものでしょうが、新大陸の著者たちが多く登場しているのがアメリカっぽいところです。
そして、文中に添えられた雪の結晶図こそが本書の見どころで、こうした石版刷りの図版が、口絵も含めて27枚収録されています。
これらがどこまで科学的に正確な図かはわかりません。
多分に描き手のアレンジが加わっている気もしますが、それでも天から届いた小さな宝石(雪や氷は科学的にも鉱物に分類される資格があります)に目を留め、ひたすらそれを描きつづけた「雪ごころ」は見事です。
本書が出たとき、雪の結晶写真で有名なWilson A. Bentley(1865-1931)はまだ生まれておらず、その出版はベントレーの有名な写真集『Snow Crystals』(1931)よりも70年近く先行します。雪の結晶をテーマにした本として、まずは古典といってよいでしょう。
そしてまた、編者の思いとは異なるかもしれませんが、これらの平面的で様式化された描写には、何となく日本情緒というか、雪華紋ブームに沸いた江戸時代の和書の趣があって、そこも個人的には気に入っています。
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余談ですが、古書の魅力は文字情報にとどまらない、モノそのものとしての魅力であることは言うまでもありません。今回、この本を久しぶりに手に取って、そのことを改めて感じました。
見返しに書かれたメッセージによると、この本は1867年2月20日、あるお父さんが愛嬢に誕生日のプレゼントとして贈ったものです。そしてその後、巡り巡ってセント・フェイス・スクールという学校の蔵書になったことが、蔵書票から分かります。
お父さんからもらったプレゼントを、娘さんは古本屋に売っ払っちゃったのかな?…と最初思いましたが、先ほど検索したら、贈られたエレノア・A・シャッケルフォードさんは、セント・フェイス・スクールの創立者その人でした。彼女はお父さんから受けた愛情を、今度は愛する生徒たちに分け与えたわけです。まことにうるわしい話です。
エレノアさん(Eleanor Anastasia Shackelford、1853-1925)については、この名前で検索するといくつか情報が出てきます。彼女は1890年、ニューヨーク州サラトガの町にセント・フェイス女子学校を創設し(最初の生徒は3人ないし9人でした)、長く校長を務めた人です。彼女のお父さん、すなわちこの本の贈り主は、聖公会(アングリカン・チャーチ)に属する同地の牧師、ジョン・シャッケルフォード博士で、同校は1919年に聖公会管区の正式な学校として認可された由。
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1冊の美しい本と、その背後に秘められた歴史。
私の手の中に、今それがあります。










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