ヴァーツラフ王のいとも豪華なる天文書2025年11月04日 18時33分18秒

前回に続いて、ファクシミリ版から「美しい天文古書100選」の候補を見てみます。


今回眺めるのは、現在、ミュンヘンのバイエルン州立図書館が所蔵する、『ヴァーツラフ4世のための天文選集』
ご覧のとおり巨大な本で、表紙サイズは縦50cm近くあります。

例によって Facsimile Finder の該当ページにリンクを張っておきます。


この本を献じられたのは、ボヘミア王ヴァーツラフ4世(1361— 1419/在位1378-1419)で、彼は神聖ローマ帝国ドイツ王(在位1376-1400)の地位を兼帯し、「ヴェンツェル」というドイツ名でも知られます(ドイツ王であることは、同時に神聖ローマ帝国の君主たることを意味しましたが、彼はローマ教皇から正式な戴冠を受けなかったため、「神聖ローマ皇帝」を名乗ることはできませんでした)。


彼のためにプラハの宮廷で制作されたのが、この極美の写本で、制作年代は彼がドイツ王を退いた1400年以降のことなので、特に『ヴァーツラフ4世のための…』と冠称するのでしょう。


内容は、全体が鮮やかな絵具と金箔で彩飾され、とにかく豪華の一言に尽きます。
天文学へのインパクトという点では、もちろんコペルニクスやガリレオの著作の方が、はるかに重要なわけですが、ビジュアルな美しさでは、彼らもこうした豪華本に一歩譲らざるを得ません。


こうした詳しい星表と星図は、中世以降、アラビア経由で流入した天文学の新展開を物語っています。


もちろんコペルニクス以前なので、そこで説かれる宇宙は、地球を中心とする多層天球構造です。


そしてなんといっても、時代は占星術ブーム。
本書の多くが占星術の解説に割かれている…と想像するんですが、ここでもドイツ語の解説書に阻まれて、詳しい内容は不明です。でも絵柄からは、そんなふうに読み取れます。



このファクシミリ版は、2018年に『Astronomisch-Astrologischer Codex König Wenzels IV』の題名で、チューリッヒのBelser Verlag 社から出ました。

   ★

ところで、ウィキペディアの「ヴェンツェル」の項を読むと、彼の人物評が、「とにかく評判の悪い人物で、無能、怠惰、酔っ払い、短気など数々の欠点が挙げられている。〔…〕分別の無さも見られ」…云々と書かれています。

なんだかしょうもない王様ですが、一方でプラハの王室図書館の拡充を図ったことが特筆されているので、本好きの王様だったのかもしれません。それと、チェコ市民には愛想よく振る舞ったので、チェコ国外では悪評でも、チェコでは意外に人気があったのだとか。

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