夢の女性、幻の小部屋 ― 2025年12月14日 16時44分01秒
名古屋に住んでいても、近場で生活が完結していると、意外と名古屋駅に出向くことは少ないです。先週の金曜日、仕事の関係で、しばらくぶりに名古屋駅前に行き、昔の東急ハンズ――今はカインズに身売りして、ただの「ハンズ」――を覗きました。こだわりの理系・博物系アイテムを並べた「地球研究室」は健在で、ちょっとホッとしました。
そこで博物趣味の品をいくつか手にして、私のヴンダーごころもまた健在であることを確認する一方、時計荘の島津さんの作品が出品されているのを拝見し、先日いただいたご案内の葉書を思い出しました。
■フロイライン・シュプレンゲルの秘密の小部屋。
2025.12.5(金)〜12.28(日) 16~22時(月火水休)
THE STUDY ROOM分室 マーチエキュート店(JR秋葉原駅隣接)
(千代田区神田須田町1-25-4 1階S2区画)
出展作家(敬称略): 時計荘(島津さゆり)、cocoon、dubhe
2025.12.5(金)〜12.28(日) 16~22時(月火水休)
THE STUDY ROOM分室 マーチエキュート店(JR秋葉原駅隣接)
(千代田区神田須田町1-25-4 1階S2区画)
出展作家(敬称略): 時計荘(島津さゆり)、cocoon、dubhe
頂戴した案内状には、以下のように本展の趣旨が書かれていました。
「知と美、神秘と理性が交差する、静謐なる聖域への招待状
フロイライン・シュプレンゲル(Fraulein Anna Sprengel)は、19世紀末の伝説的な女性魔術師であり、黄金の夜明け団の創設神話に登場する人物です。本展では実在が定かでない彼女の書斎の奥に隠された小さな部屋を、文化財指定の古いレンガ壁に囲まれたTHE STUDY ROOM分室を会場とし、時計荘、cocoon、dubheが再構築します」
フロイライン・シュプレンゲル(Fraulein Anna Sprengel)は、19世紀末の伝説的な女性魔術師であり、黄金の夜明け団の創設神話に登場する人物です。本展では実在が定かでない彼女の書斎の奥に隠された小さな部屋を、文化財指定の古いレンガ壁に囲まれたTHE STUDY ROOM分室を会場とし、時計荘、cocoon、dubheが再構築します」
★
フロイライン・シュプレンゲルとは何者か?
そして、黄金の夜明け団とは?
私はいずれも無知だったので、とりあえずウィキペディアを見に行き、そのおぼろげなイメージをつかみました。
それによれば、「黄金の夜明け団」とは、19世紀末のイギリスで生まれた秘教的オカルト運動グループの1つであり、同時代のドイツ人女性、アンナ・シュプレンゲルは、薔薇十字団の教義を受け継ぐ女性として、黄金の夜明け団の正統性にお墨付きを与えた人物とのことです。アンナには、バイエルン王・ルードヴィヒ1世の落とし種という貴種譚もつきまといますが、そもそもアンナという女性は実在せず、黄金の夜明け団の「箔付け」のために仮構された人物だ…というのが、どうやら定説のようです。いわば、彼女は霧の向こうの世界、虚実の間に生きる女性です。
でもそれを言い出せば、本家の薔薇十字団だって、その創設者とされるクリスチャン・ローゼンクロイツは、やっぱり虚実の間を生きた人で、これまた薔薇十字団の「箔付け」のために生み出された人物というのが、大方の見方らしいです。
まさに逃げ水。どこまで行っても霧は晴れず、その霧は近代からルネサンス、そして中世から古代、さらには神話時代にまで切れ目なく続き、いよいよ濃く、我々の想像力を刺激します。
★
今回の展示会はその幻のアンナ・シュプレンゲルの書斎の、そのまた隠し小部屋を覗き込もうという、夢の世界で夢を見るような企画です。
その会場には、おそらく素敵な、美しい、そして不思議な品々が並んでいることでしょう。でも、その幾重にも入れ子構造になった迷宮こそが、実は今回最大の見どころであり、主催者の意図するところかもしれません。
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人間は常に夢と幻を必要とする存在であり、社会の正統が夢と幻を排除すればするほど、反動で夢幻世界への関心も高まるのが常です。理性の勝利を謳った啓蒙主義の時代も、石炭と蒸気ハンマーが世界を席巻した産業革命後の時代も、その一方でオカルティズムが非常な隆盛を見せました。
では、情報の渦と電脳が世界を覆っている今の時代はどうか?
必然的に思いはそこに至ります。
たぶん、今は「情報の渦と電脳」それ自体に人間が眩惑されているので、あまり夢幻を必要としていないようにも見えますが、でもこの先、「そこに夢幻は無い!」とはっきりすれば、当然のごとくオカルトの波が再来するのではないでしょうか。
コメント
_ S.U ― 2025年12月15日 09時07分03秒
_ 玉青 ― 2025年12月20日 15時31分46秒
それは偶然ですね。
キリスト教――ここではもっぱらローマカトリックですが――と、異教的伝統を引き継いだ学問・思想との関係は、私には正直よく分らないのですが、でもたとえば天文学は、神の偉業をたたえる正統的な学問とされましたけれど、天文学の名のもとに何でも許されたわけではなく、その主張が聖書の記述に反すると見なされると、途端に弾圧を受けましたよね。
天文学と未分化だった占星術にしろ、錬金術や、カバラや神秘主義にしても、大体事情は同じと思います。すなわち(悪魔崇拝と結びついた魔術の類は論外として)それらの学的営為がまるごと異端視されたことは、中世以来なかったと思います。何せギリシャ・ローマの金看板は大したものでしたから、それを背負っていれば、教会はそこにキリスト教の神学的粉飾をこらしつつ、たいていは容認したのでしょう。たしかに異端の名の下に弾圧された人も少なからずいましたが、その対象は学の総体ではなく、個々の主張ですね。
それにルネサンス以降、近世に入ってからは、プロテスタント側にとってはローマが異端宣告しても、痛くもかゆくもなかったですし(プロテスタント側でも弾圧はありましたが)、30年戦争後はバチカンの力も急激に衰えて、カトリック諸国でも禁書目録の効力は単に象徴的なものになっていた…ということを、以前記事にした記憶があります。
キリスト教――ここではもっぱらローマカトリックですが――と、異教的伝統を引き継いだ学問・思想との関係は、私には正直よく分らないのですが、でもたとえば天文学は、神の偉業をたたえる正統的な学問とされましたけれど、天文学の名のもとに何でも許されたわけではなく、その主張が聖書の記述に反すると見なされると、途端に弾圧を受けましたよね。
天文学と未分化だった占星術にしろ、錬金術や、カバラや神秘主義にしても、大体事情は同じと思います。すなわち(悪魔崇拝と結びついた魔術の類は論外として)それらの学的営為がまるごと異端視されたことは、中世以来なかったと思います。何せギリシャ・ローマの金看板は大したものでしたから、それを背負っていれば、教会はそこにキリスト教の神学的粉飾をこらしつつ、たいていは容認したのでしょう。たしかに異端の名の下に弾圧された人も少なからずいましたが、その対象は学の総体ではなく、個々の主張ですね。
それにルネサンス以降、近世に入ってからは、プロテスタント側にとってはローマが異端宣告しても、痛くもかゆくもなかったですし(プロテスタント側でも弾圧はありましたが)、30年戦争後はバチカンの力も急激に衰えて、カトリック諸国でも禁書目録の効力は単に象徴的なものになっていた…ということを、以前記事にした記憶があります。
_ S.U ― 2025年12月21日 07時00分16秒
解説ありがとうございます。原則の考えのだいたいの流れがつかめたのは有意義でした。
現在でも、ローマカトリック教会は一定の権威ですので、何らかの神学的見解はあるはずでそれなりの理論的興味はありますが、もはや民俗学的価値は薄れてきたかもしれませんね。
現在でも、ローマカトリック教会は一定の権威ですので、何らかの神学的見解はあるはずでそれなりの理論的興味はありますが、もはや民俗学的価値は薄れてきたかもしれませんね。
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答えとしては、歴史上は、ルネサンス期以降現代まで、異端かどうかは「宗教権威によって峻別(境界の厳密な線引き)がされる方向で進んでいる」「趣味の文化については容認・放置されるようになっている」ということでした。私にはよくわかりませんが、多少はわかった気もします。